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脱出転生ハオウガ<異世界からの剣士、現代日本でアレコレ無双する>  作者: 等々力 至
第4章 イダフ プロジェクト
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第40話 ラズベリー柄のベレー帽

 …大丈夫、大丈夫


 …大丈夫、大丈夫


 三矢島 一美(みやじま ひとみ)は同じ言葉を繰り返す。

 彼女の細い腕が俺を包んでいた。


――なんか安心する

 どれくらいの時間、彼女がそうしていてくれたのかわからない。

 一分か、一時間か。


 気づいたら三矢島は俺から体を離していた。


 でも、彼女の両手は俺の上腕を支えたままだ。

 手を離したら、俺が倒れてしまうとでも思っているようだ。

 そんなことはない。

 俺は脚に力を取り戻す。

 それが伝わったのか、三矢島は手を離した。


 彼女は俺の顔を観察する。

 わずかな隙に涙は拭いた。泣いた跡はもう残っていない。


「落ち着きました?」と三矢島


「すみません、急に」と俺


「じゃ、行きましょう」

 三矢島は早足にどこかへ向かった。

 しばらくの間、俺は三矢島を追いかけるように黙って公園(パーク)内を歩いた。


 花壇の辺りで三矢島はようやく足取りを緩めた。

 花壇に咲いた花を見て、何か言っていたが、内容はよく耳に入らなかった。


 さっきのことを思い返しながら、目は三矢島の姿を追っていた。


「さっきから私の話、聞いてないですよね」

 少し怒っているような、あきれたような冗談交じりの口調で、彼女は俺に文句を言った。


 ここでまた泣いてみせたら、抱きしめてくれるだろうか。

 俺は小狡いことを考えた。


 しかし、「次は泣いても、放置しますから」と念を押された。

――残念だ


「人前であんなことするのって、勇気と勢いがいるんです」


 そうなのか、彼女は泣き出した俺をなだめようと勇気を出してくれたのか。


「もう、人前で泣いたりして、困らせたりしません」

 俺は誓いの言葉を述べた。


「いえ、いいんですよ、泣いても」

 三矢島は即座に否定した。

「ただ人目があると、できることが限られてしまいますから」


 じゃあ、もし、人目が無かったら、もっと何か濃い行動を提供してくれたのだろうか、と(よこしま)な発想が頭に浮かぶ。


 邪心と共に最大の敵の姿と言葉が脳裏に浮かんだ。

『…執着にまみれておるな、女に対する欲が凄まじい』

 魔皇帝アカムスが俺に言った言葉だ…その通りかもしれない。


 花壇を過ぎて、芝生の広場に来た。芝生の青い臭いが鼻をついた。


「少し早いけど、お昼にしましょう、お弁当作ってきました」


――やったぁ

 俺の顔にはそんな文字が大書で書かれていたようだ。


 そんな俺を見て、

「そこまで嬉しそうにしてくれると、私も嬉しいです」


 三矢島は手際よく芝生に敷布(シート)を敷いた。彼女は靴を脱いで敷布の上に座り、彼女はお弁当を広げた。


 俺も後に続いて靴を脱いで座る。

 敷布はさほど広くないが、詰めて座る分には問題ない。

 なので、仕方なく俺は詰めて、あぐらをかいて座る。


 三矢島 一美(みやじま ひとみ)は日本人だ。

 イダフ人ではない。

 でも、

 俺の目は彼女の顔を見ている。

 俺の耳は彼女の声と遠くの空にひばりの鳴き声を聞いている。

 俺の口は彼女の作った弁当を味わっている。やはり満たされる。

 俺の鼻は彼女の微かな匂いと芝生の青臭い臭いを嗅ぎ分けようと苦戦している。

 そして、

 俺の膝が彼女の軽く三矢島の膝に触れる。


「さっきは泣き出されて、びっくりしました」

 話題が尽きたのか、三矢島はさっきの出来事を持ち出してきた。


 しかし、俺は蓮華流剣代王ハオウガ=マイダフだ。

 いつまでも劣勢に甘んじたりはしない。

「そういう三矢島さんはおととい、初対面で泣きましたよね」


「うっ、いうなあ、ハオウガ()()


――呼び名が変わった

 不意に、視界の中央にいる三矢島に目の焦点が合わなくなった。

 遠くの時計塔が午後12時を告げていた。


 俺の様子に訝しがったのか、すぐに呼び名を戻した。

「あ、ごめんなさい、ハオウガさん」


「いえ、いいです、僕も呼び方変えていいですか」


「呼び方…私のですか?」


「ええ、名前で呼んでいいですか」


「じゃあ、ためしに一度呼んでみてください」


「ヒトミ…」


 俺がそう呼ぶと、今度は一美が引くように硬直した。

――しまった

 日本人は年齢の上下で敬称の有無が変わる。そんな面倒臭さがあった。

 普段は自動翻訳がやってくれるが、意図して名前で呼んだ。

 あやまちは即訂正だ。

「なんてね…一美さん」


 一美は少し思案するような素振りをする。

「一美でいいです。ハオウガさんは外国の人だし、そのほうが自然ですよね。でも私は呼び捨てって慣れてないから、さん付けで呼びますね」


――やったぁ

 俺の照度は3度くらい上がったに違いない。

 知り合ってから三日目、一美と親しくなれたことが嬉しかった。


「なんか、ハオウガさんって、思っていることがすぐに顔にでますね」

 俺につられたのか、一美は弾むように笑う。


「一美の前だけです。なんか…」

 思い切って言ってみたが気恥ずかしい、続けるのをためらった。


「…なんか?」

 一美は次の言葉を待っている。ああ、もう言ってしまえ。


「なんか…一美は俺の不足していたものを補ってくれる。なんていうか、本来の俺に戻っていけるような、なんだろう、うまく言えないけど、今の俺にとって必要です」


 そもそもイダフ語でも何と言っていいのかわからない。

 自動翻訳もそれでは正しく日本語に翻訳して言えるはずも無い。


「必要って、私の作っているごはんのことですよね、ちょっと大げさですよ」

 笑顔に少し困惑が混じった。


――そうじゃない

 確かに一美の作ってくれる食事には魔法に必要な栄養素―カロイン―が十分に含まれている。俺は魔法士ではないが、いざというときに魔法は必要だ。


 しかし、それだけではない。


――泣き出した俺を一美はとっさに抱きしめてくれた。

 そんなふうに俺に接してくれる人間には、ついぞ出会ったことはなかった。


 それは日本人なら普通の行為なのかもしれない。

 一美にとっては普通なのかもしれない。

 けれども、それは俺が無意識のうちに求めていた()()()だった。


「もっと、一美と一緒にいたいです」

 月並みな言葉しか出てこない。


「はい、お弁当食べ終わったら、もうちょっと歩きましょう」


 何かごまかされたような気もするが、何かが一美に伝わったとも感じていた。

 今はこれで十分だ。


 一美の被るラズベリー柄のベレー帽はよく似合っていた。


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