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トレデキムの戦い

 グラウス大王はモンターナの戦いを私に語り終えると暫し沈黙した。


 それは語りに疲れたという面よりも・・・・これから話す落日の半生を・・・・受け入れようとしている姿勢の方が強い。


 モンターナの戦いでグラウス大王は戦争芸術家の異名を頂戴した上で自身の代で領土を最大にするという業績も叩き出した。


 しかし、大王自身が語ったように・・・・それは地図上の領土であり、また完全統治には程遠かったのが現実である。


 現にモンターナの戦いを勝利しても相手は徹底抗戦の構えを崩さなかった。


 何より10年にも及ぶ大遠征は徐々に負の面も見せ始めた。


 先ずモンターナの戦いの最後でも書き留めたように大遠征に従っていた部下が従軍を拒否し始めたのが挙げられる。


 彼等は大遠征当初からグラウス大王に従い続けたが度重なる戦いと、慣れぬ環境等によって徐々に疲労と鬱憤は溜まった。


 彼等からすれば最早・・・・領土拡大は良いから祖国に帰りたかったのだ。


 次から次へと戦友が居なくなったのも心理的に効果は大きいと個人的には思うが、問題は兵士の従軍拒否だけではなかった。


 グラウス大王によって征服された南北大陸と、メリディエース大陸は言うに及ばず・・・・・・・・


 グラウス大王の故郷であるテッラ国の国政も負の側面を見せ始めたのである。


 テッラ国はグラウス大王が王として君臨しているが、大遠征に出てからは正妻と生母が摂政として君臨し、その下に大臣と将軍が就いて国政を行っていた。


 最初は上手く出来ていたが大遠征で領土が拡大されていくに連れて・・・・皆が自分達の領土を更に拡大させたいという欲求に駆られたのである。


 そこにきて支配した筈の国々がグラウス大王の帰国を機に抵抗を強めたので火に油を注ぐ形になり・・・・・・・・


 「・・・・私は、ここで漸く祖国の現状も知った」


 突然グラウス大王は語り始めたが私は慌てずペンを走らせた。


 「祖国の現状と部下達の願いを聞き入れる形で私は・・・・10年にも及ぶ北方遠征を止めて祖国に帰国した」


 その時テッラ国歴310年12月9日だったとグラウス大王は語ったが・・・・自分の祖国に帰れた喜びは全く見せなかった。


 「10年前に出た祖国と・・・・10年後に帰った祖国の違いに私は愕然とした」


 遠征に出る前は国民総出で送り出してくれたのに・・・・帰って来ると石を投げられたとグラウス大王は語る。


 「民衆は言った。私が大遠征をしたから国は乱れたと・・・・・・・・」


 それとは別に部下達は別の意味で愕然としたらしい。


 「何せ漸く祖国に帰れたのに家族は・・・・既に別の家族と大半が暮らしていたのだ」


 「・・・・・・・・」


 これに私は何も言えなかったがグラウス大王は語り続けた。


 「部下達を引き連れて私は王都カステッルム(城)に戻った」


 きっと自分の家族は大丈夫だろうと甘い考えを抱いていたらしいが・・・・・・・・


 「私の妻も・・・・母も・・・・部下達と同じだった」


 妻は自身が認めて任せた将軍と子供を既に3人も儲けており、父を亡くし悲観していた生母も息子である自分と同じ年齢の兵士と・・・・出来ていた。


 「私が帰って来ると泣いて謝ってきたが・・・・直ぐに本性を出したよ」


 『まだメリディエース大陸は完全に征服しておりません。何時、行かれるのですか?』


 「・・・・・・・・」


 「こう言われた時に私は思い知った。もう2人にとっては・・・・私は領土拡大をするだけの男なのだと」


 最早・・・・夫でも息子でもないと・・・・・・・・・


 「そして国民も私を悪人と見ていた。だから・・・・私は決意した」


 再び・・・・この地で自分は王として一からやり直すと。


