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然る王の回顧録

傭兵の国盗り物語の作者ドラキュラです。


今回、ハインリッヒが纏めた手記で名前だけ出した古代時代の武将「グラウス」の話を書いてみました。


彼のモデルはアレキサンダー大王とナポレオンで、黄金の大国の意地と同じく一話完結型の形です。


また少し荒削りに仕上げた感じですので、そちらも御了承ください。



 「セプテントゥリオーネス大陸に在る”テッラ(陸)国”が私の生まれ育った故郷だった」


 私は肘掛け椅子に腰かけて遠い眼で語り始めた「戦争芸術家」を見た。


 目の前の人物は一大陸の中に在った小国でしかなかったテッラ国をセプテントゥリオーネス大陸の覇者へと引き上げた英雄である。


 しかし・・・・肘掛椅子に座り語る彼の表情は・・・・・・・・暗い。


 かつては才気と英気に満ち溢れ常に先頭で指揮を執り味方を勝利へ導いたのに・・・・なんという憐れな姿か。


 『これが・・・・これが戦争芸術家と言われたグラウスなのか?』


 動物の皮を鞣した紙で言葉を書きながら私は思わずにはいられなかったが、それを目の前の戦争芸術家も解ったのだろう。


 「私に嘗ての英気が無い事を疑問に思っているようだな?」


 ジロリと大きな眼で彼は私を見てきた。


 長身で細身だった身体は豚のように太り、鋭い眼は蛙のように変貌しているが・・・・声は、今も武人としての声だった。


 「・・・・申し訳ありません」


 「いや・・・・遥々テッラ国から・・・・このような”地の果て”に軟禁されている人間の所へ客人に対して私の方こそ無礼をした」


 戦争芸術家は重い息を吐いて私に謝ったが・・・・やはり・・・・憐れみの念が消えない。


 「失礼ながら・・・・どうして・・・・そのようになられたのですか?」


 回顧録を書けば何れは書く場面に入るのに私は問いを投げた。


 「それは回顧録を書き続ければ判明する事だよ。しかし敢えて今の時点で言うなら・・・・戦場で死ねなかった事が原因だよ」


 「・・・・・・・・」


 戦争芸術家の口から発せられた言葉に私は改めて彼の半生を振り返ってみた。


 テッラ国歴300年7月10日に彼は生を受けた。


 両親は当時小国だったテッラ国に仕える一武人と、その侍女だった。


 生まれた時は弱々しい体だったが、成長するに従って肉体は頑強となり知恵も常人より遥かに優れていたと言われている。


 その肉体と知恵を発揮したのはテッラ国歴310年10月3日に起こった「モンス(山)の戦い」である。


 テッラ国を併合しようとしていた同大陸に存在していた「サルトゥス(森)国家」との戦いだが、正面に兵を配置して戦う戦争に・・・・重大な「一手」を打ち込んだ。


 それは騎兵と魔術師だ。


 彼は横隊を築いた歩兵の左右、若しくは前面に騎兵を配置し魔術師は後方などに配置させるという隊を築いて10万のサルトゥス国軍を打ち負かしたのである。

 

