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プロローグ

 長い眠りにつく前に、これまでの出来事を記録しておこう。


 俺は第2艦橋に上がり、記録台の前に腰掛けた。

――恒星間航行用 飛行艦ン・メノトリー

 どれだけの年月が流れても、この船は変わらない。イダフの職人や魔法技師たちが精魂込めて作り上げた船だけのことはある。


 しかし、船に乗る者たちは月日とともに変わった。


 現在、この船には二人しかいない。

 いや、数千年という年月を考えれば、まだ二人も残っているというべきだろう。


 記録台に両手を置くと装置が起動した。

 すると、見慣れない選択画面が現れた。言語選択画面だ。


《第1言語を選択してください。日本語それともイダフ語?》


 俺はため息をついた。

 記録台は、俺の母国語がイダフ語であると判断できなかったようだ。

 それだけ俺が日本人を演じていたということなのだろう。


 そして、俺はイダフ語を選んだ。イダフ人だから、イダフ語を選ぶのは当然だ。

 だが、この記録をイダフ語で行うのは非合理的でもある。

 なぜなら、記録とは読まれる為にある。

 どれだけ貴重な記録であっても、読まれない記録に意味はない。

 読んでもらうために記録するのであれば、日本語で記録するべきだ。なぜなら、イダフ語を読める人間は、俺以外にはもう一人しかいないからだ。


 それでも、俺はこの記録をイダフ語で記録する。

 誰かに読ませたいからではない。

 この世界でイダフ語による記録を残せるのは、俺しかいないからだ。俺がイダフ語を使わなくなってしまえば、俺の故国イダフ王国は永遠に無くなってしまう。

 今までの出来事を思い返すと、自動的に記録は開始された。


 “俺の名前は、ハオウガ=マイダフ

 生年月日はイダフ暦611年11月3()1()日、

 出生地はイダフ王国首都ラゲンダ…”


 記録を始めた矢先に、俺を呼ぶ声が聞こえた。

 盟友が第2艦橋に入って来たので、一旦記録を止める。


[何をしているの?]

 彼女の問いかけに対して、俺はこれまで日本であったことを記録しておくのだと答えた。日本に来てからも俺はイダフの剣士として、多くの魔族と戦っている。その記録を残しておくのは大切な事だ。


[記録はそれだけ?日本での日常生活は記録しないの?]

 そんな記録って必要だろうか?


[イダフ人が日本で暮らした事例って全く記録がないのだから、記録しておいたら?でも、女の子との戦歴(アレコレ)はほどほどにね]

 彼女は俺に釘を刺すのを忘れない。俺が返事に窮していると、

[じゃあ、記録が終わった頃に来るね]

 と言って出て行った。


 それでは記録を再開しよう。好色漢(スケベ)な場面はなるべく最小限に留めて、俺の勇ましい戦記を中心に記録しよう。となれば、どこから記録するかは決まっている。


 イダフ暦626年、俺が15歳の時、イダフ王国は、魔帝国ザミダフからの侵略を受けた。魔族の軍隊は強力であり、世界最大の国家であるはずのイダフ王国は存亡の危機にあった。


 翌年、イダフ暦627年2月3()0()日――

 イダフ王国軍は戦局の打開を図るため、ある作戦を実行した。


 ザ1号作戦――通称、ザミダフ攻略戦


 ザ1号作戦とは、

 第1段階:敵の防衛網を突破し、敵中央に奇襲をかける

 第2段階:敵の親玉を拿捕または殺害する

 第3段階:その姿を全世界に知らしめ、敵の士気を挫き、味方の士気を上げる


 立案はイダフ王国軍司令部、実行は銀の羽衣師団だ。


 敵の首級を取っても、それが戦争の勝利に繋がらないことくらい、司令部だってわかっている………はずだ。

 国というものは頭を切り落としても、後継者という別の頭が生えてくる。仮に敵国の幹部を皆殺しにできたとしても、戦局が大きく変わることはない。


 でも、魔帝国ザミダフは違うかもしれない。

 国を興した魔皇帝アカムスの後継者はまだいないはずだ。奴を倒すことができたら、この戦局を打開できるかもしれない。

 唯一の望みがそこにあった。


 イダフ暦627年2月30日 07刻00分――

 飛行艦ン・メノトリーは成層圏から亜光速飛行を使い、魔帝国ザミダフの中央宮殿に突入した。


 魔力に守られた宮殿でも、亜光速で突入してきた船は防ぎきれなかった。飛行艦ン・メノトリーはその船体を宮殿の奥深くまで到達させることに成功した。

 そこから、銀の羽衣師団の精鋭部隊が次々と侵入する。


――作戦の第1段階は成功した


 俺の所属するリダリ隊は、中央宮殿の最上階にある玉座を目指す。

 リダリ隊の任務は敵の親玉・魔皇帝アカムスの拿捕または殺害だ。


 要するには、奴の首を取ることだ。取った首に胴体がついていようとなかろうと、どちらでもいいのだ。


 途中立ちふさがる敵には別の隊が対応する。


 ここで、リダリ隊を紹介しよう。

 リダリ隊は4名、いわゆる小隊だ。


 前衛は、剣のハオウガ(16)、俺だ。

 中衛は、槍のリダリ隊長(37)

