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脱出転生ハオウガ<異世界からの剣士、現代日本でアレコレ無双する>  作者: 等々力 至
第4章 イダフ プロジェクト
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第43話 美歩

 階段で5階から7階に戻る、たかだか、それだけの動作が苦痛だった。

 本来なら満ち足りた気持ちで軽やかに上るはずだった階段がとても長い。

 情けないことに、とうとう俺の脚は5階から6階の踊り場で進まなくなってしまった。もう、どうにもならず、そこに座り込んでしまう。


――昇降機(エレベーター)に乗ろう

 でも、ここは踊り場だ。エレベーターに乗るにしろ階段を上るのか下りるかしなければならない。どちらもこの身体には面倒だ。同じ面倒なら前へ進もう。この場合は上りだ。


――まさか

 反射的に足が止まった。


 階段の上から刺すような視線を浴びせられた。猛禽が地上の獲物を狙うような視線に近い。


――黒警報(ブラックアラート)

 あの時の警報が頭に差し込むように響いた。

 魔族覚醒した日本人の男女と戦ったときに近い。

 もし、やつらくらい強ければ、今の状態では勝てない。


 一旦、下に逃げようと思ったら、唐突に視線の鋭さが消えた。


 階段を見上げると一人の女がいた。

 さっき、俺に咎めるような視線を向けていた女だ。


「あんたさあ、もしかして、七階に越してきた五十川(いそかわ)って子?」


「あ、はい」

 俺の日本名は五十川(いそかわ) まもるだ。ちゃんと覚えている。


「ふうーん、そうかあ」

 女は何気無い感じで階段を下りてくる。


「歩ける?肩貸そうか」

 女は簡単に俺の懐に入ってきた。

 疲れているとはいえ、初対面の人間にこれだけ簡単に他人の接近を許したことはなかった。俺が考えを巡らせる前に、女は肩を貸すようにして俺を立たせた。


 間近で顔を見る。俺の第一印象では、イダフでは美人の部類に入る顔だと思った。しかし、日本人にはあまり受けが良くないかもしれない。


「どしたん、未成年のくせに酔っ払ってる?」

 気配を探ると、多少の戦闘力があるようだ。年齢はよくわからないが、20代後半という印象を受けた。身長は俺の肩まであるかどうかという小柄な体系だが、見かけによらず身体の軸が安定しており、力も強かった。


 俺は女の助けを借りながら、階段を降りて5階に戻った。

 女は俺に肩を貸したまま、俺を押し込むようにエレベーターに乗ると、7階ではなく、3階のボタンを押した。


 俺と女は3階で下りる。


「こっちよ、入って」

 女が示したのは、エレベーターの前にある302号室だった。

 鍵を開け、入るように促した。


――言いなりになっている

 ここまで、女の言うままに俺は動いていた。あまり感心できない流れだが、女が俺をどうするつもりなのか見てみようという気もあった。


 真っすぐ行こうとしたら、止められた。

「あ、奥じゃなくて、左の部屋」

 そこで、左の部屋に入ると診療台のような寝台(ベッド)が1つ、その脇には空気清浄機や脱衣籠、鏡台が置かれていた。あきらかに居住用の部屋ではない。


 俺は改めて女を見た。

 髪型は明るい栗色で後ろにまとめていた。眼光は一般人としては強いかもしれないが、さっき感じたほどの強さや鋭さはなかった。


「何見てるの?」

 そういいながら女は上着を脱いだ。淡い黄色の半袖から出ている腕には締まった筋肉がついている。


「どこで会ったのか思い出せなくて」

 俺はこの女の名前を思い出せなかった。


「おお!そういえば、自己紹介をしてなかった。

 あたしは、302号室の先手(せんて) 美歩みほ

 5階の子…なんていったっけ…そうそう、三矢島(みやじま)…さんと同じで、

 熱海(あたみ)さんからに頼まれたクチ。

 料理はあんまり得意じゃないし、仕事もあるからあまり回数は入れてないけどね」


「そうなんですか」

 先手(せんて)の話には判然としないところもある。それに、また熱海という親父の話が出てきた。どういうつもりで俺に支援をしてくれるのか熱海氏には一度聞いてみよう。


「で、あんたは五十川いそかわ まもるクンでいいのよね」


「はい」


「結構イケメンじゃん」


――イケメン

 もしかしたら、この人はいい人かもしれない。それに本名は伝わっていないようだ、少し安心する。


「じゃあ、服脱いでそこに横になって」


 よく、意味がわからなかった。


――種の自動翻訳機能に問題があるようだ

 服を脱いでと聞こえた。これは誤訳だ、間違いない。


 日本語の有名な一節に「ここではきものを脱いでください」というくだりがあるが、これと似たような聞き間違いだろう。


 種はイダフの根幹を成す技術であり、故障など起こらない。

 しかし、種は人の脳内で動くものだ。俺の体調も問題があるのだろう。疲れすぎていたりとか落ち込んだりすると、何か悪い影響があるかも知れない。


 俺は次の言葉を待った。


「聞こえなかったかな?」

 先手は腕をさすりながら近づいてきた。

「服を脱いで、そこにうつ伏せになってね」

 先手は明瞭に言った。


 どうやら、服を脱げという指示で間違いないようだ。先手の言い方が慣れた感じのものだったので、俺は上半身裸になり、脱いだものをそばにある脱衣カゴに入れた。

 上着に剣・ドロガ二式を入れたままなので少し気になったが、ズボンのポケットに剣はもう一本ある。


 続けざまに先手は指図する。

「下も脱いでね、全部」


 さっきまでは、俺をどうするつもりなのか見てみようという余裕があったが、少し揺らいでいた。

 俺はどうなるのだろう。

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