高嶺の桜
『ねぇ、そういえば天堂さんの家って建設会社だよね?なんとか言って桜の木持ってこれないかな…』
それはとんでもない発想だったが、私たちにできる唯一の希望だった。
そもそも"タカネザクラ"と言うものが売っているものなのかも分からない。私たちが見たサイトには"野生種"となっていたが、そこらへんの山に生えているものだろうか…
問題は山積みだが、今はそんな事調べている余裕はない。
私は彩ちゃんへ電話を掛け、事情を説明すると、すぐに聞いてくれるとの事で折り返しの電話を待った。
「もしもし?…どうだった?」
しばらくして掛かってきた電話の声は、聞かずとも答えが分かるものだった。
『うん。その事なんだけど…やはり何度言っても聞いてもらえなかったわ…ごめん。』
「…そっか。そうだよね。急にごめん。別の方法を考えてみる。」
万事…休すか…
こうなったら植木屋さんとかに片っ端から電話掛けて聞くしかないか…
私と莉結は家に戻ると電話帳を開き、専門業者へ片っ端から電話を掛けていった。
が、しかし結果はどこも同じだった。
もうかなりの時間が失われた。限られたとても大切な時間だというのに…
『もう、戻ろう。レイちゃんの側に居よう。』
やり切れない気持ちを残したまま私たちは病院へと戻った。
病室では変わらずに稚華さんが眠ったままのレイちゃんの手を握って寄り添っていた。
「稚華さん…ごめん…」
私が言葉を続ける前に稚華さんは微笑んでこう言った。
『いいの。ありがとう。嶺もこうやって一生懸命にやってくれたってだけで嬉しいと思う。だから…側に居てあげて。』
静かに眠るレイちゃん。その目が開いた時、私たちはどう接したら良いのだろうか…