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♯11 5月第2週【まー君の成長記録・体育祭編】(映像提供・撮影→英理朱さん)

♯11出来ましたっと。

病院での執筆なので執筆時間に制限があり、メチャクチャ手こずらされました。

内容はゴメディ7にほのぼの2、シリアス1で構成してます。(そのつもりです)世間は夏休みという事で、暇つぶしに読んで戴ければ幸いです。(28ページもあるので茶菓子等を用意してお楽しみ下さい)因みにで本編とは別物と思ってもらって構いません。長くなりましたが、それでは♯11お楽しみ下さい。



ゴールデンウィーク明けから本格的に体育祭ムード一色になり、厳しい練習(ドッジの練習は虐めだろ?)が一昨日(金曜日)迄続いた。



俺は出場種目の変更を要求したが、結局『無理』の一言で却下されクライマックスリレーのアンカーに抜擢されてしまった(ボーナス欲しさに眼がイっちゃってる松原の独断で)



クラス練習では玉入れや綱引き等の団体種目でやることも無く(俺は出ない為)、その様子を毎回遠くから眺めていた。玉入れの練習時に、何故か恋華が籠ではなく航を狙っていた事があった。その時航が助けを求めてきたが、その後を追ってきた悪魔(恋華?)に眼で脅された為に目の前で起こる惨劇を見守る事しかできなかった。



全体練習の時に、敵軍の混合リレー出場選手が確認できた。青組はやはりクレイジー娘×2+美咲桜が出場していて、もう一人は3年の男子陸上部員だった。芽衣さんは〈あの先輩は正義より速いと思うぜ?…実業団からスカウトされてるって顧問が言ってたしな!〉と言っていた。航にその事を話すと〈クライマックスリレーは責任重大だねぇ〜…頑張ってねマサ君〉と他人面してプレッシャーをかけてきやがった。



全体練習も無事に終わり、安心して校舎に戻っていると〈ドッジボールの出場者はこのまま残ってくれ!〉と言う松原の声によって地獄への門が開かれた。



では此処でドッジボールの練習風景(惨劇)の一部始終をご覧いただこうと思う。



―PLAYBACK――――――正義SIDE―



2日前…体育祭もいよいよ明後日に迫り、グラウンドでは選択授業を差し替えて最後の全体練習が行われていた。


今は金曜日……俺と航は先程のまで行われていた体育祭の全体練習を終えて、校舎に向かって歩いていた。


【航】

「体育祭の振休は何か予定ある?」


【正義】

「月曜日か?…う〜ん…今のところは無いな」


本当は『おそらの庭』で、子供達に1日中ピアノを教えてやる予定なんだがな。


【航】

「予定無いんだったら、久しぶりに俺の家に遊びに来ない?…このあいだ母さんが寂しそうに『最近…マサ君遊びに来ないね?』って言ってからさ!」


広海ひろみさんねぇ〜…そういえば最近逢ってなかったな。高校入ってから一度も遊びに行ってないし、近いうち顔出しに行こう。


【正義】

「また今度にしとくよ…多分疲れ果ててると思うしな」


【航】

「解った、母さんにもそう伝えておくよ。確かにいろんな種目に出るもんね…お互い」


【正義】

「まぁ…程々に頑張れ[ドッジボールの出場者はこのまま残ってくれ!]…………え?」


2人で顔を見合わせて背後からの声に振り返ると、走りながら石灰でライン引きをする松原が居た(一人一殺と書かれた鉢巻き装着済み)


【航】

「松原先生…何であんなに気合い入ってるの?…鉢巻きまで巻いてる…」


【正義】

「知らねぇよ。どうせ、ボーナスが懸かってるから必死なんじゃないか?……妻子持ちだしな」


【航】

「あっ!…彼処に芽衣先輩達が居る」


そう言いながら航が指差した方に視線を向けると、青組3人が集まって何かを話していた。


【正義】

「とりあえず行ってみよう…敵だけど」


【航】

「そうだね。情報収集は大事な事だし」


2人頷き合って、青組3人の所に向かって歩きだした。


近くまで行くと、此方に気付いた美咲桜が大きく手を振り此方に駆け寄ってきた。


【美咲桜】

「A組はヒロ君と鳴海君なの?」


【正義】

「あぁ。不本意ながらな…当日は軍手が必要になりそうだ」


【航】

「いい加減に諦めたら?…俺だってイヤだよ。あんな銃弾みたいなボール、捕球できる訳ないんだから」


【美咲桜】

「そんなに凄いの?」


人が次々と吹っ飛んでいく様な球って言ったら……どういう反応をするんだろう?


【正義】

「まぁな…美咲桜達のクラスは、競技説明の映像を観てないのか?」


【美咲桜】

「うん。なんか観ない方が良いって言ってて、見せてもらえなかった」


【航】

「それ正解!…もし観てたら棄権者続出だったと思うよ?」


【松原】

「良しっ!…色別に別れてコートに入れっ!…ジャンパーは真ん中に来い、直ぐに始めるぞ」


【美咲桜】

「準備が終わったみたいだね……じゃあ2人共、怪我には気をつけてねっ!…それじゃ!」


【航】

「俺達も行こうか……戦場に」


【正義】

「だな。芽衣さんに狙われない事を祈るしかない」


美咲桜に続いて、俺達も赤組のコートに入った。青組のコートに視線を向けると、亜沙美と美咲桜が此方を指差して何かを話していた。


【航】

「あの2人よりも芽衣先輩に注意しよう。ジャンパーだから、捕球したらそのまま狙って来るよ…こっち観てニヤニヤしてるし」


航の声に反応してジャンパーに視線を向けると、芽衣さんは此方を観ながらニヤニヤしていた。


【正義】

「なぁ……俺達って明らかに狙われてない?」


【航】

「間違いなく狙われてるね!……まだ死にたくないし、頑張って避けよう?」


【松原】

「んじゃ始めるぞっ!……レディ……ゴーッ!!」


松原がボールを高く投げると同時に、ジャンパー3人がボールに手を伸ばし跳躍した。


チッ…捕ったのは緑かよ。とりあえず後ろに下がるか。先ずは様子見だな…………青狙いか。


【緑組男子】

「食らえっ!」


陣地に転がって来たボールを拾った男子が直ぐに、青組女子を狙ってかなり速い球を投げた。


【芽衣】

「おっと!…まさか女から狙うとは思わなかったぜ」


【青組女子】

「あっ…ありがとう園田さん!助かったわ」


ボールの軌道上に体を滑り込ませ、味方の女子を庇う様に捕球していた。礼を言ってきた女子を手で征すると、ボールを投げてきた男子を鋭い視線で睨みつけていた。


【芽衣】

「弱い女から狙う卑怯なテメェは…………死ねやぁーーーっ!!!」


ライン際まで助走してからアンダースローの体制で、地を這う矢のようなボールを投げた。


【緑組男子】

「こんな球!……跳んで避けグハァーーーーッ!!!」


【一般の選手全員】

「えええええぇーーーーーーーーーっ!!!?」


【正義】

「ズドーン!って音したよ今…………何アレ?」


芽衣さんが投げた地を這う矢のようなボールは、跳んで避けようとした緑組男子の目の前で急浮上した。そのままボールは彼の腹に突き刺さり、彼はコートの外まで吹っ跳んでいった。


【航】

「さぁ?…ただ、これだけは言える。…………………絶対に無理っ!!」


ボールは青組のコートに跳ね返っており、彼女はボールを弄びながら捕食者の様な眼で次の獲物を捜していた。


【芽衣】

「次は…ダレ逝っとくか?アイツ等はメインディッシュだから…………とりあえずお前は逝っとけ!!!」


【赤組男子】

「フッ…捕ってみせギャーーーーーーッ!!!」


こっちを観ながらメインディッシュとか言ってたよね?……とか考えてる間に、斜め前に居た赤組の先輩が跳んでいった。


【亜沙美】

「園田先輩っ!次は私が殺りたいですっ!!」


【芽衣】

「亜沙美か…ほらよっ!………あの2人以外は殺っちまって良いぞっ!!」


芽衣さんは眼を輝かせて近寄って来た亜沙美にボールを手渡していた。もうこの際、字が違う事に突っ込むのは止めよう…キリがない。


次は亜沙美か……そこはかとなく嫌な予感がするな。…『ドゴーン!』とか『ズドーン!』みたいな、あり得ない擬音が耳に届かない事を祈る。


因みに『あの2人』とか言いながら、思いっきり此方を指差してましたが何か?


【亜沙美】

「さ〜て、誰から殺っちゃおっかなぁ〜?……赤組に投げたらあの2人に当たるかもしれないからっ!……キミから逝っちゃえ!!」


軽く助走をつけてから緑組男子に向けて、オーバースローの体制から矢のようなボールを放った。


【緑組男子】

「コレなら捕れる!……良しっ!……なっ!?…馬鹿ぐはぁーーーっ!!」


【一般の選手全員】

「ドゴーン!…………………………ってナニ?」


【正義】

「ドゴーン!って音したよ今……何あの球!?」


普通のバックスピンじゃない回転の仕方だったな…捕球した両手を弾き飛ばしやがった。しかも喰らった奴うずくまってるし……でも芽衣さんのと比べたら遅いし、球威も無さそうだな。……俺に捕れるか?


【航】

「ジャイロボール!?………今の絶対スパイラル回転してたよっ!?」


あぁ!野球で速球派の投手が投げる……ってコレ野球じゃない!…ドッジボールだしっ!!


【正義】

「お前、アレ捕れる自信ある?……俺は勝算70%位かな、不安要素がまだ多いけど…」


とりあえずあの回転が厄介だな……回転に対して逆に回転を与える様に捕球しないと、弾き飛ばされる可能性が高いな。球威も吹っ飛ばない位なら問題ない…スピードはあるけど、もし捕れなくてもアレ位なら避けられるしな。


【亜沙美】

「次はっ!……キミが逝っちゃえ!!」


【緑組男子】

「こんな球っ!……ギャーーッ!!」


気がついたら、また1人チャレンジャーが亜沙美の投げる球の餌食になっていた。


【航】

「う〜ん…芽衣先輩のアンダーやオーバースローに比べたら捕れそうだよね。…処理できなくても、あのスピードなら避ければ良いだけだしね!」


コイツ…捕る気あるのか?……下手したら永久コンボだぞ?


【航】

「まぁ何とかなるよ!…避けて外野に拾って[次はテメェだっ!!]…もらえば[ぐギャーーーッ!!]………良いだけだしね…」


今度は芽衣さんか…今のはオーバースローだったな。やっぱりアンダーよりも速い、球威は同じ位か……軌道から考えても捕るならこっちだな。でも避けるのはギリギリだし…そもそもアレを捕れるかなぁ…俺?


【正義】

「外野か…確かに亜沙美はそれでなんとかなる。……でも芽衣さんはどうする?…アンダーは避けるとして、お前はあのスピードのオーバーを避けれるのか?」


【美咲桜】

「次は私の番だねっ!…逝っくよぉ〜〜!!」


声に反応して美咲桜に視線を移すと、サイドスローで女子にしては結構速い球を投げていた。


【赤組男子】

「この程度のスピードでっ!……なにぃ!!」


美咲桜のは……フォークボール?…胸の高さから膝下まで落ちたな、とんでもない落差だ。……初見じゃまず捕れねぇよ、あんな落差のフォーク。


【航】

「アレは捕れるっ!……本番でアレだけなら良いんだけど」


【正義】

「俺も同感。…美咲桜にしてはスピードも球威も無いし、本気で投げてない様な気がする」


【航】

「っていうか……俺達、ボールに触れてなくない?」


【亜沙美】

「逝ってらっしゃ〜い!!」


【赤組男子】

「俺なら捕れるっ!…ッ!?…訳な……かった…」


そういえば触れてないな……段々味方が減ってきてるし。


【航】

「マサ君っ!…ボールこっちに残ってるよっ!……はい、パ〜ス!」


漸くボールに触れたな…練習だから青組の3人は狙わないとして、誰から殺るかなぁ………航に選ばせてやるか。


【正義】

「サンキュ。因みにお前、青と緑どっちの色が好き?」


【航】

「青かなぁ〜?…山よりは海派だからね!」


【正義】

「そうか、海は溺れるから嫌いか!…じゃあ青組に死んでもらうとしよう!………逝っちまいなぁーーッ!!」


【青組男子】

「なっ!…速グボァ!!」


とりあえず近くに居た男子を1人殺っておいた。ボールも戻って来たし、言うこと無いな!


【航】

「ちょ!…俺が狙えって言ったみたいに言わないでよ!!」


大きな声出しちゃって…そうか、そんなに目立ちたいのか。じゃあ絶叫でもしてもらうかな………死ぬなよ。


【芽衣】

「殺ってくれるじゃねーかっ!!…お前等そんなに死にたいなら早く言えよ?」


予定通り食い付いてきたな…後一押しでお前は人柱確定だ。


【正義】

「コイツが『青なんて色は見るのも不愉快だから消せ』って、さっきから煩いんですよ」


【航】

「ちょ!?芽衣先輩っ!…俺じゃなく[わぁ〜たぁ〜るぅ〜〜ッ!]……………ヒィ!!!」


さてと、後はボールを向こうに残すだけ……楽勝〜♪


【航】

「まだボールは俺達にある!…渡さ無ければどうという事は無い!!」


………甘いよ航…激甘だよっ!…手元が狂えば何とでもなるのだよ!!


【正義】

「くらえやー♪(棒読み)」


前に出ていた青組男子の顔面めがけて、ボールを思いっきり投げつけた。


【青組男子】

「なっ!……顔面はセグフッ!」


【松原】

「七瀬…惜しかったな?…顔面はセーフだから、青ボールで再開だっ!!」


【航】

「ええぇ〜〜〜っ!?」


先程までの強気な航は完全に消え去り、後方のライン際ギリギリまで物凄いスピードで後ずさった。


【芽衣】

「航ぅ…オレは優しいから選ばせてやるぞ?…上と下……どっちで逝きたい?」


指の上でボールを回しながら、満面の笑顔で死刑宣告を告げた。


【航】

「………………女の子らしいボールでお願いします!」


【正義】

「バカヤローッ!!……お前!なに禁断の呪文唱えてん[女の子らしいだぁ!?]………だ!?」


ゴゴゴゴゴ――


何か大地が震える音がするんですケド!?…ヤバくない?


【芽衣】

「オレはそんなに男みたいか!?……ならっ!男らしく殺してヤらァーーーーーーッ!!!」


!!!………レーザー光線!!?


