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脱出転生ハオウガ<異世界からの剣士、現代日本でアレコレ無双する>  作者: 等々力 至
第2章 日本独歩行(京都~大阪)
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第20話 所 剣星

 所 剣星(ところ けんせい)の剣撃は、俺の骨髄を激しく揺らした。

 骨髄を揺らすというのはイダフ語の言い回しだ。日本語に相当する表現は無い。


――折れたのか

 そして、右目に痛みがあった。折れた剣の破片が入ったようだ。


 所 剣星が俺に向き直った。

「剣の出来に救われたな」


 ドロガ二式の刃は、所 剣星の実体剣を砕いていた。


 元々、ドロガは魔皇帝アカムスの闘気を破るために、イダフの科学者と魔術士が力を合わせて開発したイダフの最高の剣だ。

 所 剣星の剣がどんな名刀であったとしても、所詮は鉄の剣。

 ドロガと撃ち合えば、飴も同然、砕けて当然、である。


「お主の剣、刀鍛冶の手によるものではない、やはり本当なのだな…」

 青白く削げた頬に、我が意を得たりという表情を浮かべた。

「…では、失敬」

 その途端、暗闇の路上から湧き出るように霧があふれ出た。

 自然現象ではない。


――魔法だ

 所 剣星はもう一本実体剣、脇差を持っていた。

 逃げると見せかけ、俺が追ったら反撃してくることも十分ありえる。

 追うのは、そもそも無理だ。出血したのか、右目の視界が赤く染まっている。


 俺も同じ濃霧の魔法をつかって、その場から姿を消す。

 所 剣星が俺を追ってくることは考えにくかったが、それでもビジネスホテルに戻るのに十分な注意を払った。


 途中、数体の棒状鬼(ゴタク)とすれ違ったが、構う余裕は無かった。当面、やつらを練習台にすることはないだろう。


 ほうほうの体で部屋まで逃げ帰ると、服を全部脱ぎ、鏡の前に立った。


 怪我は二箇所


 - 胸に横一直線の傷。擦り傷程度で治療の必要も無い。

 - 右目に刀の破片。まつ毛ほどの大きさだ。毛抜きで抜いた後、治癒魔法をかけた。


 毛抜きはホテルの従業員に持ってきてもらった。右目に痛みは残るが視力に影響はない。やがて完治するだろう。


 どうやら、肉体的に深刻な損傷は無い。

 未使用のままぶら下がっている俺のドロガ三式も無事だった。

 くだらない事を言うな…と言われても、これを言う余力は持っていたい。


 あれだけの相手と戦って、ほぼ無傷で済んだのだ、良しとしよう。

 一方、所 剣星の目的が何だったのか。

 意図は不明だが、いくつかの目的は達成されてしまった気がする。


 それが癪に障った。


 当面、俺はゴタクを狩ることはない。そんな気はすっかり失せた。

 実は、所 剣星はゴタク愛護主義者であり、俺のゴタク狩りを止めることが目的だった。もしそうなら、キミの目的は達成できたね、おめでとう。


 しかし、それはない。

 所 剣星の主義主張に興味などないが、そういう男ではない、剣を交えた者として分かることがある。


 そして、所 剣星も俺ハオウガ=マイダフがどういう男かわかったはずだ。

 - 剣の腕前は知られた。

 - ドロガ二式がどんな剣なのかも知られた。鉄製の実体剣を砕く力がある。


 引き換えに俺が得た情報はかなり曖昧だ。

 所 剣星は妙法流。その判断の根拠は、奴がそう名乗ったことと、初見なら蓮華、再戦なら妙法と言ったこと。


 どちらもやつの口から出た言葉だ。


 その言葉無しで剣だけを見ていたら、俺は奴の剣を妙法流と判断しただろうか。


 わからない。


 妙法流だと判断するように、巧みに誘導された気もする。

 情報戦という意味では完敗だ。


 所 剣星の腕前は確かだ。我流でああはなれない。そして、妙法流を知っているということは、その存在を教えた誰かがいるはずだ。


 それは誰か?


 俺の知るイダフ人は三人いる

 - リダリ隊長(現、井田会長)

 - ママナーナ=ウミサミダフ

 - ハコネ=ヤマイダフ


 リダリ隊長は槍を使う。槍術には妙法流の流れを汲むものもあるから、リダリ隊長が妙法流のことを知っていてもおかしくはない。しかし、リダリ隊長が所 剣星の師匠だった、というには無理があり過ぎる。

 ママナーナやハコネは至っては論外だ。


 そして、最後の一人を思い出した。

 封じの氷柱にいたはずの…あいつだ。


――魔皇帝アカムス

 どうして忘れていたのだ。

 ほんの少し前まで戦っていた相手じゃないか。


 アカムスは封じの氷柱にいなかった。日本で復活していても不思議はない。


 魔族とは、魔皇帝アカムスによって魔道に堕ちたイダフ人の成れの果てだが、彼らの中には貴族も平民もいるし、蓮華流や妙法流にも通じている人間もいる。


 日本で復活した魔皇帝アカムスが日本人の弟子を育て、日本人を手先に使っている。

 ありうることだった。

 そもそも、魔帝国ザミダフはそうやって創られた国ではなかったか。

 アカムスという一人の男が自らを変革させて魔族を名乗り、その力を欲しているものたちに分け与えて魔族とし、配下にした。


――もし、魔皇帝アカムスが日本人たちを配下に収めたら

 俺はそんな事態を想像した。勝ち目のない最悪の状況だ。


 戦いで疲労していたが、とても寝付けるものではなかった。俺は何の案も浮かばないまま、そのまま明け方を迎えた。俺はスマートフォンのことを思い出した。急いで取り出すと、慣れない手つきでメールを作成した。


 一行足らずのメールを作るのに半刻かかった。


「リダリタ一様(たいちょう)どの 近畿雨(きんきゅう)連絡あり 子宮変身(しきゅうへんしん)こう ハオウが」


 日本語の間違いなどどうでもいい、急いでリダリ隊長に連絡を取らなければならなかった。


 魔皇帝アカムスとその配下が日本にいる。

 緊急事態だ。


 送信ボタンを押した後、俺は唐突に眠りに落ちた。

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