恋の策略
部屋に戻ると…案の定、莉結が頬を仄かに染めながら目を意識したように視線を逸らしつつ座っていた。
が、とりあえず弁解だけでもと思い、莉結に向かって話しかける。
「あの…さっきのは…」と同時に天堂さんが冷静に切り出した。
『突然ですが私たちお付き合いする事になりました。』
え、えぇ?!?!
なんで当事者の筈の私が1番驚かなきゃいけないんだよ!!
それを聞いた莉結は目をまん丸くし、困惑した笑顔で返答した。
『おつ、お付き合い?!は、はぁ。それは良かったね♪』
それだけ?
ちょちょっ!もっとなんかないの?!
そして、動揺してフリーズしていた麗美さんが、何処ぞの世界から"現実世界"へと戻ってきた。
『えぇー!!ちょっと待ってよ!!それならボクとも付き合ってよぉー!!泣』
『残念だけれどお付き合いの相手はお互い1人だけと決まっていますので…』
『女の子同士なら決まりはないでしょ?!』
なに訳の分かんない…ってそうだよ!?!
付き合うって言ったって女の子同士なんじゃん!!
いざ自分がその立場になると、やはり周りの目の事を気にしてしまう。
かなりまずい展開…
ってかちょっと待った…その前に私は付き合うとか言った?
「ちょっと待って!私は付き合うとかそういうのは…『そういうのは…何…?』
キッパリ断っておこうと思い、言いかけた所で天堂さんが私の手を握って言った。
ウルウルと目を滲ませてとっっっても悲しそうな顔で。
うぅ…だがそんなの私には効かない!!私は女の子なんだ!
キッパリと断ってめんどくさい事になる前に阻止するのだ!!
「付き合うとかそういうのは…
そういうのは…
えと…そういうのは
性別なんて関係ないと思うなぁー♪はははは…」
負けた…うぅぅ…
言えなかった…
私の意気地なし!バカ!ヘンタイ!元オトコ!!
最後のは真面目にヘコむからやっぱやめて…
じゃないよぉ…
こうやって私は泥沼に引きずり込まれていくんだ。
とほほ…笑
莉結…には後できちんと説明しよう…うん。そうしよう。
『だから私の衣瑠ちゃんなのでこれからはそのつもりでお願いします♪』
お好きにどうぞ…泣
『絶対認めないんだからぁーー!!!』
麗美さんはそう言って急に部屋を飛び出して行ってしまった…
飛び出す理由はよく分かんないけど…
なんか…ごめん。
でもそろそろ私もこの部屋から…いや天堂さんから離れたい…
言い出しづらいけど次こそ頑張るのだ私!
「あの…天堂さんにプリントも渡せたし、具合も良くなってきたみたいだしそろそろ帰る?ね、莉結っっ!」
よく頑張った私!!
『そ…そうだね!!私も早く帰って来てっておばあちゃんに言われてるんだったぁー!!あははは♪』
よし!さすが莉結!うまいぞっ♪
「という訳で私たちはこれで…」
"バタン"
エッ?
急に天堂さんが床へ倒れてしまった。
「『天堂さんっ!』」
『ごめんなさい。ちょっとフラついてしまって…
少し体温だけ計らないと…』
そう言って体温計を取り出し体温を測り始めた。
ん?
"ピピピッ"
電子音が鳴る。
早っっ!!3秒経ってない!!さすがはお嬢様の家の体温計は…
じゃねーよ!!
なんで今、体温測る流れになったの?!
物凄く不自然だったような…
"39.5°c"
えぇ?!?!
『少し横にならせてもらいますね♪因みに今日は家の者が不在で…私このまま悪化したら死んでしまうかも…泣』
いや死なねーだろ…と思いつつ莉結と顔を見合わせる。
…仕方ないか。
莉結も同意見のようで、少し考えた後、微笑んで頷いた。
『んんー。しょうがないね♪私たちで看病しよっか♪』
「まぁ…そうだね。心配だしね♪」
『それでは莉結さんは"おばあさんに悪い"ので帰って頂いて結構ですよ♪』
マジカッ!!
本心で気を遣っているのか…それとも…
いや、考えすぎだ…体温は確かに高かったし、何か仕込んだ様子もない。
『いやっ、だって2人きりは…』
流石に莉結も今の流れでこの状況を疑ったのか珍しく食いついてきた。
『不安ですか?(笑)安心して♪
私は本当に衣瑠さんが好きなの♪2度とあんな事しないわ。それとも…単に2人にしたくないだけとか?ふふ♪』
『べ…別にそんな事ないっ!!じゃぁ私帰るから!!衣瑠っ!!変なことしないでよ!!じゃっ!!』
え…
「ちょ、莉結っ…」
莉結さん…?
こうしてまんまと2人きりになってしまった。
天堂彩…実に恐ろしい。