【航】

「ちょ!?……避けラグハァーーーーーっ!!!」


とまあ、こんな感じで殺ったり殺られたりが1時間程続いた。結局赤組は俺達2人以外全滅(航は顔面ブロックでセーフ)、緑組は全員殲滅された。青組は例の3人+女子1人が生き残った(俺が本気を出せば、殺ろうと思えば殺れた……と思う)


因みに芽衣さんの餌食になった男子生徒(女子は全員、美咲桜が処理していた)は全員保健室送りで、亜沙美に殺られた男子生徒は腹をおさえてウンウンと唸っていた。



―PLAYBACK―――――――――END―



…………という訳で今日は体育祭当日、先程いつもの様に迎えに来た鳴海家のリムジンに乗り込んだ。


【航】

「ドッジボールコワイ!ドッジボールコワイ!ドッジボールコワイ!!」


隣に座り頭を抱え、此方を観ようともせずに繰り返し呟いていた。


一昨日のトラウマ?…しかし、顔面セーフのルールは使えるな。ドッジも総合ポイント次第で勝つ必要性が出てくるし、死なない程度に頑張ろう。


【正義】

「大丈夫だって!…赤組がリードしてれば無理に一位狙わなくてすむからさ?……そうならない様に『男らしく』頑張ろうぜ?」


酷い怯えっぷりだったので、久しぶりに航の操作ワード『男らしく』を使ってみた。


【航】

「男らしく?…………そうだっ!…俺は男!…青組には負けねぇ!!」


相変わらず単純な奴だ……今度は熱くなりすぎでちょっとウザイな。…なんか最近のコイツは微妙に扱いづらいなぁ〜。


【正義】

「まぁ…程々に頑張ろうぜ?……配点高い種目だけは…」


俺は1500×2と混合リレーにクライマックスの4つ、普通に多いな。


【航】

「配点高い種目か……俺は混合リレー位しか無いから、出場種目は青組に全力で勝ちに行くよ!!…ドッジボールを棄権できる様に、お互いに今日は頑張ろうねっ!」


勝とうと思えば勝てるんだけどなぁ……亜沙美を自力で殺れればだけど。


【正義】

「あぁ!…まだ死にたくないしな!」


校門前で車を降り、打倒青組の作戦を考えながら教室に向かった。










【正義】

「はよーっす!」


【航】

「おはよー!…今日は頑張ろうね!」


【女子A】

「七瀬君っ!今日は頑張ってね!」


【女子B】

「七瀬君って、クライマックスリレーのアンカーだよね!?…私達も応援頑張るから、頑張ってねっ!」


【女子C?】

「鳴海君……私…応援…してる……から……頑張って…」


教室に入るなり何故か激励を受けた。無視されてプルプルと肩を震わせている(凹んでいる?)航を残して席に着いた。


【女子C?】

「鳴海君?…どうかしましたか?…お顔が赤く[ふっ]…ふっ?」


【航】

「…ざけんなっ!…なにが女子Cだっ!!立ち絵が無いキャラに為りすましてから手の込んだマネすんじゃねーーーっ!!!」


立ち絵?為りすます?…何の事を言ってるんだ。恋華がちょっと声色と言葉遣いを変えただけじゃないか。またギャルゲーの電波でも受信してるのかな?


【女子C?】

「チッ!…使えねぇな!このシャバ憎がぁ!…イジられキャラの分際で…」


【航】

「誰だよソレっ!?何キャラなの?ワケわかんねーよ!いい加減に名前枠を修正してよ!ハァハァ…疲れた」


【女子C?→恋華】

「本来の台詞は……えーっと?…うえぇ!?………おはよー2人共!今日は頑張ろうね!(棒読み)」


誰だ?…廊下でカンペ持ってる奴。何々…………


―――恋華様専用―――

ゴメン!恋華ちゃん!!


航の馬鹿がネタに気付くの早すぎて尺が余る!


ツッコミも微妙で間がもたないから台詞アドリブで尺稼いで!


エキストラから笑いも取って!(余裕があればで良いです!)

――――音×恋――――


尺とかエキストラって何?……何かの撮影してるのか?


【航】

「ハァ〜…朝っぱらから疲れたよ…」


椅子に座るなり机に突っ伏して、魂の抜けた様な声を出した。


【恋華】

「マー君、今日は頑張って絶対に総合優勝しようね!?」


さっきのはスルーなの?……スゲー聞いてみたい。…でも聞いたら、取り返しがつかない様な事になる気がするんだよな。


【正義】

「あ…あぁ。頑張ろうな…」


【松原】

「全員席に着けー!……お前等全員来てるかー!……良しっ!欠席者は居ない様だな」


松原は此方を向いて空席が無いのを確認すると、黒板に大きな文字を書き始めた。


『殺られる前に殺れ!』


【松原】

「バレなきゃ反則にならない精神だ!…徒競走系なら肘鉄を喰らわす!足を引っ掻ける!……玉入れなら籠を抑える奴を倒す!敵に投げる!……騎馬戦なら馬を潰せ!蹴りを入れても構わん!……リレーは…バトンを叩き落とせ!……とまあこんな感じで殺れば勝てる。お前達なら殺れる!……必ず最優秀クラスを取るんだっ!!!」


【クラス全員】

「オオオオオォォォーーーーーーーッ!!!!」


【航】

「アハハハハッ!…マサ君…体育祭でルールって存在すると思う?」


笑ってる!?コイツ…………………本当に航か?


【正義】

「あるんじゃない?…敵味方に別れて競い合うんだから。…戦争でも、戦場に核落とすのは反則だと思うしな」


【航】

「甘い!……ドッジボール前でケリをつけないと、俺達2人は人柱確定なんだよ?」


緊急回避シールドの分際で何を偉そうに…人柱確定なのはお前だ!


【松原】

「あからさまなのは、注意や減点の対象にされるから気をつけろ。ルールブックに書いて無い事は反則にならないから、遠慮なく殺ってしまえ!…後は怪我しな[ハイ!…質問です!]……どうした鳴海?」


航が勢い良く椅子から立ち上がり手を挙げた。


【航】

「例えば…玉入れには『自軍の籠に玉を多く入れたチームの勝ち』としか書いて無いって事は、さっき先生が言ってた2つは反則にならないって事ですよね?」


【松原】

「そうだ!…まだあるから、自分の出場種目は良くルールを確認しとけよ!………今40分だから…55分迄に着替えてグラウンドに集合!…解散!」


【恋華】

「航!…また後でね〜!」


女子は更衣室で着替える為に教室を出ていった。


【航】

「生き残る為には…最初から全力でいかないとね!」


【正義】

「お前…たかがドッジにビビりすぎだろ?…ちゃんと秘策を用意してるから心配するな…………多分な(ニヤリ)」


【航】

「本当に?…満面の笑顔でサムズアップしながら言われても……信じてもいいのだろうか」


【正義】

「いいのだろうか?…って、誰に説明してんだ?…心配するなっ!亜沙美を殺れれば330%勝てる!」


【航】

「330%って偉く中途半端な数字だね?……要は亜沙美ちゃんさえ殺せば、楽勝って事だよね?」


【正義】

「YES!…だからそう悲観するな。お前は敵を掃除しながら、亜沙美か美咲桜のボールでもキャッチしとけ。…………………あの3人は俺が殺るからさ」


ルールでは開始から30分経過するか、1チーム以外全滅で競技終了だからな。


前者なら俺達2人が残ったら、青組3人のうち2人を殺れれば勝てる。でも結局は後者なんだろうなぁ?…あの3人の火力なら、10分もあれば終わる気がする。


でも芽衣さんを速攻で倒せれば、俺達さえ死ななければ絶対に勝てる!……俺がジャンパーになって速攻……が一番手堅いかな。


【航】

「良しっ!…着替え終わったし……鞄なんて開けて、どうしたの?」


確かこの辺に……あった!…コレが無いと手がボロボロになるからな。


【正義】

「ほらっ!…軍手やるからポケットに容れとけ……んじゃ行きますか!」


軍手を受け取り、ぼーっとしている航を置き去りにして教室を出た。


【航】

「ちょっと待ってよ!……マサ君の分は?」


俺はジャージのポケットからライダーグローブを出して、装着して見せてやった。


【航】

「へぇ〜考えたね…それなら高速スピンも平気そうだ!……安心して任せられるよ」


ルールの欠点を話しながら、昇降口で靴を履き替えてグラウンドに向かった。










【松原】

「1‐Aはこっちだ!…急いでくれ!他のクラスはもう整列終わってるぞ。…順番はどうでもいいから真っ直ぐ並べ」


松原の声に反応して視線を向けると、最後尾で恋華が此方を向いて手を振っていた。2人頷き合ってから、小走りでその後ろに並んだ。


【松原】

「良しっ!…全員居るな、直ぐに開会式が始まるから大人しくしてろよ?」


そう言い残し教師の立ち位置に向かった。


【恋華】

「遅かったねぇ〜…どうかしたの?」


恋華は体操服に着替えて、額には足元まで届きそうな長さの赤い鉢巻きを装着していた。


鳴響の体操服は、男子はオーソドックスな半袖に色違いのハーフパンツ(制服と同様にパンツの色で学年が解る様になっている)因みに俺は1年の赤いハーフパンツの上にジャージを穿いている。


女子の格好は男子と同じ風通しの良い半袖、下には色違いのブルマを穿いている。(恋華は1年だから赤)


【航】

「裏技とか色々とね?…[ハイ。コレ着けてね!]…鉢巻きは全員着けるの?」


恋華は航に鉢巻きを渡して俺の背後に移動した。


【恋華】

「マー君はアタシが着けてあげるね!……髪サラサラで羨ましい!……良しっ!コレで高めに縛ってポニーテールにしよっと!…………うわぁ〜綺麗…マー君って本当に男なの?」


なんかちょっとだけ痛い…いつもは下の方で纏めるから慣れてないせいかな?航…そんなニヤニヤした顔で此方を観るな。いつもの女装ネタの仕返しか?


【航】

「本当に綺麗だよ!…俺が女だったら間違いなく惚れてるね!」


ニヤニヤしやがって……相当根に持ってやがるな?


【正義】

「それだけは勘弁して!………それに惚れても、俺の一番は予約済みだから無理だぞ?」


【航】

「なっ!…想像する暇も無くフられた!?……何か複雑な気分だ」


【恋華】

「キャハハハハハ…フられてるぅ〜!」


【校長】

「ゴホンッ!……ではこれより第40回、体育祭の開催を此処に宣言する!」


パチパチパチパチ――


校長が壇上から降りるのと入れ違いで松原が壇上に上がった。


【松原】

「えー体育祭運営委員長の松原です。…今から軽く挨拶と注意事項を説明するから良く聴いててくれ!…雲一つ無い快晴で本番を迎えられた事を嬉しく思います。えー今日は保護者の方々も大勢いらっしゃっているから、迷惑をかけない様注意を払って各自行動するように。……長話はしないからもう少しだけちゃんと聴いててくれよ?…えー今日は赤青緑の3色に別れて、互いに競い合い…高め合えるよう、全員死力を尽くすように!…後は自分の出場種目の前は5分前行動を心がけてくれ!…種目数が多いので各自、進行が遅れてしまわない様な行動をする様に!……以上だ……では解散!」


【航】

「マサ君と俺ってしょっぱな出番だよね?」


【正義】

「あぁ…400だろ?さっさと行こうぜ!」


集合場所に集まると直ぐに競技がスタートした。一周400のトラックを半周したら次の組がスタートするため、進行はかなり早い。


【航】

「次は俺の組だ…行って来るよ!」


【正義】

「ウケを狙うなよ!…一位以外は罰ゲームだからな♪」

     ・

     ・

     ・

     ・

     ・

学年別男子400進行中

     ・

     ・

     ・

     ・

     ・

【航】

「楽勝〜♪…お互い余裕だったね?」


【正義】

「美咲桜が『もし負けたらー』とか叫んでたからな……恐ろしくて負けられねぇよ!」


2人共一位を取ってから1‐Aの待機場所に戻って、女子400を観ながら話していた。


【航】

「おっ!…美咲桜ちゃん出て来たよ?」


スタート地点に視線を移すと此方を向いて両手をブンブンと振っていた。


【正義】

「余裕だなぁ…流石は学年トップ」


【航】

「スタートしたっ!………独走だ[美咲桜頑張れーっ!]……声デかっ!」


美咲桜はスタートから一気に後続を引き離すと、そのまま一位でゴールを駆け抜けた。


【正義】

「声がデかいのは当たり前だ!…知らない奴ならいざ知らず、親しい友人が走ってるんだからな!……他の奴がどうなろうと知ったこっちゃけど」


【航】

「ゴメンって!……あっ!…次の組、恋華と亜沙美ちゃんが走るみたいだ!」


2人はスタート位置で睨み合っていた。


【正義】

「あの2人って仲悪かった?……周りの人達引いてるんだけど」


【航】

「イヤ普通でしょ?…勝負事だからお互い熱くなって[おっ!スタートしたぞ!]………恋華負けるなーっ!」


2人は緑を置き去りにして競り合っていた。良い勝負だな……どっちが前だ?


【航】

「微妙に負けたっぽい」


【正義】

「あぁ多分…………残念だったな?…戻って来たら慰めてやれ」


ガッツポーズしている亜沙美と地に両手を突いて落ち込んでる恋華、どちらが勝ったかは一目瞭然だった。


暫くして怒り狂った恋華が戻って来たが、航が体を張って周囲への被害は食い止めた。


【恋華】

「芽衣先輩だ!……うわぁ〜…メチャクチャ速いね!」


【正義】

「速っ!…1500はキツそうだなぁ」


【航】

「独走だったね〜…これは混合リレーも注意しないとね?」


2位を100メートル近く引き離してぶっちぎりの一位だった。


【恋華】

「皆次の800出る事になってるけど、2人はまだ行かないで大丈夫なの?」


【航】

「まだ今走ってる三年女子が結構残ってるし、大丈夫でしょ?」


確認の為スタート地点に視線を移すと、10組どころか半分の5組しか居ない。


【正義】

「おいおい、じゃあ急がないとヤバくないか?……後4組しか残って無いぞ!」


【航】

「嘘っ!……さっきまで10組位は居たのに!……ほら、マサ君行くよっ?」


【正義】

「ちょ!…引っ張るなって」


航に腕を引っ張られて、ズルズルとスタート位置付近に向かった。


【恋華】

「2人共頑張ってね〜!……………フフッ…亜沙美ぃ〜、次はアンタがアタシにひれ伏す番よ!!」

     ・

     ・

     ・

     ・

     ・

学年別男子800進行中

     ・

     ・

     ・

     ・

     ・

待機場所に戻って来ると、クラスメートから〈一位おめでとう!〉〈次も頼むぞー!〉等の言葉を掛けられた。


【正義】

「本当にこの学園は運動音痴が多いな?」


【航】

「そうだねぇ〜…でもこっちの組は中々速い奴が居たよ?」


女子の出番を待ってる間、お互い先程の戦果について話し合っていた。


【正義】

「どうせ陸上部なんじゃないか?……芽衣さんって、軟弱な後輩にはスパルタだしさ」


【航】

「そっか…いつも『それでも男かぁー!』って部活中に叫んでるもんね。それよりも…………気になる事があるんだけど」


【正義】

「何だよ?…真剣な顔して」


いきなりその場から立ち上がり、右腕を明後日の方向に向けて空の彼方を指差した。


【航】

「俺達が走ってる時……凄い『はしょられてる』気がしない?……ウソッ!もう終わってんのっ!?…みたいな?」


【正義】

「何を言ってるんだ?……お前は電波でも受信してんのか?」


はしょられてる?……コイツ、ギャルゲーのやりすぎで頭が病んでいるのでは。


【航】

「なにその『頭でも病んでるの?』みたいな顔……俺は至って正常だからっ!」


何で解ったんだ?……俺ってそんなに顔に出るのか?


