After Story…Aya.4
タクシーに乗り、10分ほどで目的地のプールへと到着する。
夏休みともあって家族連れの姿が目立ち、同年代の子達の姿も多い。
私達は樹々で哮り立つように鳴く蝉達の中、浮かれ気味の稚華に続いてゲートをくぐった。
看板によると此処はリゾート施設としてゴルフコースや温泉まで兼ね備えているよう。そしてゲートの先には如何にもリゾート施設らしいキラキラと輝く芝生の丘が連なっている。
突然子供に戻ってしまったようにその丘へと走り出す稚華を見て、私達から思わず笑みが溢れた。
『ねぇー!!彩もおいでよーッ♪』
小高い芝生の丘の頂上に立ち、満面の笑みを浮かべこちらに手を振る稚華を、私はやはり花に例えようとしてしまう。
あの稚華は…何の花かしら。
綺麗なオレンジ色の百合?いや黄色いフリージアかしら…
そんな事を考えていると、私の横を飼い主に呼ばれた子犬のように莉結が駆けていく。
『っもうー、莉結もはしゃぎ過ぎー♪』
そう言って小走りに後を追う衣瑠は、ツユクサ…いや、チューリップね。
…今の私を照らすのは稚華なんだから。
『ちょっと、私だけ置いてかないでくれるッ??』
そう言って走り出した私は、今の大切なキモチを素直に受け入れ、このひとときを楽しむ事にした。
もう昔の何も無かった私じゃないのだから…
子供達に混じって芝生を駆け回っていると、黄色いゴムボールが私の元へと跳ねてきた。
私はドラマのワンシーンのようにそのボールを手に取り、ボールを追ってきた少年に『はい、どうぞ♪』と手渡す。
"………"
やはりドラマと現実は違うみたいね。
無言でボールを受け取り駆けていく少年を静かに見送っていると、『優しいじゃん♪』と稚華が肩を叩いた。
あぁ、これはどの脚本にも無い展開だわ。
それもそう、コレは私だけのストーリーなんだもの♪
一際賑わうプールの入場口へと到着すると、チケットを購入して更衣室へと向かった。
『あら、どうしたの??』
更衣室の前で立ち止まった衣瑠を覗き込むと、何故か落ち着かない様子で莉結を見つめている。
『さぁ行くよッ♪衣瑠ちゃん!!』
莉結に背中を押されて衣瑠は前のめりに更衣室へと入っていく。
『衣瑠どうしたのかしら?』
『私だって彩と一緒に入るのドキドキするよっ?』
"はいはいッ"と素っ気ない態度をとったものの、私だって別に平常心でいるわけじゃ無いんだから。
『ジャーンッ♪見てッ!!彩とオソロー♪』
そう言って私に自慢げに水着姿を披露した稚華は、言葉の通り私と同じ白色に小さな花柄が刺繍された水着を着ていた。
『ど、どうしたのよ?ソレ…』
この時私は飛び跳ねて両手を上げて喜びたい程の高揚感に包まれた。
 




