第78話 1つの身体と2つの魂
午前1時、俺の二度目の荒ぶりが放たれた後、美歩と俺は並んで仰臥していた。
「やっぱり若いわぁ」と美歩が呟いた。
「美歩だって」と俺も返す。
「ありがと、あたしを選んでくれて」
「見分けるのに少しかかったけどね」
「いつも、こういうときは、アイツが出てきちゃっていたけど…」
「一旦、引っ込んだのがわかったからね」
「わかるんだ」
そう言いながら、美歩は身を起こすと、いつもの手つきで俺に触れてきた。
三度目を誘うような動きだ。
心地良さに力を抜きたいところだったが、
「お前は帰れ、邪魔するな」と
俺は冷たい言葉を浴びせる。
「本当にわかるんだね」
魔族のような冷たい視線に切り替わった。
「何者だ?ザミダフの魔族のようだが、いつから美歩の身体に取り憑いた?」
「そこまでは見えないのか、まあいいわ、教えてあげる。本当のことを知れば、貴様も自分の間違っていたと知るだろう」
「お前のいう本当がどこまで正しいのか知らんが、話すというなら邪魔はしない」
美歩の手は動きを止めなかったが、そのままにさせておいた。睦言にはふさわしくない話だが、聞かないわけには行かない。
「この先手 美歩という女に、私の魂や精神がどうやって乗り移ってきたのか知りたいのだろう?」
せっかくの心地よい身体の火照りが冷めてくる。
「居座るつもりなら追い出すこともできるぞ」
「貴様、魔法士か?」
「剣士だ。だが、除霊障魔法を使うだけの力はある」
――嘘です
俺はハッタリをかましていた。
「効くかな、そんな魔法が」
「効くさ、だが、そういう気分じゃない。美歩とこうなれたのは、お前のお膳立てがあってのことだ。むしろ感謝してるんだぜ」
「たしかに、コイツだけでは何も進まないだろうな、だって、コイツが後から私に取り憑いたのだから」
――美歩は取り憑かれたのではなくて、取り憑いたほうだというのか
「先手 美歩として産まれたのは、私の方だ。
ザミダフの魔族が日本人として、今の世に産まれたのだ。
転生だ。
お前もわかるだろう。
お前はイダフの転生者のようだが、転生者には前世がザミダフの者もいる。
それなのに、後からあの行き場を失くしたイダフ人の魂が弱みにつけ込んで、この身体に入ってきたのだ。
私は生来、何にでも積極的に物事を進めるタイプだったが、中学三年の頃にいろいろと行き詰まってしまってな。
『もう嫌だ、誰かに変わって欲しい』
と思ったのが運の尽きだ。
コイツめ、心の折れた私の身体に入り込むと、急に優等生になって、難関高校に合格しよった。
それからは、何か面倒なことがあれば、コイツに任せ、そうでないときは私が出る約束をした。お互い得意分野を担当しあうことでうまく回っていると思っていたのに、気づいてみれば、自分の出番が増えるような状況を作り上げていて、大学に行く頃にはすっかり主導権がコイツに移ってしまった。
軒下を貸して母屋を取られるとはこのことだな。
困ったことがあれば、あたしが代わるからという甘い言葉にまんまとしてやられた。
なんとも図々しい女だよ。
元々は私の身体なのだから、少しくらいおいしい思いを分けてくれても良さそうなのに、ちょっとそういうことがあったくらいで、大げさにギャーギャーと被害者面で騒ぎよる。
そのくせ、オトコを捕まえるときは、私に声を掛けさせるとか、連絡先を手に入れるとか、面倒なことだけをやらせて、後は持っていく。
実にしたたかな女だよ。
貴様が無理に除霊障魔法を使わなくとも、お前の精を受けて、コイツは一段と強くなった。私が追い出されるのも時間の問題だし、居座ってもこき使われるのがオチだ。
貴様が身体を本来の持ち主に返すべきだという考えをもっておるなら、コイツに除霊障魔法に使うべきよの。でも、コイツが追い出されるほどの魔法を使ったら、私とて、この身体に居られん。
だから、普段はおとなしくしておるよ。だから、たまーに所有権を主張して、身体を使ってたまに好きなことをしたとしても、それほど目くじらをたてるものでもあるまい。
そう思わぬか、イダフの若き剣士よ」
そういうと、アイツは消えた。
俺は唖然としたまま美歩の顔を見上げていた。
「さっきの話って本当?」
俺は美歩という女性がわからなくなっていた。
「うーん、ちょっと都合の良いように話を盛ってあるところもあるけど、あたしが後から入ってきたのは本当だよ」
「どうして、それを俺に?」
「だって、あたしたち同じイダフ人でしょ、他の人ならともかく護は味方してくれるわよね」
「あ、ああ」
確かに同じイダフ人だし、味方はする。
でも、相手が魔族とは言え、本来の持ち主から身体を乗っ取るということに違和感を覚えた。
「最近、人口減で身体の数が少なくなったから、良い転生先が減って大変なのよ。
だから、優良物件があれば獲りにいく覚悟がなければ、文字通り生きて行けないわけ。
一度生まれたからといって、だらだらとやっていると、別の魂に身体が取られることもあるのよ。一度生まれたからって、その身体を死ぬまで自分のものだと思うのは間違いよ。
大事にしなければ、別の強い魂が身体を狙っているわ、護も優良物件だから、気をつけてね」
美歩は微笑んだ。今までに見た一番美しい笑顔だった。
イダフの魂が魔族の魂に勝ったのだ。喜ばしいことだが、美歩の秘めた恐ろしさが垣間見えた。
俺は生唾を飲み込んだ。心地よい身体の火照りは失せ、身体は冷えていた。
「身体、冷たいね。夜は長いからあたしが温めてあげる」
――精を受けて強くなる
美歩の身体が熱くなった。そして、抑えていたものが外れたように、彼女が覆いかぶさって来た。日頃は後ろにまとめている髪が俺の顔にかかる。
髪の間から覗いた瞳は肉食獣のそれのようだ。
今度は俺が無抵抗になる番だった。