【正義】

「あれって美咲桜と恋華じゃね?……同じ組みたいだな」


航をいじるのに飽きたので、スタート地点に視線を移すと2人が睨み合っていた。


航……暴走止めるの頑張れよ。


【航】

「また暴れる恋華を止めるのか。ハァ〜…気が重い」


自分の立ち位置、良く解ってるじゃん。おっ!スタートした………案外良い勝負か?


【航】

「恋華ぁーーーっ!美咲桜ちゃんに負けるなーっ!」


美咲桜は走りながらこっちに視線を向ける程余裕があった。


【正義】

「残念♪美咲桜は、こっからが…………ほらな?」


一周目は横一線だったがラスト半周でスパートをかけると、あっという間に2人の差が開いた。


【航】

「ねぇマサ君…恋華を宥める役………交代しない?」


美咲桜は自分のクラスの待機場所に向けてピースサイン、恋華は地面に膝を突き頭を抱え何かを叫んでいた。


【正義】

「無 理 だ ♪」


【航】

「嬉しそうだねっ!?ハァ〜………次の次は亜沙美ちゃんの組か」


そりゃ〜嬉しいにきまってるよ。……さっきは抱き着くと見せ掛けた『サバ折り』だったし、次は何かなぁ〜?


【正義】

「まぁ何とかなるって?……しかし、美咲桜はやっぱり要注意だな。スピードあるし…持久力も申し分ない、流すのは無理そうだなぁ〜1500は…」


【航】

「うえぇ!?…2種目とも流してあの速さなのっ!?」


コイツは何『マジで!?』みたいな顔してんの?……11秒後半位で走ったつもりなんだが、ペース狂ってたのかなぁ。


【正義】

「お前だって本気じゃ………ほらっ亜沙美が走ってるぞ?」


【航】

「おぉ〜!…あの緑の娘速いね?亜沙美ちゃんが抜かれてる」


あの娘……陸上部員か?フォームに無駄がない綺麗な走りをするな。


【正義】

「亜沙美はまだ余裕が……………あるにきまってるよね」


抜かれた後をピッタリ着いて走っていたが、最後の直線でスパートしてゴール前ギリギリで抜き去った。


【航】

「スタミナは底無しみたいだね?…純粋なスピード勝負で勝つしか無さそうだ」


確かに…スタートから逃げ切るしかないな。


【正義】

「おっ!…丁度一年生が終わって……芽衣さん最初の[イギャーーッ!!]…………航?」


【恋華】

「あぁー悔しい!…またっ!……負けたっ…じゃ…ないっ!」


叫び声に振り返ると、航はコブラツイストを極められていた。


【航】

「ちょ!…イタタタタッ!!……また次[アンタがっ!確り応援っ!…しないか…らっ!]……俺のせギャーーッ!!?」


【正義】

「俺はイチャついている2人を見なかった事にして、走っている芽衣さんの応援をする事にした。………めいさんがんばれー!(棒読み)」


【航】

「ちょっと!…誰に説明してんの!?…それにイチャつイタタタタッ!…ギブギブギブギブッ!!!」


【恋華】

「…………あぁー!航虐めたら漸く気が晴れたよ。芽衣先輩はどうだった、マー君?」


【正義】

「お疲れ。残念だったな?……芽衣さんは、彼処で仁王立ちしてる」


ボロボロになってシートに倒れている航を置き去りにして、恋華が此方に寄って着た。先程の戦果を労ってから、『1』の旗を持って仁王立ちしている芽衣さんの方を指差した。


【恋華】

「芽衣先輩が一位取る度、黄色い歓声が凄いね?」


【正義】

「あぁ…それよりも彼処で転がってるゴミは大[誰がゴミだって!?]……丈夫みたいだな」


航は顔を伏せたままユラリと立ち上がると、ゆっくりと此方に歩いて来た(ちょっと不気味だった)


【航】

「ハァハァハァ…ハァ……助けてよ…マジ死ぬかと思った!」


【恋華】

「アンタなにハァハァ言ってんの?……コブラツイスト萌え?」


萌え?……恋華も時々ワケわからない事を言うよな…電波カップル?


【航】

「恋華のせいだろっ!?……ハァ…もう良いよ、どうせ俺が全て悪[良く解ってるじゃん?]………理不尽だ」


今頃気付くなよ……恋華に頭撫でられてるし、逆に慰められてんじゃねーよ。


【恋華】

「マー君?…美咲桜が向こうから凄いスピードでこっちに走って来てるよ?」


ドドドドド――


指差した方に視線を向けると、砂煙を舞い上がらせながら走る美咲桜の姿が確認できた。


【美咲桜】

「ヒ〜ロ〜君っ!…私の活躍観ててくれた?」


此方に来るなり正面から抱き着かれた。


【正義】

「一位おめでとう。…ちゃんと観てたよ?………よしよし[ふにゃ〜]…頑張ったな!」


頭を撫でてやると気持ち良さそうに眼を細めて、猫みたいに身体を擦り寄せてきた。


【恋華】

「美咲桜は玉入れには出ないの?……もうすぐ始まるよ?」


【美咲桜】

「にゃふ?……出ないから此処に来たんだけど?」


身体を離して返事をすると、今度は右腕に抱き着いてきた。…………にゃふ?


【航】

「じゃあ俺達は行くよ……ちゃんと観ててね!絶対に青組を潰してくるから」


【恋華】

「フフッ…亜沙美ぃ!今度こそ逃がさないよ?」


2人は立ち上がり、不気味に笑いながら集合場所に歩いて行った。………航も裏表でだいぶ雰囲気変わるな。恋華の毒に侵されてないと良いが、多分手遅れだろうな。〈クケケケケケッ!〉とか聞こえるし。


【美咲桜】

「ねぇ?…ヒロ君は何で玉入れに出なかったの?」


【正義】

「ん?…俺が寝てる間に全部決まってたから……出なかった訳じゃないよ?」


【美咲桜】

「小学校の頃から変わらないねぇ〜…委員会とか演劇の配役決める時とか、絶対にヒロ君寝ちゃってたもんね?」


懐かしいなぁ〜…あの頃はクラスの皆に無視されてたし、どうせ俺が言っても相手にされないから寝てたんだよな。


【正義】

「ハハッ!そうだったな。寝た後いつも起こしてくれてたよな?」


【美咲桜】

「あの頃のヒロ君の寝顔は可愛かったなぁ〜…こう!抱きしめたくなる様な!」


言いながら腕を抱きしめる力が強くなった。…右肩に載せてきた頭を軽く撫でてやり、玉入れの準備をしているトラックの中に視線を向けた。


【正義】

「美咲桜?…甘えるのは後!ほらっ!玉入れが始まるみたいだぞ?」


【美咲桜】

「ヒロ君?…久しぶりに『アレ』…して欲しいな?………………ダメ?」


そう言いながら顔を真っ赤にしてモジモジしていた。


アレねぇ〜?……冷やかされそうだから気が進まないけど、こんな顔されたら断れねぇよな。


シートに座って伸ばしていた足を戻して胡座を組んだ。


【正義】

「これでいいんだろ?……おいで」


美咲桜の方に視線を向けて、胡座を組んだ足をポンポンと叩いてみせた。


【美咲桜】

「おっ邪魔っしまぁ〜〜す♪」


【正義】

「早っ!?…ハハッ!……しょうがねぇな〜♪」


凄い早さで胡座を組んだ足の上に座ってきて、此方に身体を預けてきた。


【美咲桜】

「感触といい座り心地といい……やっぱりヒロ君は最高だねっ♪」


ハハッ…最早何も言うまい。俺も美咲桜になら、座られるの嫌いじゃないしな。


【正義】

「ほらっ!…俺の顔ばっか観てないで、玉入れを観ないとな?」


【美咲桜】

「うん。……あっ!始まった」


美咲桜から視線を移すと恋華と亜沙美の2人が両手でガッチリと組み合い、お互いに牽制しながら睨み合っていた。


【美咲桜】

「亜沙美ぃーーっ!!…恋華は無視して鳴海君を止めてー!」


牽制し合って動けない2人を無視しつつ、航は3人の男子を引き連れ敵陣に突っ込もうとしていた。


【航】

「お前等は俺の盾だっ!向かって来る奴は全力で排除しろ、俺は籠を殺る!……突撃ぃーっ!!!」


【航の手駒?×3】

「おおおぉぉーーーーーっ!!」


どんだけ声デかいんだよ……軽く100メートルは離れてるんだが。


【正義】

「………おぉ〜!殺りやがった。…良いぞー航っ!緑は無視して戻れーーーっ!!」


航は籠の下の棒を支えている選手を蹴り飛ばして、(バレてないの?)青組の籠を倒す事に成功していた。


【美咲桜】

「あぁ〜あ…負けちゃった。鳴海君と恋華の作戦勝ちだね…」


赤組の籠を男子で守備を固めて突撃した航の作戦勝ちだな。……しかし亜沙美に恋華をぶつけて無効化するとは、航…なんて恐ろしい子。


【正義】

「残念だったな……よしよし…自分の[美咲桜ぉーーっ!何処だーーっ!]………え?」


頭を撫でていると叫び声がしたので、振り返ると芽衣さんがすぐ後ろに仁王立ちしていた。


【美咲桜】

「は〜い?…どうしました先輩?」


座ったまま振り向きもせずに返事を返した。


【芽衣】

「おい正義!……美咲桜はこの辺に居るのか?…声が聴こえた様な気がしたが…」


【正義】

「此処に居ますよ!……俺に座ってます」


首だけ後ろを振り向いて、美咲桜が見える様に体の向きを変えた。


【芽衣】

「また正義とベタベタしてたのか?ハァ〜…次の障害物競争に出るんだろ?…さっきから担任が顔を青くして『桐原さーん!何処ですかー?』って泣きながら捜してたぞ?」


泣きながら?…どのクラスの担任も苦労してんだなぁ。


【美咲桜】

「は〜い…じゃあねヒロ君!…頑張るから応援宜しくね?」


【正義】

「応援するから頑張れよ!」


立ち上がると此方に手を振って、集合場所に向かって走って行った。


【芽衣】

「味方の応援もしないで美咲桜とベタベタしてるとは、正義も余裕だなぁ〜?……まぁお前達がいくら頑張ろうが、どのみち勝つのはオレ達青組だけどな!!」


ニヤニヤしながら、座っている俺を見下ろす様に挑発してきた。


美咲桜は関係ないだろ!なんだあのニヤけた顔は?…それに上から目線なのが気に入らない。……何があったかは知らないし、芽衣さんらしくない行動だけど…………上等だっ!売られた喧嘩は買わねぇとな!!


【正義】

「ハハッ!…喜んでいられるも今のうちですよ?」


立ち上がって顔を近付けお互いに睨み合った。(周囲に人垣が出来ていた)


【航・恋華】

「ねぇ?…2人[んだよ!!]……ヒィ!!!」


いつの間にか近くに居た2人が話に割り込んできたが、気が立っている芽衣さんに睨みつけられてガタガタと震えていた。


【芽衣】

「言ってくれるじゃねぇーか!…青組はオレが絶対勝たせてみせる、殺れるモンなら殺ってみなっ!!」


【航・恋華】

「……………マサ(マー)君も止め[黙ってろ!!]………ごごごごめんなさいぃ!!」


あそこまで言われて引き下がれってのか?……冗談じゃねぇ!


【正義】

「言われなくても……午前中ラストの1500でどちらが上か、ハッキリさせてあげますよ?」


【航・恋華】

「………………………」


【芽衣】

「有言実行…楽しみにしてるぜ?………………あぁそうそう!さっきまでの温存した走りじゃオレには勝てねぇから、全力で来いよ?」


そう言い残し踵を返してその場から立ち去った。………全力を出させる為の挑発か?……まぁ考えても仕方無い…そこまで言うなら望み通り、全力で勝ちにいくだけだ。


【恋華】

「マ…マー君?…とりあえず冷静になろ?」


【航】

「そ…そうそう!…リラックスリラックス!」


そんなに恐い顔をしてるのか俺は?…俺が熱くなったせいで無駄に心配かけちまった、それに皆も引いてる。


【正義】

「2人共すまなかったな?…美咲桜の名前出されてカッとなっちまった」


【恋華】

「良かったぁ〜………いつものマー君だ!」


【航】

「マサ君?…知り合いの前ではキレない方が良い。……その場に居合わせた人は、マサ君が自覚してる以上に恐がってるんだから…」


自覚してる以上に…ね。本気でキレた訳じゃないんだけどな。


クラスで俺一人が浮いてないのも……楽しく過ごせるのも……全部…全部2人がくれたモノだもんな。美咲桜の件といい今回の件といい、本当に俺は学習しない……馬鹿だ。


【恋華】

「っ!?…航!アンタ言い過ぎだよ!マー君落ち込ん[良いんだっ!…本当にゴメンな?]………うん…」


【正義】

「航もゴメン……これからは、直ぐに熱くならない様に努力するよ」


2人に『こんな俺と友達で居てくれてありがとう』と心の中で何度も繰り返し、この想いが届く事を祈りながら深く頭を下げた。


【航】

「マサ君…………頭を上げてよ?…俺も言い過ぎたし今回はお互い様って事でさ?」


…………………………………良しっ!反省終了!落ち込んでる暇なんて無いよな。頑張ろう!


【正義】

「あぁ…本当にゴメンな?……これからはもっとカルシウムを摂取して、キレにくい身体を目指すぜ!」


頭を上げてから安心感を与える為に明るく言ってみた。(因みにカルシウム摂取はマジでやるがな)


【航】

「それでこそマサ君だよ!………あっちゃ〜障害物競争見逃した!」


【恋華】

「さっきチラッと観たけど……美咲桜が一位で亜沙美は……クスッ…三位だったよ。…因みに網に絡まって『このボクがっ…こんな網ごときで負ける?…悔しいぃーっ!』とか叫んでたよ?」


それは是非観たかったな。……障害物競争が終わったって事は、えーっと…次は学年別リレーか?その次が綱引き…騎馬戦と続くんだよな。


【正義】

「次の学年別リレーって、まだ行かなくても良いのか?」


スタート地点に視線を移すと、かなりの人数が集まっていた。(松原?が此方に何かを叫んでいた)


【航】

「行かないとマズイかもね?…松原先生?がこっちに何か言ってるし」


【恋華】

「松原先生?…が呼んでるみたいだし2人共早く行こうっ!」


誰も『松原?』に突っ込んでくれなかった………虚しい。

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学年・男女別200×4リレー進行中

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俺達のチームは一位で、恋華のチームは緑に負けて二位。美咲桜のチームは健闘虚しく赤に敗れて二位、亜沙美のチームは第一走者が転倒して遅れを取り戻せず三位だった。芽衣さんのチーム?……………………当然一位ですが何か?


