あっけない結末
「ど、どうしたの?大丈夫?」
『ねぇ、少しだけ…こうさせて…』
小刻みに震えるその身体を預ける姿に
いつものような"ハイテンション麗美"は居ない。
ん?ちょ待て…
この状況まずくない?!
莉結は?!アレっ?!
私の胸に埋もれる少女は、私の腕を持ち上げて微笑むと腕にキスをして…
えぇーーっっ!!!!?
何やってんだよ!!
えぇ?!そんな!たとえ腕だとしてもさぁっ!!
そして少女は混乱する私の耳元で囁いた。
『ありがとう"瑠衣くん"もう大丈夫。』
腕だとしてもぉーっ!………え?いま…
「いま…なんて…」
『え?ありがとうって言っただけ♪やっと落ち着いた。だけど…まだ怖いから手は繋いでね。』
私には確かに"瑠衣くん"って…
『ねぇ衣瑠ー!!凄いキノコ見つけたよー♪ほらっ!!』
はぁ…気のせいかっ。莉結にはホント調子狂わされるよ…笑
(10分後)
どうしてこんなことに…
私は、麗美さんと莉結と手を繋ぎ森の中を彷徨っていた。
迷っているせいなのか知らないが、莉結は少し機嫌が悪い。なんでだよ。
というか…これって遭難?
その瞬間とてつもない不安に襲われる。
私がしっかりしなきゃ!!
これでも元男なんだから!!
…ってなんか性転換したみたいだけど…違うからねッ!!
いつまで経っても森が抜けられない…
次第に、"お気楽莉結"にも不安の色が見え始めていた。
『ねぇ、大丈夫かな…出られるよね?』
「大丈夫!!絶対に抜けられるから!」
その時だった。背後に気配を感じた。
そして私は振り返って後悔した。
く…くくくくくくくくくくくく熊ぁぁぁ!!!!
正直、もし熊に出会ったら、逃げるか闘うかすればなんとかなるなんて今まで考えてたけど…
無
理
。
ムリムリムリムリムリムリ!!!!
ぜっっっっったいムリ!!!!
こんなモンスターに人間がどうこうできるもんじゃないって!!
あー…熊除けの鈴持ってればよかったぁー
ってかニュースとかで熊と戦ったって人凄いよなぁ♪
こんなおっきなクマさんと闘っちゃうんだもん♪
目の前でそんな事されたら惚・れ・ちゃ・う・か・も…ふふ♪
っジャネーヨーーっ!!!!!泣
私のバカバカバカバカバカバカカバッ!!
ウン…コロサレル…
目が合った途端、本能が"逃げろ"と命令した。
でもなんで熊が…
あ…
視界に大量のキノコが詰まったバッグが目に入る…
"コレ"のせいじゃねぇか!!!!
「莉結!!バッグ捨てて!バッグ!!」
『え?いきなりなに?(笑)せっかく採ったのにどうしたの??』
「いいから!!」
バッグを取って熊の足元へ投げる。
コレで熊が餌に釣られてるあいだに…
ってナンデ!?
熊はきのこに見向きもせずこちらを睨みつけている。
『なななななんで大事なキノコをー!!?』
「莉結…麗美さん…走って逃げて…」
『えっ?』
「走って逃げてッ!!!!」
莉結たちが後ろを振り返る。
『くくくくくくくくくくくく…くまぁ?!?!!』
2人も"く"が、多いなぁ♪はははは♪必然的にそうなるよねぇー♪
…じゃねぇーーーよっ!!!!!!!!!
私は必至に2人を前に押し出した。
前方へ突き飛ばされる2人。
『瑠衣も逃げなきゃぁ!!!』
涙目で莉結が叫ぶ。
「バカ!!野生の熊から逃げられる訳ない!!2人だけでも逃げて!!」
あぁ…私は何をやっているんだろう…
絶対死んじゃうじゃん。
痛そうだな…
嫌だな…死にたくない…
死にたくないよ…
莉結が戻ろうとするのを麗美さんが襟を掴み止めている。
『そんなことできる訳…『莉結ちんッ!!!!行くよ!!!』
暴れる莉結を引きずるように
2人が走り去っていく。
行かないで…置いてかないで…
理不尽な気持ちが心の中で叫んでいた…
最後に…なにか言わなくちゃ…
最後…
大粒の涙が次々と溢れ出てきて視界が滲む。
「莉結ッッッッッッッ!!!!今まで…ありがとう…。」
最後の言葉くらいもっとマシなの考えとけば良かった…
その頃には既に熊が目と鼻の先に来ていた。
動けない。
全身の筋肉が硬直してしまって文字通り動けないのだ。
パァンッ!!…乾いた音と共に顔が血飛沫に染まる。
あ…
私の身体を軽々と引き裂く熊の爪が頭に浮かぶ。
案外痛くないんだ…あっけなかったな。
そして私は地面へと倒れこんだ。