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第1話 ザミダフ攻略戦

 アカムスは信じられないという表情で、自分の切り落とされた左腕を見ていた。


 ママナーナは魔皇帝アカムスの左肩の切り口を撃つ。切り口は瞬時に色を変え、黒く焼け焦げる。肉の焼ける臭いが漂う。悪臭に顔をしかめるが、これで腕は再生しない。


 俺は勝利が近づいたことを感じていた。


 魔皇帝アカムスは信じられないという表情を維持したまま、俺を見下ろした。


「まさか、余の闘気を…」


 そうだ、お前の闘気をやぶったのだ。

 ドロガはイダフの科学と魔術を融合させた闘気を破る剣だ。


 俺は気合いを込め、ドロガを横薙ぎに振った。ドロガは魔皇帝アカムスの右足を断つ。


 アカムスの放つ闘気も、鎧の装甲をものともせず、俺の切り落とした右足首が磨かれた床を転がって行く。


 俺の倍はあるアカムスの巨躯が膝を付く。再びママナーナが俺の肩越しに引き金を引き、魔皇帝アカムスの足を焦がした。


 彼女の銃ではアカムスの闘気は破れない。


 しかし、俺がドロガで切り裂いたところからなら、銃も効く。


 これも隊長の作戦通りだ。


 彼女の長い黒髪がふわりと俺の顔をなでた。ほのかな匂いが俺の鼻腔をくすぐる。


 命を掛けた戦いの最中だが、彼女からは甘い匂いがした。何を悠長なことを思われるかもしれないが、ここは敵陣の奥深く、緊張で感覚が鋭くなるのは当然だ。


 この戦いが終われば、明日からはママナーナとの「お付き合い」が待っている。


「この、人間ども…」


 魔皇帝アカムスは右拳を握りこんだ。何か右手に力が集まってきているのがわかる。


――広域消失魔法


 この力で奴は少なくとも7つの都市を消失させている。炎で燃やすとか、砕くとか壊すのではない。ただ消したのだ。


 ゴミや生き物の死骸を消す魔法で、俺たちも使う消去魔法がある。広域消失魔法はその大規模版だろうと魔法士は分析していた。

 しかし、消えた都市を調べたところ、都市が最初から存在しなかったかのように消えていることから、根本から理論の異なる魔法、存在否定魔法ではないかとも考えられていた。


 その力をここで俺たちに向けて使うつもりだ。


 俺はすかさず魔皇帝アカムスの左脚も薙いだ。右足と同じ方向に左脚が転がっていく。


 両脚を断たれてアカムスはバランスを大きく崩した。


――これで終わりだ

 俺は続けて、右腕も肩口から切り落とした。

 躊躇もあったが、これでアカムスの四肢を全て切り落とした。


 アカムスの右手に集まっていた力が散ったのがわかった。


 鈍い音を立て、アカムスはうつ伏せに倒れた。

 魔皇帝も二本脚だ。両脚を断たれたら倒れるしかない。

 ママナーナは新たな切り口を躊躇せず撃った。


「ダシクニ! エフミダ!」


 アカムスは床にうつ伏せのまま、側近らしきものの名前を呼んだ。


 しかし、返事は無かった。


 代わりに答えたのは歩いてきた一人の男だった。


「魔皇帝アカムス…貴公の側近は全て討ち取った」

 リダリ隊長が重みのある声で告げる。


「なんだと…」

 アカムスは何かを探るように目を閉じた。部下の気配を探ったようだ。そして、理解したようだ。


「こうなれば余の負けだな、殺すがいい」

 アカムスは四肢を断たれているにもかかわらず、器用に体を捻って仰向けになった。


 俺は剣の構えを崩さなかった。


 床に倒れているとはいえ、魔皇帝を名乗る男だ。

 目から光線を出したり、口から火炎を吐いたりしてもおかしくない。


 拿捕が難しい場合は、斬首して首だけ持ち帰ることになっている。むしろ、俺はそうして早く終わらせたかった。


「それはできぬ、貴公は転生法を使えると聞く」

 リダリ隊長はアカムスの思惑を看破していた。


 ここでアカムスを殺しても、すぐに転生して別の人間に生まれ変わる。その人間は、転生法でそれまでの記憶や能力を引き継いでいるので、より強い魔皇帝となるのだ。


 元々、今の魔皇帝アカムスが何代も転生法を使った結果だと考える魔法士もいる。

 それなら、アカムスが信じがたい程の魔法を使える理由の説明がつくからだ。


「ほう、平民にしては、よく学んでいるな。どうだ、余の部下にならぬか?余は強く賢き者は好きだ」

 アカムスは自分が床に転がらされた状態でありながら、自分が上の立場だと言わんばかりに、リダリ隊長を勧誘した。


「遠慮しよう、貴公の部下になる利点がないのでね」

 リダリ隊長は即答した。


「ずっと平民でいるのが幸せか?」


「魔皇帝の手下と呼ばれるよりはいい」


「愚かな、イダフの考えに毒され…っ」

 アカムスの台詞が途切れる。

 ママナーナが四肢の切り口に発砲したのだ。リダリ隊長はママナーナに合図を送っていた。

 いやな肉の焼ける匂いが漂う。


「時間稼ぎはさせませんよ」


「…イダフの考えに毒されておるのだな」


 リダリ隊長はそれでも会話を続けた。

「ただ、貴公が私の部下になるのなら考えてもよい」


 始まったよ…。

 この人は真面目な表情で微妙な笑えない冗談を相手構わずに言う癖がある。


「余は魔皇帝だ。それより上の地位はない」


「では皇帝の座を降りればよい」


「平民のお前が皇帝になるというのか?」


「私がザミダフを統治する方が、世界はより良くなると思うのだがね、貴公は人使いが上手くないようだ」


「民主制を敷けと?」


「共和制のほうが合っていると思いますが」


――なんの会話をしているんだ

 ここで政治の話をする意味が分からない。


「ところでお主が隊長か?たった二人の部下で余に勝ったのか?」

 アカムスは両眼に魔力を溜め始めていた。俺は一太刀で首を落とせるように少し立ち位置を変えた。


「不肖な隊長だが、われら三人の連携だ」

 勝ち誇るようにリダリ隊長が応じた。それで俺は隊長の意図がわかった。


「そうか三人か…」

 その後、アカムスが言葉を濁すように無口になった。何かの準備をしていたのかもしれない。


「封魔」

 凛とした少女の声が堂内に響いた。

 ハコネだ。

 声が少し震えている。


 死角から用心深く近づいて、魔皇帝アカムスを封印する魔法を放ったのだ。封印魔法真言の詠唱には時間がかかる。


 隊長の会話は時間稼ぎだったのだ。決して、興味本位で魔皇帝と会話(おしゃべり)したいわけではなかったのだ。うん、そう思うことにしよう。


 ヤツの身体全体が霜に覆われた。

「…封印魔法か」

 アカムスは独り言のように尋ねたが、リダリ隊長は答えなかった。


 アカムスは口を止めなかった。

「かなりの威力だが、余を抑え続けるには少し魔力不足だ。いつまで続くかな」

 アカムスは薄く嘲るように笑った。


「それは後でわかるだろう」

 リダリはそう言いながら、師団に連絡を入れた。


 全軍に撤退命令が出され、飛行艦ン・メノトリーは中央宮殿から離脱した。


――作戦の第2段階が成功した


ザミダフ攻略戦が終わったのだ。

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