【航】

「絶対に俺達だけ、はしょられてるよ!…『俺達のチームは一位』って他に何かあるでしょ!?」


【正義】

「そっちか〜…俺としてはさっきの『松原?』に突っ込んで欲しかった…」


【恋華】

「一位取れただけマシじゃん?…アタシ達は二位だったのにさ〜」


3人で待機場所に戻り、シートに座り込んで先程の戦果?を話し合っていた。


【正義】

「スルー?…やっぱりボケはむいてないのかな………残念だ」


【航】

「まぁまぁ…あの『はしょり』が無ければ間違いなく突っ込んでたから、落ち込まないでよ?」


【恋華】

「総合ポイントはまだ、青組に少し負けてるなぁ?…頑張ろっと!」


【正義】

「会話にも絡まないのかよっ!……………もうええデス」


【航】

「ちょ!…語尾がヤバいって!?………アレ?俺達何か忘れてない」


【恋華】

「何かって?…[橘さんと鳴海君?…先生が、綱引きが始まるから早く来いって言ってたよ?]………ああああぁぁぁーーーーっ!!!…すっかり忘れてた!……教えてくれてありがと、ほらっ!航っ!さっさと行くよっ!?」


【航】

「解ったから引き摺らなイーヤァーーーーーッ!!!」


航は襟を掴まれてズルズルと引き摺られて行った。


やれやれ…忙しい奴等だ。戻って来る前に気付けよ、なんか松原が可哀想に思えてきた。


【正義】

「一人で観戦って以外と虚しいな」


今喋ってるのも独り言だしな。ん?………遅れてるだけあってもう始まるのか。


人数多いな…綱引きって色別だったっけ。でも構図的には解りやすいな、航&恋華VS美咲桜&亜沙美だな。緑との一線は赤組に知り合いが居ないけど頑張ってくれよ、恋華達の頑張りが無駄になるからな。


始まった!………………航達の勝ちだろうな、対青組のメンバーは男子も多いからな。……………良しっ!対緑組は…早っ!もう勝ってるし。


【正義】

「良かった。…綱引き一年は赤が一位だ。青は……良しっ!緑にも負けてるから三位だな!」


うんうん…言うこと無いな。赤組の2年は………芽衣さんのチームに負けてるけど緑には勝ってるし、青対緑は………二年は青が一位だな。


三年は……なっ!緑が一位?二位が青で三位が赤か………また引き離された、マズイなぁ〜…騎馬戦は絶対に勝ってもらわないといけないな。


騎馬戦は男子が馬だから……航がどれだけ敵を潰すかだな。恋華は航達の馬に乗るから、戦力的には期待できるが……問題はやっぱりあの2人だな。ニ対一になったらマズイ、戦略を授けといた方が良さそうだな。


【正義】

「航ーーーッ!!ちょっとこっちに戻って来ーーいっ!!」


【クラス女子】

「ビッ…ビックリしたぁ〜!……七瀬君どうしたの?…もうすぐ始まるのに、鳴海君を呼んだりして?」


直ぐ近くに座っていた女子が文字通り跳び上がって、胸を手で押さえながら話しかけてきた。


【正義】

「ん?…敵に厄介なのが2騎いるから、戦略を授けとこうと思って。……これ以上青に引き離なされるとマズイでしょ?」


【クラス女子】

「確かにそうだよね。…七瀬君は色々考えてるんだね、感心しちゃう[マサ君っ!…ハァ…ハァ…どうしたの?]……鳴海君も橘さんも頑張ってね!」


そう言い残して彼女は友達の居る場所へ戻って行った。


航は『俺は何で呼ばれたんだろう?』と言いたそうな微妙な表情をしていた。


【正義】

「お前ちゃんと作戦とか考えてるか?……騎馬戦のポイントは重要だからな」


【航】

「一応考えてるよ?…三騎で協力してから、速攻で亜沙美ちゃんを潰す…とか」


【正義】

「悪くないなぁ〜、それ…じゃあその間に美咲桜を足止めする役は?」


【航】

「あっ!…美咲桜ちゃんの事すっかり忘れてた。恋華が亜沙美ちゃん潰す事しか考えてないって言うから」


恋華らしいな…まだ400で負けた事を根に持ってる、本当に呼び戻して正解だったな。


【正義】

「ちゃんと足止めする騎馬を決めとけよ?…玉入れのリベンジされない様に、注意して動けよ!」


【航】

「解った!…殺れるだけ殺ってみるよ!…それじゃ行ってくる!!」


さてと、俺は1500のアップでも始めますか。スタート付近まで軽く流して、近くで恋華達の活躍を観よう。


立ち上がりシートから外に出てその場で足踏みした後、緩急をつけながらダッシュでスタート付近へ向かった。










目的地に着くのとほぼ同時に銃声が鳴り響き、騎馬戦が始まったので恋華達の姿を探した。


【正義】

「何処だ?……………………………うえぇ!!?」


鉢巻きを取られた亜沙美の姿は確認できたが…………何であの馬鹿2人は敵に囲まれてんの?


【芽衣】

「よっ!…美咲桜の罠にハマった恋華達を観てんだろ?……ククッ…ありゃそろそろ撃沈だな」


やっぱりなんか今日の芽衣さんは黒いな…何でだろ?……今度からこの状態を『黒芽衣』と呼ぶ事にしよう。


【正義】

「まぁアイツ等が負けても、最終的に数が多けりゃ良いだけだ。………チッ…負けたか!」


恋華達が潰されてから2分位経った頃、競技終了を告げる銃声が鳴った。


【芽衣】

「チッ…運に助けられたな?…赤が一番残ってやがる!」


【正義】

「青は二位みたいですねぇ〜…でも余裕でしょ?…次は芽衣さんが出ますからねぇ〜」


【芽衣】

「あぁそうだな!…赤を全騎潰してやるか!……そこで大人しく、オレの勇姿を観てるんだな!」


そう言い残してから不敵に笑い、青組の仲間の所に向かって歩いて行った。


ぼーっとその背中を眺めていると何故か傷だらけの航と、妙にスッキリした顔の恋華が此方に寄ってきた。


【航】

「………………ゴメン」


潰されて機嫌が悪くなった恋華に殺られたんだろうな。航…なんて不憫な奴。


【恋華】

「マー君ゴメンね?……競技は勝ったけど、私達は負けちゃった」


【正義】

「気にするな!…結果的に勝てたんだから。それより…亜沙美にリベンジはできたか?」


【恋華】

「うん、バッチリ!…速攻で潰して殺ったよ!」


【黒芽衣】

「ジャマだぁーーっ!!」


【正義・航・恋華】

「えええぇぇーーーーっ!!!?」


声がした方に視線を向けると騎馬の上に立ち、敵の騎馬を蹴り飛ばして潰す黒芽衣さんが居た。


【黒芽衣】

「アハハハハハハッ!!!」


【航】

「ルールブックに『騎手の鉢巻きを取れば勝ち。取られたら敗け』としか書いて無いってのも考えモノだよね?」


【恋華】

「本当に潰すあたりが芽衣先輩らしいよね」


【正義】

「そうだな!…っておいおい、もう殆ど赤組の騎馬残ってねぇよ。これで何騎……………10は潰してるな。さっき言ってたのはマジだったのか…相変わらず言葉を曲げない真っ直ぐな人だな…」


【恋華】

「今度は緑ばっかり狙ってるね?……後3騎しか居ないのに何で赤を狙わないんだろ?」


【黒芽衣】

「どうした?…来ないなら、こっちから行くぞぉーーーッ!!!」


【航】

「純粋に楽しんでるだけ……だからじゃない?」


確かに……あんなに楽しそうな芽衣さんは初めて観たもんなぁ〜。


【恋華】

「うわぁ〜…緑全滅じゃん!赤は……1騎しか居ない!?」


【航】

「とか言ってる間にロックオンされたみたいだよ?」


【黒芽衣】

「お前等で最後だ………大人しく死ねやぁーーーっ!!」


アハハハハ…全部で20騎は潰してる。……航がドッジを恐がるのも無理ないか。


【恋華】

「終わっちゃった。……マー君っ!…1500は絶対に勝とうね?…航!クラスの皆で確り応援してよ!!」


【航】

「マサ君なら絶対に勝てる!!…恋華も頑張ってね!」


航は此方に手を振ってから待機場所に向かって歩いていった。


アップも既に終わっているので、三年の騎馬戦を観戦しながら足の柔軟をしていた。


結果は赤が一位だったが、青が二位になったので手放しでは喜べなかった。


【美咲桜】

「ヒロ君!…恋華もお互い頑張ろうね!」


【亜沙美】

「ボク、正義君と勝負したかったんだ!…恋華も負けないからね!」


柔軟を続けていると2人が肩を叩いてきた。視線を向けると2人共握手を求めてきたので握り返すと、2人はスタート地点に向かっていった。


【正義】

「良しっ!…俺達も行こう!」


【恋華】

「うん。…絶対あの2人に一泡吹かせてやるんだから!!」


2人の傍に寄って行った恋華と別れてスタートラインに並ぶと、直ぐに芽衣さんが近寄って来た。


【黒芽衣?】

「正義!…真剣勝負なんだから手抜きすんじゃねえぞ?」


元に戻ったのか?……さっきまでと雰囲気が違うな。『手抜きするな』か……でも全力を出すわけにはいかない。8割位でセーブしないと…午後に影響が出るからな。


【正義】

「えぇ!…負けませんよ!」


【芽衣】

「お前…何か怪しいなぁ?…………良しっ!…マッチレースだ!」


何でバレたんだ?…顔に出てない自信はあるんけどな。


【正義】

「マッチレース?…具体的な説明を要求します」


【芽衣】

「一周毎にお互いが走るペースを決めて、それに合わせて走るんだ。例えばオレが一周目にペースを握るとするだろ?…お前はオレから遅れない様に走らないといけない、もし着いて来れなければ棄権しろ。……スピード調整は自由だが、ラスト一周はお互いに本気で走る。……大体こんな感じだ、解ったか?」


なるほど……これなら殆ど手が抜けないな。ペースを上げれば一周目で終わらせる事も可能って訳だ。


【正義】

「良いですよ?…じゃあ『着いて来れない』の部分が曖昧だから、5メートル離されたら棄権って事にしましょう?」


【芽衣】

「解った。じゃあ1・3周目はオレのペースで良いか?」


【正義】

「それで良いですよ。…まぁどのみち勝つのは俺ですけど」


【芽衣】

「言ってろ!…直ぐに棄権させてやるぜ!」


【松原】

「七瀬!…橘!頑張れよ!……位置について………ヨーイ……」


パァーン―――


【芽衣】

「オラッ!…着いてこいッ!!」


【正義】

「クッ……」


銃声と同時に飛び出した彼女を一瞬遅れて追い掛けた。(出遅れたが直ぐに彼女の横に並んだ)



思ってたより速いな……あっという間に半周かよ。こんな事になるなんて予想はしてなかったから、体内時計だけが頼りだな。(隣を走りながら)



微妙にペースが変わった?……クッ…彼女は大した策士みたいだな。(彼女がペースを上げて離されそうになったが直ぐに隣に並んだ)



後50メートル位で一周目終わるな…100を12秒前半のペースで様子見しよう。(隣を走りながら)



良しっ!…2周目。一気にペースを上げる!(ペースを緩めた彼女を一気に抜いた)



後ろ着いて来てるのか解らないな…ペースを上げるか?(ペース調整して彼女の前を走りながら)



【航】

「マサ君っ!…芽衣先輩に煽られてるよーーーッ!!…ペース上げてーー!」



!?…このペースに着いて来てるのか?…彼女は本当に女か!(少しペースを上げて彼女の前を走りながら)



もしペースを上げても、振りきれないと無意味だからな。……多分3周目からは本気で来るから、ラスト半周まで並走しよう。(先程のペースで彼女の前を走りながら)



三周目…ッ!?…クッ!……どれだけスピードに余力残してんだよ、マジで危なかった。(スピードを緩めた瞬間抜かれて引き離されそうになったが、スピードを上げて隣に並んだ)



ペースが少しずつ上がってるのか?…今の100は12秒フラット位だぞ。(約一歩分後ろを走りながら)


【航】

「マサ君っ!…後一周ちょっとだよ!」


後100メートル位でラスト一周か…今の100は11秒8位だったし、彼女はまだ余力あるな。良しっ!…ラスト300は11秒6までペースを上げて一気に決める!(約一歩分後ろを走りながら)



ラスト!…!?…互角?いや、外側を走ってる俺の方が微妙に速い……チッ…こっちもかなりキツい……けど行くしかない!!!(一気にペースを上げて隣に並んでから、更にペースを上げて前に出た)


【芽衣】

「クッ…!」



【航】

「直ぐ後ろっ!…着いて来てるよっ!!」



!?…今のペースは大体11秒4位だよな。クソッ!…もう限界が近い……呼吸が乱れる…胸が熱い……後0.1秒……ラスト200………………行くぞっ!!!(更にコンマ1秒ペースを上げた)



後50………30…………10…5………勝っ……た!…アレ?……地面が近……痛っ!?


パァーン――


【正義】

「ハァハァ…ッハ…ハァハァ…ゲホッ…ハァ…ハァ…ハァ…………ハァ………ハァ〜…痛い」


ゴールテープを駆け抜けた途端に身体から力が抜けて、地面に前から倒れてしまった。


【正義】

「アレ?…俺もしかして地球にキスしちゃった?」


息を整えてから瞼を上げると、そこは砂の惑星だった。


【芽衣】

「ハァハァハァ…ハァ〜…何馬鹿な事言ってんだ?…ほら起きろ」


頭をペチペチと叩かれて意識がハッキリしたので、砂の惑星から脱出(視界を確保する為に)体ごと横に転がり仰向けの状態になった。


【正義】

「見上げた空は青かった……BY正義」


【美咲桜】

「『私の』ヒロ君っ!……最高にカッコ良かったよ。それと………一位おめでとう!!」


【恋華】

「本当にカッコ良かったよ!…キツい種目には自分だけ出ない航とは大違い………ハァ〜」


【亜沙美】

「速すぎて全然着いて行けなかったよ!…正義君ってメチャクチャ足速いんだね?」


【芽衣】

「やっぱりお前は大したモンだ!……ペース乱してスタミナ切れを狙ってたんだが、まさかラスト200で更にペース上げるとは思わなかったぜ…………完敗だよ、おめでとう正義!」


空を見上げていた視線を遮る様に、次々と4人の顔が現れ視界を埋め尽くした。


これだけ頑張って『おめでとう』を言ってくれたのが2人ってのも………複雑な気分だな。


【正義】

「ありがとう。皆は何位だったんだ?」


【亜沙美】

「ハイハーイ!ボクが教えてあげよう。…この紙に書いてあるから……あっ!?」


右手に持ってヒラヒラさせていた紙を奪った。何々………


―全学年混合1500―――RESULT!――



TOP1→10


1・七瀬(1‐A)赤♂


2・園田(2‐C)青♀


3・森永(3‐B)赤♂


4・下井(2‐F)緑♂


5・宮藤(3‐A)赤♀


6・桐原(1‐D)青♀


7・伊東(2‐E)緑♂


8・牧瀬(3‐D)青♂


9・御堂(1‐C)青♀


10・橘(1‐A)赤♀



―――――――――――



芽衣さんは当然だけど…この学園の女子は本当に凄いな。美咲桜が6位に亜沙美が9位、恋華は10位だもんな。友達が成績良いとやっぱり嬉しい……学校行事ってのも案外悪くないな。


【正義】

「へぇ〜…凄いな、皆もTOP10入りおめでとう」


【美咲桜】

「ありがとう!……でも、私はヒロ君と一緒に走りたかったなぁ〜」


【芽衣】

「美咲桜……正義を一人占めしちまって悪かったな」


【亜沙美】

「恋華に勝てたから9位でも満足だよ」


【恋華】

「亜沙美ぃ〜!…混合リレーで白黒つけようじゃない?」


本当にバラバラで面白い娘達だな…亜沙美と恋華なんて一触即発な雰囲気だし。


【松原】

「お前達はいつまで喋り続ける気だ?……皆さっきから親御さんの所で飯食ってるぞ」


【6人全員】

「ああああぁぁぁーーーーっ!!!」


【正義】

「ちょっと待てやぁーーーっ!!」


【松原】

「何だ?…他の4人はダッシュで親御さんの所に戻ったぞ」


そんな事解ってるんだよ!…クソッ!口が勝手に……このままではヤバい、ツッコミ体質になりかけている。オマケに中途半端なボケを……


【正義】

「『6人全員』ってなんだよ!何でアンタまで『えぇーーーっ!』とか言ってんだよ!?」


【松原】

「お前には『枠』が見えてるのか?俺としたことが!チッ……じゃあな!」


『枠』って何だよ?…航や恋華も時々言ってるんだよな。………………チッ?


