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第93話 飛行艦ン・メノトリーの艦内で(5)

 翌日、俺とママナーナは飛行艦ン・メノトリーの艦内にいた。

 条件反射というやつだろうか、ママナーナと過ごした夜を思い出していた。すると、心も身体もそちらの方への準備を始めてしまう。


[ハオ君、そういうのは後にして]


 俺の様子を敏感に察知したママナーナが釘を刺す。

 キツい言い方だ。もしや、あの時のことを後悔しているのだろうか。俺にとっては大切な思い出なのに。


 さて、本題だ。

 リダリ隊長が本当に9,000年以上の時を遡ってイダフに帰ることができたのなら、何らかの方法で、その事実を俺たちに伝えるはずだ。

 そして、伝える方法がなんであるにしろ、それはン・メノトリーを媒体にしているに違いない。


[どこから探そうか?]


[まずは聞いてみよう…制御体!]


《はい、御用は何でしょうか、ハオウガさん》


[何かリダリ隊長から伝言は預かっていないか?]


《特にありません。私的記録については、9638年から9670年までのものが…》


[…あるけど、符丁(パスワード)を発声しないといけないんだろ?]


《その通りです》


[ハオ、そんな記録はいらないわ、別のところを捜しましょう]


[じゃ、装備室から捜すか]


 最初に俺が地上に出るときには、装備室に準備されていた衣類や種を使った。だから、装備室に何かあるのではないか。


 しかし、そこには袋が一つ置かれていただけだった。「ハコネ殿へ」とイダフ語のリダリ隊長の手書きの札がついていた。

 以前と変わりなかった。


[多分、無駄だと思うけど開けてみる?]


[いや、開けなくてもいい]


 次は食堂を探した。

 二人分の食事が供給台に準備されている以外に異常はない。いつ来るかわからない俺たちのために、ン・メノトリーの制御態は食事を作り、時期が来たら廃棄し、また、作っているのだ。


[ハオ君、食べる?]


[ああ、少し休憩しよう]


テーブルで向かい合って食事をした。


[そういえば、前は食事もさせてもらえなかったわね]


[忘れてたよ、没頭していたからね]


[でも、今日はダメよ、見つけるまでは]


[失敗していたらどうする?]


[その時は証拠が無いことを確認できるまで探すわよ]


 食事が終わると第2艦橋に上がった。腰ほどの高さの立方体が10個程並んでいる。知らない者には、立方体に切り出した石が並んでいるだけのように見えるだろう。


[権限がある人間が触ると操作盤が見えるはずなんだけど]


[でも、俺たちは艦の乗組員じゃないから、権限があるかどうか]


 箱は全部で10個並んでいた。俺とママナーナは交互に一つずつ箱に触れていく。


 6個目に触れたとき、箱の表面に画面や操作ボタンが表示された。

 しかし、これはどうやらレーダーや探知機のようだ。地下1500イダフィ(2,400メートル)では、どこまで役に立つのかは当てにできない。


[ちょっと違うようね]


[うん、次]


 そして、7つ目、これが記録台だった。


[わたしがやるわ]

 ママナーナは記録台の前に座ると、操作を始めた。

 過去の記録を見ているようだ。


[7件のメッセージが艦の外部から送られてきている。けど全部壊れているみたい、再生できないわ]


 ママナーナは一覧表示されているメッセージを軽く叩く(タップする)


《この伝言データは破損しています》


 返事はそれだけだった。

 他の6件も同じ結果だった。


[これじゃないみたい]

 そういってママナーナは席を立った。


 しかし、ここにしかないはずなのだ。もし、リダリが俺たちに何か伝言を残すなら、他には記録台くらいしかない。


 俺も座って操作してみる。自分でもやってみないと納得できない。

 確かに伝言が7件あるが、全部破損しているようで削除すらできないようだ。


 しかし、俺が操作しているうちに様子が変わった。


[あっ、一件直った]


[えっ]


 ママナーナが席を奪わんばかりに画面を覗き込んだ。


[本当だ、再生可能になっている。発信者は]


 リダリだった。


[再生するわね]


 映像記録の再生が始まった。


[やあ、わたしは元・銀の羽衣師団所属のリダリだ]


 一拍遅れて映像が表示された。


[この映像は私の家から、ン・メノトリーに送信している。元気かな、ハオ殿に、ママナーナ嬢]


 背景にはリダリの家と言われても、納得できる一般的なイダフの家屋が映っていた。


[まさか…]

 ママナーナは信じられないという表情で固まっている。


[結局、私はあれから3年後の世界に帰ってきた。日本でいう浦島太郎になったのだが、イダフの空気はやはりうまい。少し寿命が延びたよ。毎日、未来の話を聞かせてくれと大変じゃ、両親にも会った。いきなり息子が自分より年上になって帰ってきたのには驚いていたが、ン・メノトリーの中で死んでしまったのではなく、ここまで長生きしたのだというと喜んでくれたよ]


[あとここからは日本語で話す、近村にこれを録画してみせてくれ]


[ハオ君、スマホ持ってるよね]


 ここからはリダリから近村への愛情と感謝にあふれた言葉が続いた。見聞きする俺自身も恥ずかしくなる内容だが、ちゃんと伝えよう。


 ここからは携帯電話の電波は届かない。地上に出たら送信しよう。


[さて、ハオ殿、やはり貴殿が鍵を握る男じゃ、あまり助言めいたことをいってはなんだが、まあ、がんばってくれ。ママナーナ嬢もな、ではこれで今生の別れだ。君らと会えて楽しかったよ]


 メッセージの再生が終了した。


[何これ]


[リダリ隊長からのメッセージだろう]


[そんなことはわかっているわ]


 ママナーナは苛立っているようだった。


[どうして、時の魔法士は私でもなく、ハオ君でもない、リダリを連れ出したの?

私だっていいじゃない!三人一緒でもいいはずよ]


 確かにそうだ。なぜ、時の魔法士はリダリを選んだのだ。


[どう思う?ハオ君]


[制限があるのか、魔法が掛かりやすかったか、何かの条件があったってことくらいかな]


[あの魔法士、女よね、ああいう男が好みとか…]

 ママナーナの言っていることがおかしくなってきた。何やら危ないことを呟いている怪しいオバサンになりかけている。いつものママナーナに戻ってもらおう。


[なあ、ママナーナ、俺たちの見解をまとめたいんだが]


[まとめるって?]


[つまり、リダリは時間を遡ってイダフに帰ったと認めるかどうかだよ]


[ハオ君はどう思うの?]


[俺はあの魔法士は本物だと思うし、あの映像も本物だと思う]


[じゃあ、信じるってことでいいのかしら]


[そうだな]


 ママナーナと俺の意見は一致した。

 結論は出た。【リダリは時間遡行魔法で帰った】ことを、俺とママナーナは信じることにした。


[じゃあ、用は済んだわね、帰るわよ]

 ママナーナはここに来た目的を達したようだ。


[ちょっと待った]

 そのまま帰ることを俺は許さない。俺の目的はそれだけでは無いのだ。

 俺はママナーナの手を掴んでいた。


[しょうがないわね]

 ママナーナの嬉しそうなあきらめ顔に堪らない色香を感じていた。

※「第5話 リダリからの指令」に少し経緯が書かれています。

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