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第51話 戦闘補助体の名前

 それでも、三日目の夕方、俺は地上の人となっていた。

 熱海氏たぶんママナーナの依頼を受けると約束したたからだ。


 京都駅から普通に電車に乗る。戦闘補助体は荷物持ちだ。

 しかし、ここに来るまでに、1,500イダフィ(2,400メートル)の地下から400イ度(摂氏204度)の通路を通って、地上に上るのは、かなりの労力だった。冷却魔法で自分と戦闘補助体の両方を冷やしながら上がったため、かなり魔法を消耗した。


――戦闘補助体

 日本語でいえば、ロボット兵というのが一番近い概念だ。

 しかし、兵といっても直接戦闘行為は行うことはなく、輸送や看護、斥候が主な目的だ。看護補助体と同様に自律人形であり魔法で動くのだが、それと同時に魔力攻撃に弱いため、対魔族との戦いでは殆ど使用されなかった。


 しかし、今回のように多くの物資を持ち出すようなときには、荷物持ちとして、とても重宝する存在だ。


 俺は京都駅で二人分の切符を買った。

 戦闘補助体には俺の服装を偽装させており、顔も日本人男性の見た目と取っているが、間近で見れば、人ではないと分かってしまう。


 電車内で何度かばれそうになったものの、特に大きな問題もなく、俺はマンション奥欧に着いた。


 部屋の中は模様替えが終わっていた。

 (かん) カンナに頼んでおいたのだ。


 彼女に言わせると、俺の部屋の使い方は日本人ではあまり一般的ではないそうだ。

 と言うのも、俺は一番広い居間に、一番大きな家具である寝台(ベッド)を置き、テレビを置いていたのだが、そんな配置はしないのだという。


 ベッドを置くのは寝室だということくらいは俺も知っている。

 俺の部屋に寝室はないといったが、菅はあるという。よく聞くと、寝室というのは、玄関に近い(イダフでは女中部屋にあたる)部屋のことらしい。


 日本の家屋のことは、菅に任せることにした。


 戦闘補助体には荷物を残りの空いている部屋にしまったら、次の任務に着くように命じて、俺は寝室に入った。


 これが日本の寝室だ。

 部屋は狭いがこれはこれで落ち着く内装だ。

 イダフの趣味とは全く合わないが、せっかく菅が用意してくれたのだ。頭越しに貶さないだけの慎みは持っている。


 面倒だが迷宮なだけのことはある。体が疲れている。それに戦闘補助体を電車に載せたのは思い返せば、かなり危なかった。

 俺もかなり疎いが、戦闘補助体には電車に乗る行儀(マナー)が全くできていなかった。よく他の乗客と争いにならずに済んだものだ。


 呼び鈴がなった。玄関の扉が開く音がする。


 しばらく、玄関先でやり取りがあった後、先手(せんて) 美歩みほが入ってきた。


まもるクン、今の何なの??」


「うちの執事ロボットだよ、よく出来ているでしょう」

 俺は戦闘補助体の新しい任務として、この部屋の警備をさせることにした。


「ロボット!?それにしてはかなり精巧ね」


「科学は進歩しているからね」


「やっぱりあのロボットって日本製なの?」


「なんで、そう思うの」


「だって、日本製は世界一優秀だから」

 美歩に根拠の乏しい自信を披露されて、俺は反応に困った。自国民が自国の技術を優秀だと思うのは結構なことだが、世界一の技術とたいした根拠も無く言われてもどうしようもない。


「あたり、日本製だよ、やっぱり日本製は優秀だね」


 面倒臭いので、俺は日本人が一番喜ぶ答えを返しておく。この場で世界における日本の技術水準の議論をしても何の意味もない。


「やっぱり」

 美歩は嬉しそうだ。

 これから仕事を頼むのだ、気分よくやってもらうのに越したことはない。


「じゃあ、美歩、はじめてくれ」


「オッケー」


 美歩から長いタオルを受け取ると、俺は服を全て脱いで、ベッドに横になった。


「スゴい、カチカチじゃない、どうしたの?」


「少し長めの階段を上がったんだ」


「だから、足腰がこんなに張ってるんだね」


 俺はやがて寝落ちしたようだ。美歩は何か言って帰って行った。


 鼻をつく料理の匂いで目が覚めた。

 俺は寝具の中に綺麗に収まって眠っていた。

 室内着を着ており、きちんと下着も着けていた。誰がどうやったのか、イダフの貴族はそんなことを気にはしない。だから俺も気にしないことにする。


 俺は居間に向かうと、台所では三矢島 一美(みやじま ひとみ)が夕食の準備をしていた。


「もう起きますか?もうすぐ夕食の準備が整います」

「ありがとう」


 食卓には三人分の食事が用意された。

「先手さんは予約のお客様があるので帰りました。あと、さっきの方の分も用意したのですが…」


――さっきの方って誰だ

 一美は俺の寝室の向かいの部屋に入っていった。飛行艦ン・メノトリーから持ってきた物品を置いている部屋だ。


「あの、夕食を作ったのですが、いかがでしょうか…」

 一美が誰かと話をした後、食卓に連れてきたのは戦闘補助体だった。


「ご一緒でもよろしいですよね」

 一美は俺に確認をとる。


「一美、それは…」


「それって言うのは、ちょっと失礼じゃな……えっ」


「ああ…それは…ロボットだ」


「えっ、ロボット!?」

 一美は上から下まで丹念につぶさに戦闘補助体を見た。

「確かにロボット…ですね」


「はは、そうだろう、気づかなかった?」


「ええ、よく出来てます。で、名はなんと言うのですか?」


「いや、決まってない。そうだ、一美、名前を決めてくれないか?」


「じゃあ…」

 一美は悪戯っぽく笑った。

「アカムス、というのはどうでしょう」


――魔皇帝アカムス

俺は倒すべき敵の姿を思い出し、その名を口にした一美に殺気を放っていた。

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