【正義】

「舌打ちかよっ!?…しかも説明しないで逃げやがった![まー君!…早くご飯食べようよ…っと!やっと捕まえた♪]………今行くから引き摺らなイーヤーーーッ!!」


わざわざ呼びに来た母さんにズルズルと引き摺られながら、我が家のシートに向かった。










【英理朱】

「まー君、はい!あ〜ん[あ〜ん…ムグムグ]まー君って…あんなに足が速かったんだねぇ?」


引き摺られて『七瀬家の場所』と書かれた立て札が刺さっているシートに戻るなり、〈ビデオ撮るだけで暇だったんだから、お昼ご飯位は好きにさせてね?〉と言って明らかに『食べてくれないと解ってるよね?』と言いたげな表情をした為……………………こうなってしまった訳だ。


【正義】

「んぐ…まぁね、それよりも父さんは来れなかったんだ?」


【英理朱】

「明斗さん仕事忙しくて抜けられそうもないって…はい、あ〜ん[あ〜ん…ングムグ]出場してたの全部一番だったねぇ…まー君の活躍はバッチリ撮ったからね!」


ハァ〜…また知らない間にこの映像が出回ってて、近所を歩いてたらいきなりお姉さんから『続編はいつ撮るの?』とかまた言われるのかなぁ。サービスカット(隠し撮り)の部分クリックしたらパジャマ姿とか映ってるから勘弁して欲しいな。


【正義】

「そう言えば午前中、母さんは何処に居たの?…全然姿が見えなかったんだけど」


【英理朱】

「色んな所に居たよ?樹の上とか隣のクラスの待機場所とか…あ〜ん[あ〜ん…ング]報道スペースとかね、競技毎にベストポジションを探すの苦労したよ」


姿が見えなかった訳だ…普通そこまでしないもんな、隣の応援席に居たなんて………マジで恥ずかしい。


【正義】

「んむ…んぐ…隣のクラスに迷惑とか、勿論かけてないよね?」


【英理朱】

「それは大丈夫だよ。最初は怪しまれてたけど、『隣のクラスに居る七瀬の母ですって言ったら歓迎(女子だけだったけど)してくれたよ?…あ〜ん[あ〜ん…ムゥムグ]皆いい娘達ばかりだったから……撮影に集中出来たし、良い絵が撮れたとおもうよ?」


ハァ〜…手遅れだったか。まぁ此処に居る時点で色々とアウトだから、しょうがないよな。


【美咲桜】

「英理朱さん!…こんにちは」


背後からの声に振り返ると、異様な大きさの重箱(5段重ね)を大事そうに両手で抱えた美咲桜が立っていた。


英理朱さん…か、もう先生って呼ばないんだな。母さんも一瞬表情が曇ったし、辞めた事が気になってるんだろうな。…母さんは無理矢理聞く様な事はしないけど、やっぱりこの面子で音楽の話題がタブーなのは辛いな。


【英理朱】

「まぁ!…美咲桜ちゃん、どうぞ座って?」


【美咲桜】

「お邪魔します」


素早く俺の右隣に座るとシートの上に重箱を並べて、箸で赤い物体(ミニハンバーグ?)を掴んで俺の眼前に差し出してきた。


【正義】

「何コレ?…この赤い隕石みたいな物体は」

一応聞いとかないと…この前みたいに弁当のオカズを、興味本意で貰った時みたいな事になりかねない。


【美咲桜】

「ハンバーグ?…だったと思うよ…はい、あ〜ん………むぅ〜〜ッ!?…英理朱さんのは食べてたクセに、私の手料理は食べてくれないんだ?」


いやいやいやいや、『だったと思う』って何だよ。疑問系だし、何より赤い時点で辛いの確定じゃん。


【正義】

「わかった。食べるから泣きそうな顔をするな。美咲桜の料理は美味いから、全然嫌じゃないからさ…な?」


頬を膨らませて可愛らしく此方を睨んでいる美咲桜に、言葉を選んで優しく語りかけた。


【美咲桜】

「本当に?……じゃあはい、あ〜ん[あ〜ん…!]どう?……美味しいでしょ?」


首を縦にブンブンと振って肯定してやると、不安そうな表情が忽ち笑顔になった。


【正義】

「ング…辛くないのに、なんでこんなに赤いんだ?…凄く美味しいけど…」


【美咲桜】

「パプリカの色だよ。…色合いを考えて、ピーマンの代わりに使ってみたの」


【英理朱】

「美咲桜ちゃんも色々と頑張ってるんだねぇ〜…それって、まー君用の味付けでしょ?…こっちのハンバーグは結構辛いもんね」


いつの間にか母さんは美咲桜の重箱に箸を伸ばしていた。


【美咲桜】

「はい!この間…ヒロ君が私のお弁当食べちゃって……辛すぎるの駄目だって言ってたので、リベンジでつくってみたんです」


このハンバーグ、本当に美味いな。わざわざつくって来てくれたんだから、頑張って食べないとな。


【正義】

「本当に美味かったよ。じゃあ遠慮なく頂くな?…先ずは玉子[はい、あ〜ん]…あ〜ん…むぐんぐ……そんなに急がなくても俺は逃げないって…」


箸を玉子焼きに伸ばそうとすると、シュバっと音を発てて目の前に玉子焼きが現れた。


【美咲桜】

「ヒロ君は逃げないけど…時間は逃げちゃうでしょ?…次は辛揚げね、あ〜ん[あ〜…ん?]早く食べないとお昼の休憩時間終わっちゃうから」


なんか違和感があった様な気がしたんだけど……唐揚げ…辛っ!?……辛揚げ!!?


【正義】

「ギャ〜〜ッ!喉が!喉が焼けるぅ〜〜〜〜〜ッ!!!」


【英理朱】

「プッ…アハハハハハッ!!…みっ美咲桜ちゃん…今、食べさせたのって自分用じゃない?」


【美咲桜】

「えっ!?そんな筈………ああああぁぁぁーーーーーーッ!!!」


その後……水を飲んで何とか生還を果たし、量が多すぎて食べきれないと判断した俺は皆を呼んだ。なんとか時間内に完食して(殆ど芽衣さんと亜沙美が食べた)他愛ない話をした後、競技開始5分前の放送を合図にそれぞれの待機場所に向かった。










【航】

「一体どうやったら、あそこまで殺人的な辛さになるんだろうね?……まだ舌が痺れてるよ」


【正義】

「俺は喉が痛い……あの辛さは間違いなくハバネロだな」


【恋華】

「さっきは2人共、災難だったねぇ〜。アタシも中学の時に調理実習で食べた(先に犠牲になった亜沙美に捕まり、道連れにされた)けど、あの時は死ぬかと思ったよ」


なんで美咲桜はアレを平然と食えるんだ?…芽衣さんと亜沙美でさえ端に避けてたのに、それを完食してたからなぁ。


【正義】

「今から始まる競技って何?」


【航】

「えーっと?……ご愁傷様、男子1500だって…」


【恋華】

「その次が女子1500よね?…アタシも行かなきゃ!」


マジで?……ちょっと苦しいんですけど。誰だよこんな順番にした奴、まさか!………松原では?


【航】

「苦しいだろうけど、2人共頑張ってね!…青組との差を少しでも縮めないとヤバいから!」


他人面しやがって……まぁ何とかなるだろ、芽衣さんも居ないし楽勝だな。


【恋華】

「女子は芽衣さんが居るから勝つとは言えないけど…頑張るよ!」


【正義】

「それなりに頑張るわ……じゃあ、応援頼むな?」


返事を返してシートから立ち上がり、恋華と一緒にスタート付近に向かった。


恋華と話しながらスタート付近に着くと、青組の3人が此方に気づいて走り寄って来た。


【美咲桜】

「頑張ってね、ヒロ君っ!!…絶対一番じゃないとダメなんだからね?」


【亜沙美】

「楽勝だよきっと!…あぁ〜あ…正義君が青組だったらなぁ〜」


【恋華】

「ファイトだよ、マー君っ!」


【芽衣】

「オレに勝ったんだから……こんな奴等に負ける訳ねぇよなぁ〜?」


芽衣さんの声に、めっちゃドスが効いてて恐いんですけど。


【松原】

「男子1500始めるから、選手は集まってくれーーっ!!」


【正義】

「皆も頑張れよ!……それじゃ行ってくる!」


背後から聞こえた松原の声に振り返ると、スタートラインに選手が集まっていた。4人に軽く手を振ってから踵を返して、スタートラインに向けて駆け出した。

     ・

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全学年男女別1500進行中

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1500も無事に乗りきって待機場所に戻り、シートに座って恋華の応援をしていた航の隣に腰を降ろした。


【航】

「お疲れ〜…やっぱり楽勝だったね?」


【正義】

「いやいやいや、昼飯が消化してないから相当キツかったんだぞ?」


二周目で吐きそうになるというイレギュラーがあったが、何とか耐えきり無事に一位を取ることができた。


【航】

「全然そんな風には見えなかったよ?…現に独走だったしさ」


【正義】

「お前は気楽で良いよな?…ところで恋華は………四位走ってるじゃん!」


トラックに視線を向けると、独走状態の芽衣さんと単独二位を走る美咲桜。少し遅れて三位の直ぐ後ろを走る恋華、その後ろを亜沙美が走っていた。


【航】

「三周目に入ってから、すぐ前を走る亜沙美ちゃんを抜いて四位に上がったんだ……恋華ぁーーッ!!三位いけるぞぉーーッ!!!」


三位の選手って混合1500に出てたよな?…確か美咲桜の前でゴールしてた人だと思うんだけど。


【正義】

「結局芽衣さんが一位か。もう美咲桜もゴールだな、となると……恋華ぁーーッ!!抜いたら航が好きなモノ買ってやるってぇーーーッ!!!」


おぉ〜速い速い…まだ余力あるじゃん。まぁ三位の選手、赤組だから抜かなくても良いんだけどね。


【航】

「違うからぁーーッ!!…マサ君が勝手にぃーーーッ!!!……………抜いちゃったよ」


よしよし、これで恋華のモチベーションが上がったな。種目も残り少ないし、勝てる確率は少しでも上げておかないとな。


【正義】

「三位取れて良かったな。彼氏もさぞ嬉しいだろうなぁ〜♪」


三位が恋華で四位が赤の先輩、五位には亜沙美が入った。


【航】

「ハァ〜…また5桁後半のバッグとか買わされるんだろうなぁ…」


【正義】

「まぁまぁ、10枚位気にするなよ?…ギャルゲー買うのをちょっと我慢すれば良いだけだろ?」


【航】

「なっ!?…それは断る!…楽しい夏休みをエンジョイする為に!…それに俺からギャルゲーを取ったら……」


どうなるんだろう?…ツッコミ?…女装キャラ?…それとも何も残らないのだろうか?


【正義】

「取ったら?…[只のいじられキャラになってしまうじゃないかっ!!!]…………さいですか」


【恋華】

「2人共まだ居たの?…借り物競争の選手はもうスタート付近に集まってたよ?」


え?…次の次じゃなかったか。…ちょ!?スターター構えてるじゃん!


【正義】

「航っ!…早く行かないと失格になるぞっ!!…もう最初の組スタート寸前だっ!!!」


【航】

「ハハハッ!…揃ってないのにスタートな『パァーン』………えええぇぇーーーーーッ!!?」


2人で一斉に立ち上がると、全速力でスタート地点に向かって走った。










【正義・航】

「……………(滝汗)」


スタート地点に着くと直ぐに松原に捕まって、先ほどから説教されていた。


【松原】

「お前達は5分前行動という言葉が理解できてるのか?ハァ〜……もう行って良いぞ」


松原は大きな溜め息を吐いて、教師席に戻って行った。


【航】

「ハァ〜…長かった。…ところでマサ君は何番目?」


【正義】

「確か一番最後だと思う、お前は?」


【航】

「もう2つ後だね、無茶な紙を引かなきゃ良いけど…」


【正義】

「また女装が似合う男性とか出ないかなぁ〜…出たら楽勝なんだけど…」


【航】

「何?その顔、明らかに俺をロックオンしてるよね!?」


そりゃそうだろ……足も速いし、適格者…鉄板じゃん。


【正義】

「そんな都合良くいく訳無いだろ?……お前、呼ばれてるぞ?」


【航】

「本当だ。じゃあ先に行かせてもらうね!」


航はスタートラインに向かって歩いて行った。



VIEWCHANGE――――航SIDE―――



スタート地点に着くと、丁度一つ前の組がスタートしたところだった。


【航】

「何か皆、中々見つからないみたいだな?……彼はリボンかな?…あの人は………校長!?…最後の一人は何か走り回ってるな?」


リボンは良いとして…校長はアウトでしょ?…しかも足遅っ!?…残った一人はまだ…………うえぇ!!?


【航】

「何で女子の制服に着替えてんの?……ってか良く貸してくれたな」


良く見たらゴール地点に変わった人がいっぱい居る……嫌な予感がしてきたな。


【運営委員】

「位置に着いて……ヨーイ…」


パァーン―――


【航】

「良しっ!」


スタートダッシュは成功だな。後は3つの封筒のどれを選ぶかだな。


【航】

「中学のっ…時はっ…真ん中っ……良しっ!…右だぁーーッ!!」


コースの途中に置いてある机から右側の封筒を選んで、封を切った。ハァ…ハァ…何々……………


――――指令書――――


三年生女子で髪型が『ツインドリル』の人(ターゲットの身長が150cm以下だと順位得点に+10000萌えポイント進呈)


―――――――――――


【航】

「なんじゃこりゃーーーーーーーッ!!?」


モロ審判の趣味じゃねーかっ!!…とりあえず三年生の待機場所に急いで行かないと。


【航】

「ハァ…ハァ…クソッ!…全然見つからない……次のクラスこそっ!」


全く居ない…本当に要るのかよっ!此処のクラスはっ………!?


