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第100話 章末話~2つの消失

 低く屈んだ俺の頭上を何かが通り過ぎていった。


 それは存在を消失させる、というよりは、飲み込むという感じがした。


 虚無だった。

 虚無に形があるというのは矛盾しているが、大きな球の形をした虚無だった。


 都市を消し去った広域消失魔法だ。

 威力を絞っているのだろう。

 俺のどこかをそれはかすっていったが、どこがどうなったのかを見ている余裕はない。


 ドロガ一式を水平に走らせた。刃は火炎をまとっていた。無意識のうちに魔法を併用していたようだ。


 ドロガの刃は鎧ごとアカムスの両脚を薙いだ。ここに来て威力が上がっている。奴の鎧をものともしなかった。


 アカムスは切り倒された木のように地面に倒れた。


――このまま首を


「また、勝ったと思ったな」


 アカムスが不敵に笑った。右手にも魔力が集められていた。


 もう一発あるのか。


 しかも、アカムスは左手でドロガを掴んできた。

 いくら魔族でも素手でつかめば、刃を引かれると簡単に指が落ちることは知っているはずだが、それをすると一手遅れる。俺の動きを止めにかかったのだ。


 でも、右手の動きは見えている。

 (かわ)すには十分だ。


「余の勝ちだな」


 アカムスは地面に倒れたまま二発目の消失魔法を全く別の方向に撃った。


 そちらは? まさか!


 丸い虚無の球は一美に向かっていた。一美は小さな悲鳴をあげた。

 俺は虚無の球を魔法で撃ち落とす。

 しかし、魔法を使うまでのほんの一秒に満たない時間、剣を掴んだアカムスに時間を取られた。


「ハオウガさん!」

「一美!」


 お互いが名を叫んだ。

 その直後、虚無の球は、叫んだ名前ごと一美をかき消した。


 一美の姿は消えていた。


 そこには削られた地面だけが残った。

 俺は無様にもその場で立ちつくしていた。

 すぐに奴の首を叩き落としていれば。


「ふっはっはっは、やった、やったぞ、ヒトミ=マイダフを消してやったぞ」


 地面に倒されていながら、アカムスは高笑いしていた。


 殺してやる。


 俺は殺意を立ち上らせ、アカムスにとどめを刺すべく剣を構えた。


「わっはっはっは、女の(はら)が無くては、子供は産まれまい、勝った、勝ったぞ」


 俺は奴の一方的な勝利宣言を否定する。


「何を言っている?貴様は今から死ぬんだ!」


 この時、俺は奴の言葉の意味がわかっていなかった。

 ただ、一美を殺したアカムスへの殺意だけが俺の中に渦巻いていた。


「もう時間だ、余は元の時間に戻る、自動的にな」


 俺は言葉が出て来なかった。ただ唇を震わせていた。


 しかし、このままでは逃げられる。


「くたばれ!」


 俺は怒りと共にドロガをアカムスに振り下ろした。かばう腕ごと首を斬り落とす。もう少しという時に、奴の実体が揺らいだ。


「さらばだ、イダフの若き剣士よ、この哀れな後退世界で平和な余生を謳歌するがいい」


 そういうとアカムスの姿は消えた。

 ドロガは敵の消えた地面を大きく抉りとって…折れた。


 アカムスは一美を消し、自らも姿を消した。


 周囲を覆っていた灰色の光の幕が下りた。


 日本の朝の風景が戻ってきていた。

 ただ、戦いの痕跡があちこちに残っていた。


 魔皇帝アカムスと俺が戦ったのは事実だ。

 だが、夢であっても欲しかった。


「一美、一美」


 俺は愛する女性(ひと)の名を呼んだ。しかし。返事は返ってこなかった。


 どうしようもない怒りや悲しみの入り混じった感情が込み上げてきた。


 俺はただその場で叫んでいた。

 俺は、声の続く限り、叫び続けていた。

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