 この時の年齢・・・・僅か10歳。


 そう・・・・10歳で目の前の戦争芸術家は自軍の10倍も兵力を誇っていた敵国を打ち負かしたのである。


 この華々しい初陣にテッラ国は大興奮に見舞われたとされているが、それは同時に周辺国家に強い警戒心を抱かせる要因にもなった。


 しかし、目の前の戦争芸術家から言わせれば周辺国家が警戒心を抱いたのは良かったのだろう。


 「初陣を私は神々の加護と寵愛を受けて華々しく飾った。その後は大遠征を行った」


 戦争芸術家は静かに語った。


 それを私はペンで書き留め、そして問い掛けた。


 「大遠征とは俗に言われている“北方遠征”ですね?」


 私の問いに戦争芸術家は頷いた。


 この北方遠征とは戦争芸術家が行った凡そ10年にも及ぶ大遠征である。


 当初の遠征はセプテントゥリオーネス大陸を併合する事で、その目的は5年で達成された。


 しかし、残る5年で・・・・・・・・


 「南北大陸を併合し、そして南に位置するメリディエース大陸の3分の1を併合しましたね」


 私の問いに戦争芸術家は頷いた。


 「あぁ。私が国王から“大王”と呼ばれた日は今も鮮明に憶えているよ」


 テッラ国歴305年7月8日の事と戦争芸術家は語った。


 その時は人生で最高の日だったのか・・・・子供みたいな笑顔を一瞬だが私に見せた。


 「ただ・・・・そこで私は満足しなかった」


 戦争芸術家は笑顔を消して暗い表情を浮かべた。


 「・・・・・・・・」


 「南北大陸を併合し、メリディエース大陸の3分の1も征服したが完全ではなかった。だから私は更なる遠征を画策した」


 今まで従った部下達も付いて来て自分の覇道を助けてくれるだろうと思った。


 「だが・・・・拒絶された」


 戦争芸術家の言葉を私は書き留め続けるが時たま理由を尋ねたり、相槌を打ったが・・・・今はしない。


 ひたすら戦争芸術家の言葉を書き留める事に終始した。


 「部下達は言った」


 『大王!我々は何時になったら祖国に帰れるのですか?』


 『大王!貴方が異文化に興味を持つのは良いでしょう!しかし我々にも強要するのは止めて下さい!!』


 『大王!我々は貴方に今まで仕えてきましたが、もう昔の戦友(なかま)は殆ど居りません!!』


 「その言葉で・・・・私は漸く気付いたよ」


 10年にも及ぶ大遠征で部下達は遠い祖国に帰りたがっていると・・・・・・・・


 「だから・・・・帰国したのですか」


 「あぁ・・・・あのまま行けばメリディエース大陸も併合できたが、それはあくまで併合だとも分かったからな」


 戦争芸術家は重く息を吐いたが、それは自分の部下達の事を暗に批判していると私は解った。


 目の前の戦争芸術家は確かに強かった。  


 常に先頭で行動し、偵察なども自分でした。


 それによって何度も敗北が濃厚な戦いを制した。


 だから50戦中47勝2敗1分けという類を見ない勝利を固持する事が出来たのだ。


 まさに「英雄」に相応しい地位と名誉、そして実力だったが・・・・それ故に何でも自分で決めた。


 ここを彼は悔いている。


 「部下達の意見を聞かず、また求めず私は与えるだけだった」

  

 それが最後の戦で一気に噴出する形になったと戦争芸術家は語った。


 「ヴァースティタース(荒野)の会戦で大王の称号を得て、モンターナ(高地)の会戦では戦争芸術家の称号を得た私が・・・・・・・・!!」


 自立して、自己完結する部下を育てなかったが故に敗北した!!


 「いや、敗北の理由は他にもあるだろう。しかし・・・・部下を教育しなかった事、そして一度の会戦で勝つ事に特化した点が一番に挙げられる筈だ」


 戦争芸術家は後悔の念から一変して冷静な口調で私に語り掛けてきた。


 その時の姿は・・・・まさに大王にして戦争芸術家と言われたグラウス・ドゥオ(2)そのものだった。


 そして・・・・私は思った。


 『この人物の回顧録は書き上げるが・・・・それとは別の書物も書いて良いのではないか?』


 目の前の人物は血生臭い戦争を一種の芸術に昇華させるという離れ業を何度も成し遂げてきたが、それは個人の才能に偏っている。


 つまり常人では逆立ちしても同じ真似は出来ない。


 だが・・・・彼が繰り広げた戦いを振り返れば必要不可欠な点、或いは注視すべき点は多々ある。


 その点を・・・・恐らく後世でも続くだろう戦争を行う人間の為に・・・・書き遺すのが良いのではないか?


 物書きとしての衝動が私を激しく揺さぶってきたが、それを戦争芸術家は見抜いたのだろう。


 「・・・・私の経験を書き遺すのなら遠慮なく言いたまえ」


 「・・・・・・・・宜しいのですか?」


 戦争芸術家の言葉に私は息を飲んで問いを投げた。


 「構わないさ。このような身になったから武人としての誇りなど・・・・とうに失せたとテッラ国では言われているだろうからな」


 「・・・・・・・・」


 「だからこそ・・・・私の経験を書き遺してくれ。それを後世に生きる人間が読んで、物にすれば武人としての誇りも多少だが回復するだろうからな」


 そう戦争芸術家は言い・・・・私は快諾した。


 しかし、その経験を書き始めたのは回顧録を書き終えた3年後の事である。


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