哀愁の桜
私も稚華ちゃんみたいに積極的になれたら見える世界も違ったんだろうな…
さっきも私の言ったことに…ん?
「そういえばさっき言ってた"わかる気がする"ってどういう事なんですか?」
単純な疑問だった。私が稚華さんの立場だったら、酔った勢いで口にした"ただの冗談"に何故そこまで真剣に言い返しているんだろう?と思ったに違いない。
稚華さんは口に手を当て、ふっと笑って言った。
『タメなんだから敬語で喋んないでよっ。びっくりしたじゃない。それでどういう意味って?マジ?そんなの見てればわかるって♪』
見てればわかるって…どゆこと?!
私の気持ちはお見通しと言わんばかりに、稚華さんはまたふっと笑って話し始める。
『もしかしてそーゆーの疎い?仕方ないなあ♪キミはあの子の事好きでしょ?』
突拍子もない発言に息が止まりそうになってしまった。
私が莉結の事が好き?!
「そ…そんなぁ!だって莉結は幼馴染だしっ…第一私、女だよ??」
とか言っておきながら自分は彩ちゃんと曖昧な関係を築いているんだった…
『私は"心"でする恋愛にそんな"外見"なんてカンケー無いと思うけどなぁー?』
確かに私もその意見は正しいと思っている。
人として大切な"心"に性別などないのだから。
「だけど…莉結は…」
『なに?もしかして今まで自分でも気づいてなかったの?!ふふ♪ピュアでいいなぁ♪見てるこっちまでピュアになっちゃいそう♪キミはこの子が好きなんだよ♪だからずっと待っていた言葉を酔った勢いで言われて怒れちゃったんじゃない??』
何も言い返す言葉が出てこなかった。
自分でも気付かなかった事を"この子"は一瞬にして見抜いてしまった。
「もしかして稚華さんも似たような事が?」
そう聞くと、稚華さんは長い髪をふわっと後ろへと払い、青く澄み渡る空を見上げた。
『…かもね。』
稚華さんはそれしか言わなかった。
たった3文字の言葉に込められた感情は、私の想像を遥かに凌駕するモノなんだと分かる。
そして稚華さんは自分の手首にはめられた紐のようなものを見つめて言った。
『大切にしなよ。』
私は黙って頷いた。
桜の花びらがこんなにも哀しげに見えたのは初めてだったかもしれない。




