トラウマ
山田先生が立ち去った後、なんとか気持ちも落ち着き、みんなの元へ戻ることになった。
『大丈夫。私が居るから。』
いつでも莉結は俺の味方でいてくれる。
小さい時からその性格は変わらない。
そう、"あの時"から。
思い出したくもない…
私が人に囲まれるとパニックになってしまう原因となった"あの出来事"。
俺は小学5年生。
その日は学校が早く終わって
いつもとは違う、家から少し遠い公園で莉結と2人で隠れんぼをしてた。
その公園は住宅地から少し離れた所にある
古い神社の敷地内に造られた小さな公園。
陽が落ち始め、少し肌寒い風が
紅葉し始めた葉を撫でるように吹いていた。
公園には俺と莉結の2人きり。
莉結が"オニ"になって、俺は隠れる場所を探していた。
今思えばずっと"そいつら"が見ていた気がする。
俺は公園のトイレの横の垣根に隠れた。
しばらくすると背後から足音が聞こえてきた。
その足音は莉結のものではないとすぐにわかった。
足音が俺の後ろで止まる。
『ねぇねぇ、ちょっときてくれる?』
突然話しかけられた。
振り向くとそこにはおじさんが居た。
その頃の俺は純粋だった。
なんの疑いもなく"きてくれ"と言われ、そいつについていってしまった。
そいつは俺をトイレに連れ込もうとした。
流石に少し不安になり入り口の前で立ち止まる。
そしてそいつは微笑んで言った。
『コッチオイデヨ♪』
そう言っていきなり手を引っ張られた。
その瞬間俺は恐怖に飲み込まれた…
そして俺の目に映ったのは1番奥の個室から出てくる3人のおじさん。
『ねぇ、ちょっとズボン脱いでくれる?』
…
身体は大きく震えだし、今まで味わったことのない恐怖が更に込み上げてくる。
大人の男4人に囲まれて為す術は無かった…
俺はそいつらに言われるがままズボンに手をかけた。
その時、
『お父さん!!こっち来て!!早くっ!!』
莉結の声が聞こえた。
もちろんその頃の俺にも莉結にも"お父さん"は居なかったのだが…
その声を聞いた男たちは焦って立ち去っていった…
冷たく汚れたコンクリートの床の上…
俺はうずくまって泣いた。
恐怖はまだ身体に渦巻いている…
息を切らして泣きそうな顔の莉結がやってきた。
そして俺をギュッと抱きしめて
『守ってあげられなくてごめんね…』と言った。
忘れられない人生の汚点。
思い出すだけで自分が穢れて思えてしまう。
莉結が勇気を出していてくれなかったら俺は…
それから俺は男女関係なく人に囲まれることに恐怖を覚えてしまうようになってしまった。
トラウマだ。
少人数に囲まれるくらい
ならまだ大丈夫なのだが、大人数はまだキツい…
また嫌な思い出をわざわざ思い出しちゃったな…
今は忘れよう…
なんにしろ莉結はどんな時でも俺の1番の味方なんだ。