2,本日は性転ナリ
ある夜、俺は今まで感じたことのない程の激痛で目を覚ました。
ぐぁっ!!っっ….
痛ってぇ…
これは…マジでヤバい…かも…
全身の骨がミシミシと音を立てつつハンマーで殴打されるような激痛を発し、頭皮が焼けるように痛い…心臓はその鼓動をどんどん加速させ、鼓動の度に胸が破裂しているかのようだ。
そして頭のてっぺんから足のつま先まで全ての神経が痺れにも似たチリチリとした激痛を脳へと伝達し続けている。
激痛の中、俺は初めて"死"を悟った。
くそ…くそ…クソォォォォ…どんな病気かも分からないまま殺されてたまるかよ…
痛い…熱い…悔しい…
やり残した事が沢山ある気がする。
走馬灯のように過去の記憶が突風の如く脳裏に浮かんでは消えて行く。
莉結…
1人にさせてごめんな…
いや…1人になっちまうのは俺の方か…
ほんと…ごめんな….
そして部屋の照明を消すかように、俺の意識は"パチッ"と音を立てて漆黒の闇へと消えていった。
…
鳥の囀りが聞こえる…
そっと目を開くと眩しい日差しが俺の目を細くさせた。
俺…生きてるのか…?
あれは…ただの夢?
いや、あの痛みは夢なんかじゃなかった筈だ。
ッ…
胸が苦しい。
顔に不快な何かが纏わり付いている。
痛っっ…
顔の"何か"を取り除こうとするも、まだ全身に痛みが走り、動く事さえままならない。
深く息を吸い込んで、ゆっくりと吐き出していくと、息苦しさとは少し違うような違和感を覚えた。
そして先程の不快なモノを払う為、歯を食いしばり、痛みをこらえつつも顔に手を伸ばした。
ん…?
こっ…これは…髪…の毛…
その瞬間、無残にも抜け落ちた髪の毛と、禿げ散らかしてしまった自分が頭に浮かんだ…
嗚呼、無情…
俺はこの歳にして薄毛への階段を駆け上がるどころか不幸…いや不毛のエレベーターに飛び乗ってしまっていたのだ。
その時"ちーん"という爽やかな音と共にエレベーターの扉が開いた。
"いらっしゃいませ"
いらっしゃいましたよ…
いや、そんな事よりも、カツラ….買わなきゃ…
俺、帽子の類は持ってないし、それじゃぁ
下着も履かずに世間をうろつくようなものではないかッ!
すぐに抜け落ちた髪の毛をかき集めて臨時のカツラでも作製しないと…
泣きたい気持ちを必死に抑えつつ、痛みに堪えながらも無残に抜け落ちた髪達を掴みあげた。
痛っ!!
あれ?!
…
まさか…
は…はーえーてーるーっ!!
歓喜した。
抜け落ちた髪とばかり思っていたが、
ちゃんと毛根達は、その夢と希望と共に頭皮にしがみついてくれていたのだ!!
って….俺、こんな髪の毛長かったっけ…
歓喜したのも束の間、ただならない恐怖に包まれた俺は痛みを忘れ、すぐに立ち上がったのだが…
あれっ?!何故か足を踏み外した。身体の感覚がおかしい…まるで自分の身体ではないみたいだ。
そんな事より俺の髪…!!
洗面台の前へと走った俺は呆然と立ち尽くしてしまった。
え、誰っ…?
そこには見たこともない人物がぽかんと口を開けたままこちらを見つめていた。
肩よりも下へ長く伸びた髪の毛。
小柄な身体に細い手足…
そしてその身体についた遠慮がちに膨らんだ胸。
顔は…かなり可愛い分類か。
まぁいい、寝よう。
…じゃねーよ!!
コレ誰だよ?!
俺か?!
違う!!俺は男だ!!
この鏡に映るのは明らかに女だ!!
女…
俺はゆっくりと胸に手を伸ばすと、その遠慮がちに膨らんだモノを2、3回握ってみる。
おぉ…噂に聞いた通りのマシュマロだ…
…じゃねーよ!!
その時、俺は気づいてはいけない事に気付いてしまった。
まさか…有るよね…?
恐る恐る下の方に手を伸ばしてみる。
スルッ…
え…そんな訳…
スルッ…
嘘だ…
スルッ…
嘘だ…
「ウソダァーーーーーッ!!!!!!」
なんか声高ぇーーー!!!
この日から俺の"性転した人生"が幕を開けたのだった…。