"死んでもいいわ"はまだ聞けない
キャンプファイヤーをやっている広場が見えてきた。
"私の気持ち"とは裏腹に陽気な音楽が流れている。
オレンジ色にゆらゆらと輝く広場からは
小さな赤い光の粒が空へと登っていく。
…まるでそこから星が創られて天に昇っているようだった。
近づくにつれて正体不明な犯人への不信感が込み上げてくる。
無理だ…
「…ごめん。やっぱり…戻りたくない。」
そういうと莉結はあっさりと答えた。
『うん。いいよ♪宿泊棟に戻ろっか♪』
せっかくの林間学校なのに…
莉結まで巻き込んで本当に申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「莉結は戻ってもいいよ。私はひとりで大丈夫だから♪ねっ♪」
笑顔…うまくつくれてたかな。
いま精一杯のつくり笑顔だった。
『瑠衣は衣瑠なんだよ?だから、ね♪私も戻るよ♪』
言っている意味は分からなかった。
だけど…ありがとう。嬉しいよ。
その言葉に何も言わずに甘える事にした。
だってほんとは"今は莉結にそばにいて欲しい"ってのが本心だったからさ…
いま来た道を2人で戻る。
遠ざかっていく軽快な音楽と黄色い声に
比例して俺は落ち着きを取り戻していった。
『見て♪』
突然ワクワクしたような声をあげた莉結の指の先には…
雲ひとつない空と、そこに浮かぶ満月。
「わぁ…綺麗…」
自然と声が漏れた。
月の光は周囲に輝きを与え、森の木々たちがざわざわと話し合っているようだ…
会話することなく穏やかな時間だけが過ぎていく。
『月が綺麗ですね。』
「え?月?…うん。そうだね♪」
突然の莉結らしくない言葉遣いに戸惑ったが、
たぶん"そういう気分"なのだろう。
『ふふ♪なぁーんでもないっ♪』
「はぁ?いきなりなんだよぉっ?!」
ほんと莉結の考えてる事はわかんないな。
だけどそんなところが莉結の良いところだったりもする。
なんだかちょっと元気出た気がする。
「莉結っ!さんきゅっ♪」
『えっ?分かったの?!』
キョトンとこちらを見た莉結は少し顔が赤くなった。
「え?てか莉結見てたら元気出てきた!」
『あっ、なんだ♪…ん?私見てたら?どういう事?!』
考えている莉結の手を取って走り出す。
『ちょっ、急に走んないで!』
「やだ♪走りたい気分っ♪」
クヨクヨしてられっか!!
衣瑠、頑張りマスっ♪…なんてね!!笑