♯6 4月第1週【鳴響学園に行こう!】
―本編スタートです!―♯6お待たせしました。本編から1話が長くて疲れました。毎日投稿は出来なくなりそうです。内容が薄い所以外は、週一のペースで投稿しようと考えてます。それでは♯6お楽しみ下さい。
『♪〜♪♪〜〜♪〜』
枕元に置いた携帯から自作のピアノ曲が流れ、目が覚めた。着信音に設定してたよな?と思いながらモゾモゾと布団から手を出して携帯を探り当てて通話ボタンを押し耳に当てた。
【航】
『おはよう。マサ君。今日の入学式はどうやって行くの?』
そう言われてベッドの脇にある時計を見ると8時だった。
【正義】
「航か…確か9時30分迄に行けばいいんだよな?」
【航】
『うん。そうだよ。考えてないなら、この間みたいに家の車で拾って行こうか?』
あの上り坂を楽に攻略出来るなら、使わない手はないな。まぁ母さん次第だが…一応キープしとこう。
【正義】
「悪い。母さんに聞いて来るよ、5分以内にメール送るから…それじゃ」
電話を切って、手に持ったまま部屋を出た。
階段を降りてリビングに入ると、気合いの入った格好をした母さんがソファーに座り優雅にコーヒーを飲んでいた。
此処で俺の自慢の母さんを紹介しよう。
◎七瀬英理朱◎アメリカ人‐本名エリス・ブラッドフォード‐37歳‐A型‐170cm‐Cカップ‐長身のモデル体型。腰まであるウェーブの掛かった金髪に切れ長の眼&朱色の瞳。若干鼻が高い整った顔立ちで、良く駅前でモデルのスカウトに追い掛けられている。正義を溺愛しており、行き過ぎたスキンシップをしてくる。自宅でピアノ教室を開き、先生をしている。涙脆いが本当に優しい、自慢の母さんだ。
【正義】
「おはよう。母さん。今日の入学式、車で行くの?」
格好も気になったが、航を待たせると煩いので送ってくれるかを聞いた。
【英理朱】
「おはよう。まー君。車で行くつもりだから、乗せて行くわよ。因みにコレでばっちり撮ってあげるから」
今日の為に買ったといわんばかりの笑顔でビデオカメラをいじりながら、言われた。
流石にそれは恥ずかしい。何とかして阻止したいが、取り上げて泣かれると厄介だ…後でバッテリーでも抜くか。
そうだった。航にメール送ってやんないと、学園でギャーギャー喚いて目立つからな…それは避けないと。
『お前の助けなど必要ない…じゃあな』とコレで良しっ送信!
【英理朱】
「まー君。ご飯食べないの?キッチンのテーブルにサンドイッチ置いてるよ」
そろそろ服装を誘導しとくか。
【正義】
「食べるけど…その前にその格好で行くの?」
母さんの服装はワインレッドに染め上げた、シルク製の光沢が美しいロングドレスだった。
【英理朱】
「そのつもりだけど…似合わない?明斗さんは興奮して、携帯で撮って待ち受けにしてたわよ?」
父さん…綺麗なのは認めるけど、行動が若すぎるよ。それに被害者は俺なんだから…組手を装って今度ボコボコにしよう。
【正義】
「母さんは素材がいいから勿論似合うよ?でも、その長すぎる裾はどうするのさ…父さんは居ないんだから」
ウェディングタイプの裾は引き摺るタイプなので屋外では着れない。それにアレで車を運転……怖いな。色んな意味で。
【英理朱】
「そこまで言うんなら、まー君が選んでくれる?」
まだ諦めて無いのか、ジト目で此方を凝視していた。
【正義】
「黒地に白いストライプが入った、パンツスーツで良いと思うよ。この間『フロンティア』で買ったやつ。あれ着てたら俺でも惚れるんだけどなぁ」
と言った瞬間ダッシュで二階の自室に消えた…扱いやすい人だ。
それからキッチンで朝食を摂り、洗面所で歯を磨き顔を洗って自室に戻り着替える事にした。
パジャマを脱ぎ、ドアの横に置いている脱衣カゴに入れた。
それから壁のフックに掛かっている、鳴響学園の制服を眺めた。
男子の制服は藍色のブレザーに、黒と灰色のチェックのスラックスだ。また学年を区別するためにブレザーの胸ポケットには、着脱式の校章の刺繍が付いている。因みに1年は赤・2年は青・3年は緑だ。
ベッドに腰掛けて靴下を履いた。次にカッターシャツを着てボタンを留める、立ち上がりズボンを履いてベルトを通して締めた。ブレザーを着て袖口からシャツの袖を出し、折り返して袖のボタンを留めた。
腰まであるストレートの髪を、リリスさんの形見・シルバーリング状の髪留めで一本に纏めた。それから鏡の前に立ち全身をチェックした。
鏡の中にはA型‐176cm‐長身のスラッとした体型。金髪で腰まであるストレートの髪。切れ長の眼に朱色の瞳。落ち着いていて、大人びた印象を受ける男性…つまり俺、七瀬正義が立っていた。
