当たり前の中にある幸せ
『言わなくちゃいけない事?』
「そう…言わなくちゃいけない事…
いや、言っちゃいけない事だよあんなの。
さっきも言った通り俺は…女として産まれたらしいんだ。
母子手帳も見せられたよ…そこにはしっかり…"性別:女の子"って。
けど絶対おかしいだろ?"じゃぁなんで俺は男なんだよ!"って言ったらなんて言ったと思う?
"男が産まれないと意味がなかったから"ってさ…
俺の父さん…大学病院で働いてたって言ったろ?」
『そぉだっけ?』
「そうなの!んまぁそれで俺の父さんは、ある研究を進めていたらしい…」
『なんの研究?』
「シュールマン症候群。」
『それって…』
「俺の病気…いや…そうじゃないんだ。」
『そうじゃない?ごめん全然理解できない…』
「俺は始めから病気なんてかかってなかったんだよ…」
『え…それってもしかして…』
「俺を後継ぎにするために"男に変えられた"って事。」
『あ、そっち?』
「は?!"そっち"ってどっちと間違えてんだよ!!
本当にお前は…
こっちはめちゃ真剣に話してんだから変なこと言うなよ。
んまぁ…そういう事で
俺が毎回毎回打たれてた薬は女の身体を無理矢理"男の身体を保つ為の薬"だったって訳だよ…
ほんと訳わかんないだろ?
産まれた時は女で、男として生きてきたのにまた女に戻って…"それがあなたの本当の身体よ"って言われても信じられるわけがないし…
死にたくなったよ…本当に。」
『…瑠衣のお父さんは何で、わざわざ女の子の瑠衣にそんな事したの?』
「あぁ…俺の母さん、俺を産んで子供作れない身体になったらしいから。
如月の血を絶えさせたくない父さんは息子以外は論外だ!って考えで、しかもそれは母さんとの子供じゃなければ嫌だったんだって…
ほんと身勝手過ぎるよ…
その時に携わっていた研究が"シュールマン症候群"だったんだ…
俺も最悪に運ないよな…
そんで父さんは研究室に泊まり込んで"薬"を完成させたんだと。
完璧違法だよ。人の道徳に反してる…
俺の担当医も部下だったんだと。
そのくせ当の本人は俺が記憶も曖昧な時に死にやがって………
まぁ大まかに話すとこんな感じだよ。俺…男なのか女なのかもよくわからない身体で…ほんと気持ち悪いよな…」
『そんな事ないよ。私…嬉しいよ。』
「え?」
『私は昔から男の子と関わるのが本当に無理で…
だけど瑠衣だけは大丈夫だったんだ。
顔も女の子みたいだったけど…それだけじゃない"なにか"を感じ取ってたんだと思う。
今まで何回も"瑠衣が女の子だったらなぁ…"って思ってきた。絶対に叶うことのない想いだったはずなんだけど…
だから何にも気持ち悪くなんかないよ。今の瑠衣が本当の瑠衣なんでしょ?私は今の瑠衣も大好きだよ♪』
「…なんか莉結と話してると暗い話も世間話みたくなっちゃうな。だけどさっ、ほんと聞いてくれてありがとう。俺、莉結が側に居てくれればこの身体で頑張れる気がする…」
『それって愛の告白っ?(笑)』
「そ、そんなんじゃ!!」
『まぁ、瑠衣がそう言ってくれたならオールおっけーだね♪瑠衣こそ話してくれてありがとう。嬉しかったよ。』
『ご飯できたでねぇー。』
おばあちゃんの声がした。
『さっ、瑠衣も食べてくでしょ?』
「え?俺もいいの?」
『"私"でしょ?(笑)おばあちゃん張り切ってたから絶対瑠衣の分もあるよ♪みんなで食べるのもたまにはいいでしょ?』
そういえば俺はいつも自分で料理して自分で食べて…
家族団欒で食べた記憶ないんだ。
「じゃぁ"私"もご馳走になります!(笑)」
こうして晩御飯をご馳走になった訳だが…
みんなで食べるご飯っていいな。
1人で食べる時は毎日のルーティンみたいな感じでただ"食事を摂らなきゃ。"って感じだったけど。
テレビ見て笑って。なんでもない事話しして。
みんなが羨ましいな。
「今日はご馳走さまっ!!俺…私明日の準備頑張んないと!!」
『またいつでも一緒に食べようね♪あと…なんかあったら私に相談してね。』
「うん。ありがと。それじゃぁ"また明日"♪」
『うん♪おやすみー♪』
…"また明日"…いい言葉だな。