イインチョー
もう…だめだ…止められない。
『ふぅ〜っ♪気持ちよかったぁー♪…あっ!!!!』
疾風の如く部屋に走って来たこの人。
本日のKYランキング1位に輝いた"委員長"こと"ほのかさん"だ。
この人はタイミングが良すぎると言うか悪すぎると言うか…
ほのかさんはパジャマ姿で両腕を上げ、片足立ちのまま固まっていた。
みるみるうちに顔が真っ赤になっていく。
なんて言い訳しよう…
目に埃が入ってたんだよ!…却下。
心肺停止で人工呼吸を!!…却下。
鼻毛が"こんにちは"してて…んーん却下。
口臭チェック…却下!!
あー!!もう!!なんかいい言い訳ないのっ???
その頃には、ほのかさんの固まりも解けて
意味もなく荷物の整理を繰り返していた。
莉結も顔を真っ赤にして下を向き固まってしまっている。
「あの…ほのかさん…」
ビクッとするとソワソワした様子でこちらを向く。
『えっ?はい!な、何か?』
「キス…したことあります?」
何言ってんだ私は!!
『え?えぇ?!わ、私はまだ無いケド…え?なに??どしたの?』
意味のわからない質問をしたせいで、
ほのかさんは完全にパニクってしまっている。
そして私もパニック状態だ。
「えっと…私もしたこと無くてあの…練習…してたんですよ♪だからもしほのかさんが"先輩"だったら話聞きたいなぁ♪なんて♪」
言い訳がましいウソの完成だ。
『え?あ♪そうだったんだ!ふぅー♪ごめん!私てっきり2人が"そういう関係"なのかと思っちゃった♪』
…この人…こんな馬鹿正直で純粋で…
世の中生きていけるのか心配になってきた。
うまく誤魔化せたけど…
「あははは♪そういう関係ってなんですかぁ?」
くそっ!なに聞いてんだよ私!…折角話まとまってきてたのに…
『え?それは…ゆ、百合ってヤツ?女の子同士の恋愛?みたいな…』
なんだろう?麗美さんの事があるからかな?
"そういう人達"の事否定してる訳じゃないと思うけど
なんかひっかかる。
「私は"そういうの"もいいと思いますよ♪人が人を好きになるのに性別は"ただの個性"でしかありませんから♪」
…またやってしまった。
これじゃぁ私は女の子が好きです。って遠回しに言ってるみたいだよぉー…
『え?あ、あぁ。そう…だよね♪私はいいと思うよっ!!そういうの!あの…なんか意外だったけど頑張ってね!!2人とも超可愛いからさ!!あははは…』
ごめん莉結。とんでもない誤解させちゃった!!
だけど…逆に都合がいいかも。
2人に男も寄ってこないし、
別に莉結となら…な、なんて訳じゃないけど!!
見られたのがほのかさんで良かった…
この人は多分人にペラペラ喋る人じゃないし。
そのうちにクラスの女の子達が続々とお風呂から戻って来た。
ほのかさんはいつも通りな感じだ。
私と莉結は、なんか恥ずかしさが取りきれなくて、部屋の隅に敷いた布団の上でおとなしく"体育座り"している。
因みに補足だけど、体育座りは三角座りとも言うらしい。
時折チラチラと目だけこちらを見る莉結が可愛く感じてしまう。
きっとそれは"子供みたいな"可愛さって意味だと思う。
そしてあっという間に消灯の時間となった。