時計を見ると9時になっていたので携帯と財布、ハンカチをポケットに入れて部屋を出た。
リビングに入ると予定通り着替えた母さんが、ソファーから立ち上がり此方を向いて。
【英理朱】
「どうかな?惚れちゃった?」
と言って顔を手で覆い、身体をくねらせていた。目の前まで行き、真剣な顔で
【正義】
「結婚式はいつにする?」
と言ってやると、ボンっと音を立てて全身真っ赤になった。
2分程放置したが戻ってこないので、頬をペシペシ叩くと戻ってきた。
【英理朱】
「もう一回だけ、言って欲しいな?」
と頼み込んできたが、無視して玄関に向かった。後ろから〈まー君のイケズー〉とか聴こえたが気にしてはいけない。
後ろから追い掛けてきた母さんと靴を履き、並んで外に出た。
――鳴響学園正門から500メートル手前―――
目の前にはリムジンやベンツ、BMW等の高級車が並んで駐車場待ちの列が出来ていた。(因みに駐車場には300台停められる)
【正義】
「ここで降りてから、歩いて行くよ。」
【英理朱】
「また後でね、いってらっしゃい」
車から降りて高級車の列を眺めながら、流石金持ちが集まる学校だ。と思いながら校門を目指した。
俺が今日から通う鳴響学園はR県天瀬川市、大瀬区の北部、天峡山の麓にある。
――以外地区別詳細―――――――――――――
大瀬区は大きく分けて西部・中部・東部に縦の線が引ける。区の中心を東西に走る鉄道、新京線の線路を横の線として6つの地区に分けられる。
西部の北側が俺の住んでいる高級住宅の立ち並ぶ、新住宅地・藍ヶ丘地区。(双葉幼稚園や藍ヶ丘小学校がある)
西部の南側は市営のマンションや住宅が立ち並ぶ、新住宅地・茜ヶ原地区。
中部は会社や病院、デパートなどが立ち並ぶ区の中枢、新市街地。北側が鳴響北、南側が鳴響南に別れている。(春日中学校がある)
東部の北側は個人の店や商店街などがある旧市街地・風波地区(おそらの庭がある)
東部の南側は格式のある名家や地主のお屋敷が多く残る旧住宅地・東観凪瀬地区
――地区詳細文終了―――――――――――――
鳴響学園は簡単に言えば、市立の金持ち高校だ。生徒数は1学年で6クラス、1クラス平均30人なので全校で550人程だ。
授業のタイムテーブルは8時半迄に登校して、10分間のSHR後に50分授業と10分休憩を繰り返す。
昼休みは40分と若干短い。だが6時限目が3時に終わる為、習い事をさせている親御さんには大変好評らしい。
各学年週1で選択授業があり美術コース(デッサン・水彩画・油彩画)と音楽コース(フルート・ヴァイオリン・ピアノ)から1つを選ばなければいけない。
選択授業は単位が0でも、学期末の実技で5人の試験官が審査して(凄く厳しい)4人からOKが貰えれば単位が貰える。
部活動・委員会は無いに等しく、どれだけ遅くても5時半迄に終わるので部活に入る生徒はあまりいない。
校舎は四階建てで、昇降口から入って左手に教室がある教育棟。教育棟の突き当たりの右側、正面から見て中庭を挟んで奥にあるのが教員・特別教室棟。右手にあるのが部活・委員会棟だ。
教育棟は上から四階に1年・三階に2年・二階に3年の教室がある。
一階にはコンビニと休憩所があり、朝8時から完全下校時間の夕方5時半まで利用できる。。
食堂は存在せず、昼食は
〈一階のコンビニで買う〉
〈自宅から持参する〉
〈朝一に昇降口横にある注文カウンターで、有名ホテルの日替り弁当を頼む〉の3パターン。
教員・特別教室棟の屋上には全面ガラス張りのカフェテリアがあり、昼休みから5時半まで景色を眺めながら優雅なティータイムが楽しめる。
校舎の外には右手前に通常の4倍はある総合体育館。奥には広大な面積のグラウンドがあり、校舎の外左側には50メートルの屋内プールがある
あとは校外に教員・来客共用の駐車場がある。
どんな学校?と聞かれたら、こう答えるだろう。…気が付けば、校門の目の前だった。校門には『風紀』と書かれた腕章を付けた生徒が両側に何人か立って、髪の色やスカートの丈の長さにピアス等の注意をしていた。
俺もあぁなるのか…と思いながらも、門を通り過ぎようとすると。
【風紀委員】
「おい!ソコの金髪!…お前だよ!ふざけてんのか!!」
無視して歩いて行くと、男子の風紀委員に腕を掴まれてしまった。
【正義】
「地毛なんですけど…離してくれませんか?…それに、茶髪OKで金髪は駄目なんですか?」
【風紀委員】
「百歩譲って地毛でもなぁ!長すぎるし、そのカラーコンタクトも違反だ!没収する!!」
茶髪云々をスルーしやがった。何を言っても聞かないなコイツ、どうするかな…逃げようかなぁ?