 「部下達も遠征に行かない事を条件に了承してくれた。後は・・・・テッラ国に巣食う奸臣共を打倒する事だった」


 しかし向こうも勘付いたのか・・・・直ぐにセプテントゥリオーネス大陸中から兵を集めたとグラウス大王は語った。


 「そして起こったのが貴方の立った最後の戦いたるトレデキムの戦いですか・・・・・・・・」


 「あぁ、そうだ。私にとっては今も鮮明に蘇るほど・・・・酷い負け戦だった。出来るなら話したくないが・・・・後世の武人を思えば語らざるを得ない」


 「・・・・・・・・」


 グラウス大王の言葉に私は無言でペンを紙の上に置いた。


 それを見てグラウス大王は静かに重い口調で語り始めた。

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 テッラ国歴310年1月13日。


 その日テッラ国は・・・・セプテントゥリオーネス大陸は大動乱という巨大な炎で包み込まれた。


 10年にも及ぶ大遠征から帰って来たグラウス大王と、彼の妻、そして生母が三つ巴で戦を始めたからである。


 何故に血を分けた母と子が・・・・夫と妻が互いに刃を向け合ったのか?


 それはグラウス大王自身に原因があるのは否定できない。


 彼は10年にも及ぶ大遠征によって僅か1代で領土を拡大させた。


 しかし、それは10年間も祖国を留守にしていた事を意味している。


 この10年間によってグラウス大王の妻は国を任せた将軍と子供を儲け、それを咎めるべき立場の生母に至っては息子と同じ位の兵士と・・・・家庭を築いた。


 留守を任された筈の2人の醜い様を間近で見た将軍達は影響を受けた如く・・・・セプテントゥリオーネス大陸の至る所で略奪等を働き始めた。


 この祖国の有様を身を持って経験した国民達は英雄と祀ったグラウス大王を一変して悪人として呪った。


 その証拠にグラウス大王が帰国するや彼等はこぞって石を投げ、罵り声を上げたとされているがグラウス大王に敵対する訳でもなく・・・・かといって味方する訳でもない態度を取ったと言われている。


 つまりセプテントゥリオーネス大陸の覇者として君臨していたテッラ国で起こった「トレデキムの戦い」には同国民は殆ど関与していないのだ。


 直接関与したのはグラウス大王の大遠征に従った兵士達と、グラウス大王。


 そしてグラウス大王の妻と生母だけで、この2人の用意した兵士達に至ってはテッラ国外の周辺部族である。


 ただ、戦いの結果を言うと・・・・グラウス大王は負けた。


 トレデキムの戦いが行われた場所はテッラ国では神聖な場所とされる「サピエンス(賢者)の地」で、ここでも大王は大遠征で培った技術を活かしたのにである。


 妻の軍団と生母の軍団よりも有利な場所---高い丘を大王は選び、2人は下から攻める形になっていたから大王は自分で戦場を選んだのだ。


 もっとも大王の軍団は5万5千人であるのに対し、大王の妻は9万5千人、生母は10万という数で言えば圧倒的に有利だった。


 しかし大王には地の利がある。


 逆に大王を裏切った妻と、生母は数でこそ勝るが下から攻める形になるので地理的には不利だ。


 何より2人の軍は周辺に住む部族で、しかも金で雇われた傭兵か徴兵が主体なのに対し・・・・大王の軍は練度も高く志願兵だった。


 この点も勝利を匂わせるが・・・・結果は大王の負けだった。


 地の利と練度では大王の方が勝っていたのに・・・・負けたのだ。


 その理由は一部のテッラ国の人間が・・・・高い丘で陣を構えていた大王の側面を突く形で攻撃したからである。


 この思わぬ展開に大王の軍は総崩れとなり・・・・負けたのであるが、大王は戦死せず生きたまま捕えられた。


 そして・・・・地の果てと称される島に流され・・・・今に至る。


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