母から"娘"へ
林間学校を終え、帰宅すると1枚の紙が机の上に置かれていた。
"瑠衣へ
おかえりなさい。林間学校はどうでしたか?
先生から事件に巻き込まれたと聞いた時はびっくりしましたが、無事でなによりです。
母さんはあの日瑠衣と話をして本当に酷いことをしてしまったと後悔しています。
ですが、これからはちゃんと向き合って本当の瑠衣の成長を見ていきたいと思っています。
今更遅いかもしれませんが母さんの勝手なワガママを許してね。
今日は少し遅くなります。
母さんより"
ホント勝手な事…今更許せないよ。
その感情と裏腹に溢れ出てきたモノは
怒りではなく、大粒の涙だった。
そして同時に安堵感に包まれる。
私は母さんとどういう関係を望んでいるんだろう…
色々と考えているうちに
どっと疲れが押し寄せてきて、一先ずシャワーを浴びた。
取り敢えず着替えを済ましベッドで横になって考えていたが、ぐるぐると様々な思いが頭の中を乱すだけでまとまらず、いつのまにか眠りについてしまった。
…温かい感触に包まれている。
いい匂い…
ずっとこの温かいモノに包まれていたい…
そんな気持ちで目が覚めた。
横を見ると…
母さん…
私を抱きしめたまま眠っている母さんの姿が目にはいる。
私は腕を母さんに回して少しだけギュッとしてみる。
想像していたよりも痩せていて驚く。
毎日昼夜問わず働いてくれていたんだもんね…
自然と腕に力が入った。
何年ぶりだろう…
その温かい感触は私の不安や心配ごとなど全てを一瞬にしてどこか遠くへ飛ばしていった。
「母さん…ありがとう」
小さな声で精一杯の思いを口にすると心の中で温かいものが溢れて身体中に満ちていく。
それが涙へと変わって目から流れるのを感じながら、再び心地よい夢の中へと誘われていった。
顔が温かい…
目を開けると眩しい陽の光が差し込んでいる。
時計を見ると、もうすぐ正午になろうとしていた。
勿論、母さんの姿はない。
しばらく天井を見つめてから部屋の小さなテーブルに目をやる。
…なんだろう?
そこには小さな紙袋が置かれている。
まとまりのない前髪を手櫛で直しつつ紙袋を手に取る。
中には小さな花の付いた髪留めが入っていた。
唇をかみ、髪留めを握りしめた。
「ありがとう。母さん…私っ、頑張るねっ…」
この時から本当の"私の人生"が幕を開けた気がした。