【???】
「おい。その新入生を離してやれ」
なんか、聞き覚えがあるなぁ…この女子の声…まさかね
【風紀委員】
「しかしながら。委員長、コイツは…[オレの言ってる事が解んねーのか!]……すいませんでした」
腕を掴んでいた風紀委員は声がした方向を見ると、手を離して頭を下げた。
声は校舎の方向からだよなと思いながら視線を向けると、明らかに知り合いの娘だった。
【???】
「久しぶりだなぁ。正義、クリスマス演奏会以来じゃねーか」
彼女は目の前まで歩いて来て、右手を差し出してきたので此方も右手でしっかり握り返して離し顔を見ながら。
【正義】
「お久しぶりです…芽衣さん……鳴響だったんですね。驚きましたよ」
◎園田芽衣◎《そのだめい》2年C組‐AB型‐169cm‐Dカップ‐国内で外食チェーン最大手の園田グループ代表の娘。スポーティーな引き締まった体型。髪は茶髪のロングをポニーテイルにしている。つり目で綺麗系の顔。凛とした雰囲気のカッコイイお姉さんタイプ。男言葉&サッパリした性格のせいで、男子からは『突撃お嬢』女子からは『芽衣様』と呼ばれている。幼い頃から剣道+薙刀で鍛えられていた為凄く強い。陸上部のエースで足も速いので『最恐の風紀委員長』として今日も学園の治安を守っている。【竹刀+黒スパッツはデフォルト】一人称は【オレ】正義とは3年前〈おそらの庭〉のクリスマス演奏会で出会った。
【芽衣】
「しっかし驚いたよ。緑台受けるって言ってた正義が…まさかウチに来るとはねぇ」
【正義】
「俺だって驚きましたよ。いつも私服だったから…その制服良く似合ってますよ」
女子の制服はブレザーは同じなのだが、校章が縫い付けてあり外れない。かわりに襟元のリボンで学年が解るようになっている。因みに芽衣さんは2年なので青。スカートはプリーツタイプで赤と黒のチェックだ。
【芽衣】
「まぁ、ガキ共と遊ぶと汚れるからな。それに、恥ずかしいじゃねぇか。オレみたいなのが、お嬢様ばっかの学校に通ってるなんて」
顔を真っ赤にしながら言ってきた。やっぱり芽衣さんは優しい人だなぁ。フランクで話しやすいし。
【正義】
「さっきは助かりました。いい加減ウザかったですから」
【芽衣】
「すまねぇな。コイツ達にはきっちり言い聞かせとくからよ」
そう言ってから頭を下げてきた。
【正義】
「そうしてくれると助かります。頭を上げて下さい…芽衣さんは何も悪くないんですから」
頭を上げてくれたのでホッとした。いつもケジメは確りしないといけないって、子供達に言ってるからな……アレ?…そういえば今何時だ?…携帯を取り出すと9時48分……周りを見ると俺と芽衣さんしか居なかった。
【正義】
「ヤバい!…芽衣さん。遅刻なんでもう行かないとっ!」
【芽衣】
「急がなくてもいいぞ?…元々ウチのモンの不手際だからな。オレが一緒に行って、事情を説明してやるよ!」
断ろうか悩んだが、自分の考えは絶対に曲げない人だからなと思い。
【正義】
「それじゃ宜しくお願いします」
と言って2人で教室に向かった。
昇降口でクラス発表を見るとA組だった。それから世間話をしながら歩いて、教室の前に着いた。
【芽衣】
「ちょっと待ってろよ?…直ぐ済むからな。」
そう言い残し教室に前の扉から入って行った。教室の中がざわついたが、直ぐに芽衣さんは出てきた。
【芽衣】
「もう何も言われないから、安心して行ってこい。…言い忘れてたが、クリスマスはありがとな。ガキ共喜んでたぜ。じゃあまたな。」
そう言い残し廊下を曲がって視界から消えた。教室のドアを開けると視線が集中したが、直ぐに散っていった。
窓際の一番後ろが空いていたので、座ると机に『マサ君専用』と書かれた紙がテープで貼ってあった。
視線を上げると目の前に航が座っていた。此方を向いて小声で話かけてきた。
