11.初日終了
俺が教室へ戻ると案の定、不思議なモノを見るかのような視線に晒される。
…大丈夫、そんなこと慣れてるし。
俺は何事もなかったかのように席へ座った。
そんな俺に声をかけてくれたのが千優さんだ。
『衣瑠ちゃん。大丈夫だった?』
よほど俺が男だった時は喋りかけづらかったんだな…
まぁ男子でも最低限の会話しかしない俺に無口なタイプの女の子など喋りかけられる筈もないか。
「ごめんね。私あぁゆうのトラウマっていうか…その…ありがと。」
千優さんは少し驚いたような表情をしてコクリと頷いた。
その時、莉結と目が合ったがすぐに莉結は前を向いてしまった。
その後は、休み時間になっても
俺の周りは先程と打って変わって"今まで通り"の状況になった。
いつだって人間というものはそうなんだ。
新しいものには興味本意で
相手の気持ちなど考えずにズカズカと近づいてくる癖に、
少し自分の想像と違うだけですぐに偏見を持つ。
だから人なんて初めから距離を置いたほうが楽だ。
やっぱり学校生活初日は想像した通り良いものではなかった。
放課後、莉結と帰り支度をしていると廊下をバタバタと走ってくる音が響いた。
そして…教室の扉からものすごい勢いで"ヤツ"が現れた。
『衣瑠ちゃーん!!何で言ってくれなかったんだよぉ〜!!』
天野麗美だ…
マジでコイツは苦手だ。
周りのやつらみたいに偏見を持って距離を置いてくれればまだいいものを、こういうタイプのヤツは関係なしにグイグイくるからなぁ…
そのままダッシュで俺へ飛びついてくる天野麗美。
『麗美ちゃん!ちょっと!!』
俺は某ディ○ニーランドの、着ぐるみを着た人気キャラクターかのように意味の分からないハイテンションなスキンシップを受けた。
そしてこの女はそのハイテンションを維持したまま喋りだす。
『なんか転校生きたって聞いてよくよく話聞いたら美少女だってゆうじゃん?もしかして!って名前聞いたら衣瑠ちゃんっていうんだもぉーーん♪』
…で何だよ。
「莉結、行こ。」
『衣瑠ちゃん冷たっっ!!!!!』
『あの…衣瑠ちゃん今日色々あって疲れてるみたいだから…』
気が効く女NO1の莉結さんの登場だ!!
『あ…そっか!!ごめんネッ!んじゃまた明日っ♪』
そう言って麗美は足早に教室を出て行った…
アッサリか!!
「台風みたいなヤツだな…」
『あの子いつもあんな感じだよ。笑』
「あ、そうなんだ…」
「今日は疲れたぁー…」
『衣瑠ちゃん1日目お疲れ様♪笑』
やっぱり自分の部屋は落ち着くなぁー!!
っと心から思う!!
誰の目も気にせずに自分を出せるって素晴らしいよ!!
『そういえば瑠衣のお母さんってこの事知ってるのかな…』
「あ…!!!めっちゃ大事なとこじゃん。焦りすぎて頭になかったけど…どうしよう…
けど普通病院って1番に親に連絡…しない?」
俺の母は朝、日が昇る前から仕事に出て、帰ってくるのも深夜遅くな為、顔を合わせることはほぼない。
休日も一日中パートに出ていて週に1回顔を合わせるのが奇跡くらいだ。
だが、俺は納得していない。
勿論生活の為に四六時中働いている母親を尊敬しているし、めちゃくちゃ感謝している。
だけど…それだけじゃない気がする。
俺のことを避けているような気がしてならないのだ。
仕事が空いた日も何かと理由をつけて家を出て行く母に、いつからか嫌悪感すら抱くようになった。
きっと俺が邪魔なんだ。
苦労ばかりかける"普通じゃない"俺が。
『瑠衣?どうしたぁ?暗い顔してるよぉ?』
「そう?私は別に普通だよ?」
『そっかぁー♪んふ♪』
「え?なに?笑うとこ?笑」
『いやっ、いい兆候デスヨ♪笑』
なんだこいつ。
「まぁ母さんとは直接会ってぶっつけ本番でいいや。
なんて言ったらいいかわかんないし。」
『瑠衣らしいね♪笑』
「明日も学校かぁー…今日も泊まってって!って言ったら怒る?」
『怒んないよー。笑)おばあちゃんに言っとく♪』
「助かるわー…そんじゃぁ今日は初登校記念にピザでも頼むか!!」
『ほんとっ?!やったぁーー♪ピザー♪ピザピザー♪』
子供かよ…
そんなとこがいいんだろうなコイツは。