(少女の闇)
『おはようございます。お嬢さん。時間です。』
今日も無機質な声で目が覚める。
目を開けると"いつもの顔"がこちらを見ていた。
『本日からお嬢さんも高校生です。もう大人として区別されてもよい身分です。今までよりも節度ある行動をお願い致します。』
普通は入学おめでとうとかじゃないの?
ま、どうせ父さんに"こう伝えておけ"とでも言われてそれをそのまま言ってる機械人間だからしょうがないか。
お嬢さんって呼び方本当に嫌い。
私は天堂彩。
お嬢さんなんてどこかの物語でしか呼びヤツなんていねーよ。
『いつも有難うございます。お言葉の通り節度ある行動をとりますね♪』
死ねよクソババア。こんな家来みたいな仕事して楽しいのかよ。
こうして"私の高校生活"が始まった。
父親は地元では有名なゼネコン"天堂建設"の代表取締役社長の肩書きを背負い、母親も代表取締役専務として
昼夜問わず働いている。
家庭の事など眼中になく、ただ金儲けの為に人生を捧げる仕事人間。
そして私には姉がいる。
非の打ち所のない姉が。
よくある話。できる姉と落ちこぼれの妹。
笑っちゃうくらいよくできた話。
学校では"金持ちのお嬢様気取り"
家に帰れば"出来損ないのお嬢様"
今日から高校生。
学校でのイメージだけでも変えたい…
そんな浅はかな願いも"同じ中学の馬鹿"によって壊される。
入学早々"お嬢様のクセに頭が悪い"天堂さんの出来上がりだ。
また繰り返しの日々が始まった。
私の父親は小さい頃から頭ごなしに怒鳴りつけ、時には"教育"と言ってその拳を振り上げた。
そんな私は、親には何も言い返す事ができず、その反動か、誰に対しても自分の気持ちを伝えることができなかった。
"もう1人の自分"以外には。
私には"アヤ"がいる。
何でも聞いてくれて、私の気持ちを唯一理解し合える仲。
アヤは私が言えないことも全部代弁してくれる。
代弁と言っても私の頭の世界でだけど。
それだけでいい。私の救いなんだ。
そんな私にもある日、転機が訪れる。
ある1人の男の子が私の事を好きと言ってきた。
あり得ない…こんな私の事を好きになるなんて。
そして私は…アヤと相談して断った。
だけど、その男の子は何度も告白してきた。
それがいま私の横でお弁当を食べてる健太くん♪
健太くんはサッカーが凄い上手い。
サッカーのことはよくわかんないけど県内で1番だって♪
私の王子様にぴったり♪
私はどんどんどんどん健太くんに惹かれていった。
もう健太くんが居ないなんて考えられない。
珍しくアヤも健太くんの事を好きになってくれたみたいだし。
毎日電話して、毎日一緒にお弁当食べて…
クラスが違うのが本当に辛い。
だけど昼休みには健太くんがきてくれるからいいの。
必要にされているってこんなにも幸せなんだ…
私の心は幸せに満たされていた。
付き合い始めて半年が経つ頃、段々と健太くんと会えなくなってきた。
サッカーが忙しいって…
最近はサッカーばかりでなにも会えていない。
電話もLI◯Eも前より返信が少ない。
けどもうすぐ林間学校♪
2人で行動してまた幸せな思い出をいっぱい作ろっっ♪
林間学校前日…
突然健太くんからL◯NEが入った。
画面のバナーには"ごめん…"の文字。
急いで内容を確認する。
"ごめん…
俺と別れて。
本当に身勝手なこと言ってごめん。自分でも最低だと思うけど、どうしてもこの気持ち抑えれなくて。
転校してきた衣瑠って子の事一目見て好きになった。
彩の事は嫌いになったわけじゃないけど…
俺ハンパな気持ちで付き合ってられないからさ。
林間学校んとき告白するつもりだから彩には伝えておかなきゃと思って。"
…運命って何?
神様なんて信じない。
存在していたとしても私がこの手で殺してあげる。
私の幸せを奪うなんて許さない。
転校してきたならまた転校すればいい。
"部外者"は私の世界に入らせない。
絶対に許さないから。