【航】

「あ゛ああぁぁーーーーっ!このクラスッ!…ツインテールばっかウゼェーーーーッ!!!」


どうなってんだ、このクラスは!?紛らわしい髪型ばっかじゃねーか!………次は居ると良いなぁ。


【航】

「ハァハァ…ハァ…ツインツイン………ッ!?居たっ!…ドリルっ娘!!!」


直ぐにトラックと応援席の間に張られたロープを跳び越えて、彼女の元に駆け寄った。


【航】

「先輩っ!…俺と一緒に来てくれませんか?」


身長は多分150cm以下だろうな。物静かな印象を受ける……綺麗な人だなぁ。


【ドリルっ娘】

「嫌っ!」


即答っ!!?


【航】

「えええぇーーーー[嘘よ。早く行きましょ?]…………ありがとうございますっ!!」


マジで焦った……また、この大勢の中から捜すのなんてゴメンだ!…彼女の手を確りと握りゴールに向けて駆け出した。


【航・ドリルっ娘】

「ハァハァ…ハァ……………………やったっ!まだ誰も来てない!…チェックを…」


彼女の手を引いてゴールすると審判が寄って来て、お題のチェックが始まった。


【運営委員】

「えーっと何々……三年女子でツインドリル……この娘か…ふ〜ん?…へぇ〜?……GJ!…一位おめでとう+10000萌えぇ〜〜!!」


指令書を書いたの絶対この人だ……ジロジロ観すぎでしょ。


【航】

「先輩!…ありがとうございましたっ!」


さてと、後はマサ君を待つだけだ。あんなのばっかりなら、マサ君でもキツいかも知れないな。…………頑張ってね、マサ君!!!



VIEWCHANGE――――――――END―



航は一位だったな…でも相当苦労してたっぽいし、一体何が書いてあるんだろ。


【正義】

「今回の組も時間かかってるな……アレは長机?……あの人は…お姫様抱っこだな………最後は……スゲーっ!校長、大人気だっ!!!」


航の前の組にも校長連れてる奴居たよな?…基準が解らない。……………この組の紙は何が書いてあったんだ?一斉に皆居なくなったぞ?



【正義】

「ブッ!?…何だアレは……あの人…女子の体操服着てる……ドレス!?…チャイナ服!?…ヤバい……変態さんがいっぱいだー!」


女子は大爆笑してるな……これ男子専用の罰ゲームなんじゃ?…ヤバい、不安要素がいっぱいだ。


【正義】

「誰だよ書いてる奴!……おっ!この組まとも…だ?……男同士でお姫様抱っこはキツいな。……えぇ!?…競技終了後の選手もありなの?……最後は……ッ!?…おいおいおいおい、アレって現国の前田が愛用してるヅラじゃねえか!!…ヤバいだろっ!…色んな意味で!!」


今までのお題で『リボン』と『お姫様抱っこ』に『校長』位しかまともなヤツ無いだろ。


【運営委員】

「最終組の選手、スタートラインに着いて下さい」


遂に来たか……とりあえず当たりを引けます様に。祈りながらスタートラインに着いた。


【運営委員】

「位置に着いてー……ヨーイ……」


パァーン―――


【正義】

「良しっ!」


とりあえず先頭で封筒を選べそうだな。…コスプレだけは勘弁!


【正義】

「航は右だったから……真ん中っ!」


真ん中の封筒を取り、急いで封を切って中の紙を広げた。


――――指令書――――


男女・学年指定無し。


『ギャルゲー極愛な人』


※ゴールでギャルゲーに関する超難問クイズを3問出題します。


※もし一問でも間違えたら、ターゲットを強制変更しないといけなくなります。


我に勝てる強者よ来れ!


―――――――――――


【正義】

「もらったぁーッ!」


2人も適格者が居る…他の奴が『当たり』を引いた可能性もあるし、とりあえず保険も兼ねてゴール地点に居る馬鹿から行っとくか!!


ゴール地点に着いてから直ぐに航を見つけて、スキップしながら近寄った。(楽勝〜♪)


【正義】

「航、一緒に来い!」


声を掛けると航は凄く嫌そうな顔をした。…………まともなのになぁ。


【航】

「直ぐそこだし、とりあえず行くよ」


二人ですぐ近くのゴール地点に向かって歩いた。


【運営委員】

「早かったね。……何々…ッ!……君が挑戦者か?」


紙を渡すと航に鋭い眼光を向けた。航には内容を教えてない為『一体内容はなんだったの』と、言いたそうな視線を向けてきた。


【正義】

「ギャルゲー超難問クイズを、3問連続正解出来る人…つまりお前」


【航】

「フッ…そういう事なら早く言いなよ…俺様なら楽勝だぜ」


言葉遣いが何かカッコいい、背後に青い炎の様なモノも見えるし。俺様って、航…………なのか?


【運営委員】

「お前ごときが俺に勝てると思ってるのか?」


【航】

「フッ……弱い奴程よく吠える…ご託はいいから、さっさとかかって来いっ!」


ゴゴゴゴゴ――


大地が震えてるのか!?…2人の間の空間も歪んで見える。


【運営委員】

「発信機は無いが、よかろうッ!…では合言葉っ!…『ギャルゲー漬けですか?』」


【航】

「フッ…『極愛してます』」


【航・運営委員】

「GQB・FIGHT」



解説:GQBギャルゲー・クイズ・バトルとは!…ギャルゲーをこよなく愛する者同士が、己の知識とプライドを懸けてクイズで闘う聖戦である!


GQB倶楽部に入会すると、バトル専用の登録番号と腕時計型発信機を貰える。


この発信機は衛星から電波を送受信している為、世界中で使用できる。


発信機同士が近づくと起動して、音声で居場所を教えてくれる。


バトルは『ギャルゲー漬けですか?』の合言葉に対して『極愛ごくあいしてます』と答えると発信機がバトル状態に移行して、不正防止の為に情報(映像・音声)が通信される。その後にバトル開始ワード(GQB・FIGHT)を叫び合うと発生する。


お互いにクイズを出し合い、先に5問先取した方が勝者となる。


お互いにポイントを落とさない場合は、サドンデスでどちらかが間違えるまで続く。


問題を出題する時は出題ボタンを押しながら大きな声で出題する(不正防止と通信して音声でコンピュータシステムから正解を検索して、相手の解答を正確に判定する為)


解答者も同様に解答ボタンを押しながら大きな声で解答する。(相手が検索した問題の正解と、此方の解答を正確を照らし合わせる為)


正解すると発信機に表示された数字が0からカウントされていき、5又は5以上で相手の表示と差が着くとバトル終了となる。


勝利すると勝者の発信機に敗者の登録番号が表示される。


勝者は自分の発信機に付いている覇者ボタンを押しながら『敗者の登録番号』を告げる。(発信機に向かって)


勝者が登録番号を言う事で、通信保存しているバトル中の情報(映像・音声)と勝敗がホームページに記録される。


もしバトルしたくない場合は合言葉を無視して、その場を離れる事で発信機を待機状態に戻せば良い。


勝敗はホームページでリアルタイム表示され、半年毎に上位者には賞(称号とトロフィー)や商品が贈られる。


要するにギャルゲーのクイズで闘い、順位を競い合うのだ!!!



【運営委員】

「問1…リーガルのソフト『スタンダード・ラヴ』のサブキャラ、小山内忍おさないしのぶの趣味は!」


【航】

「フッ…バードウォッチングだ!」


【運営委員】

「チッ……1シーンしか出てないキャラなのに…正解だっ!」


【航】

「フッ…何ならプロフィール丸ごと答えようか?」


【運営委員】

「問2だっ!…クリスタルフェザーのソフト『天使の贈り物』のサブヒロイン、天美聖あまみひじりが主人公の4度目の告白を断った理由は!」


【航】

「フッ…婚約者に汚されてしまったからだ。……簡単すぎる、ふざけてるのか?」


【運営委員】

「チッ…6回も告白するのに良く解ったな。………正解だっ!」


【航】

「フッ…あんな感動的なシーンを忘れる訳筈が無い。…そのシーンのセリフ丸ごと答えてやろうか?」


【運営委員】

「調子に乗りすぎだな。問3っ!…カーバンクルの前会社ユーフェリアのソフト『罪の売買』のメインヒロイン、魔咲葵まさきあおいが初めて人を殺してしまった日時は!」


【航】

「………………………」


【運営委員】

「どうした?…当時ユーフェリアはサークルソフトを作っていた事を知らないのか?………………やれやれ、とんだ期待ハ[そのシーンを思い出して悲しくなっているだけだ]………何だと?…強がるのも大概に![黙ってろっ!]……………チッ!」


【航】

「……………………………………………………………………………5歳の時。12年前の6月27日、22時49分だ」


【運営委員】

「なっ!?……嘘だろ?……当時マイナーで、しかもサークルで制作した幻のソフトだぞ!…販売数50本以下だぞ!何故正解が解る!?」


【航】

「プレイしたからに決まっている………お前が最後に出した問題……アレはGQBで触れちゃいけないタブーなんだよ!……ルールも守れないお前に、ギャルゲーを語る資格なんて無いっ!……消え失せろっ!!」


【運営委員】

「………わーったよ!…良かったな七瀬、お前が一位だ!…………それじゃあな」


【正義】

「…………………え?」


全然話しに着いていけないんですけど……審判どっか行っちゃったし、どうしろっていうんだよ。


【航】

「フッ…嘆かわしい、あの程度でッ!?……………まサ君、どぅしたのぉ?……♪♪〜♪〜♪♪♪(口笛&滝汗)」


元に戻ったのは良いけど……動揺して声が裏返ってる。やっぱり見ちゃいけない光景だったのかなぁ、口笛吹いて明らかに黙殺しようとしてるしな。


【正義】

「今はゴールするのが先だ……さっきの話は後で、たーっぷりと聞かせてもらうから…なッ!!」


【航】

「………………ソウデスネ」


顔面蒼白、呆然自失の航を引き摺って(地面に両手を突いて、蟻の数を数えていた)一位でゴールした。










【航】

「ハァ〜〜〜〜〜〜ッ」


待機場所に戻り尋問が終わってから、航はずっと大きな溜め息を吐きまくっている。(何故かさっきの審判は、5分程してから何食わぬ顔で戻って来た)


【正義】

「元気出せって!…さっきの事は別に何とも思ってないからさ……なっ?」


本当は突っ込みたくてウズウズしてるがな。……別に落ち込む必要ないと思うんだけどなぁ、ギャルゲー好きなのは前から知ってるし。


【航】

「…誰にも言わない?」


【正義】

「言わないって!…言って俺に何かメリットがあんのか?」


【航】

「……………本当に?」


本当にコイツは段々扱いにくくなってきてるな。…面倒くさい奴だ。


【正義】

「本当にだ!…因みにこれ以上言わせたら……………ねぇ?」


とりあえず今できる最高の笑顔で、声にドスを効かせて言ってやった。


【航】

「ヒィ!!?……………………解ったよ、だからその『いつまでも落ち込んでると殺っちまうぞコラ!』っていう顔はやめて」


【正義】

「分かれば宜しい……お前のせいで2・3年男子のお題、見逃したんだからな?」


【航】

「悪かったよ…あっ!…今から女子の部が始まるよ!」


誤魔化しやがった…しかし、コイツは本当に進歩のない奴だな。


【正義】

「お前さぁ、露骨に話を逸らす癖直した方が良いよ?……何かを誤魔化してるのバレバレだから」


【航】

「そんな事は、なっ無ぃんじゃなぃかなぁ?………あっ!恋華の組だ!」


だから声が裏返ってるって!ハァ〜…まぁいいや。女子のお題でも観て、笑わせてもらうとするか。


【正義】

「女子のお題はどうなんだ?…もしも男子よりまともな内容だったら嫌だなぁ」


【航】

「まだなんとも言えないよ…スタートだっ!」


さてと、何を引いたかな?………テントに入っていったな……アレって?


【正義】

「なぁ航…恋華が連れてる白衣着た人、現在年下の彼氏募集中の明日香ちゃんだよな?」


【航】

「うん。廊下を歩いてる俺達を『美男子ホイホイ』で捕獲してから、2時間軟禁した人だね」


思い出したくもない…その後で美咲桜にも正座させられた状態で、二時間も説教されたしな。


【正義】

「俺達がお題になったらさぁ……間違いなく捕獲されると思わない?」


【航】

「うん。ベッドに手錠で繋がれてから『歳上の男』談義を聴かされ続けるのは間違いないね」


そう言うと航は頭を抱えて、大きな溜め息を吐いた。


【正義】

「ハァ〜…お互いに苦労するな?………おっ!亜沙美の組だ」


【航】

「本当だ……アレ?紙を見た途端にこっちを向いたねぇ」


亜沙美は先頭で指令書を取ると此方に視線を向けて、物凄い速さで向かって来た。


【正義】

「それどころか、こっちに向かって来てる……嫌な予感しかしない」


此方に向かって来る亜沙美は、獲物を見つけた虎の様な鋭い眼光を此方に向けていた。


【航】

「ねぇ…彼女の顔が満面の笑みなのは何故[鳴海君っ!]ギャーッ!?スケープゴートは俺だったぁーーーッ!!!」


航はシートの上に倒れ込み、頭を抱えてゴロゴロと転がっていた。


【正義】

「亜沙美の指令書には何て?」


【亜沙美】

「直ぐに解るよ!…鳴海君、ほらっ!ぼーっとしてないで早く行くよ!」


転がっている航の手を掴んで立たせると、そのままズルズルと引き摺っていった。


【正義】

「アイツ…珍しく抵抗しなかったな?」


指令書の内容…後で解るって言ってたけど、一体何だろうな。トラックから外に出て行ったし、お題+αだから……………!


【正義】

「読めた!…男のプライドを棄ててるから抵抗しなかったんだな!……(3分経過)……プッ!?アハハハハハハッ!!!」


亜沙美に手を引かれてトラックに戻って来た航は、皆から写真を撮られまくっていた。


【正義】

「今年は猫耳に忍び装束かぁ〜!……でも何で槍なんて持ってるんだろうな?」


普通にゴールしてるし。…という事は、アレが指令書の内容?…亜沙美の趣味じゃなかったのか。しかし……コスプレ衣装は何処から持ってきてるんだ?


【芽衣】

「正義…隣、いいか?」


背後からの声に振り向くと、何故か木刀を持っている彼女が居た。


【正義】

「どうぞ座って下さい。……その木刀は?」


【芽衣】

「あぁコレか?…『木刀』って書かれた紙を引いた時に、持ってたらそのままゴールできるだろ?」


満面の笑顔でそう言うと隣に腰を降ろした。


【正義】

「…………ソウデスネ」


『そのままゴールできるだろ?』って、芽衣さん………もしかしてバカ?


