道
「えっ?ちょっと待って…いきなりそんな事言われても…ってかこんなトコじゃさぁ!!」
そうだよ!だって周りは親子連ればっかりで子供がたくさん居るんだよ?!
そんなトコでキスしてなんて…しかも私たちはちょっと特別なんだしさ!
『私の事…嫌いなの?』
「いやいや!そんな事ないよ!!彩ちゃんの事は好きだよ!!けどそんな今じゃなくても…」
『…分かったわ。じゃぁ私を抱きしめてよ?それならいいでしょ??ほら早くー♪』
急になんだよぉ…ただ甘えたいだけ?
「まぁそれだけなら…」
ギュッと抱きしめた瞬間とてもいい香りに包まれた。
柔らかい…彩ちゃんは風に膨らんだシルクのようだった。
彩ちゃんの靡く髪の向こう…
視線の先の人物と目が合った。
え?なんで??
『あっ…』
莉結だった。なんでこんな所に?
その横には、ほのかさんの姿。
「莉結?こんなとこで…どうしたの??」
『あ…えと…ほのかさんが誘ってくれたの♪それで、こんないい天気だし動物園行きたいってなってね♪
衣瑠の大事な用事って…天堂さんだったんだね♪…それじゃぁ私はまだ見たいの沢山あるから行くねっ…』
莉結はそう言うと足早に去って行ってしまった。
ほのかさんはしばらく立ち竦んでいたが、すぐに小走りに莉結の後を追っていった。
急な展開に頭が真っ白になった。
"別に悪いことをしていた訳ではない"そう自分に言い聞かせるが、莉結の誘いを断って別のヒトといるという罪悪感と、彩ちゃんとの親密な行動を目撃されたというショックが急に現れて頭の中をグルグルと回り続けていた。
そんな時、私の耳元にふっと息があたった。
彩ちゃん?今…笑った?
『さっ♪私たちはもうちょっとゆっくりしてから出発しよーねっ♪』
気のせい…かな…。
「え…あ、うん。そうだね♪」
食べかけのサンドウィッチを片手に、右へ左へ…行ったり来たりを繰り返すゾウの姿を眺めていた。
あのゾウは何を迷っているんだろう…
どっちに行っても何も変わらないのに。
私も…
いや、なんでもない。
今は彩ちゃんと居るんだ。
彩ちゃんに悪いや。
気分を切り替えて楽しまなきゃ。
『ご馳走さまでしたぁ♪』
「お粗末さまでした♪」
『何それ?ふふっ♪』
「えっ?よく言わない?」
『言わないよぉー♪あははは♪』
私はこれでいいんだ。
彩ちゃんは私を必要としてくれている。
私も彩ちゃんの気持ちは痛いほど分かる。
お互い必要なら今は一緒に居るべきだ。
莉結だってきっとそう思ってる。
今はこれが"私の道"なんだ。