第63話 ハオウガ最期の時
午後1時50分、ショッピングモールでの店内公演の1回目は既に終わったようだ。
――2回目は15時からだったな
隣接する関係者専用の駐車場には、店内公演との一方的な共同企画で、日本では珍しい非日常的な芸術作品が展示されていた。
展示品をご紹介しよう。
1.触角のある鳩の生首 (のオブジェ)
2.首の無い鳩魔人の死体 (のオブジェ)
3.両腕の無い男性の死体 (のオブジェ)
4.等身大の壊れた人形 (のオブジェ)
傍らでは二人の演者がパントマイムを演じている。かなり難しい体勢での静止だ。
5.鎧を着て振り向く美少年(俺)
6.金縁の眼鏡の背広の男性
ただ、この6の男性、無言劇のわりにはよく喋る。
「ワイが動けるようになったら、下段蹴りでお前の両脚の骨を砕いたる、それから両腕もへし折ったる、そしたら、トドメは頭にストンピングや」
さて、現実に戻る。
狂拳を名乗るだけあって、言葉も内容も狂ってきている。
身体が動けば、こいつもオブジェにしてやるのだが身体が痺れて動けない。
このまま、こいつの言葉どおり、嬲り殺しにされるわけにはいかない。
しかし、その一方で、してやられた感もある。
妙法裏二刀流のツォカが、あえて両腕を斬り飛ばされて、足で小刀を投じる為の布石にしたと思うと、感服するしかなかった。
両手を切り落としたから、攻撃はもうないと見事に俺を油断させた。
彼ら三人の連携が、1たす1たす1を4から101に仕上げてきたのだ。
狂拳のコクッブの拳の威力がどの程度かは知らない。
しかし、短くて2分長ければ5分、殴り放題蹴り放題、おまけに俺は無抵抗。
鎧は着ているが露出している部分も多い。
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問題:この危機を乗り越えるには
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狂拳のコクッブが動くまでに、あと5分
ハオウガ君が動けるようになるまでに
あと7分から10分かかります。
狂拳のコクッブは動けるようになったら、
ハオウガ君に致命的な暴行を働きます。
この危機を乗り越えるには
どうしたらいいでしょうか
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(回答制限時間 5分)
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俺はワゴン車を見た。
菅カンナがワゴン車から無事に出てくることを期待したいが、ツォカが菅を車内に押し込むときに何かしていたら望み薄だ。
むしろ俺が助けに行かなければならないのだが、ワゴン車に動きは無い。
フレッチャ、戦闘補助体445号機は、既にただの壊れた人形になっていた。
伝文のダプァの首と胴体はもちろん動かないし、妙法裏二刀流のツォカも血だまりの中に斃れたままだ。
周りにはこの事態の打開につながる何らかのきっかけは見当たらない。
「あと4分じゃ、楽しみやのう、やっぱ、首をペキンといわしたろか」
コクッブは時計でも見えるのか、ご丁寧にも残り時間を正確に教えてくれる。
魔皇帝アカムスの強さが少し理解できた。あいつは四肢を刎ねられ、封印魔法で動きを封じられてもわずかな好機を見つけて、反撃してきたのだ。
口は動かせる。喋れるし、魔法の詠唱もできる。やれることはあるはずだ。
「なあ、狂拳のコクッブよ」
「ああん? 命ごいか? 助けてはやらへんが、聞いたるで」
「ダプァもツォカも一対一で俺と戦ったぞ、自分だけ楽をして、それで死んだ二人に顔向けできるのか?」
「なんやと……ははあん、その手は食わへんで」
少し乗ってきた。
ズクルと言われて簡単に乗ってきた単純な筋肉バカだ、もう一押しする。
「動ける俺がそんなに怖いのか、そうだよな、三人の中でお前が一番弱かったものな」
「なんやと!おのれにそんなことわかるかいや!」
「わかるさ、最初三人がかりで来ただろ、一度やれば大抵わかる」
コクッブは次の言葉が出てこない、図星のようだ。
「それで自分が勝てないと分かったから、俺が動けないことを喜んでいるんだろう」
「おい、さっきのが本気だと思うなよ、ワイは文魔十二拳じゃ」
そんな拳法は全く知らないが、
「なにっ、ブンマジュウニケンだと」
と驚いてみた。話に乗ってやろう。
「ぬはははは、驚いたか」
[非実体化]
形を成していた鎧が古代イダフ語の詠唱で消えた。
「なんや、鎧、外すんかい、ええ覚悟や」
「あのブンマジュウニケンといっても、お前は格下で奥義も伝授されてないんだろ。そんなヤワな拳じゃあ、鎧は無理だ、腹筋で十分受け止められるから、おまけしといてやるよ」
「てめー、後悔するなよ」
コクッブの中で何か切れる音がした。
「おまえ覚悟しろよ、あと1分したら、そのどてっ腹ブチ抜いたる」
俺の身体はまだ動きそうにない。
一撃目は腹にくるようにもってこれたが、次の策が浮かばない。
防御魔法は詠唱できるが、この腕の位置では防御を腹に展開できない。
――せめて腹筋に力を込めよう。
「よっしゃああああ」
俺の背後で、無駄にうるさいコクッブの歓声が上がった。
そのあと、大きく息を吐き、呼吸を整えている。
振り向いた状態で固まっている俺の視界に、コクッブは落ち着いた足取りに入ってくると、改めて名乗った。
「文魔十二拳 文寅拳のコクッブ」
冷静さを取り戻したのか、一度、眼鏡の位置を直すと俺の視界から外れた。
コクッブは俺の腹を「ブチ抜く」のに適した位置に立ったようだ。
「いろいろ挑発してくれたが、ツォカが命と引き換えにしてつくった時間だ。無駄にはできん」
コクッブは軽く腕を振り、拳の軌道を確認する。
俺の腹に何度か軽く拳をあて、どこに当てるのかを決めている。腹にやつの拳があたったとき、手に鍵爪らしきものを嵌めているのがわかった。
「覚悟はいいな」
足の位置を決めると、腰を落とし、気を溜めるように、ゆっくり拳を引く。
「こおおおお」
一瞬、動きが止まった。この一撃に全てをかける気迫が伝わってくる。
――俺もここまでか。でも、このままでは死なんぞ
ダプァがやってくれたように、俺も閃光爆発魔法の詠唱を始める。
最悪でも相討ちだ。
「はあああっ」
俺の腹めがけ、コクッブの拳が振り抜かれた。