【航】
「災難だったね…でも結果的に1日で片付いて良かったかもね」
◎鳴海航◎1年A組‐B型‐165cm‐昔から続く名家の跡取り。男に見えない程身体の線が細く、声が高い。髪は黒髪の中分けに刈り上げの坊っちゃんスタイル。パッチリとした大きな眼で童顔。女の子に間違われる事がコンプレックスなので、自分を強く魅せる為乱暴な言動で振る舞っている。しかし化けの皮が剥がれると、女子に揉みくちゃにされるクラスのマスコット。恋華の許嫁兼恋人(主従関係?)一人称は【俺〜僕】
【正義】
「なんか朝から凄い疲れた…入学式で俺寝るから、終わったら起こして」
【航】
「わかった…因みにさっきの先輩は知り合い?」
やっぱり聞かれたか…まぁ問題ないし教えてやるか。
【正義】
「あぁ。知り合って3年になる…園田芽衣先輩だ、体育会系だけど優しい人だぞ」
【航】
「やっぱり?…竹刀持ってたもんね」
そんな話をしていると突然、教室が騒がしくなった。周囲を見回すと、担任らしき男性が教室から出ていった。気になって時計を見ると10時になっていた。
【正義】
「入学式は?確か10時からじゃなかったか?」
入学案内にはそう書いてあった筈だ。遅れてるのか…まぁ問題ないな。
【航】
「マサ君が来る少し前に先生が10時15分から体育館に移動して、30分から式が始まるって行ってたよ」
【正義】
「へぇ…そうなん[うわぁ久しぶり。て言うか航と知り合いだったんだ?]……だ?」
不意に直ぐ横から女子の声が聴こえてきたので、そちらを向くと見覚えがある娘だった。航を呼び捨てにしてる……年明けに電話で言ってた許嫁か?…身体的特徴も一致してるし……それに久しぶりって言ったよな?…何処で会ったかなぁ。
航に視線を送ると苦笑していた。視線を戻すと、胸の前で祈る様に両手を組んで此方を見つめていた……聞いてみるしかないな。
【正義】
「以前、何処かでお会いしましたか?…顔には見覚えがあるのですが」
そう言うと彼女は肩をガックリと落として、顔を伏せた。悪い事したなぁ…でも思い出せない……情けないなぁ。そんな自分に少しだけ自己嫌悪した。
【???】
「去年の年末に春日東公園で……会ったじゃん」
年末は辛い事ばっかりだったからなぁ。……年末…春日東……女の子!…泣いてた娘か!!
【正義】
「ゴメン。思い出したよ。確か……恋華だっけ?」
恐る恐る聞いてみると彼女はガバッと顔を上げて笑顔になり、コクコクと頷いた。
【恋華】
「うん。…あの時はありがとね。お陰様で3人仲良く暮らせてるよ」
◎橘恋華◎1年A組‐O型‐158cm‐Aカップ‐鳴海家の分家、橘家の二女。本人はスラッとしたモデル体型と言っているが、航曰く凹凸の無いコケシらしい。髪は茶髪のショートカット。眼はタレ目で童顔の可愛い系。初対面の人に対して必ず、猫被りスキルを発動する。スキルを解除した途端、語尾に『〜じゃん』みたいな喋りかたになる。航に対してキレると『女王様モード』を発動して、航を犬の様に扱う(絶対服従・ガード不可)因みに航は猫被り発動中に、5秒で恋華に惚れた(笑)。一人称は【アタシ】
【正義】
「それは良かった…ところで、恋華って航の許嫁?…呼び捨てにしてるし」
【恋華】
「うん。航はアタシの許嫁兼恋人」
言いながら航の腕に抱き着いた。ジト目で航の顔を見ると
【航】
「付き合ってるのを言わなかったのは悪かったけど…ほら、川上さんの事もあったし」
そう言って悲しそうな顔をした。航…気を遣ってくれてたんだな。心の中で〈サンキュ〉と呟いた。
【正義】
「お前が気にしてどうすんだよ…て言うか、何でお前が知ってる?」
と言ってから睨み付けた。航にも川上さんの事は言ってない。本人から…いや、それはない筈だ。じゃあ何で知ってる?
