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ヴァースティタースの戦い

 戦争芸術家の異名を取ったグラウス・ドゥオ大王の回顧録を書き上げてから3年が経過した。


 その回顧録を書き上げる間・・・・私は戦争芸術家たるグラウス大王の側に居続けた。


 回顧録でも書いたがグラウス大王の人柄は武人色に偏っているが、それでいて為政者たる文人としての色も持ち合わせていた。


 例えば衣服だ。


 グラウス大王はセプテントゥリオーネス大陸の伝統衣装を基本としているが日によってメリディエース大陸と、南北大陸の伝統衣装も着る。


 これは彼の大王が大遠征で得たからというのは間違いではない。


 だが、彼の為政者として異文化でも良ければ取り入れ、そして人間も採用する融和策という面もあるのだ。


 そして今日は南北大陸の衣装を着ていた。


 「さて・・・・回顧録も書き終えた事だ。いよいよ・・・・私の戦争体験を書くか?」


 大王は肘掛椅子に座りながら問い掛けてきた。


 「はい。ただ、その前に私が回顧録で得た貴方の注視した点を挙げても良いでしょうか?」


 「あぁ、構わん」


 鷹揚に大王は承諾してくれたので私は回顧録を書いた時に纏めた点を挙げた。


 「先ず1点目は・・・・貴方様はそれまで歩兵だけで戦っていた戦場に新たなる兵種を2つ投入しましたね?」


 「あぁ・・・・騎兵と魔術師だな」


 大王の言葉に私は頷き、続きを話した。


 「騎兵に側面を護らせ、魔術師を使い遥か後方から攻撃させる。または高地から攻撃する戦法と”3兵種合体”は実に画期的ですが・・・・何処で考えたのですか?」


 「騎兵は馬に乗った時に思い付き、魔術師は市場の見世物で考えた」


 簡素に大王は言うが、それこそ彼が天才という名を欲しいままにした証とも言える。


 「なるほど。では第2点ですが・・・・貴方様は場所を選ぶのも重視しておりましたね?」

 

