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ストゥルトゥスの戦い

 「・・・・・・・・」


 自身が立った最後の戦いを語り終えた大王を私は静かに見た。


 大王は肩の荷が下りたとばかりに嘆息するが・・・・私を見てこう尋ねた。


 「質問しないのか?」


 最後の戦いが何で13を意味するのか・・・・・・・・


 「1月は12を足せば13になります。また13日という日・・・・そして敵にも味方にもならなかった筈の自国民の一部による側面攻撃・・・・・・・・」


 このような事から・・・・・・・・


 「不吉な数字たる13を意味する戦いが名付けられたのでは?」


 私が静かに言うとグラウス大王は静かに笑った。


 「ふ・・・・ふふふふ・・・・その通りだよ。そう・・・・あの戦いは、何から何まで不幸な展開の連続だった」


 高い丘という戦いにおいては良い場所を自分は選んだ。


 「しかし・・・・戦いが起こる数日前から降り続けた雨によって大地は泥沼と化した」


 そこに登るまでに兵達は体力を消耗したとグラウス大王は語った。


 「対して妻と生母の軍は前日まで温かい場所で英気を養ったから・・・・当日も踏ん張る事が出来た」


 私の軍はそれが出来なかったとグラウス大王は再び静かに語った。


 「だが、高い丘を陣にしていたから私に勝てる機会はあった。きっと10年前なら・・・・いや、5年前なら勝てただろう」


 5年前なら部下達の士気も高かったし、自身も戦場の最前線に立つ事が出来た。


 「ところが・・・・私は、あの時・・・・最前線に立てなかった」


 身体を壊していたし、妻と生母に裏切られたという衝撃が尾を引いていたからだが・・・・・・・・


 「それは部下達も同じ事だ。にも係らず私は自分の事しか見ていなかった」


 だから部下達の士気を鼓舞する事が出来ず・・・・側面を攻撃されるや瞬く間に陣を崩壊へと導いたのだ。


 「そして後は君も知っての通り・・・・私は生きたまま捕えられ、祖国から遠い島へ流されているのさ」


 「・・・・・・・・」


 寂しそうに自嘲するグラウス大王に私は何も言えなかった。


 ただ、それがグラウス大王には良かったのかもしれない。


 「私の戦争体験談は以上だが・・・・幾つか書き遺して欲しい言葉がある」


 その言葉---後世の武人に伝えたい事も付け足してくれとグラウス大王は言い、それに私は直ぐに頷いてペンを握り直した。


 「先ず一つ目は・・・・戦場を自分の足で歩き、自分の眼で見て決めろ」


 この言葉は何度も聞いているが私は改めて書き留めた。


 「次に慎重な姿勢も必要だが、時には死を覚悟して指揮官は前に出ろ」


 兵士達は指揮官に命を預けるが、逆に言うなら指揮官は兵士に命を預ける。


 「だから暇さえあれば兵士の側で過ごせ。そうすれば自ずと兵士と連帯感は生まれ、絆は家族のように強まる」


 逆に遠ざかれば疎遠になるとグラウス大王は語り、私はペンを走らせた。


 「そして思わぬ事態を常に想像し・・・・それに対する備えを怠るな」


 万が一の備えはあった方が断然良いから当然の言葉であり、それも私は書き留めた。


 「最後は・・・・身内には気を遣え」


 身内だから重宝する・・・・身内だから厳しく接する・・・・


 「どちらも加減が非常に大事で誤れば自身の首を絞める結果をもたらすが・・・・その加減さえ誤らなければ問題はないだろう」


 ただし・・・・・・・・


 「さっきも言った通り兵士との絆も大切にせよ。そして・・・・もし、身内と兵士どちらか取れと言えば・・・・・・・・」


 ここでグラウス大王は言葉に詰まったが、私は言葉を待ち続けた。

 

