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第47話 再起動

「ママナーナだよね」

 俺の声は汗をかいていた。


『いや、私は熱海(あたみ)だ。二つ目の依頼を言ってもいいかな?』

 さっきのあっという小さな声を、俺は聞き逃さなかった。

 電話の向こうからかすかな動揺が伝わってくる。


 俺は確信した、声の主はママナーナだ。


 変声器で声を変えている上に、日本語だったので、最初はわからなかったが、話の内容で判断すれば、ママナーナしかいない。

 それなら、心の伝わるイダフ語で話したいのだが、彼女には彼女の理由があるのだろう。


 しかし、熱海氏を親父だと言ったのは誰だ。

 :

 しばらく思い返してみた

 :

 誰もそんなことは言っていない。

 俺が勝手にそう思っていただけだ。誰も熱海氏を男性だと言ってはいなかった。


 理由はわからないが、ママナーナは正体を明かしたくはないらしい。

 仕方がない、俺はイダフの貴族だ。無理に正体を暴くような無粋な真似は自重する。

 もうすこし、この戯れ言に付き合ってみようか。


「二つ目の件、言ってください。おねがいします」


『二つ目は君も戦ったからわかると思うけど、魔皇帝アカムスをもう一度倒してほしい』


――魔皇帝アカムスとか、君も戦ったとか、本気で隠すつもりはないようだ


「しかし、アカムスは俺が」

 倒した、といいたかったが、少し違う。


『勝ったけど、倒しきってはいない』


「確かにそうです」

 見てきたように言うんですね、とは言わないでおく。


「でも、もう一度倒すとはどういうことですか?」


『やつは現代日本に復活しているか、間もなく復活する。どういう形でなのかは分からない。日本人として転生しているか、あるいは…』


 熱海氏たぶんママナーナが一呼吸おいた。

『ここからは私の推測だ。いいね』


「はい」

 熱海氏の見解を聞こう。


『あるいは、時間移動魔法を使って、あの姿で日本のどこかにいる』


「まさか」


『これは私の推測だ。けれども封じの氷柱を抜ける方法は他にないし、ハコネの封印魔法から抜ける方法も他にはないはずだ』


「でも、なぜここに?」


『私たちイダフ人がここにいるからやってくるのか、それとも私たちのほうがアカムスに呼ばれて目覚めたのかのどちらかだろう』


「それは、熱海さんの推測なのですね」


『推測だ。しかし、魔族は堕ちた(ザーム)イダフ、ザミダフだ。元をたどれば同じイダフ人だ。今の日本にイダフ人が目覚めるのに適した条件があるのだろう』

 熱海氏はイダフ語まで使っている。もうママナーナと話しているとしか思えない。


「アカムスには借りがあるし、日本にいるのならば倒しましょう、今度こそ」


 二つ目の依頼も快諾だ。


「で、何か情報とか、取っ掛かりとかはないんですか?」


 こういうとき、時間遡行魔法を完成させるのに必要な薬草がどこそこに咲いているとか、アカムスはどこそこにいるとか、何か情報が欲しいところだ。

 ただ「やれ」では何もできない。


 しかし、熱海氏の返事は予想外だった。

『まずはチーム全員の顔と名前、人となりを覚えてくれ。細かいことはそれからだ」

 そういうと一方的に電話は切れた。


 ママナーナはあいかわらずだ。


 他の人にこんな態度をとられたら、ただでは済まさないが、ママナーナなら仕方ない。昔からこんな感じの女だった。


 それに、彼女のいうことにも一理ある。

 己の戦力や能力を把握せずに行動を起こそうというのは間違いだ。

 せっかく、熱海氏ママナーナが支援要員を確保してくれたのに、会ってもいないのはよろしくない。


 しかし、それならなぜ最初に教えてくれなかったのだろう。一美(ひとみ)は料理を一人で引き受けているようにも見えた。


 チーム内の仲が良くないとか、あるのだろうか、だったら面倒くさいことになりそうだ。

 とにかく全員に会おう、確かに話はそれからだ。



――次の夜

「えっ、11人もいるんですか!」

 俺以上に驚いたのは一美だった。

 夕食の話題には良くなかっただろうか、一美の(スプーン)が止まる。


 俺の匙は止まらない。今日の夕食はカツカレーとサラダだ。

 カレーも美味しいが、特にサラダがいい。根菜と海藻をうまく組み合わせたサラダは、匙で食べやすいように工夫されている。

 味もカレーと良く合った。


「なんで知らないのさっ」

 くやしいから俺はもっと驚いて見せた。


「フフッ、知らないからです」

 一美には俺のかえしが面白かったようだ。スプーンは動きを再開した。


 ママナーナこと熱海氏は敢えて何も教えていないのだろう。俺はそれに気づいて、11人と言ってしまったことを少し後悔した。


 アカムスと戦うことを見据えるのなら、それくらいの注意は同然だ。


 アカムスや手下の魔族が本気になれば、戦闘力が皆無の一美や美歩などなんとでもできる。頭の中を弄くって、全員の名前を聞き出し、支援要員(サポートメンバー)を全員寝返らせることなど、手馴れたもののはずだ。


 しかし、お互いのことを知らなければそういう問題は起こらない。

 一美が他の支援要員を3人までしか知らなければ、被害は3人に留まる。いくら、アカムスでも知らないことは聞き出せない。今からでも訂正しよう。


「11人というのは冗談です。でも一美と先手(せんて)さんだけでもないよね」

 一美の前で美歩(みほ)と呼ぶのにはためらいがあった。


「ええ、もう一人いるにはいます。けど、自分から動くタイプじゃないし、その上、あんまりやる気もないみたいなんです」


「その人も熱海(あたみ)さんに頼まれたのですよね」


「ええ、熱海さんに言われたから、ここに来ているはずです。だから、ちゃんとやるべきだし、ハオウガさんはお助けのし甲斐がある方なのに、どうしてでしょう」


 お助けのし甲斐があるという一美の言葉に照れる。


「わかりました。一度会ってみましょう。もし、嫌々やっているのであれば、自由にしてあげたほうがいいかもしれないですしね。連絡先とかわかりますか」


「電話番号はわかりませんが、ハオウガさんと同じ7階、701号室です。名前は…」



――30分後

 食事を終えた俺は、自分の部屋に戻る前に701号室に寄り、呼び鈴を押した。

 住人の名は、(かん) カンナ(20)、学生


 事前情報はそれだけだ。

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