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脱出転生ハオウガ<異世界からの剣士、現代日本でアレコレ無双する>  作者: 等々力 至
第2章 日本独歩行(京都~大阪)
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第12話 銀の講習会

――また、何かやってしまったか


 俺は椅子で寝ていただけだ。それだけでは敵意を向ける理由にはならないはずだ。


 俺はそう思っているが、日本では違うのかも知れない。

 日本では、椅子で寝るのは禁忌なのだろうか、種にそんな記録はなかったはずだが、見落としていたかも知れない。種を読み直してみる。


 女たちからは、明確な排除と微かな関心を感じる。


 しかし、世の中、悪いことばかりではない。今日一日くらいは何事も良い方に考えてみよう。

 俺は仮説を立てた。彼女たちは俺に一目惚れしてしまったのだ。そして、俺の寝ている間に、俺を巡った争いが起こり、争っているうちに、女たちは争うことの虚しさに気づいたのだろう。


 一時の熱情は、それが過ぎると、往々にして方向違いの恨みに変わることがある。


 この場合、そもそもの原因は俺のような気品溢れる美少年がこんなところで一晩寝ていたことが悪いのだと、寝ていた俺を勝手に恨んでいるのだ。


 実をいうと、このようなことは俺のいた世界では不思議なことではない。

 俺はイダフの貴族・マイダフ家の次男である。今は理由があってこのような平民の服装をしているが、滲み出てしまう貴族の気品までは隠せるものではないのかも知れない。


 平民には貴族に異様に執着する者が一定数存在する。

 彼ら彼女らはなんとかして、貴族と縁や繋がりを作ろう、持とう、こさえよう、とする。

 手段は正邪強弱硬軟緩急せいじゃきょうじゃくこうなんかんきゅうと様々だ。

 中には意図的に悪意を向けることで、逆に貴族の関心を惹く方法もあるのだと子供の頃教えられた。


 イダフでは、貴族の子供は10歳頃になると、()()講習会に参加しなくてはならない。

 銀の講習会とは、イダフの貴族に必要な知識を学ぶため、子供たちを一堂に集め、講義を受けさせるのだ。講師はイダフ国内から学者や知識人、剣の師範など様々な人々が集められる。そこで貴族の子供たちは貴族としての心得を学ぶのだ。


 しかし、講義だけが目的ではない。


 日頃は会う機会のない同い年の貴族の子女たちが一箇所に集まるのだ。年頃の子供たちだ。そこでは色々な物語が自然に生まれる。


 貴族の夫婦になれそめを聞いてみると、初めて出会ったのが、銀の講習会だという夫婦はかなり多い。俺の父母も初めて出会ったのは、銀の講習会だと何度も何度も聞かされた。

 二人はそこで出会ってから、様々な出来事を経て、結婚に至るのだが、ここではその話は省略する。


 親たちのそういう話を聞かされた子供がどんな行動に出るかは、容易に想像できるだろう。そういう話を耳にした貴族の子供同士の交流は、ただの交流ではなくなる。親がそうであれば、子供は結婚相手を探す目でやってくる。さらに付き添う親たちの思惑が上乗せされる。そして、親のほうが大抵熱心だった。


――俺はどうだったかって?

 講習会より、剣の練習をする方がマシだと文句をいって両親を困らせてました。


 俺は剣の稽古相手とか、誰か友達になれそうな奴を捜していたが、なんか話がかみ合わなかった。貴族の女子がやんやかんやとうるさく、変な連中にしか思えなかった。

 俺が剣に打ち込むようになったのは、この講習会の後からだ。

 その時は、貴族の女子がとてもつまらない存在に思ったからだが、その訳を知ったのはそれから3年後だった。


 そのことで、両親を問い詰めたら、自分達は自然にそうなったから、特に何も言わない方が良いと思ったのだそうだ。

 予備知識もその手の関心もない子供を、結婚相手を探している子供たちの中に放り込んだら、孤立して当たり前だ。

 知っていれば、自分の振る舞いも違ったものになっただろうし、連中の変な行動も理解できたはずだ。何より、この年になる前にマビルを卒業できたかもしれないのだ。


 そんな因縁のある講習会だったが、こういう場面においては、そこでの知識が役に立つようだ。


――ありがとう父上、あの時、わがままを言ってごめんなさい。今、あの時の知識が役立ってます。


 俺はこのようなことを7秒で考えると、何気ない素振りで女たちを見た。

 人数は5人、戦闘力は殆どない。一番右の女は少し剣ができそうだが、かじった程度だろう。

 よく見ると女たちは少々年増だった。さらに女達の足元には、これまた4、5人の幼児達がいた。女たちは俺と視線を合わさないようにしていたが、幼児は俺を直視してきた。遠慮の無い直線的な視線だ。


 俺が耳を向けると、女たちの囁き声が耳に入ってきた。


(あの子って、もしかして外国人かな?)

(…まだ、夜は寒いのに公園で野宿してるって、なんか訳ありかな)

(ねえ…警察よんだほうがよくない?子供たちもいるんだし)

(…○○さん、剣道初段だったよね、いざとなったらお願い)

(無理だって、もう何年もやってないし…)


――うん、わかった

 子供たちを公園で遊ばせるのに、俺がいるのが邪魔なんですね。わかりました、どきましょう。

 俺は貴族らしく悠然とした態度で、その場を立ち去った。


(あっ、逃げた)

(どうする、通報する?)

(下手に警察呼ぶのも、面倒じゃない?)

(変に恨み買うのもマズいよ、でも、写メ撮っておこう)

(…あんなのに関わったら、だめだって)


 去り際に耳に捉えた女たちの言葉には、俺の心を挫くのに十分な毒量が含まれていた。

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