 そして語られた言葉を・・・・書き留めた。

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 テッラ国歴330年2月10日。


 その日・・・・セプテントゥリオーネス大陸の覇者として君臨し続けたテッラ国の国王にして戦争芸術家の異名を取ったグラウス大王は息を引き取った。


 享年60歳。


 10代で初陣を華々しく飾り、そして10年にも及ぶ大遠征を行って一代で五大陸の二大陸と、一大陸の3分の1を征服した稀代の用兵家が死んだのだ。


 ただし、その最期を看取ったのは・・・・赤の他人である私一人だけだ。


 余りにも稀代の英雄には寂しい死に様だが・・・・これで良かったのかもしれない。


 「大王・・・・貴方の死によって・・・・セプテントゥリオーネス大陸は、大動乱となりました」


 私は清らかにされて死に装束を纏った大王に語り掛けたが、私の手には本国に居る友人が送ってきた手紙が握られている。


 その手紙の内容はこうだ。


 『東の”フォンス(湖)国”、西の”フムス(大地)国”、テッラ国が同時に宣戦布告を行った』


 簡素な文字が手紙には書かれていたが、それだけで私には十分だった。


 ここで大王が負けたトレデキムの戦い後の流れを説明すると・・・・以下の通りだ。


 トレデキムの戦いで負けた大王は生きたまま捕えられ、そして五大陸の果てにあった「ホリゾーン(地平線)」島に数人の世話役を付けられて流された。


 そしてテッラ国は大王の正妃の愛人であった将軍が国主となったが、それに大王の生母は意を唱えた。


 しかし大王の正妃と将軍は武力を持って国主の立場を誇示し、大王の生母は国を追われる身となったが・・・・ただでは転ばなかった。


 自身に従う人間達と共に東の地に新たな国を設けたのだ。


 それがフォンス国だが、これが原因となり大王の遠征に従っていた部下達も西の地にフムス国なる国を築いた。


 つまり大王の代まではテッラ国がセプテントゥリオーネス大陸全土を支配する唯一の国家だったが・・・・ここにきて3ヶ国に分裂したのである。


 もっともフォンス国とテッラ国はセプテントゥリオーネス大陸だけでなく南北大陸と、メリディエース大陸にも眼を向けていた。


 何処までも人間の欲望とは計り知れないと思い知らされる。


 だが、先ずは目先の領土を得ようと考えたのだろう。


 3ヶ国は小規模な小競り合いを大王を島流しにした1年後には始めた。


 ただし王の権利は全て剥奪されて体の良い島流し状態にあるが、それでも稀代の英雄として今も多くの武人から羨望と憧憬の念を抱かれ続けているグラウス大王の存在は大きい。


 故に「自分こそグラウス大王の後継者」と3ヶ国は口を揃えて言い張り続けていたが、その大王が死んだから最早・・・・後は純粋な力を持つ国家が後継者となる。


 それを3ヶ国は知っていたから今まで小競り合い程度で済ませていたのだろう。


 しかし・・・・私は手紙を破り捨てながら大王に断言した。


 「大王・・・・恐らく3ヶ国は、互いに潰し合って滅びるでしょう」


 3ヶ国の兵力差は大して違いはないが、3ヶ国揃って大王のような英雄が居ない点は共通している。


 英雄の存在は戦いに必要不可欠だ。


 その英雄が居るか、居ないかで戦いは・・・・長引く。


 ここを考えれば・・・・3ヶ国の戦いは恐らく50年は休戦を挟んで続くだろう。 


 そして3ヶ国が疲れ果てた頃に・・・・南北大陸か、またはセプテントゥリオーネス大陸が漁夫の利で・・・・彼の大陸を征服するに違いない。


 何せ大王が島流しにあった途端に両大陸は一気にテッラ国の軍団を海に追い遣り、国土を回復させて復讐の機会を虎視眈々と今も狙っているのだからな。


 「若しくは新興勢力となるだろうオッキデンス大陸か、オリエンス大陸がするかもしれません」


 しかも・・・・・・・・


 「貴方が考案した兵種と、私の書き遺した書物を参考にして・・・・・・・・」


 そして稀代の英雄たる貴方の足下にも及ばぬ奴等の戦いは恐らく・・・・・・・・


 「”ストゥルトゥス(愚者または馬鹿者)の戦い”とでも呼ばれるでしょうね?」


 こう私は言い・・・・大王の亡骸を燃やす為に薪を集めに外へ出たのである。

 

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