エスカレート
『もうすぐ19時になるけどまだ作れてない班はないなぁ?さっさと食っちゃってみんなお楽しみのキャンプファイアーやるぞー!!』
体育の山田先生が大きな声で叫んでいる。
あの人…生徒より楽しそうだな。
周りの班の人たちはもう食事を終え、ワイワイ楽しげに片付けをしている。
…この中に俺を良く思ってないやつがいるのか。
そう思うと何故か辛くなる。
みんな楽しそうに林間学校満喫している"純粋な子供"のように見えるのに。
『衣瑠っ♪どう?服乾いた?』
振り向くと莉結が立っていた。
「あぁ、莉結か。もうだいぶ乾いたよ。キャンプファイヤー楽しみだね♪」
頭の中は先程のトイレの出来事で一杯だ。
『ホントに思ってるー??笑ってないぞ?』
"思ってないよ"
とは言えないかった。
だって莉結の瞳がキラキラと輝いて楽しそうだからさ。
「もちろん♪ 楽しまなきゃ損だもんね♪」
いつまでもくよくよしてる訳にもいかないか…
「さっ!林間学校楽しむぞー!!」
『そっ♪良かった♪』
…っと、そこで誰かが駆け寄ってきた。
『ヤッホー!!やっと来れたよー♪』
あぁ…お決まりの麗美の登場か…
『ホント、カレーって作るの大変だったんだね!もう手が離せなくて衣瑠ちゃんトコ来そびれちゃったよ!!いまちょっと抜け出して来ちゃった♪』
相当急いで来たらしく息が荒い。
「そこまでして私に会いたいの?(笑)」
からかうつもりでそう言った。
『えっ?まぁ…会いたいっ♪乙女心ってヤツかな♪ははは♪』
いやっ…そんな笑顔で言われると…
よく見ると可愛い顔してるんだな…って、何だよ俺…
『あっ!班の子達だ!!ごめんまたねーっ!!』
そう言って麗美は、庭に来た雀の如く早々と立ち去っていった。
なんだったんだ…
『麗美ちゃんって変わってるよね…(笑)』
「うん。変わってるというかなんというか…」
まぁそれでも何故か憎めないヤツなんだよな。
"アイツとだったら人生楽しそうだな"なんて一瞬でも考えてしまった自分が恥ずかしい。
先生の誘導で俺たちはキャンプファイヤーを行う広場へ移動した。
この広場は宿泊棟の近くで、終わったらそのまま宿泊棟へ移動するようだ。
今日の日程はこれで最後の予定だ。
色々あった1日だったけど、何だかんだ楽しかったな。
キャンプファイヤーをやる広場の中央には井の字に組まれた丸太が1m程の高さに組まれており、その丸太組の中には木の枝が高く、無造作に積まれていた。
そして、それを中心とし、囲むように生徒が並んでいく。
こういう時ばかりは生徒も並び終わるのが早い。
すぐにキャンプファイヤーが始められる体勢が整った。
それにしても…
…なにやら先生たちの動きが慌ただしい。
中央の丸太組の中を指差して何か言っている。
すると体育の山田先生が積まれた木に登っていくではないか。
なにやってんだあの人…(笑)
『山田先生なにやってるんだろね。』
「テンション上がりすぎておかしくなっちゃったかな…」
すると山田先生は"何か"を抱えて木の枝の山から出てきた。
その瞬間、心臓が止まりそうになる…
え…?
あれって…
私のバッグだ…
なんで?
カラーの景色が音を立ててセピア色へと変化していく。
それと同時に耳の穴が閉じていくかのように音が小さくなっていく…
そして周りは無音になった。