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脱出転生ハオウガ<異世界からの剣士、現代日本でアレコレ無双する>  作者: 等々力 至
第4章 イダフ プロジェクト
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第39話 火曜日の公園

 火曜日の朝、俺は着ていく服を選んでいた。

 とは言うものの、俺が持っている服は、以前リダリ隊長が飛行艦ン・メノトリーに準備しておいてくれていた服をそのまま着ている。

 しかも、8年前のものだ。流行遅れであることは確実だろう。

 でも、観念してそれを着る。


 結局、昨日着ていた服とほとんど変わらない。


 今日は三矢島 一美(みやじま ひとみ)との出会徒(デート)だ。

 だから、まずは着るものに気を遣ってみた。

 たとえ、結果は同じような服装になったとしても、着るものを考えたという事実が、俺の身だしなみを向上させる………ということはない。


 しかし、俺は決して、浮かれたりはしまい。

 勘違いして大きく外すことがあったよな、俺、と自分に問う。


 出会徒(デート)と思っているのは俺だけで、三矢島にとっては犬の散歩のようなものかもしれない。

 イダフの貴族である俺がそんなふうに卑屈になることはないのだが、この日本でイダフの貴族として生きるのは不可能だ。マイダフ家の誇りもお預けだ。


 待ち合わせは、マンション奥欧州…じゃない、マンション奥欧(おくおう)だ。


 自分の住んでいる建物の名前くらい覚えてもいいはずだが、俺の脳の中にある種は、リダリ隊長が井田会長として生活したなかで見聞きしたことを日本語辞書として蓄積している。


 俺の日本における活動期間は3ヶ月、辞書には俺の見聞も追加されているはずだが、リダリ隊長の40年には到底及ばない。自分でも日本語を勉強しなくては。


 マンション奥欧の一階で10時30分。お互いがちょうどの時間に着いた。


「おはようございます」

 三矢島の声は少し震えているようにも聞こえた。


「おはよ…ございます」

 そういう俺はしばらくの間、俺は彼女から目が離せなかった。

 彼女は薄っすらと化粧をしており、服装も昨日のものとは違っていた。

 もちろん俺が始めてみる服装だった。


 しかし、被っているベレー帽、中古服販売店で買ったようなラズベリー柄のベレー帽が全く似合っていなかった。

 そこは触れないで、いや逆に言おう。


「その帽子、お似合いです」


 途端に三矢島の照度が1度上がった。


「そうですか、嬉しいな、似合うかどうか自分でも自信がなかったんですよ」


――だったら、やめとけばよかったのに

 俺はそう思ったが、その考えを自分で即座に否定した。


 今日はわざわざ俺のために時間を作ってくれたのだ。帽子が似合うとか似合わないとかなど些細なことだ。


 そんな些細なことで、彼女のことを悪く思った俺は何か間違っている。

 そうだ俺はいつも間違っている、そう思って今日は過ごそう。


「じゃあ、行きましょう」

 三矢島の明るい声に引っ張られるように、俺たちは出発した。


 梅雨の時期だが今日は晴れていた。

 天気予報では夕方から雨だが、それまでには帰ってくるだろう。


 三矢島が連れてきたのは遊園地だった。彼女は招待券を二枚窓口に出した。


公園(パーク)内に入るだけで、乗り物に乗るには別にお金がかかるんです。けれども、私ジェットコースターとか駄目なんで、ちょうどいいかなって」


 すぐに乗りもの酔いをしてしまうという。俺は日本の遊園地の乗りもの(アトラクション)に興味はあったが、三矢島が嫌ならやめておこう。


 俺の経験からすると、火曜日の午前は日本人の多くは仕事に行っている。遊園地はなぜ開いているのかとおもうくらい、閑散としているかと思ったら、それなりに人はいた。

 火曜日が休みという人もいるのだろう。


「こういうところ、嫌いですか?」

 俺が黙っているので、三矢島が俺の顔を覗き込む。


「いいえ、なんか落ち着いた気持ちになります」


「そうですよね。私も気持ちが疲れたとき、たまにですけど、ここにくるんです。今日はいないですけど、遠足で幼稚園児が来ていたりすると、とっても可愛いんですよ」


「そうなんですね」

 ガキが騒いでうるさそうだが、日本の子供はそうでもないのだろう。


 俺と三矢島は会話が途切れながらも、気まずい雰囲気になることはなかった。

 波長が合うという感覚かもしれない。


 あの鳥は単体では小さくてかわいいけれど、夕方になると群れをなし、何百羽と駅前の電線に集まってきて怖いそうだ。

 三矢島は何か生き物が集団で集まっているのが苦手だという。


 確かに俺にもその感覚は理解できる。夜に棒状鬼(ゴタク)が群れて歩いていると、斬りかかりたくなる。実際に斬りすてて歩いたこともあった。


 空ではひばりが鳴いていた。

――イダフにもひばりはいたな

 心地よい鳴き声に耳を傾けていたら、ふっと三矢島に袖を引っ張られた。

 足元をみると、側溝に落ちそうになっていた。


「すみません、考え事をしていました」


「ハオウガさんって若いのに、剣士みたいにキリッとしてて、隙のない人だと思ってました…」

 俺が剣士と見破ったわけではないだろうが、大体当たっている。

「…けど、ボーっとされるときもあるんですね」


「ちょっと国のことを思い出していたので…」


 急に三矢島が難しい顔になった。

 俺は何かまずいことを言ってしまっただろうか。


「やっぱり、お国に帰りたいですか?」


――国に帰る

 そう言われれば、今まで不思議なことに「イダフに帰る」という発想を持ったことはなかった。


 飛行艦ン・メノトリーの制御体はあれから9,000年経ったという。

 リダリ隊長は、イダフ王国はもう存在していないとあきらめた。


 俺はその言葉を信じて、言われるがまま日本で暮らしている。


――イダフに帰りたい

 そんな声がどこからか聞こえた気がした。


――あれ

 涙が流れていた。

 おかしい、なぜだ、三矢島の顔が霞んでよく見えないが、どこかあわてた表情をしているようだ。


 俺は事態をよく把握できないでいたら、更に予期できないことが起こった。


「ギュっ、します」

 三矢島 一美(みやじま ひとみ)は、俺に近づき少し背伸びをすると、俺の背中に手を廻して、俺を抱きしめた。


「…大丈夫、大丈夫」

 三矢島は少し汗ばんでいた。

――日本(ここ)に来て、誰かに触れられるのは初めてだ


「…大丈夫、大丈夫」

 そう俺の耳元で繰り返す三矢島の声が心地良かった。

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