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第72話 納得の時間

 ここまでの話を一旦俺は信じることにした。

 なぜなら、ママナーナの言うことだからだ。


 もちろん、何もかも信じるわけにはいかない。

 リダリ隊長もそうだが、40年間の距離は友人を他人に変えるには十分な時間だ。

 実際に恋人(ママナーナ)は別の男の妻になっていた。


 ここからは俺が納得するための時間にしよう。


「さっきから出てくるのは女性ばかりが出てくるけど、そこはどうなっているの」

 まずは、素朴な疑問をぶつけてみる。いくら俺が『女に対する欲が凄まじい(魔皇帝アカムス談)』とは言え、戦う仲間が女性ばかりでは心許ない。


「誰が目覚めたかに左右されるみたい」

 端的な答えを返して、ママナーナはコーヒーに口をつけた。


「私がコールドスリーブから出た時は男ばかりだった。自分でいうのもなんだけど、桁違いにモテたよ」

 ここだけ聞けばママナーナの「昔はモテた自慢」になるが、初対面の相手にいきなり交際や求婚を申し込まれるとなると、水準(レベル)がかなり違う。


「男は結構、日本人の教育や常識の縛りを破ってくる人が多かった。アニメやマンガの影響かな」


「それだけモテると人生楽しいだろうね」

 俺が少しからかうように言うと、ママナーナはかぶりを振った。


(子供にはわからないか…)ママナーナの心の声が聞こえた気がした。


「まあ、それが幸せかどうかは置いといて、夫もそうだった。本人は死ぬ直前まではっきりとした自覚はなかったけど、ヤマイダフの転生者だったわ」


 ママナーナから聞く彼女の夫の話、棘が刺さるような嫌な感じがした。

 やはり結婚していたのは本当のようだ。

 そして、今は死んだときいて、俺の奥に小さな何かが浮かび上がってきてもいた。


「ご主人は亡くなられたのかい」

 ここは確認しておきたかった。


「予想より少し早かったけどね、普通に病気で死んだわ、膵臓ガンで手遅れだったけど、私が治癒魔法を目いっぱい使って、十年延命させたの。その間、痛みもなく仕事も続けられたわ、医者からは奇跡と呼ばれたし、私も悔いはないの」


 死んだ夫のことを語るママナーナの顔がむしろ明るく見えた。

 本当に悔いがないのだろう。


「私が何か特別な健康法でもやっていると感づいたのか、その頃からイダフの転生者たちがなんとなく助けを求めてやってきた。それが会の始まるきっかけになったの」


 そういわれて、俺はママナーナからもらった名刺を見返した。


 「真々七会(ままななかい)」と書かれている。

 俺の最初の日本名、リダリ隊長の命名による枚田 波央(まいだ はお)を思い出した。

 日本語に詳しくない俺には、この名前が女性の社会進出を支援する団体にふさわしいのかどうかわからない。俺の知識で判断すれば「いいえ」だ。

 リダリ隊長もママナーナも命名がうまいとは俺には思えない。しかし、日本語を母国語とする人にとっては違うのだろう。実に日本語は奥深い。


「でも、そんなに私の魔法力は強くないし、夫の治療で手一杯だったから、集まってきた子たちの中から、魔法の素質のあるものを少し教育して、回復魔法や簡単な治癒魔法を使えるようにしたのが、天使小隊(エンジェルスタッフ)の始まりなわけ」


 なるほど、これで日本人なのに魔法が使える理由もわかってきた。


「するとね、この二年、集まってきたのが年頃の女の子ばかりになってきたの。過去世にイダフ人だった女の子ばかり。これを見て私は近々ハオ君が目覚めると思ったの」


「でも、俺ができることなんて知れてる、種を蒔くってことか」


「違うわ、ハオ君に出会わないと人生を好転できないからよ。例えば、さっきの三矢島 一美にしても、乱暴されたあげくに殺されたいと思う女なんて一人もいない。そんな未来、誰だって変えたいはずよ。でも、感覚(センス)はそれに感づいていても、日本人として育ってきた環境や受けてきた教育が邪魔をして、本当に正しい判断が下さずにいるのよ」

 ママナーナは口惜しそうに唇を噛んだ。


「少しくらい職場が嫌だからといって3ヶ月で会社を辞めるなんてことは、日本人の常識なら普通なら決してしない。でも、三矢島は辞めた。そして、私の会にやってきた。私は彼女の感覚(センス)が助けを求めていると思った。だから、三矢島をハオ君のところへ行かせたのよ」


「でも、俺と一美は8歳差だ。恋人になれても、結婚は難しい」


 ママナーナは哄笑した。どこかおかしくなったのか何かあったのかと思うくらい、笑い続けた。その時間はおよそ1分。


「無理よ、ハオ君。私は結婚しろなんて言わないし、あなたも妻子を養う甲斐性はないわ。日本で仕事も見つけていないんでしょう」


 ママナーナは俺の一番痛いところを突いた。


「普通なら、まず日本でお金を稼がないといけないけど、ハオ君がそれを無理にすることはないわ」


――えっ

 ママナーナは変なことを言う。リダリ隊長にも言われたが、俺は金を稼ぐ(すべ)を持っていない。そして、そのことでいろいろなことに制限が生じてきているのはわかっていた。


「リダリに働くように言われた?」

 俺は頷いたが、ママナーナは立てた人指し指を左右に振った。


「でもね、それは平民の考え方よ、金稼ぎなんてできるやつにやらせておけばいいのよ。この日本も後退世界らしく、金稼ぎの情報ばかり溢れかえっていて、正しい金遣いの情報はほとんど出回ってないわ」


「ハオ君は正しい金遣いの方法を覚えればいいのよ」


 ママナーナの言うことを理解できるようになるには、もう少し時間がかかるようだ。

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