ふたりの体温計
『やっと本当の2人きりになれたね♪』
「え…あ、まぁ。ははは♪」
うぁ…気まずいどころの騒ぎじゃないよ。
なんでこんな事になったんだろぉ…泣
てか本当に私生きて帰れるよね?
大丈夫!みんな私がここにいる事は知ってるし、
私が帰らなかったら莉結がすぐに警察に電話してくれる!ハズ!
私がこの部屋に居た証拠もあるし。
あ!今のうちに髪の毛たくさん落としとけば、もし証拠隠滅しても1本くらいは…
っっってぃ!!
何考えてんの私は!!
大丈夫。きっと!!
『どうしたの?』
「別に…なんでもないけど…近くない?」
『いいでしょー??付き合ってるんだから♪』
「別に私は付き合って……」ハッ!「なんでもない!!」
「というか熱は大丈夫なの?」
『え?あぁ…ありがとう♪もう大丈夫っ♪』
「いやっ、だけどさぁ、39.5℃って危なくない?!ほらっもっかい測って。」
『んー…それじゃぁ衣瑠ちゃんが測ってよ?』
「え?私が?多分平熱だろうけど…」
『そうじゃなくて私を…ね?』
え?!な…なにを急に言い出すかと思えば…
そんな事できる訳…
『はいっ…』
天堂さんはシャツの襟元を脇まで下げ、恥じらった様子で体温計を待っていた…
やるしか…ないの?!(ゴクッ…)
猛烈に顔が熱くなるのを感じながら体温計を手に取る。
ボタンを押して荒くなる呼吸を整えつつゆっくりと近づいていく。
"ピピピッ"
え?
まだ挟んでもないのに…
試しにもう1度ボタンを押す。
1…2…3…
"ピピピッ"
液晶には"39.5°c"の文字…
「天堂…さん?これは?」
『あれぇ?壊れちゃったのかなぁ??あはは♪』
"あはは"じゃないよぉ…
全部芝居だったの…?!
いや…だけどこれだけで疑うのはな…
けど天堂さんは大丈夫って言ってたし、私がここにいるは理由もない訳だ。
私はそそくさと帰りの身支度を整えた。
「天堂さん大丈夫そうなら私帰るね!」
『え…うん。』
その言葉に、どこか懐かしい寂しさを感じた。
後ろ髪を引かれる思いに駆られつつもドアを開ける。
部屋を出てドアが閉まる瞬間。
部屋の中の天堂さんと目が合った…
"あ…わたしだ"
そこには"昔の私"がいた