【正義】

「敵陣に来るなんて………俺に用事ですか?」


【芽衣】

「用事?…ねぇよ、んなモン。退屈だったから来ただけだ、もしかして邪魔だったか?」

そう言うと申し訳なそうな表情をして、視線を泳がせた。


【正義】

「いえいえ、邪魔なんて事はありませんよ。…丁度、俺も1人で観てて暇だったんです」


【芽衣】

「ハハッ!…ありがとな?…そういえばさっき航が面白れぇ格好してたが、アレってお題なのか?……あんな衣装去年は無かったからな」


【正義】

「みたいですね……違うと思いたいですけど」


【芽衣】

「ん?…もしかして自分もあんな格好させられると思ってんのか?」


【正義】

「そりゃそうですよ!…誰にも借りられたくないに決まってます。俺には航と違って、女装趣味はありませんから」


【芽衣】

「ハハハハハッ…正義なら似合うと思うぜ?…そこら辺の女より、よっぽど綺麗だからな!」


【正義】

「マジで勘弁して下さいよ。…まぁ犠牲になった航には同情しますがね」


【芽衣】

「そうか?…似合うと思うんだけどな。おっ!…もうすぐ美咲桜が出てくるな」


【正義】

「本当ですね。あっ!あの娘……また校長?…お題は去年も、こんなのばっかりだったんですか?」


【芽衣】

「去年もこんなのはあったぜ?…そもそも、この競技は保護者の希望でやってるからな。…ただ今年は校長が多いな、今ので何回目だ?」


【正義】

「保護者の希望?……一体どういう事です?」


【芽衣】

「要するに親バカだ。可愛い娘の仮装した姿を、映像に残したい父親どもの強い要望でな。…だから衣装とかは相当種類がある、去年は女性警官とか男性看護婦もあったぞ」


男性看護婦?…要するに男がナース服を着るのか、男としてのプライドが粉々になりそうだ。……しっかし親バカねぇ、まさかウチの両親も一枚噛んでんじゃねえだろうな?


【正義】

「それはキツいですね、大事なモノを失いそうだ…色々と」


【芽衣】

「心配すんな…一回引いた衣装は終わるまで出ねえ様になってるから。もう殆ど出てるから、確率はだいぶ低くなってる筈だ。……おっ!美咲桜の組が始まるぜ!」


トラックに視線を移すと同時に銃声が鳴り、美咲桜達が一斉に走り出した。


【正義】

「俺以外でお願いします!」


膝立ちになり両手を胸の前で組んで、一心不乱に俺じゃない事を祈った。


【芽衣】

「ハハハッ!…大丈夫だろ、そんな簡単に………………来たな?」


思いっきり来てるじゃん…もう絶対に神なんて信じねぇ。


【正義】

「さっきもこのパターンだったような気が[ヒロ君ーーっ!!]…………終わった」


美咲桜は俺達の目の前まで来ると、膝に手を突いて呼吸を整えた。


【美咲桜】

「ハァハァ…ハァ…ヒロ君は何をお祈りしてるの?」


【正義】

「気にするな。それよりも、早く連れて逝ってくれ…苦しみは短[芽衣先輩借りるね?]……………What has happened?」


芽衣さん?…俺じゃないの?……頭がパニックになり、気が付けば英語で質問していた。


【美咲桜】

「え〜と『何が起こったんだ』って言ったんだよね?[yes!]………指示どおりに芽衣さんを連れて行くだけだよ?」


【芽衣】

「正義じゃねえのか?オレは構わないが……指令書の内容は何だ?」


【美咲桜】

「コレです。ヒロ君も見たら?」


美咲桜が広げた紙を芽衣さんと一緒に覗き込んだ。何々………


――――指令書――――


強くて凛々しくてカッコいい人(女性徒限定)


※判定時に瓦割り(10枚)をしてもらうので、必ず合意の上で連れて来て下さい。


※木刀やメリケンサック、釘バット等を持っていると順位得点が2倍になります。


―――――――――――


【美咲桜】

「……………という訳なんです。芽衣先輩、一緒に来てもらえませんか?」


【芽衣】

「いいぜ…それじゃあな、正義」


2人は手を繋いでからゴールに向かって駆け出した。


【正義】

「こんなのアリかよ…この競技で順位変動しまくってんじゃ…」


順位得点2倍ってなんだよ……俺達の苦労は一体何だったんだ?


ゴールに着いた2人は直ぐに審判のチェックを受けたようで、芽衣さんの〈オラァーーッ!!〉という掛け声と瓦の割れる音が聴こえた。


【正義】

「あれから20分以上経ってるし、そろそろ航は死んだ頃[あ゛ぁ〜ん!?誰が死んだって?]…………ダレ?」


背後から聴こえた声に振り向くと、目の前に航に見えなくもない人が立っていた。(ボロボロになりすぎていて、本人かどうか微妙)


【航】

「なんであの人は抱きしめる=サバ折りなのかな?…しかもそのまま押し倒してくるし。…呼吸できなくてお花畑が2回は見えたよ」


【正義】

「サバ折り喰らったって事は明日香ちゃん、キレたのか?……原因は何?」


あの普段おっとりした性格の人がキレた?…一体何をしたんだ?


【航】

「『私はまだ22なんだから歳の差なんて関係ない!』って、しつこく迫ってくるから…つい」


【正義】

「地雷を踏んじゃった訳だ…明日香ちゃんが歳を気にしてるの、お前も知ってるだろ?」


【航】

「だって恋華が傍に居て…眼で『その女から早く離れないと死なすわよ?』って脅してくるから……しょうがなく…」


【正義】

「しっかし明日香ちゃんは―――――――――」










あれから暫くの間、美人保険医の梅澤明日香うめざわあすか通称、明日香ちゃんの話で盛り上がった。(主に愚痴)


途中芽衣さんのターゲットが『木刀』だったり(あり得ないよな)して、かなり驚いた。(ゴールした後にやって来て『だから言ったじゃねーか!』を頻りに連呼していた)


そして遂に死亡遊戯ドッジボールの時間が来てしまった。


ここまでの得点は結局青組が一位で、かなりの差をつけられていた。(絶対に借り物競争が原因だろ!)


残り3種目で二位の赤組が逆転するのはかなり厳しい。


最低でもドッジボールで敵を全員殲滅して(殺った人数でポイントが増加していく為)混合リレーで二位以内、そしてクライマックスリレーで一位を取る必要がある。(青組がドッジボールを2位で混合リレーが一位、クライマックスで2位を取ったと想定した場合)


【航】

「…………………という訳で棄権出来ない状況になってしまったのだ!」


いきなり空に向かって拳を突き上げ、説明口調で意味不明な事を口走った。


【正義】

「誰に言ってんの?…あまりの恐怖とプレッシャーで気でも狂ったか?」


先ほど集合がかかってルール確認も終わり、色別に別れ柔軟等をしながら試合開始を待っていた。


【航】

「そっそんな事なぃやぃ!…早く殺りたくてゥズゥズしてるぜぃ!」


【正義】

「『ウズウズしてるぜ!』って…誰だお前は?」


【松原】

「試合を始めるぞ〜!…選手整列!……………良しっ!お互いの健闘を讃えて握手」


【芽衣】

「正義…今日こそは殺ってやるから覚悟しとけよ!」


【正義】

「えぇ…お手柔らかにお願いします」


【亜沙美】

「2人共、お互いに頑張ろうね?…まぁボクの球で殺っちゃうけどね!」


【正義】

「お互いにベストを尽くそう…因みに勝つのは俺達だ、青じゃない!」


【航】

「そっそうだ!…全員潰してやるよ!」


【美咲桜】

「ヒロ君…勝敗はどうでも良いから、怪我だけには気をつけてね?」


【正義】

「どうでも良くはないけど…解った、無茶はしないよ」


互いの健闘を讃え握手を交わして、皆自軍のコートに散って行った。


【松原】

「ポイントの高い競技だから皆確りと応援しろよー!…特に赤組!……最後になるが、チームを優勝させる為に最も危険な種目に出場してくれた36人の勇者に盛大な拍手を!」


パチパチパチ―――――――――――――――――――――――!!!


【松原】

「只今より色別対抗ドッジボールを開始する!…ジャンパーは中央へ…………………セット!……レディー…………ゴーーッ!!!」


各色のジャンパー3人が一斉に、空に舞ったボールに向かって手を伸ばし跳躍した。



今回芽衣さんはジャンパーじゃないのか?…………!?


【正義】

「下がるぞ、航っ!!」


ボールはジャンパー3人が弾き合い、運悪く青組のコートに転がっていった。


【航】

「解ってるっ!!」


航とライン際まで下がると同時に、互いに顔を見合わせて頷き視線を青に戻した。芽衣さんがボールを拾って此方に駆け出し、ライン際から砲撃が放たれようとしていた……オーバースロー!


【芽衣】

「死ねやぁーーーッ!!!」


軌道上には二年男子の先輩が1人…チッ!早くも1人アウトか


【赤組男子】

「グハァーーーーーッ!!!」


喰らった先輩はコートの外まで吹っ飛ばされ、ボールは青組のコートに弾かれていた。


ワァァー!―――


目の覚める様な強烈な一撃に、青組の応援席から歓声があがった。


赤組8青組9緑組9


青組のコートに弾かれたボールを拾ったのは亜沙美、助走をつけてから此方に投げてきた。


【亜沙美】

「逝っけぇーーーッ!」


此方に向けて反時計回りに回転している、スピードのあるボールが放たれた。


【航】

「マサ君っ!」


【正義】

「分かってるっ!」


此方に飛んで来たボールの正面に移動して左手を下、右手を上に構えた。


【正義】

「……ッ!…良し!捕った!」


ボールを上下から挟み込んだ瞬間に両手を時計回りに動かし、反対から回転を加え反動を相殺してから確りと胸に抱え込んだ。


アレ?…赤組から割れんばかりの歓声が無くない?


【恋華】

「マー君、ナイスキャッチ!…先輩の敵討ちだよ。殺っちゃえっ!」


【航】

「計算通りだね!…どうだった、俺でも捕れそう?」


声援は恋華1人か………なんか虚しいなぁ〜。どれだけ重い球か解らないんだろうな。


【正義】

「軍手だとキツいかもな、でもお前なら3・4球は捕れると思うぜ」


さてと、緑でも削りますかね…青を狙って芽衣さんにでも捕られたらシャレにならないしな。


【亜沙美】

「ボクの球を捕るとはね!…お返しに狙ってみる?……それとも緑に逃げるのかなぁ〜?」


安っぽい挑発だなぁ〜。あんな挑発に載ってたまるかよ、折角掴んだ攻撃するチャンスなのに。


【正義】

「後で殺ってやるから、子供は大人しく待ってなさい!……っという訳で緑は死ねやっ!」


亜沙美と話していたので攻撃は無いと油断したのか、緑組の殆どがバックしていなかった。


亜沙美と話しながら横目でターゲットの位置を確認していたので、顔は動かさず視線だけを移して小さな動作でボールを投げつけた。


【緑組男子】

「なっ!?…グハッ!」


赤組8青組9緑組8


一番近くに居た男子の肩に当たり、弾かれたボールは此方に跳ねて来た。


跳ねて来たボールを掴んで緑組のコートに視線を戻すと、体調が悪いのか動きにキレがない女子が居た。


【正義】

「ゴメン…ねっ!(コートの外でゆっくり休んでね!)」


力は入れずに腕の振りと手首のスナップだけを使って、球威を抑えつつスピード重視の球をフラフラしている足めがけて投げた。


【緑組女子】

「…キャッ!?」


赤組8青組9緑組7


放ったボールは狙い通り太もも辺りを捉え、そのまま緑組のコート内に留まった。


ボールが戻って来ないのを確認してから急いで後方に下がると、傍に居た航が寄って来た。


【航】

「ナイス、マサ君!……でもボールは緑に取られちゃったね」


【正義】

「跳ね返って来ないのは分かってたよ…球威を殺した球だしな」


視線でボールを追いつつ、狙いをつけられない様に移動を繰り返しながら返事を返した。


【緑組男子】

「もらったっ!」


【青組男子】

「…ッ!…ぐあっ!」


【青組男子】

「なっ!?…足に!」


赤組8青組7緑組7


緑組男子が投げた球は青組男子の腕を捉え、そのまま近くに居た男子の足に当たった。


ワァァー!―――


一気に2人がアウトになり、緑組の応援席から大きな歓声が上がった。


【航】

「芽衣先輩がボール持ってんですけど何か?」


ボールは青組のコートを転がり、彼女の足に当たって停止した。


彼女はゆっくりとした動作でボールを拾い上げ、人差し指の先に載せてクルクルと回した。


【芽衣】

「オレが投げねぇからって…お前等調子に乗ってんじゃねえぞ?………ムカついたから、そろそろ本気で行かせてもらうぜっ!!!」


彼女がドスを効かせた低く冷たい声で告げると、場の空気が変わった。


青組以外の選手が突然ガタガタと震えだし、会場から拍手や歓声といった音が消えた。


【芽衣】

「先ずは見せしめだ!2人を殺ってくれたテメェは………さっさと消えなぁーッ!!!」





















【正義・航】

「………………………」


本気になった彼女は凄まじいの一言だった。砲撃を喰らった男子はコート外に悉く吹っ飛ばされ、俺達も避けるのに必死だった。


彼女の砲撃は計算済みなのか、当たった後8割位の確率で青組のコートに戻る。(残り2割で緑にボールが残ったが、青組を狙って捕球された為に実質は10割だ)


その結果…俺達はボールに触る事すら出来ずに緑の男子は全滅、赤の男子も残っているのは俺達2人だけだった。


赤組4青組7緑組1


【美咲桜】

「次は……赤っ!」


美咲桜がサイドスローの体勢から投げた球は、少しだけ落ちながら横に曲がった。


【赤組女子】

「えっ!?横に!…キャッ!」


フォークを予想して体勢を低くしていた為に、横に変化した球に反応出来ずに二の腕に当たった。


赤組3青組7緑組1


【航】

「やっとマイボールだね!……今からどう攻める?」


足元に転がっていたボールを拾い上げて、此方に駆け寄って来た。


【正義】

「とりあえず先輩は守るぞ。…緑の女子は無視しよう、まずは青の男子を削らないとな」


青の男子は3人……ボールを捕られたらマズイし、俺が殺るか?