【航】
「川上さんの背中を押したの…僕なんだ。前から相談されてて…視てられなくて……ゴメン。黙って勝手な事して」
航は深く頭を下げた。偶然、テレビで視たとか言えば良いのに。本当に真っ白な奴だ。これじゃ…怒るに怒れねぇよ。恋華の顔を見ると頭の上に???マークが飛んでいた。
【正義】
「頭を上げてくれ…悪かったな。俺が釘を刺しとけば…皆、辛い想いをしなかった筈だ。それに、もう過ぎた事だろ?…川上さんとはたまに電話で話すけど、全然気にしてないって言ってるよ」
そこまで言うと漸く頭を上げてくれた。ふと周囲を見ると皆、此方を観ていた。
【航】
「本当にゴメン。でも川上さんも元気そうで良かった」
【正義】
「航…恋華が暇そうだ。それに俺達、注目浴びてるぞ」
航は恋華の顔を見ると青ざめた。存在が空気になっていたのでキレた様だ。恋華の背後に炎の様なものが見える。
《女王様モード発動》
【女王・恋華】
「航君…このワタクシをシカトですか?……いい度胸ですねぇ。…そういえばこの部屋、暑いですわねぇ……ねぇ…わ・た・るっ!!!」
【航】
「……………逝ってきまーす!」
《女王様モード解除》
眼が糸目になった恋華に言われると、航はダッシュで教室を出ていった。なんか字が違った気がするが。て言うかもう皆、廊下に出てるし。
【恋華】
「それじゃ廊下に並ぼっか。マー君」
【正義】
「………あぁ」
余りの変わり様に声を出すのがやっとだった。我に還って廊下に出た恋華の後を追って、隊列を組んで体育館に向かった。
――5分後‐教室前――
1階のコンビニでお茶を買って戻って来た航。
【航】
「ハァ…ハァ…買ってきた…よ?……僕一人?…………遅れるぅーーーー!」
誰も居なくなった廊下に航の叫び声が響いていた。
体育館に入るとパイプ椅子が並べられており、担任に誘導されて椅子に座った。
保護者席の方向を見ると、母さんがビデオカメラで此方を撮りながら手を振っていた。
そこで漸くバッテリーを抜き損ねた事を思い出し、頭を抱えた。
視線を逸らして腕を組み、顔を伏せて眼を閉じた。〈まー君。寝ちゃ駄目、せめてこっち向いて寝てー〉と叫んでいたが反応すると、ウチの親だとバレるので無視を決めこんだ。
あまりの恥ずかしさに、顔から火が出そうだった。そのまま2分程すると式が始まったので静かになった。航の事が気になったが、眠気に勝てず意識を手放した。
体を揺すられる感覚で意識を取り戻した。眼を開けると航の顔が至近距離にあったので、手で顔を押して距離をとった。
立ち上がって辺りを見回すと、数十人の上級生らしき生徒と保護者数人しか居なかった。
【航】
「入学式はもう終わったよ。中途半端な時間に寝ると、相変わらず寝起き悪いね?」
【正義】
「今日は特別だ…朝から疲れすぎた」
【航】
「教室に行かないと…自己紹介とかするらしいよ」
【正義】
「しっかり笑いを取ってくれよ?…恋華・俺・航の順だろ。出席番号順なら、トリはお前だろ?」
そう言って踵を返して歩き出した。航も直ぐについてきたが、隣を歩きながらブツブツなにかを言っていた。
教室に戻る途中に担任の名前、担当教科を聞いた。名前は松原誠一、担当は数学らしい。
教室に戻ると担任はまだ来て無かったので、席に座ってとりあえず『マサ君専用』と書かれた紙を剥がして航の背中にそっと貼りつけた。
航と話していると前の方に座っていた恋華が寄って来た。
【恋華】
「航は良いとしてマー君はこの後、用事とかあったりする?」
【正義】
「別に用事は無いが…何かあるのか?」
【航】
「俺は良いとしてって…まぁ暇だからいいけど」
【恋華】
「カフェテリアに行ってみない?…ケーキがかなり美味しいって聞いたから。教室に戻る途中で、中学から仲の良い娘に誘われちゃって……駄目かなぁ?」
と不安そうな顔で聞いてきた。ケーキは好きだから別に行っても良いかな。今日はレッスンも無いし。どうせ家でまったりする予定だったしな。
【正義】
「いいよ。ケーキは好きだしね。」
と言ってやると忽ち笑顔になって〈良し!〉と言いながら小さくガッツポーズをしていた。
その姿を眺めていると教室の扉が開き30代後半位の眼鏡をかけた男性教師が入って来た。
それまで立っていた生徒は皆、席に座り忽ち静かになった。教師は教壇に立って皆の顔を眺めてから口を開いた。
【松原】
