7.明日から。
『瑠衣おはよー。』
"あれから"2時間ほど経っただろうか。
いつのまにかまた眠りについていて、
気がついたら莉結が紅茶を淹れて持ってきていた。
(幼馴染なので昔から勝手にやるのが当たり前なのだ。)
「ん?あぁ、別になんも。」
とは言ったものの、あの事が脳裏に焼き付いている。
衣瑠…たしかにそう言っていた。
いや。あれは夢だったんだ。
男に興味なんてない莉結がそんなことする訳ない。
「明日から頼むな。まじでお前しか頼りになんないからさ。」
『モチロンっ♪あれ?瑠衣…』
「なに?」
『なんでもない♪』
『今日泊まってっちゃおうかなぁ?』
「どーせ母さんも帰ってこないし。別に…構わないけど….」
『じゃぁ着替え持ってくるね♪』
…
俺の母は家にほとんどいない。どうせ職場に居るか"あの男"の所に居るかなんだ。
よくグレなかったなと思うよ。
でも…母が帰らない原因は…
たぶん…俺の"病気"だ。
もういい。今は考えたくない。
『ただ今もっどりましたぁー♪』
「早っっっ!!」
『20分は経ってるけど…瑠衣ずっとそのまんまなの?笑』
「あ?あぁ。ちょっと考え事。」
『……。お風呂!!借りるね♪あ、一緒にはいる?』
「は?!はぁ?!そそそんなん無理だっつーの!!」
『いいじゃーん。女同士仲良くさぁ?』
「まだ心は男なの!!」
『可愛いなぁー♪衣瑠ちゃん♪笑笑』
「明日から"衣瑠"かぁ…ヤダなぁ。うまく女らしくできるかなぁ…」
『瑠衣は大丈夫。絶対大丈夫。』
「え?莉結…」
『少しずつ女の子らしくなってきてるしね♪笑笑』
「え?!嘘!!?どこらへんが!?」
『喋り方とかぁー、考え方とかぁーそれとかぁー………』
お互い風呂に入ってから
一通り明日の準備を終え、眠りにつく。
不安で胸が押しつぶされそうだ。
『ねぇ?隣…行ってもいい?』
は?!まじか!!
ってそんな焦ることでもないか…
昔は風呂も一緒に入った仲だし。
「俺、女だし。来たけりゃ来いよ。」
本当は誰かに側にいて欲しい。
この不安を包み込んで、安心させて欲しい。
そう思っていた。
『お邪魔します♪』
「どうぞ。」
俺と莉結は背中合わせに横になった。
触れるか触れないかの距離感が妙に恥ずかしい。
『ねぇ。瑠衣はやっぱり男に戻りたい?』
「当たり前だろ。突然女になるなんて漫画の世界じゃねぇか。」
『だよね。だけど…私はそのままでもいいよ。』
「えっ?!なんで?気持ち悪くないの?」
『あっ…えと…そうそう!もともと瑠衣は女の子っぽかったし、今の方が"昔みたいに"仲良くできるかなっ…て。』
「ありがとう…なんか…安心した。」
『え?』
「少しだけ。別にいいだろ。俺、女だし。」
『うん。おやすみ。』
「おやすみ。」
繋いだ手の温もりが
こんなに温かいものだなんて。
俺は今まで寒いところに居たんだな…
明日から….頑張ろう。