 「あぁ、その点は亡父や家庭教師から教えられた」


 『生物が生きる土地を見よ。そうすれば如何にして生物が生きる為に進化したか、その知恵を得る事が出来る』


 「そうですか・・・・その場所---陣地選びで勝利を得た中でも印象的なのは何でしょうか?」


 「亡父を謀殺した南北大陸の王との戦いだな」


 「というと”ヴァースティタース(荒野)の会戦”ですか?」


 「あぁ・・・・あの戦いは亡父の仇討ちという面もあったし、私が大王と呼ばれた日でもあったから印象に深い」


 しかし、あの地で陣地選びが如何に大事か・・・・学んだともグラウス大王は言った。


 このヴァースティタースの会戦が行われた場所は南北大陸の北部で、グラウス大王が大王と呼ばれる事を決定付けた戦いでもある。


 「あの戦いで私は敵より先に陣地を選び、構築する大事さを学んだ。そしてモンターナ(高地)の会戦で私は陣地選びを徹底して行い・・・・戦争芸術家の異名を頂いたのだ」


 「つまり・・・・その2つが貴方には印象が深いと?」


 「あぁ・・・・だが、勝ち戦ばかりでは偏りがある」


 負け戦を挙げるなら・・・・自分の過信が酷かった戦いは・・・・・・・・


 「最後の戦いとなった・・・・”トレデキム(13)”の会戦ですか?」


 「・・・・・・・・あの戦いで私は・・・・死にたかった」


 グラウス大王は私が言った自身が立った最後の戦いで望んだ事を口にした。


 「その次に挙げるとすれば負け戦ではないが・・・・身内を重要視過ぎた点だ。部下には自分の考えなどを余り持たせなかったのに・・・・身内には甘かった」


 この点も失点であるとグラウス大王は断言した。


 「しかし、先ずはヴァースティタースの戦いから話すとしよう」


 「お願いします」


 私は直ぐにペンと紙を用意したが、記録用の魔石も今回は用意した。


 「ふふふふ・・・・回顧録で学び取ったな?」


 「えぇ・・・・私は貴方と違い天才ではないですから経験で学びました」


 大王の言葉に苦笑して答えると大王は首を横に振った。


 「いいや、経験から学ぶ事は間違いではない。寧ろ良い傾向だ。真の愚将は経験からも学べん者を言うのだからな」


 そう言って大王はヴァースティタースの会戦を話し始め、それを聞きながら私はペンで紙に書いて纏めた。

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 テッラ国歴305年7月8日。


 南北大陸の北部にあるヴァースティタース。


 そこは名前の通り人はおろか草木すら生えていない荒野だった。


 しかし、その日に限っては違う。


 大地を覆う如く武装した人間で覆い尽くされていた。


 対立するように陣を取っていたのは2つの軍だったが、数の差で言えば南北大陸の方が上だった。


 戦象、戦車、騎兵、弓兵、槍兵、剣と盾で武装した歩兵の数は合計で10万人と見受けられた。


 それに対してセプテントゥリオーネス大陸の覇者となったばかりのテッラ国は僅か5万人程度だったから数の差で言えば圧倒的に不利だった。


 しかもテッラ国の兵種は騎兵、魔術師、歩兵の3種だったから兵種の差でも負けている。


 ところが開戦してから間もなく・・・・その上辺だけの「勝敗」は覆される展開になった。


 先陣を切ったのは他でもなくセプテントゥリオーネス大陸の覇者となったグラウス王だった点が先ず一つ挙げられる。


 王が先陣を切る形で騎兵を右翼に回した。


 左翼は彼の腹心が騎兵を率いて出陣し、南北大陸の王は両翼に配置していた騎兵に迎撃を命じ、弓兵と戦車兵、そして戦象には正面の攻撃を命じたとされている。


 南北大陸軍は弓兵で正面に居たテッラ国軍を攻撃したが、直ぐにテッラ国軍も魔術師を使って反撃した。


 数の差では南北大陸の方が上だが一度の攻撃力はテッラ国の方が勝っていたのだろう。


 瞬く間に弓兵は魔術師によって「駆逐」されたとされている。


 また戦車と戦象に至っても槍兵の「槍衾」で前進を阻止され串刺しにされた。


 だが、側面に回り込んだ戦車なども居る為に決して緒戦からテッラ国軍が圧倒的という訳ではなかった。


 その証拠に左翼の方を弱いと見たのか、南北大陸軍は左翼に騎兵等を集中投入し半包囲される事態に陥った。


 ただし、それとは別に右翼から出陣したグラウス王率いる騎兵凡そ1万と、その護衛たる軽装歩兵5千は違う。


 楔形の陣形を彼等は取ると分厚い南北大陸軍の中央に居た王を狙って突撃したのである。


 もっとも魔術師らを使い予め弓兵等を排除するなど「通り道」を設けておいてだが、それでも厚みは健在だった。


 思うように進むに時間を要し、その間に左翼は半包囲状態から各個に分断され始めた。


 並みの常人なら最早これまでと諦めるだろうが・・・・グラウス王は違う。


 大王は自らの命を捨てる勢いで前進し・・・・ついに分厚い敵の陣中央に食い付いたのである。


 それを南北大陸の王は茫然と見つめていたらしい。


 しかし大王は亡夫の仇を討たんとばかりに2本用意していた投げ槍を南北大陸の王に向かって投げた。


 1本目は南北大陸の王が乗っていた戦車の前方に突き刺さり、もう1本は南北大陸の王を掠めたとされている。


 それが南北大陸の王には決め手となったのだろう。


 自身の近衛兵だけ連れ戦場から背を向けたのである。


 王が敵前逃亡した事で南北大陸軍は一気に瓦解へと向かい、左翼に展開していた南北大陸軍も形勢逆転され・・・・完全包囲の上で敗れた。


 この戦いで南北大陸軍は10万の内5万人が戦死し、2万人が捕虜になったとされている。


 対してテッラ国軍は5万の内5千人が戦死したに過ぎない。


 この圧倒的な兵力差で劇的な勝利を掴んだグラウス王は「大王」と呼ばれるようになったのである。


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