第80話 3つめのチーム
明け方、俺は全裸でマンションの階段を駆け上がっていた。その姿は日本の変態を体現しているが、緊急事態だ。それどころではない。
――来る
俺の脳内で警戒警報が鳴り続ける。
さっき、俺はこのマンションに向かってくる者たちの気配で目が覚めた。
隣に寝ている美歩に構わず飛び起きると、俺は302号室を出て、自室の705号室へと向かう。服など着ている暇は無い。
部屋に飛び込むと、急いで装備を固める。
この鎧は起動すれば勝手に身体に装着されるので便利だが、どうしても3分はかかる。俺は焦りながらもどう戦うかを考えていた。
気配が近くなる。敵は…二人、いや三人だ。
これだけ気配を隠さずにくると言うことは余程自信があるのだろう。
妙法流の所 剣星か?
いや、奴が来るなら夜だ。
もどかしいが、手動で鎧をつけて失敗したくはない。
いつもより3分が長く感じた。
もう、マンションの真下に来る頃だ。
俺は部屋を出ると、廊下の手すりを超え、下に飛び降りた。
7階程度の高さなら慣性魔法と体術で軟着陸するのは容易なことだ。
俺はマンションの塀の外に立つとドロガ二式を取り出し、抜刀の構えを取る。
刃が滑らかに滑り出た。
そして、道路を隔てた向こうに彼ら…いや彼女らはいた。
やはり、三人だ。しかも、若い女性だった。
一番右の女に目が止まった。180センチはある。俺より大きな女は初めてみた。均整のとれた筋肉質の身体だ。格闘家に違いない。
真ん中は隊長格だろう、一人だけ帽子を被り、サングラスをしている。
長い杖を持っているが、あれは刺突剣だ。剣士だろう。
左の小柄な女は分かりやすい。杖は持たなくてもいいと思うが、日本人は杖を持つものだと思っているのだろう。魔法士だ。
クラブの早朝練習、と言われれば納得しそうな、揃いのスポーツウェアを着た若い三人の、俺と同い年くらいの、女性たちが立っていた。
日本人の男に受けがいいのかどうか、日本人でない俺にはわからない。
しかし、真ん中の隊長格はどことなく一美に似ていて、俺好みだ。
だが、関係ない。
二ヶ月前、俺を半殺しにした魔族たち三人も揃いのスーツを着ていた。
あの時、初太刀で様子見をしたのが間違いだった。あそこで一人か二人でも倒しておけば、二ヶ月入院することにはならなかっただろう。
今回は、一太刀目で全員斬り伏せなくてはならない。
その覚悟を持って名乗る。
「蓮華流剣 代王 ハオウガ=マイダフ」
ドロガ二式を八相に構える。
「…」
「…」
「…」
三人は名乗らなかった。
お互いに顔を見合わせた後、なんだこいつというような薄笑いの目で俺を見た。
無礼な女たちだ。それとも、俺の勘違いか?
その瞬間、格闘家の女がタックルしてきた。
俺より身体も大きく、力も強い。
くそっ、やはりすぐに斬るべきだった。
あの時の後悔が焼きつくよう悔しさを伴って再生される。
俺は魔法を併用しながら、なんとかタックルを捌き、倒れずに持ちこたえると、起き上がろうとする女格闘家に切りかかった。
ごく浅い感触しかなかった。巧みに地面に転がって、剣をかわした。
俺は手加減しないと改めて決心する。
向こうには剣士、魔法士がいる。
俺は咆哮した。
以前、魔族化した日本人の男女と戦ったとき、女の方が器官攻撃魔法を使ったが、その応用だ。
三人いれば一人くらいには効果はあるだろう。続いて剣を右手で片手持ちにすると、左手に魔力を込め、閃光爆裂魔法を詠唱する。
「ま、待てっ」
帽子を被った女が制止した。
今まで素直にそれを待ったのが、俺の甘さだった。
――待つものか
俺の左手からいくつもの光の玉が放たれると、光球は次々と爆発し、一帯が閃光に包まれた。
煙が収まるのを待たずに、俺は斬り込んだ。
三人が固まって防御したのは感じていた。しかし、ダメージは負っているはずだ。
そこに斬りつけると剣が受け止められた。
籠手だ。
刺突剣の突きが繰り出されたが、牽制だ。
となると、どこかで魔法士が攻撃魔法を準備しているに違いない。
俺は短剣を懐から出し、魔法士が身を隠しそうな方向へ三本投じた。
「痛っ」
悲鳴が上がる。手応えがあった。
煙が晴れると、小柄な女は腹を押さえてうずくまっていた。
腹から血が流れている。どうやら、治癒魔法は使えないらしい。
格闘家は地面に俯して動かない。ウェアが焼け焦げて、広い背中が見ていえるが、焼けて煙が上がっている。
剣士は前に出て、俺を牽制している。
何か叫んでいるが、聞く必要は無い。
動けるのは剣士だけのようだ。前に出て後ろの二人をかばう動きをする。
もう一度、閃光爆裂魔法だ。
今度は動きを止めないように片手持ちで切り掛かる。ドロガ二式は片手で扱うには、代王の俺でも少し持て余す。
それを見切ったのか、女剣士は巧みな動きで、俺の手からドロガ二式を取り落とさせた。
いくら片手持ちだったとはいえ、俺から剣を取り落とさせるとはかなりの腕だ。女剣士に「勝った」という表情があらわれた。
――残念、これは囮だ
空いた右手から射出魔法を撃った。
魔族化した日本人の男女の男の方が使った魔法だ。
女剣士の速さは一流だから、脚ばかりを狙って三発撃った。
二発命中し動きが止まったところを、右手で剣を拾いながら、そのまま、女剣士に逆袈裟に斬りつけた。
肘から断たれた右手が宙を舞った。
サングラスの奥には、絶望的な表情があるのだろうか、視線を俺から外さない。
しかし、手加減はしない。
――ここだ、俺はここで油断して何度もやられたのだ
女が気丈にもポケットから何かを取り出し投げてきた。とっさに受け止めると、スマートフォンだった。
誰かが大声で喋っている。
[ハオ君、なにやってんの!すぐに止めなさい。三人は味方よ]
決して聞き間違えることのない、ママナーナのイダフ語だった。