 後衛は、銃のママナーナ(18)と魔法士のハコネ(14)


 中衛のリダリ隊長は、少し白髪の目立つ37歳だ。

 彼は平民で、バルーラという少し変わった存在だが、優れた指揮能力を持つことから隊長を務めている。


 平民出の隊長を嫌がる貴族もいるが、俺のように嫌がらない貴族もいる。


 平民に命令されることに何の抵抗も感じない、というと嘘になる。隊長に叱責されれば、平民の分際でと思う事もある。


 しかし、戦いは違う。

 無能な隊長の下で無駄死にするよりは、有能な隊長の下で生き残るほうがいい。


 リダリ隊長は有能な隊長だ。それを示唆する二つ名がある。


――余命読みのリダリ


 本人は認めていないが、彼は余命間近な人間を見分けることができると噂されている。


 隊を編成するときに、彼はそういう者を自分の隊から外し、余命が十分な者だけを選抜しているという。

 死なない隊員で編成された隊が任務に成功する率は極めて高い。また、選ばれた隊員も死なないとわかっていれば、思い切った行動が取れるものだ。


 師団の上層部はそれを知っているのだろう。最も難しい任務は必ずリダリ隊長に振っていた。


 後衛の女子、一人目は銃のママナーナ、18歳、ノルラであり、有力貴族ウミサミダフのお嬢様だ。コマナという大きな重力光線銃を担いで選抜射手を務めている。先頭で切り込む俺の援護射撃を行う。


 彼女の射撃は速くて正確だ。しかし師団で一番というわけではない。一対一の決闘とか、狙撃手という役割においては、彼女は三番手、四番手以下になる。


 ママナーナの真価は長時間の連射にある。

 彼女が日の出から日没まで休み無く5万発の射撃を行ったことが軍の記録に残っており、そのうち誤射がたったの3発という脅威の命中率は軍の公式記録になっている。

 それは、一対多の戦闘に極めて強いことを意味する。後衛に彼女がいると心強い。


 そして、重要な情報をもう一つ。


  彼女は

  なったばかりの

  俺の恋人だ。


 後衛の女子、二人目は魔法士のハコネ、14歳、同じく有力貴族ヤマイダフ家の出身だ。子供だが優秀な魔法士だそうだ。いろいろな意味で重要人物ではないので、紹介は以上とする。


 別の隊が切り開いた活路を俺たちはわき目も振らず走る。

 最上階につくと、いかにもという意匠が施された大きな扉が目の前にあった。隊長の合図で、ママナーナは銃撃すると、扉はいともたやすく吹っ飛んだ。


 俺たちが玉座の間に突入すると、標的が玉座に座っていた。


 紺色の長い髪

 薄紫の皮膚

 銀色の目

 そして刺すような気配を放っていた。


 漆黒の鎧、そして、男の放つ雰囲気が俺たちに得体の知れない不安感を与える。


 しかし、当の本人は、武器を持った敵が突入してきたというのに、何事もなかったかのように手にしていた飲み物を飲もうとしていた。

 俺たちを庭に迷い込んだ小鳥程度にしか見ていない。そんな表情で俺たちを眺めていた。


――間違いない、魔皇帝アカムスだ


 俺たちがそう認識した途端、兵士達が飛び出してきた。全員が同じ濃い灰色の仮面と甲冑に身を包んでいる。

 彼らも精鋭だ、11人いる。


 アカムスは、後は任せたという様子で飲み物を飲み干すと、杯を傍らに置いた。


 護衛たちよりも少し速く、

 敵の雰囲気に呑まれるよりも少し早く、

 俺は動いた。


「はああああっ!」


 跳躍して一気に間合いを詰めると、渾身の気合とともに愛剣ドロガを奴の左肩に振り下ろした。


――手応え…あり


 魔皇帝アカムスの左腕が床に転がった。


 護衛たちが主人の転がった腕に気を取られる。

 動こうとするが、護衛たちの動きは鈍い。

 後方からハコネが魔法を使って護衛たちの動きを鈍らせていた。


 リダリ隊長は槍を振るい護衛たちに襲いかかる。

 ママナーナはコマナを乱射して護衛たちを黒焦げに変えていく。俺には乱射に見えるのだが、狙いは極めて正確であり、味方に当たることはない。


 俺たちリダリ隊が玉座の間に踏み込んで、わずか10秒。


 急所を一突きにされたり、黒焦げになったりした護衛たちの骸が11体と魔皇帝アカムスの左腕が、玉座の間のよく磨かれた床に転がっていた。


 戦いの趨勢は決した。

 この時、俺はそう思っていた。

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