まさかの失敗…?
今更になって成功するのか不安になってきてしまった。
それを察してか、彩ちゃんは私の手を握り"キッ"と真剣な眼差しになった後『ありがと。頑張ろう。』と言った。
気がつくと既にカジシマがこちらへ歩いて来ていた。
スマホを手に取り、何やらメールを打っているようでこちらにはまだ気づいていない。
10メートル程に迫った所で作戦通りに彩ちゃんがカジシマの進行方向へ飛び出した。
一瞬の間を置き、私も飛び出す。
「"天堂"彩ちゃーん♪私やっぱりもう一泊したいー♪」
少し演技がましいがこれくらいしないと気付いてもらえない可能性があるのだ。
『私だって…そうしたいわ、よ?』
抱きつく私に動揺した様子で彩ちゃんが"セリフ"を言う。
少しぎこちないけどダイジョーブ!!
「でしょー??だって私たち、愛し合っちゃってるんだもんねー♪」
これで抱き合ってるとこを"カジシマさん"が見れば…
すると彩ちゃんの顔が急に寂しいような表情へ変わったように見えた。
『本当に?』
あれ…アドリブかな?
とその時だった。
えっ…
『"お芝居"だから仕方ない…でしょ?』
えっ…あ…
柔らかな感触が頬へ伝わった。
声にならない声でモジモジとしてしまう。
っっなんてしてないで"カジシマさん"は?!
ふとそちらを向くとカジシマは不機嫌そうな顔でこちらを見ると、何の反応もないまま横を通過していった…
数秒だけであったが彩ちゃんの顔を確かに見ていた筈なのに…
あれっ…
想像もしていなかった反応に困惑してしまう。
『作戦…失敗だね。もう、いいよ。ありがとう…』
その言葉に心が抉られそうになった。
次の瞬間、私の身体はくるりと向きを変え、カジシマの肩に手を掛けていた。
「ちょっと…おじさん。いや、カジシマさん…」