「俺の自己紹介は済んだが、お前達の顔と名前を覚えていない。…俺とクラスメイトに覚えてもらえる様に、一人一人自己紹介をしてくれ。どれだけ長くても、短くても構わないから…出席番号順で一人ずつ前に来い」
それから暫く聞いていたが、金持ち学校らしく家柄の自慢や習い事で賞を取ったなど…全く自分の事を話していなかった。
【松原】
「次は…橘」
恋華が立ち上がり教壇に立って此方を向いた。
【恋華】
「皆様、初めまして。鳴海家の分家、橘家の橘恋華と申します。どちらかと言うと、勉強より体を動かす事のほうが好きなので勉強は苦手です。解らない時に教えて下さると嬉しいです。趣味は映画鑑賞で、特技は犬(航)の躾です。1年間宜しくお願いします」
恋華が自己紹介を終え微笑むと、拍手が巻き起こった…猫被りスキルを発動しやがった。犬が航にしか聞こえなかったが……次は俺か…まぁ、何とかなるだろ。
【松原】
「次は…七瀬」
立ち上がり教壇に歩いて行くと、すれ違い様に恋華から〈頑張って〉と小声で言われた。教壇に立って皆の方を向くと、ヒソヒソと小声で大多数が話していた。またかと思いながらも、後ろの黒板を視ながら口を開いた。
【正義】
「春日中学から来た、七瀬正義です。俺はハーフなので、金髪と瞳の色は産まれつきです。趣味は音楽鑑賞、特技は英会話。1年間宜しくな」
と無難に纏めて教壇を降りた。席に戻っていると〈怖そうよね〉〈…格好良い〉〈アイツ何処の会社の後継者だろ?〉様々な声が聴こえてきた。
航の横を通り過ぎ様に〈頑張れよ〉と小声で言って、肩を叩いて自分の席に座った。
【松原】
「次は……鳴海?」
【航】
「先生!何で俺だけ疑問系なんですかっ!」
勢い良く立ち上がり、机を叩いて教壇に向かった。
背中に貼った『マサ君専用』の紙を視て皆大爆笑だった。
航は大爆笑の原因が解らずに自己紹介を始めた。
【航】
「春日中から来た、鳴海航です。先ほど橘さんが言っていた、鳴海家が俺の家です。勉強もスポーツも一通り出来ます。趣味は読書で、特技はタイピングです。宜しくお願いします。
クスクスとクラス中から笑われながらも、自己紹介を終えて戻って来た。
【航】
「何で皆笑ってたのか知ってる?」
【正義】
「さぁな…それより前を向け、自己紹介してる奴に失礼だろ?」
航が前を向いたので『笑いの原因』をそっと回収して机の中に入れた。
自己紹介が終わり、松原が1年間のスケジュールを黒板に書いていた。幾つか気になる事が書いていた。…学園全体社交会?…本校+附属大学集団社交界?……なんだあの2つは?…誰も質問しないしな。その時になれば解るか。
【松原】
「明日から通常授業だから、忘れ物の無い様にな。それじゃ今日はお疲れさん」
と言い残して教室を出ていった。すると、直ぐに恋華が寄ってきた。
【恋華】
「じゃあ2人で先に行ってて。友達連れて行くから」
と言い残し教室を出ていった。航と顔を見合わせて。
【正義】
「行くか?」
航が頷いたのを確認して、鞄を持ってカフェテリアを目指した。
普通なら屋上のドア(ガラス製)を開けてカフェテリアに着くと、8割位の席は埋まっていた。
【ウェイトレス】
「2名様ですか?」
【正義】
「いや、後で2人来ます」
中に入ると直ぐに、20代前半位のウェイトレスの女性に話し掛けられた。
【ウェイトレス】
「それでは此方へ」
と言われて着いていくと、壁際にある4人掛けの長方形のテーブルに案内された。椅子に座ると。
【ウェイトレス】
「注文が決まりましたら、此方のボタンで御呼びください……それではごゆっくり」
テーブルのボタンを説明してから頭を下げて、テーブルから離れた。
置かれていたメニューを一通り眺めてから、俺はコーヒーとレアチーズケーキ。航はミルクティーとティラミスを頼んだ。
ケーキを食べ終わりコーヒーを飲んでいると、目の前の椅子が引かれて顔を上げると恋華だった。
【恋華】
「ゴメンね。遅くなって」
言いながら航の対面の椅子に座った。1人しか居ないなと思っていると、3年間で綺麗に成長した幼馴染みが入口の方から歩いて来た。
目の前まで来て俺と視線が絡むと。
【???】
「ヒロ君っ!逢いたかった!」
持っていた鞄を床に落とし、走って勢い良く横から抱き着いてきた。椅子から立ち上がり、正面から抱き返して耳元に優しい声で囁いた。
【正義】
「お帰り。美咲桜」
美咲桜は声を殺して、俺の胸に顔を擦り付けて泣いていた。ポンポンと背中を軽く叩くと、ゆっくりと離れて顔を上げた。
【美咲桜】
「ただいまっ。ヒロ君っ!」
