After Story Dear Rei.5
『なーんにも無いけどねぇ♪』
稚華さんが静かに微笑んで空を見上げながら呟く。
『あら、そんなトコも私好きだけどッ?なんかいいわね、こういう所も。』
『じゃぁ私とこっちに住んじゃおっか♪』
『それとこれとは話が違いますぅー。』
そんな2人の背中を見て、莉結と目を合わせ、"ふふっ♪"と笑った。
何処からか聞こえる鳶の鳴き声に目をやりつつ橋を渡り終えると、川沿いへと続く細い砂利道へと足を進めた。夏の陽射しに輝く土手と山の影の涼しさのコントラストの中を進んでいくと、綺麗な朱色の花がちらほらと茂みに咲いているのが目に映った。
『綺麗な花だなッ♪コレなんて花だろ?』
稚華さんがしゃがみこみ、花を指で撫でてからそう言って振り返ると、彩ちゃんが"ふふ"と微笑んで答えた。
『姫百合…いいわね。これ知ってる?夏の野の繁みに咲ける姫百合の知らえぬ恋は苦しきものそ…』
『彩、なにそれッ??』
私はその俳句?だろうか…昔の人が詠んだようなそのフレーズに聞き覚えがあった。
でもどこでだろう…
そんな事を考えていると、彩ちゃんが満面の笑みで『私も知っらなぁーい♪』と答えた。
『なにそれっ!!絶対知ってんじゃんッ!!』
『私のキモチ♪稚華の宿題ッ♪』
その時後ろで莉結が"やっぱそーだったんだ"と呟いたが、時折見せる彩ちゃんの普段とは違う一面に微笑ましさを感じ、2人のやりとりに目を取られた私は、その言葉の理由を聞きそびれてしまった。
そして私たちは談笑しながら脇道へと足を進める。野花や草が生い茂る斜面に造られた石を組み合わせた急な階段を登り始めた時、稚華さんが私の隣へとやってきて耳元で囁いた。
『やっぱり彩って可愛いよねッ、あーやってたまにクールな彩から変わるじゃん??衣瑠ちゃんと付き合ってる時もあんなカンジだった??』
短い期間ではあったけど、彩ちゃんと過ごしたトクベツな時間は今でもよく覚えている。クールな反面、とても甘えんぼうな彩ちゃん。それはきっと心を許した人にしか見せない顔なのだ。
きっと昔の"アヤちゃん"が居た頃にはそんな感情すら抑えこんでいたのだろう。
"アヤちゃん"が誰かって?それはもう過去ハナシだから今更掘り返す事もないのだ。
それよりも今は稚華さんというトクベツな人が出来て、彩ちゃんも幸せそうでなによりだ。
『ねー、どうなの?その顔だとやっぱそーなんだ♪』
「えっ、あぁ…そうだね♪昔からいい子だよ、彩ちゃんは♪」
"林間学校が終わってから"と但し書きを付け加えたいところだケド…なんてね♪
『やっと着いたわッ。』
彩ちゃんの声に顔を上げると、急な崖一面に並んだ墓地が広がっていた。
そして私たちはその中腹にある入口から墓地の方へと入っていった。




