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第6話 更衣室と装備品

 二つの紙袋には小さな札が付いていた。

 一つには「ハオ殿へ」、もう一つには「ハコネ殿へ」と手書きで書かれていた。リダリ隊長の手書きだ、字に見覚えがある。


 俺は「ハオ殿へ」の札が付いた紙袋を取った。持ち上げてみると意外と重い。最初、紙袋だと思ったがそうではなく、違う素材のようだ。微かだが鼻につく臭いもする。アマツカ民族が使う道具に同じような匂いを漂わせていた気がする。

 そんなことを考えながら、一抱えもある袋を持って、更衣室へ向かった。


――更衣室

 イダフ王国防衛軍では、隊ごとに男女関係無く一斉に着替える。なぜなら、魔法系の武器や鎧には使用時間が限られるものがあるので、作戦行動は装備の着用時間も含めて考えるからだ。

 そもそも、魔族との戦争という切羽詰った状況では、男女で着替えを分ける時間など無い。貴族ばかりの部隊では着替えを分けているところもあるらしいが、噂として聞いただけだ。


――昨日

 俺はこの部屋で鎧を着け、愛剣ドロガを懐に入れていた。ドロガは通常、柄の形であり、戦闘時に刃を出す剣である。

 剣の本数を数え、鎧を締めたり緩めたりして具合を確認した。魔皇帝アカムスを斬るには、剣一本では足りない。全部でドロガを十本、懐だけでなく、靴や襟など体のあちらこちらに仕込んでいた。

 リダリ隊長はもとより、ママナーナやハコネも同じ部屋で着替えた。リダリ隊長は上半身裸になって、鏡の前で何やら確認していた。

 無論、俺は中年男性の裸には何の興味も無い。興味があるのはママナーナの裸だが、あんなことを言った後だからか、ママナーナは巧みに俺の死角に入っていた。美しい肢体を拝めたのは、ほんの一瞬だった。それでも俺にとっては僥倖であり、俺のやる気を上げるのに一役買ってくれた。その意味でもアカムスを倒せたのは、ママナーナのお陰だ。


――今日

 昨日の翌日は今日だ。

 それが一日後であっても、9000年後であったとしてもだ。

 俺は知らない異国語の書かれた袋を開いた。中には筒と見慣れない服が入っていた。筒は装備筒だ。作戦に必要な道具が入っている。

 まずは装備筒から開ける。こぶし三つ分の長さなら入っている装備はそんなに多くない。移動中に大きな戦いは無い、とリダリ隊長は踏んでいるのだろう。

 筒を開けて真っ先に目に入ったのは、懐中型の剣だ。二本あった。

 ドロガだよ、おい、やったね

 俺は急いで剣を出すと、柄を両手で掴み、抜刀の構えを取る。

 鍔から刃が滑らかに流れ出た。俺は軽く振ってみた。


――なんか違う

 剣を振った感覚が、()()使ったドロガと少し違った。初めての剣のような感覚だ。ドロガの開発中、何度か試作品を振ったことがあったが、その時の感覚に近い。女の子の初めては有難く頂くが、剣の初めては有難くない。

 あのときは剣の感覚のわずかな違いにこだわり過ぎて、ドロガ開発工隊の科学士や魔術士には迷惑をかけた。もう遅いだろうが心の中だけでも謝罪しておこう。


 剣の感覚が違う、ということは俺にとって恐怖だ。

 蓮華流剣では、力と速さが肝要である。「何か違う」という感覚は迷いとなり、最速かつ最大の力を発揮する妨げの元になる。


――すぐに外に出るのは待とう。少し練習してからにしよう。

 そう思って、刃の根元を見たら、「ドロガ二式」と銘があった。

――なんだ、そうだったんだ

 ドロガの式番違いがあったとは知らなかった。俺が寝ている間も工隊は開発を続けていたのだろう。それなら感覚が少々違ってもおかしくはない。

 俺は納得して刃を収めた。


 確認のため、もう一本も抜いてみたら、なんと、銘が「ドロガ」だった。振った感覚も昨日と全く同じだった。

 俺は心から納得して刃を収めた。


 装備筒には、他に種が入っていた。しかも五つ。

 種の内訳は、言葉が三つ、地図と知識が一つずつだった。

――武器の数と種の数が合わない


 ザミダフ攻略戦のときに使った種は一つ。

 言葉と地図、知識を合わせた汎用種(はんようたね)だった。汎用種には魔族語や魔帝国ザミダフの市街地図、中央宮殿の見取り図、作戦計画が入っていたが一つで十分だった。短期決戦だったから知識や情報が少なかったことを差し引いても、作戦で使うのであれば、種は一つで十分だ。


 今回は武器が少なく、種が多い。

 つまり、これは長期戦を意味する。服装も異国のものだ。

 今回の作戦は、敵国へ侵入して要人を暗殺したり、長期に亘って間諜を行ったりする。その手の作戦と考えたほうがいいだろう。


 俺は種を指先に取ると、一つずつこめかみに軽く押し当てた。種はしばらく俺のこめかみに取り付いた後、俺の頭の中に沈んでいった。四半刻で俺の脳内に着床するだろう。


 その間に着替えることにする。俺は肌着を全て脱いた。俺は鏡に映った自分の身体を注意深く眺める。何も言われなければ気づかなかっただろうが、9000年経ったと聞くと、少し腕や胸の筋肉が落ちたような気もするし、髪も伸びたような気がする。

 さらに目を下に向けると俺のドロガ(三式と呼ぶ)が慎ましくぶら下がっていた。


――同じだ

 素振りも実戦経験も無いまま9000年も放置されていたのだ。

 涙が滲んできた。

 立ってもいないが、立っている気力が萎えた。全裸のまま、俺は更衣室の床に胡坐をかいて座った。


 しばらく呆けた。


 いつまでも全裸でいるわけにも行かないので、服を着ることにした。袋の中には、厚手、薄手の様々な服が出てきた。俺がどの季節に氷柱から出てきても問題ないように、隊長がいろいろな服を揃えてくれていたのだろう。ありがたいことだ。

 服をよく見ると、どの衣類にも同じ異国語の言葉が縫いこまれていた。意味は全くわからないが、あるいは家紋や紋章なのかもしれない。肌着にまで紋が縫いこまれているのを見ると、この地域における有力な貴族のものかもしれない。


「制御体」

《はい、ハオウガさん》

「今の外気温はわかるか」

制御体は少し間を置いてから回答した。

《284イ度です》


 284イ度なら、3月としては普通の温度だ。

 幸いにもこの9000年間に大きな気候変動はなかったようだ。もし、あったとしてもイダフの科学力、魔法力を持ってすれば、氷河期も問題無いだろう。


 初春は暖かくなったり寒くなったりするので、少し厚めのものを選んだ。着替えた自分の姿を鏡に映してみる。この旅装が正しいのか正しくないのかは全くわからない。

 ただ、軽装過ぎることに一抹の不安を感じた。こんな服では雑兵の攻撃すら防げない。しかし、この旅装はリダリ隊長が用意してくれたものだ。信じることにしよう。

 衣類と一緒に背嚢(リュックサック)も入っていたので、残りの衣類は背嚢に入れて背負うことにした。


 後は、俺の脳に種が着床するのを待つだけだ。

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