◎桐原美咲桜◎3/14生まれ‐1年D組‐A型‐172cm‐Cカップ‐政財界に多大な影響力を持つ桐原財閥の代表の娘。モデルの様なスレンダーな体型。髪はシャギーの入った黒髪で、背中の中程まであるセミロング。切れ長の眼に形の良い少し高めの鼻、ピンクの小さな唇。パーツの揃った綺麗な顔。道行く人が皆振り返る程の美人。基本的には優しいが、特別扱い(お嬢様扱い)されるとキレる。正義以外の男には基本的に毒舌になり、プライドを粉々に破壊する『姫モード』になる。スポーツ、勉強がトップクラスの文武両道型。料理は上手いが辛党。携帯以外使えない程のメカ音痴。一人称は【私】
ブレザーのポケットからハンカチを取り出して、涙を拭ってやると美しい笑顔を向けてきた。周囲を観ると、航や恋華も含めた全員が唖然として口を開き此方を観ていた。
【正義】
「とりあえず座りなよ。皆観てるよ?」
正面の椅子を勧めながら、自分の椅子に座った。美咲桜は頬を真っ赤に染めて、落とした鞄を拾い素早く椅子に座った。
【正義】
「美咲桜も恋華も何か頼んだら?…俺もコーヒーもう1杯飲みたいし」
と言って恋華の方を見ると、何か言いたそうな顔をしていた。俺と美咲桜の関係を知りたいんだろうな…まぁ話すけどね。
美咲桜が苺のミルフィーユとダージリンティー、恋華はアップルパイとミルクティーを頼んだ。ついでに俺は、コーヒーをもう1杯頼んだ。
恋華は関係が余程知りたいのか、凄い勢いでパイが皿から消えた。視線を美咲桜に移すと、ゆっくりと上品な動作で味を楽しんでいた。
えらい違うなぁと思いながら、コーヒーを飲んでいると。
【恋華】
「マー君っ!美咲桜とはどういう関係なの?」
やっぱり聴かれたか。解りやすいなぁ…さて、何処から話したものか?
【航】
「うん。こんな綺麗な娘と、どうやって知り合ったの?」
最初からになりそうだなぁ…と思いながら美咲桜に視線を送りウインクすると、微笑み返してきた。
当時を思い出しながら、ゆっくりと口を開いた。
【正義】
「俺が初めて美咲桜と出逢ったのは…5歳の春だった。当時俺は、幼稚園で浮いてたんだ。この外見だろ?…化け物とか言われてた。いつも1人…遊戯室でピアノを弾いてた。ある日いつもの様にピアノを弾いてると、美咲桜が眠そうな顔して部屋に入って来たんだ。俺は美咲桜が心配だった…俺と遊ぶと皆、その子を相手にしなくなるんだ。最初は何人か仲の良い子が居たけど、孤独の重圧に負けて離れていった。…でも美咲桜は違った。俺から離れなかった。しかも他の子とも根気良く接して、俺と皆の両方を手に入れやがった。欲しい物は自分で勝ち取る姿が…俺には天使に見えたよ。それから美咲桜は俺の母さんからピアノを教えてもらって、小学校卒業迄いつも一緒だった。……それで先程、3年振りに再会した…そんな関係」
ピアノの話をした時、美咲桜の表情が曇ったのが気になるな…まぁ今は聞くべきじゃないな。
【恋華】
「なるほどねぇ…じゃあ何で『ヒロ君』なの?…正義だよね、名前?」
【美咲桜】
「それは私が話すよ。正義って漢字『せいぎ』って書くでしょ?『せいぎの味方』だからヒーロー。せれを縮めて『ヒロ君』にしたの。金髪で朱色の瞳のヒロ君がピアノを弾く姿が、絵本の中の王子様みたいだったから…『私のヒーロー』になってくれないかなって」
顔を真っ赤しながら説明を終えた。恥ずかしいなら〈縮めて〉の件で終われば良いのに…後半は初めて聴いたなぁ。……そういえばいつもママゴトの配役が、王子と姫だった気がする。
【恋華】
「へぇ〜。『ヒロ君』て呼び名にそんなエピソードがあるとはねぇ」
言い終わると、恋華はニヤニヤしながら美咲桜に視線を向けていた。その一方で、航は2人の胸を見比べて溜め息を吐いていた。
【美咲桜】
「もっ…もうっこの話はお終いっ!…解った!?」
動揺しながらダンッと机を叩き、会話を打ち切った。そろそろフォローしてやるか…話題でも変えよう。
【正義】
「そういえば…皆、選択授業は何にするか決めた?俺は一応ピアノだけど」
【航】
「俺は油彩画かな…油絵に興味あるし」
【恋華】
「アタシも油彩画。昔から絵は好きだしね」
【美咲桜】
「…………………」
美咲桜は顔を伏せて黙り込んでしまった。やっぱり…ピアノで何かあったのかな。俺も3年間コンクールに出てないから、解らないしな。何があったかはゆっくり探ればいいとして…原因は俺だし、この重苦しい空気をどうにかしないとな。
【正義】
