なめんなよ!!
私は、感覚が戻りつつある身体に精一杯の力を込めて気合を入れる。
「ヨシっ!!」
私に回された男の腕を握り、その懐へと身体を抜く
相手の死角へ入り、男の身体が嫌がる向きへと腕を運んであげる。
鈍い悲鳴と共に大きな男の身体がくるりと回転しながら地面へ倒れた。
初めて見ず知らずの人間に技をかけた。
莉結には敵わないが、これでも小さな時から莉結と合気道をやってたんだ。一般人には負けない。
「どうよっ??まだまだなまってないでしょっ?」
自慢気に言った一言が、私の横を突破する莉結の風音にかき消される。
直後、背後から再び鈍い悲鳴が聞こえた。
『詰めがあまいっ!!』
さすが莉結さん…
こうして事件は一件落着。
付近を捜索中だった警官がすぐに駆けつけてくれてこの騒動は無事終わりを告げた。
ほのかさんと千優さんの意識も回復し、天堂さん含む"被害者"は最寄りの診療所で診察を受け、問題も無かった為、希望者は林間学校へと戻って良いことになった。
もちろん私と莉結は林間学校を楽しむつもり。
"こんなこと"があっても、この林間学校を悪い思い出で終わらせることはできないからね。
天堂さん達と千優さんたちは帰宅することを選択したみたいだ。
当たり前だけど私たちみたいに前向きに進める人ばかりじゃないんだ。
ちなみにこの日に起きた"もう1つの犯罪"については自ら触れることはなかった。
だが強盗犯の供述や現場に残された薬品によって事件が明るみに出るのも時間の問題だろう。
"妬み"が1人の女子生徒を殺人者にし兼ねた今回の件。
私には天堂さんが、そこまで追い詰められる理由は分からないけど…
天堂さんにとっては"健太"への執着心が歪み、増大し、今回のようになってしまったんだろう。
理不尽すぎる!!
ホントに女ってのは分からない。
なんてこと言うと普通の女の人に怒られちゃいそうだから前言撤回っ。
診療所からの帰りの車で、運転をしてくれた施設のおじさんに何度も謝られた。
"せっかくの林間学校に本当に申し訳ない。私たちの管理不足だ"って。
私的には先生たちの管理不足なんじゃないかな?なんて思ったけど山田先生が同乗してたからやめた。
帰ってから質問責めに合わなければいいけど…
莉結はと言うと診療所を出てすぐに寝てしまった。
こいつはこいつなりに平気な顔して不安だったのかな。
木漏れ日の差す森を走る車内。
渡されていたブランケットで隠すようにそっと莉結の温かい手を握った。




