美しき道化師
見晴らしの良い崖沿いの道を歩いていた私たちだが、
しばらく歩くと周りの風景は一気に変わった。
新緑の葉が靡く木々たち。
直向きに、そして力強く生い茂った森林に囲まれたその道には役目を終えた落ち葉たちが積もり、
歩くたびに軽やかなスナック菓子を食べるような音が…あれ?少し違うな…なんでだろ。
そう、歩くたびにシャンシャンと乾いた音色を刻んでいる。
その音に重なり、心地よくバリバリと煎餅を頬張るハーモニー…
ってお前か!!
後ろを振り返ると莉結が"お菓子バッグ"からスナック菓子や煎餅を取り出して頬張っていた。
気を取り直し、少し進むと崖のすぐ上に、今は使われていないであろう山小屋がひっそりと佇んでいた。
山小屋の前にはロープが張られ、"倒壊の恐れあり!キケン近づくな!"と書かれた看板がぶら下がっている。
『あ!!アレ!5組の天堂さんたちじゃない?』
ほのかさんの声で山小屋の方を注視する。
山小屋に遮られていたが、奥に3人の女の子が座っているのが見えた。
『天堂さーん♪ほのかでーす♪』
ほのかさんが声をかけると天堂さんと思しき1人が立ち上がり、そのとなりの2人も立ち上がる。
そのまま3人の元へ近づいていく。
綺麗な子だなぁ…
3人の中央に立つ一際目立つ少女の胸には"天堂"の文字が刺繍されている。
綺麗な金色の長髪を靡かせ、皆と同じジャージにもかかわらず、その姿は気品に溢れていた。
『天堂さんたち休憩?』
しかし、ほのかさんの呼びかけには答えず、その"少女"は真っ直ぐ私の目の前に突き進んできた。
『…よくそんな平気なツラで呑気に楽しんでいれるわね。』
「えっ?」
突然の言葉に返す言葉が見つからない。
『"え?"じゃないわよっ!!自分のしたこと棚に上げて…虫唾が走るわっ!!』
「そんな…いきなり言われても…何のことか分か『いい加減にして頂戴ッ!!私の…私の健太くんをそそのかしておいてッ!!私…うぅ…』
え?なに?急に…訳が分からないよ…
そして天堂さんの右側にいる気の強そうな女の子が一歩踏み出して口を開く。
『貴女、転校してきたばっかで、色んな男の子たぶらかして…恥ずかしくないの?』
え…なに?たぶらかす?
「え?私はそんな…」
『衣瑠はそんなことしないよっ!!急になんなのさっ!』
莉結が我慢の限界!と言わんばかりに飛び出して来た。
『私の健太くんが…アンタの事好きになったとか言ってさっきせっかく話せたと思ったら…急に別れたいって言ってきたのよッ!!!!どんな手を使ったのか知らないけどユルサナイ!!!』
そう言って天堂さんは子供のように泣き崩れてしまった。
そんな事言われても…私…何で…
どうしたらいいの…
『そんなの衣瑠は悪くないじゃん!!…まさか!バッグの犯人って…』
『なに?証拠も無いのに私たちを疑う気?彩をこんなに泣かせてる癖に?』
彩?あ…天堂さんの名前か…
なんでこんなことになっているんだろう…
私のせい…なのかな…ははは………
「私…なにかしちゃったのかな…そんなつもりないんだけど…ごめんなさい。」
『なんで衣瑠が謝んのっ?絶対この子達だよ!犯人!!』
『なに?コイツを庇うの?彩の気持ち…分かんない?』
『もういいわ…言ってもわからないみたいだし。』
立ち上がる"天堂さん"の顔に表情は無く、暗闇の奥底に吸い込まれそうな瞳をしていた。
妙に落ち着いた透き通った声が続く。
『林間学校に来ていた女子高生…崖から転落。』
は?なに言ってるのこの人…
『可哀想な子達…そう言ってもらえるだけ嬉しいと思わない?』
『なに言ってるの?天堂さん…』
『佐々木さん…あなたに恨みは無いのだけれど…御免なさいね。』
『ば、ばっかじゃないの?私たちはそんな脅しきかないから!!先生に相談させてもらうから!!行こっ衣瑠ちゃん!!』
『そうよ!!本気だとしてもあなた達なんか相手にならないし。』
『ふふっ♪そんな事わかってるわよ。合気道でしたっけ?私のチカラでは負けてしまうわね。でもこれならどうかしら?』
"シュパッ!!"
そう言ってほのかさんに何かを吹き付けると、
ほのかさんの身体は魂を抜かれたかのように落ち葉の絨毯へと崩れ落ちた。
ぁ……!!!!
それとほぼ同時に横にいた莉結の身体まで倒れていく…
り…莉結ッ!!!!
あっっ!!
「千優さんだけでも逃げて!!」
振り向いた時には千優さんまでもがその身体を落ち葉の絨毯に倒していた…
何なんだよ…コイツら…マトモじゃない…




