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第98話 イダフの花嫁

 美しく激しい夜が終わろうとしていた。

 俺は何度も一美を貪るように求めた。その全てに彼女は健気に応え、時には彼女からも俺を求めてくれた。


 夜明け前、空が白みはじめる直前、夜と朝の境の時間だ。


 気づくと一美が俺を見ていた。


「起きた?」


「うん、一美はいつ起きたの?」


 一美は両手で俺の顔を挟むと、唇を強く押し付けてから「さっき」と答えた。


「ねえ、ハオウガさん」

 昨日とは違う艶のある声だった。


「何?」


「朝風呂入ろうか?」


「いいけど、見えちゃうよ」


 昨晩は照明を全部消して入ったが、夜明けは近い、もう暗くはならない。


「別にいいよ、私はもうあなたのものだから」

 その言葉に俺の身体が震えた。


 二人で一緒に湯船につかる。

 もう、お互いの気持ちを探り合う必要はなかった。

 安心を得て、開けた気持ちで、湯船に身を沈めているうちに、俺の欲望が再起動した。


 浴槽から濡れた身体のまま二人はベッドに戻る。

 俺は彼女にキスしようとすると、彼女は俺の胸に両手をあてた。


「待って」

 止められた。

 何か俺に問題があったのか。


「これを先に付けて…、それから…」


 そう言って、枕元に置かれたアクセサリーを示した。

 それは、不惑まどわずの髪飾り、 蝙蝠(こうもり)耳飾り(イアリング)、反魔の首飾り(ネックレス)女神(イダフ)指輪(リング)、防刃の腕輪 (ブレスレット)それに 脱出の足輪エクソダスアンクレットの6つだった。

 全て俺が一美に与えたイダフの防具(アクセサリー)だ。

 俺は慣れない手つきでひとつひとつアクセサリーを一美につけていく。今、一美が身につけているのは俺が贈ったイダフのものだけだ。そう思うと、腹の底から何かが湧き上がってくると同時に、夜とは異なる魅力を一美から感じた。


 俺は最後に女神(イダフ)指輪(リング)を一美の左手の薬指にはめた。

 一美は左手を眺めて、泪を浮かべた。

 左手薬指の指輪に、どういう意味があるのかは俺も知っている。

 彼女は目を閉じて身体を弛緩させた。

 夜と同じように俺は一美を求めた。


――午後3時

 マンション奧欧に帰ると、俺と一美はお互いそれぞれの部屋で休むことにした。

 帰るまでに、かなりドタバタして疲れたからだ。

 チェックアウトが大幅に遅れ、高額な追加料金が発生するところだったし、帰りの電車も寝過ごした。

 けれども一美と一緒なら楽しかった小話(エピソード)の1つだ。


 一美と結ばれたことに、俺は心身ともに幸せを感じていた。心地よい疲労感に包まれながら俺は深い眠りに落ちた。



 …息苦しさで目が覚めた。

 聞き慣れた声で、ちゅっ、という擬音がした。

 目を開けると、すぐ目の前に一美の顔があった。


「ご飯できてるよ」


 一美の雰囲気が今までとは違っていた。

 合鍵は持たせていたが、一美は黙って入ってくることは決してなかった。

 俺の部屋に入るのは食事の準備の時だけで、俺が不在の場合は入ることは無く、やむを得ない場合には電話かメールで連絡を入れていた。


 しかし、今日は俺が寝ているときに部屋に入って夕食を作り、寝ている俺をキスで起こした。


 自信に満ちた行動だ。

 何がそんなに彼女を変えたのか?


 はい、俺です。


 その上、一美は疲れているにも関わらず、新しい料理を食卓に並べていた。昨日、ホテルで食べた料理で俺が褒めたものだ。


 改めて凄いと思った。いつの間に準備したのだろうか。そして、カロインはいつも通りに十分だった。

 俺の胃袋は完全に彼女に支配されてしまった。


 食後、一美が台所で洗い物を終えたころを見計らって、俺は台所に入った。

 我慢しきれず、後ろから一美を抱きしめる。

 俺は一美が愛しくて仕方なかった。


「もう」

 一美が嬉しそうに抗議する。


 エプロンを外すと身体を反り返らせて、一美は身体を俺に預けてきた。


 俺は一美を抱え上げ、そのまま寝室に運んだ。

 後は昨晩の繰り返しだが、昨日よりも彼女への愛と敬意を込めた。

 そして、昨日よりも激しく彼女の肉体を求めた。


 俺たち二人は二度目の幸せな朝を迎えた。



――午前6時

 俺と一美はコンビニエンスストアへ向かって歩いていた。

 もちろん手も繋いでいる、指を絡ませた恋人繋ぎだ。


 一美が空腹と渇きを訴えたので、彼女の朝ごはんを一緒に買いに行く。

 食材を使い果たし、冷蔵庫は空っぽになっていた。

 俺は一日一食でいいのだが、日本人には三食必要なようだ。


 最寄りのコンビニはマンションから徒歩10分程度の場所にある。


 昨日の夜から考えると、一美との仲は著しく進展している。

 俺の顔は相当ニヤついていたに違いない。


「あれ?ここどこ!?」

 一美が声をあげた。


 周囲が灰色の光の幕に包み込まれている。


――魔族の結界だ


 目の前10メートルの場所に、コスプレをした男が立っていた。

 漆黒の鎧を身に着けている。


「久しぶりだな、イダフの若き剣士よ、花嫁まで連れているとは好都合」


 その言葉は日本語だった。


 俺は脚が震えるのがわかった。

 紺色の長い髪、薄紫の皮膚、銀色の目に見覚えがある。


「だ、誰なの、ハオウガさん」

 刺すような気配に、一美は恐怖して俺の陰に隠れた。


 俺はその名前を口にできなかった。

 それが奴だと認めたくなかった。


「余の名は、魔帝国ザミダフ 皇帝アカムス」


 コスプレをした男は、一番聞きたくない名を名乗った。


「お前たち二人を始末するためにやってきた、時間を飛び越えてな」

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