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第66話 天使小隊

 退院するまでに二ヶ月かかった。詳しいことはわからないが、俺は特別な病院に入っていたようだ。高額所得者向けの病院で、日本人の医者に見放された患者を治療していたようだ。


 日本人であっても、級位であっても、三人で治癒魔法をかければ、ある程度の病気や怪我は治るだろう。逆に治癒魔法で治せないザミダフ緑黄病は、日本の抗生物質で簡単に治療できる。この二つをうまく組み合わせるのがいいだろう。


 これが四人になれば、魔法は更に高位になるので、この病院はもっと繁盛するだろう。

 この病院は一見さんお断りで、外からも秘匿している。俺は入院中、一美に連れられて散歩に出たが、外から見ただけでは絶対に病院だと思わないだろう。また、魔法一辺倒でなく、冴子と呼ばれた女性は医師でもあり、日本の医療と治癒魔法をうまく使い分けていた。


 彼女らは、やはりイダフの天使だった。

 日々、奮励努力し治療にあたってくれた。

 俺の身体で遊ぶような、ふざけた振る舞いも時にはあったが、俺の身体の再生過程では、かなり困難なこともあったようだ。

 気を抜けるときには抜いておかないと、長丁場は乗り切れない。


 俺は冴子たち天使小隊(エンジェルスタッフ)たちに退院の挨拶をした。

 何かあったら、またいらっしゃいと言われたが、患者としては二度と行きたくない。

 菅がどこまで話したのかわからないが、魔法の本が手に入ったら持ってきてといわれた。


 一美には、入院中、何から何まで世話になった。彼女の料理はカロイン(魔法に必要な栄養素)が特に多く含まれるので、俺のような患者はもちろん、冴子と天使たちにも好評だった。冴子は病院食や賄いへの採用を真剣に考えているようだった。


 エンジェルスタッフの連中は全員、俺と一美が付き合っていると思っていたらしいが、実は手すらまともに握ったことがないと知って驚いていた。

 キリちゃんと呼ばれていたスタッフは「せっかく少し大きめに治しておいたのに」と文句をいっていた。

――そうかなあ


 一美が迎えに来てくれて、一美と帰り道をゆっくり歩いた。


「本当に災難でしたね、結局、車の持ち主もわからないなんて、おかしいですよ」


 魔族との戦いは、表向きには自動車の爆発事故とされた。

 三名が死亡、一人が重体

 車の事故としては大きなものだが、二ヶ月もすれば世の中はそんな出来事など忘れてしまう。

 新聞に載ったのも一度きりで、ネットでもほとんど扱われなかった。別の大きなニュースの前に霞んでしまったようだ。


「結局、もらい事故で大怪我しただけなんて、可哀想です。保険も賠償金も無いなんて」

 保険に未加入だったのは俺の失敗だ。

 そして、賠償金がないのは大人の事情だ。


「治療費はタダで済んだからいいさ」

 俺はそういうしかなかった。


「一番得したのは菅さんですね」

 一美は何か菅には含むところがあるようだ。


 今回、菅 カンナはエンジェルスタッフに正式に移るということになり、701号室は空室となった。三人の中で一番がやる気のなかったのに抜擢された形になったのだ。面白くないだろう。


「でも、俺は一美がいてくれて嬉しい」


 しかし、この決め台詞は彼女には届かなかった。

 丁度、かかってきた電話に出たところだった。


「はい、三矢島です」

 少しよそ行きの澄ました声で返事をしていた。


「ご無沙汰しております、はい、今日退院しました。今帰るところです」

 俺の様子を少しうかがうと、少し離れて、俺に背を向けた。

――まさか、男なのか


「えっ、明日ですか?じゃあ場所は支部で、えっ、来られるんですか、ここはちょっと、まあ、退院したばかりですから、ハ…五十川さんもその方が負担は少ないかと、わかりました」

 更にしばらく小声で話した後に、一美はスマホに頭を下げて通話を終了した。


「誰から?」

 俺の声がほんの少しだけ震えていた。


「熱海さん」

――ママナーナだ。


「今日少し夕食遅くなってもいいですか?」

 珍しいことだが、さっきの電話と関係あるのだろう。


「もちろんいいけど、何かあるの」


「熱海さんが、お忍びでこちらに来られます。ハオウガさんに会いに」

 早く準備しないという一美の呟きを聞きながら、俺は最後に見たママナーナの顔を思い出していた。


 私に何か用といわんばかりの冷めた目が印象に残っていた。

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