卑怯なジブン
『なにやってんの?!?!』
心地よい暗闇の奥から声が聞こえた。
『おーい!!衣瑠さぁーん!!』
莉結の声だ…
重い瞼を持ち上げようとした時、昨夜の出来事を思い出してしまう。
あれは…夢?…なんかじゃない…
私がしてしまった"現実の出来事"だ…
逃げることのできない過ちにこのまま寝たふりをしてしまいたい。
だがここは莉結の部屋。
向き合わなくちゃいけない。
目を開くと驚いた表情の莉結が私の顔を覗き込んでいた。
『….どしたの?すんごい目…腫れてるよ?!』
昨日の出来事を洗いざらい話し謝ってしまおうか…とも考えたが、言葉が思いつかず断念する。
幼馴染がいきなり"寝ているあなたにキスしちゃいました
"なんて、冗談にも程があるよ…
「そ…そう?なんでだろ…はははは…」
『もしかして…泣いたの?』
女の勘というものなのか…思わず"えっ?!"と分かりやすい反応をしてしまう。
『衣瑠が泣くなんて…どうしたの??しかもこんなトコに座ったまんま寝るなんてさ。』
言えるわけない。
「ごめん。今は言えない。本当にごめん…」
その瞬間莉結の表情が切ないものに変わってしまう。
『そっか…ごめんね。』
悪いのは私なのに…
「ごめん。今日はもう帰るね。」
そう言って私は荷物をまとめてこの場から逃げた。
自分は卑怯者だ。いやっ、今ならまだ間に合うかも…けど…本当の事を伝える勇気が、今の私には無かった。
『昨日のコト…』
莉結が何か言いかけたが、その時の私は頭が真っ白で早くこの場から立ち去る事しか考えていなかったのだ。
それから春休みが終わるまでの数日間、私は家を出ることは無かった。




