第90話 間奏曲
※今回、短い話ですが、少し飛躍します。
本話を読まれる前、あるいは、読後に
「第1章 異世界転移 プロローグ」もお読みください。
「塾が?すごい話ね…」
すっかり一美は感嘆していた。
「で、ダナちゃんは採取するの?」
探りを入れるような暗い声で一美が尋ねる。
「あはは」
だなえの明るい笑い声がそれを払拭する。
「確かに金額が金額ですからちょっと目をつぶれば、できますよ。五十川くん嫌いじゃないし。でも、一美さんの許可無しにそんなことはしません。それこそ、一美さんなんて毎日朝昼晩取り放題じゃないですか、五十川くんも一美さんのことは大切に思っているみたいだから、いいんじゃないですか」
「そ、そ、そ、そ、そうかしら」
裏返った声がする。
「最近、ダナちゃんみたいな綺麗で若い女性ばかり配属されているから、ハオウガさんもそっちの方がいいのかと思ってた」
今度は小声になっていった。
「またまた、正ヒロインの余裕かましてぇ」
だなえが煽るような声を上げる。
「正ヒロイン?何それ」
「五十川くんと一美さんは本来収まるべき剣と鞘みたいな、そんな感じがするんです」
「そんなことないわ、私は彼より7歳も年上よ、今は17歳と24歳だけど、彼が23歳になったとき、私は30歳。さすがに離れすぎよ」
「つまり、意識はしているんですね」
「そんなにニヤニヤして、からかわないでよ、ダナちゃんは何歳だっけ?」
「18歳です」
「1歳差か、全然大丈夫…ってダメじゃない!お酒なんか飲んじゃ!」
「大丈夫、もう大学生だし、何かあったら年長者に強要されたっていいますから」
「この場の年長者って私か、もういいけどね」
諦めた口調になる。
「ところでダナちゃんは、あの話、どこまで信じているの?」
「あの話って、研修のときの話?」
「他に話なんてないじゃない」
「ま、そうだけど、一美さんは疑っているんですか?」
「信じる材料は十分あるけど…」
「魔の勢力との戦いがあると言われても、簡単には信じられない、ですか?」
一言言いたくなってきたが、俺は“寝てる子”だから、ここで起きるわけには行かない。
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そのとき、俺は記録台の前に戻っていた。
また、見慣れない選択画面が現れていた。警告画面だ。
《記録負荷が許容量を越えました。一旦記録を停止します。許容量を増加する準備が整うまでしばらくお待ちください》
俺は長く大きなため息をついた。
確かに気持ちが入り過ぎたかもしれない。でも、あの夜の途中で記録が切れるとは少し早い。
たしかにこれからの事を記録するには俺のほうにも気合がいる。
一旦俺は記録台から離れた。第2艦橋を出て食堂に下りて、一息入れることにする。
――記録は終わったの?
食堂にいると、後ろから声がした。
振り返らなくても誰だかわかるが、今の暗い顔はあまり見られたくない。だから振り返らずに返事をした。まだ、日本に来て一年目の記録途中で、記録台の負荷が越えたことを話す。
――もしかして、あの彼女のこと?
俺は黙っていた。当たっているが答えたくなかった。
――邪魔してごめんね
そういうと声の主は食堂を出て行った。別に彼女のせいじゃないのに悪いことをした。
再び第2艦橋に上がり、記録台の前に腰掛ける。
記録台に両手を置くと装置が起動した。どうやら準備は調ったようだ。
言語選択画面は現れなかった。
俺は少し時間を飛ばして、あの日からの出来事を思いだす。
自動的に記録は開始された。
“俺の名前は、ハオウガ=マイダフ
病室で俺は人を待っていた…