「今日は俺の奢りだから。3人とも遠慮なく食ってくれ」
俺の意図が伝わった様で、恋華は航に目配せしてメニューを眺めてから、ボタンを押した。ウェイトレスに俺からは見えない様にメニューを見せて〈ココからココまでお願いします〉と指差しながら言った。ウェイトレスは驚いた顔をしたが〈畏まりました〉と言ってカウンターに戻った。
数分後のテーブルには隙間無く大量のケーキが置かれた。
【正義】
「こんなに食えるわけ無いだろっ!」
【恋華】
「アタシが10個は食べるから大丈夫だよ?…あとは1人2、3個食べれば無くなるじゃん。………いざという時は航(犬)が居るから大丈夫」
唖然としたが、場を盛り上げようしてくれている恋華に感謝した。
【航】
「あの栄養が少しでも胸にいけばなぁ…すみませんっ、恋華さんは今のまま[プッ…クスクスッ…]…でとてもお綺麗です?」
女王様モードが発動しかけて、航が必死でフォローしていると漸く顔を上げて笑ってくれた。
【美咲桜】
「…ゴメンね。気を遣わせちゃって。良しっ!ヒロ君…私もご馳走になるね!」
と言って目の前のモンブランを食べ始めた。原因が解るまでピアノの話は避けよう……原因が解って…もし力になれるなら、全力でフォローしよう!…そう決心してから、目の前にある洋梨のタルトを口に運んだ。―――――――――――――――――――――
あの後、何とか全てを食べきり(恋華が航の口に、無理矢理ケーキを詰め込んでいた)学校生活の展望や、とりとめの無い話をしてカフェテリアを出た。
校門まで来ると女子2人は、迎えの車で帰って行った。帰り際、美咲桜の家に誘われたが〈近いうちに行く〉と告げると〈絶対来てねっ!〉と言い残し帰って行った。
駐車場を見に行くと、母さんのフェアレディは停まって無かった。
航に〈乗って行く?〉と言われて、航の家のリムジンで家まで送ってもらった。
【正義】
「ありがとな…お陰で歩かないで済んだ」
家の前でリムジンから降りて、頭を下げた。
【航】
「別にいいよ。確かに家とは反対方向だけどさ、俺が送りたいから送った…それだけだよ」
【正義】
「わかった…じゃあ、また明日な」
【航】
「うん。明日の朝に電話するから、じゃあね」
そう言い残しリムジンは走り去って行った。それから踵を返して家に入った。
玄関に父さんの靴があったので、珍しいなと思いながらも靴を脱ぎ捨てリビングに向かった。
【正義】
「ただいま。父さん………と母さん」
2人はソファーに座って、テレビに繋いだビデオカメラの映像(入学式)を観ていた。
【明斗】
「お帰り。寝ちゃ駄目だろ正義…折角母さんが撮ってくれてたのに」
◎七瀬明斗◎37歳‐B型‐178cm‐長身で引き締まった体型。黒髪の短髪でシャープな顔つき。七瀬流護身術の師範。現在は特殊警備を派遣するSGSの社長。正義は明斗に鍛えられて、現在は正義の方が強い。基本的には優しいが『家族』を傷付ける奴を絶対に許さない。
【英理朱】
「私はついでなの?」
【正義】
「だって何も言わずに帰ったでしょ。それに父さんっ!…今度じっくり組手でもしようね?……じっくりとね」
【明斗】
「正義…なんでそんな恐ろしい顔をしてるんだ?俺が何かした……(滝汗)」
【正義】
「心当たりがあるみたいだねぇ…今週末にでも、会社の道場にお邪魔するから……逃げたら…わかってるよねっ!?」
父さんは青ざめて母さんに抱き着いてガタガタ震えていた。
【英理朱】
「まー君。あんまり明斗さん虐めちゃ駄目よ?……先に帰ったのは謝るから、ゴメンね」
2人をいじるのも飽きたので、部屋に戻る事を母さんに告げて自室に戻った。
制服を脱いでクローゼットにしまい、黒のスウェットを着て携帯を枕元に置きべッドに倒れ込んだ。
今日一日の出来事を思い出していると、急激な眠気に襲われて其処で意識が途絶えた――――――――――――――――――――――――――――――――
正義が自室に戻った後のリビングでは。
【明斗】
「育て方を何処で間違えたかなぁ?」
【英理朱】
「まー君は格好良い・優しい・強い・三拍子揃ってるから間違ってないんじゃない?」
噛み合わない会話が続いていた。
入学式長っ…と思った読書の方、スミマセン。地域説明や学校説明で一頁使いきる位気合い入れて書いてます。拙い解説文ですが、世界観を想像してもらえれば嬉しいですね。此処から彼処が近いとか思いながら読んでもらえたら幸せです。
恐らく来週になると思いますが♯7でお会いしましょう。