タイミング
視線を前に戻すと、こちらをじっと見つめる莉結と目が合う。
その視線はとても真剣で、私は視線を逸らすことができなくなった。
数秒の沈黙の後、莉結の口から発せられた言葉に私は耳を疑った。
それからの事は何故か思い出せない。
いや、"今は"感情が濁流のように流れ込んできていて思い出すのにはもう少し整理が必要なのだ。
…気がつくと私は泣いていた。
理由は分からない。悲しいわけでもない。
ただ何かが…
莉結は横になっている。
目からは透明な雫がシートの上の桜の花びらへと滴っていた。
麗美さんたちは…
寝ちゃってるね…あ、チカさんだっけ…平気そうなのは1人だけか…
と、チカさんと目が合った。
『今のは私もわかる気がするよ』
そう言ってチカさんは微笑んだ。
あぁ…そうだ。だんだんと思い出してきた。
莉結は…私にこう言ったんだ…
"大好きだよ"って。
そして私は…"なんでだよぉ!!"とか言っちゃったんだっけ。
なんだろう…その言葉は"今"聞きたくなかったんだ。
酔った勢い?冗談?そんな状態で言って欲しくなかった。
ってなんで?
私は別に…彩ちゃんがいるし。莉結は幼馴染だし…
そもそも"大好き"ってどういう意味だったんだろう…
私が思っているような意味じゃないのかも。
『えっと、衣瑠ちゃん?良かったら番号交換して♪絶対後悔させないからさ♪』
突然声を掛けられ、考えが伝わってしまった気がして、急に恥ずかしくなった。
「えっとごめん!なんだって??」
『ば・ん・ご・う♪交換しよっ♪』
このタイミングかよ…とは思ったが、流石に断る事ができずに番号を交換した。
『私はスギヤマ チカ♪"椙山稚華"だよ♪よろしくっ♪如月さん♪ふふっ♪』
「うん♪よろし…えっ?」
なんで苗字で?まぁ誰かに聞いたのかな。