【航】

「どうするの?…芽衣先輩、思いっきり挑発してきてるよ?」


彼女は此方を向いてニヤニヤしながら、腕を前に突き出して中指を立てていた。


【正義】

「ボール寄越せ!……芽衣さんは男子を削ってからだ」


今殺り損ねたら、話にならない……あの作戦は多分一度しか通じないからな。


【航】

「ハイハイっと、あんまり熱くなっちゃ駄目だよ?」


航からボールを受け取って、青の男子を眺めながら笑顔で口を開いた。


【正義】

「しっかし青の男子はヘタレが多いなぁ〜…芽衣さん達が居ないと何も出来ないんじゃない?」


【青組男子】

「なっ!………良く聴こえなかったんだが、もう一回言ってくれるかっ!!…一年坊!」


クックックッ…沸点低い人達だなぁ、あっさり罠にかかりやがった。


【航】

「ちょ!ちょっとマサ[黙って観てろ!]……………解った」


狼狽える航を征して、笑顔を崩さずに口を開いた。


【正義】

「ヘタレって言ったんですが、聴こませんでした?…なら何回でも言ってあげますよ、ヘタレヘタレヘタレ[このガキッ!]…………ガキなのはっ!…アンタ等だっ!!!」


挑発に載って前に出て来た奴に向けて、球威とスピードのある球を全力で投げつけた。


【青組男子】

「グギャーーーーっ!!!」


捕球しようとして前に出していた右手の指先に当たり、鈍い音が聴こえてきた。


赤組3青組6緑組1


捕球に失敗したボールが此方に跳ねて来たので確りと掴んだ。


【赤組女子】

「七瀬君、ナイス!…やっと反撃開始だね!」


【航】

「なるほどね。…という事は残り2人も…[楽勝♪]……頼んだよ!」


同じ様に挑発を繰り返して残りの男子を潰した。(かなり近くで投げつける為に、狙い通りボールは戻って来た)


赤組3青組4緑組1


【航】

「やっと希望が見えてきたね?……まだボスが残ってるけど…」


【正義】

「あぁ…今から中ボスの芽衣さんを潰す。…とは言っても裏技だけどな…」


【航】

「えぇ?…ラスボスじゃないの?」


【正義】

「いや、裏技が使えるから難易度が……ちょっと耳貸せ?」


怪訝な表情をしている航を呼び寄せ、小声で『秘策』を説明した。


【航】

「良くそこまでヤル気になったね?……恥ずかしくて俺には無理だよ…」


頭の上に???が浮いている航にボールを渡して、ヤル気になった理由を説明してやる事にした。


【正義】

「さっさ松原がさぁ…『最優秀クラスに選ばれたらお前達全員、数学を5にしてやる。あと数学の時間とLHRも自習にしてやるから、絶対に負けるなよ!』って、言ってたからヤル気になった訳…OK?」


そう言い残し青組と赤組のコート間に引いてあるライン、ギリギリの所まで向かった。


【航】

「なるほどね。そりゃヤル気になるわけだ。………健闘を祈るよ」


【正義】

「芽衣さん!…ちょっといいですか?」


怪訝な顔で此方を観ていた彼女に、両手を上げてボールを持って無い事をアピールしながら呼びかけた。


【芽衣】

「なんだ?…今じゃないと駄目[ハイっ!!]…………分かった」


彼女は少し考え込んでいたが、納得したのか此方に歩み寄って来た。


さてと、ここからが本番だ。一回しか使えないが……成功させる自信はある!


【芽衣】

「どうしたんだ?…真剣な顔なんて[大事なお話しがありますっ!!]…………なんだ?」


免疫の無い彼女にこんな事を言うのは気が引けるが……快適な学校生活(安眠時間)の為だ、それに恥をかくのは俺だしな。(後で美咲桜に説教されそうだが)


【正義】

「大好きですっ!!(流石に主語を入れたらマズイよな)」


【芽衣】

「………………なっ!」


彼女は無言で固まってしまった。(成功したのか?)


【全校生徒】

「ええええぇぇぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!??」


少し遅れて会場中に大音量の驚きの声が響き渡った。


【芽衣】

「ななななななんだってぇ〜〜〜〜〜ッ!!?(超赤面&石化)」


彼女は絶叫するとボンッという音を発てて、身体中が真っ赤に染まってピクリとも動かなくなってしまった。


【美咲桜】

「ちょっと待ったぁーーーーーッ!!!」


【亜沙美】

「大胆だねぇ〜!…こんな大勢の前で告白するなんて、愛されてますねぇ〜…園田先輩!」


美咲桜からの『ちょっと待った!』コールを無視し芽衣さんの石化を確認してから、右手をこっそりと背中に移動させ航にサインを送った。(成功!殺れ!)


【航】

「あらよっと……はい、芽衣先輩アウトね!」


背後から航がゆる〜い速さのボールを、石化している芽衣さんに投げた。


【芽衣】

「…………………あ?」


彼女の胸に当たったボールは、此方に向かって跳ねて来た。


赤組3青組3緑組1


【松原】

「園田アウトだっ!……試合が進まないから早く退場しろ!(此方にサムズアップしながら)」


跳ねて来たボールを拾い上げ航に手渡してから、松原の方を向きサムズアップを返した。


【芽衣】

「え?……あ…あぁそうか…すまない、直ぐに出る」


まだ何が起こったのか解ってない様で、気の抜けた返事をしてコートの外にフラフラと歩いて行った。


【航】

「作戦成功だね!…結果、会場中から白い目で観られてるけどね…」


【正義】

「しょうがないだろ?……俺が本気で投げる球を捕られるんだ、普通に殺れるならこんな事するかよ」


【航】

「まぁマサ君の球を捕れるの芽衣先輩ぐらいだからね…残りの娘達、俺が殺ろうか?」


【正義】

「そうしてくれると助かる…美咲[ヒロく〜ん?]……………ナンデショウカ?(滝汗)」


背後から聴こえた猫撫で声に首をギギギと動かして顔を向けると、満面の笑顔で握り締めた拳をブルブルと震わせている修羅が立っていた。(握り締めた拳から血が地面に滴って、足元の砂が赤く染まっていた)


【美咲桜】

「ちょっとこっちに来ようかぁ〜?」


マズイ…ここまでキレた美咲桜は観たことが無い。何とか回避……できる訳無いよな。


【正義】

「美咲桜さん?…ちょっと落[おいで?]……ち着こう[来なさい?]…話せ[来いっ!!!]ヒィィィ!!?」


身体中から噴き出す汗がさっさから止まらない。頭では行くなって言ってるのに、身体が勝手にぃ……逝くんじゃないっ!…止めろっ!!…止めてくれぇ!!!


【美咲桜】

「いい子だねぇ〜?…じゃあ目を瞑って?…[ハイっ!]……歯を喰い縛って?…[ハイっ!?]ちゅ…んっ……んぅ……ぷはぁ…まだ目を開けちゃ駄目よ?」


言われるがままに目を瞑り歯を喰い縛ると、唇に軟らかくて暖かいモノを押し付けられた。


ええええぇぇぇ〜〜〜〜〜ッ!!!?…いっ今のってキス…だよな?……………怒ってたのに何故……それに何でまだ目を開けちゃ駄目なんだ?


【美咲桜】

「スゥー…ハァー…スゥー…ハァー…セイッ!!!」


バシィ!!!―――


美咲桜は軽く深呼吸してから、正義の左側頭部をめがけて思いきり右足を振り抜いた。


ズザァーーーー!!!―――――――――――


正義の身体は蹴りの衝撃で横に吹っ飛び、背中から勢い良く地面に叩き付けられそのまま砂の上を滑った。


【正義】

「痛ってえぇぇぇーーーーーーーーッ!!!」


一体何が起きたんだ?…頭の左側がメチャクチャ痛い、クラクラする。頭を横から殴られたのか?…景色がボヤけて見えるし、背中はヒリヒリしやがるしな。


【正義】

「マジ痛って〜…何で俺、地面に寝てんだろ?」


上半身を起こして周囲を見回すと、美咲桜が此方に歩いて来ていた。


【美咲桜】

「ヒロ君っ!…もう絶対にこんな悪戯事しちゃ駄目だよ?」


目の前で立ち止まったので顔に視線を向けると、少しだけ機嫌が悪そうな表情をしていた。


【正義】

「悪かった。…もう絶対にしないから、機嫌直してくれよ?」


何をされたか知らないけど、あの痛さは勘弁して欲しい。


【美咲桜】

「もうっ!…突然あんな事[桐原アウト!…ラインオーバーだ!]……………え?」


【松原】

「青組のお前が赤組のコートに入っちゃ駄目だろ?……残り時間も少ないから早く退場しろ!」


良く見ると確かに美咲桜は俺達のコートに入っていた。………もしかして結果オーライ?


【美咲桜】

「分かりました。…ヒロ君っ!…話はまだ終わってないんだからねっ!!?」


美咲桜はそう言うとコートの外に向かって歩いて行った。


【航】

「大丈夫、マサ君?………はい。掴まって?」


入れ違いにボールを抱えた航が此方に来て、手を差し出してきた。


【正義】

「悪いな、よっと……アレからどうなった?」


【航】

「皆…唖然として、口を開けて固まってるよ。ほらっ!…応援席の方を観てみなよ?」


言われるがまま顔を向けると、皆は声も出さずに固まっていた。


【正義】

「じゃあ美咲桜がアウトになっただけなのか?」


【航】

「うん。ほらっ!…赤の先輩1人に青の2人、緑の1人は残ってるでしょ?」


今度はコートの方を向いて周囲を見渡すと、確かに亜沙美を含め女子4人が生存していた。


赤組3青組2緑組1


【正義】

「なるほどね。…要するに5分位しか経ってない訳だ」


【航】

「そういう事…とりあえずマイボールのままだけど、どうする?」


【正義】

「俺ちょっと頭が痛いから休憩、亜沙美以外を頼めるか?」


【航】

「分かった!…もう5分位しか時間無いし、速攻で殺るから!」


そう言うと航は緑のコートギリギリまで近づいて、何かを言うと(少し離れている為、声が聞き取れない)その娘の顔が真っ赤に染まった。


【緑組女子】

「キャッ!………約束忘れないでね?」


赤組3青組2緑組0


航は固まっている彼女に軽くボールをぶつけて、戻って来たボールを拾い上げた。(約束って何だ?)


【航】

「また今度ねっ!…良しっ!………次は青の娘か」


航はそのまま青組のコートギリギリまで歩いて行った。


先程と同じ様に呼びかけたのか、女子は航に近づこうとしたが亜沙美に手で遮られた。


【亜沙美】

「緑の娘に何を言ったのか知らないけど…ボクが居るからには殺らせないよ!」


亜沙美はそう言うと彼女を背後に移動させて、航を睨みつけた。


【航】

「あっちゃ〜…流石に無理っぽいや。どうする、マサ君?」


【正義】

「小細工無しで、全力で行くしか無いんじゃないか?」


【航】

「疲れるから嫌だよぅ…………………砕け散れえぇぇーーーーッ!!!」


上半身を大きく捻り、捻った上半身を引き戻す反動を利用して矢のような球を放った。


【正義】

「めっちゃ本気出してるっ!?………しかも、トルネード投法っ!!?」


スピードはあるが…球威はどうなんだろう?…航はあんまり力が強くないからな。


【亜沙美】

「…ッ!…っとと、楽勝♪」


亜沙美は太もも辺りに飛んで来たボールを、バレーの様にレシーブした。ボールは頭上に高く弾かれ、落ちて来たボールを余裕でキャッチした。(楽勝とか言ってる割には、油断しすぎて落としそうだったが)


【正義】

「チッ!………………この役立たず」


【航】

「なっ!?…俺だって普通の人なら楽勝だよ!…アレを捕れる亜沙美ちゃんが異常なんだって!…威力15000だよあの球!!!」


【亜沙美】

「……………あの〜?」


【正義】

「俺が知るかよ!そもそも威力15000って何だ!何の数値だよっ!?強いのかよっ!!!?」


【亜沙美】

「………………ねぇ?」


【航】

「強いよっ!普通はヘヴン逝き確定だよっ!!天美さんに逢えるんだよっ!!捕るなんてあり得ないよっ!!!」


【亜沙美】

「…………………もしも〜し?」


【正義】

「このギャルゲー野郎っ!ヘヴンに逝くのはテメェだろっ!現にあり得てんだよっ!!そもそも天美さんって誰だよっ!!!?」


【亜沙美】

「今のうちに……………………えいっ!!」


【航】

「なっ!?それはタブーでしょ!それを言うならマサ君だって[キャアーーッ!!]…………え?」


背後から悲鳴が聴こえて咄嗟に振り返ると、後方のライン際に女子の先輩が倒れていた。


赤組2青組2緑組0


航は倒れている女子を完全にスルーして傍にあるボールを拾いに行くと、此方に戻って来て何故かボールを手渡してきた。


【航】

「亜沙美ちゃん!…そんな卑怯な事してると殺っちゃうよ?…………………マサ君が!!」


俺かよ?……おっ!あの娘、こっちに背中向けて外野と話してる。2人が話してる今なら…丁度ボールもあるしな。


【亜沙美】

「卑怯?…2人が勝手に喧嘩した[ッ!!]………しまった!?避けてぇーっ!」


亜沙美が叫ぶのと殆ど同時に、ボールは外野と話している娘の背中に当たった。


赤組2青組1緑組0


【航】

「良しっ!…作戦成功!」


【正義】

「えぇ?…お前達が話してたのって計算[キャハハハハッ!!]………ん?」


視線を移すと、亜沙美は両手で顔を覆って笑っていた。


《女帝モード発動》


【女帝・亜沙美】「キャハハハハハッ!!!…アハッ!やっと面白くなってきた!」

そう言うと此方に背中を向けて、後方に転がっているボールの方に向かった。


【航】

「何か笑ってるん…………ッ!?…血が出てる!!」


ボールを拾い上げた彼女は、此方を振り向くと同時に物凄いスピードの球を投げた。


【正義】

「危なかったなぁ〜…顔面はセーフで良かったな、航!」


ボールが航の右頬を掠めて小さく切れ、血が地面に滴り落ちていた。


【航】

「なに今の!?…ビュンってなって直ぐにザシュって血が……今がボールですよね?」


『今がボールですよね?』って……どういう意味だ。動揺しまくってるな………まぁ無理も無いか、俺でもギリギリ見えた位だしな。


【正義】

「今がボールかどうかは知らないが……当たったのはボール[七瀬君っ!ボール投げるよ〜?]……っと!ありがとう!」


外野の女子からボールを受け取ると、ラスボスの方に向き直った。


【女帝・亜沙美】

「キャハハハハハハッ!!…早く続きしようよ!折角楽しくなってきたんだからさ?」


さてと、どうやって亜沙美を潰すかな。俺の球は避けられるし、航なんて論外だしな。


【航】

「痛っつぅ〜…アレ?険しい顔してどうしたの?」


【正義】

「ん?…攻略法を考えてる。…打つ手が無いんだよな、亜沙美は俺の球避けられるだろ?」


【航】

「そうだなぁ………挑発してみたら?…『捕れないから逃げてるんだろ』みたいな感じで…」


【正義】

「もし捕られたらシャレにならないぞ?…次にあんな球来たら、どっちか死ぬぞ?」


【航】

「でも、残り時間が3分も無いんだよ?…タイムオーバーなんて事になったら、総合優勝の可能性が…」


【正義】

「混合とクライマックスの両方を勝っても無理なのか?」


【航】

「ハッキリ言って絶望的だね。…その条件を満たしても、青組がクライマックスリレーで2位になったらアウトだ…」


確かドッジボールで全滅させれば、混合は二位でもクライマックスで一位をとれば総合優勝だよな。


青組のクライマックス三位は確かに絶望的だ……両方とも芽衣さんが出てるし、混合にも美咲桜と亜沙美に噂の先輩がいるしな。ここで全滅させないと、総合優勝するためのハードルが高くなる…………殺るしかないか。


【青組外野】

「時間稼ぎしてないで早く投げろよ!…総合優勝はどうせ青組なんだよ、赤組はさっさと諦めて負けちまえ!!!」


【恋華】

「アンタ達が総合ポイント勝ってんだから黙って観てろっ!…マー君っ!航っ!…諦めちゃ駄目!…まだ大丈夫、勝てるよ!!!」


【航】

「恋華…………マサ君っ!勝負しよう!…やっぱりここで全滅させるしかないよ!」


ギリギリなのは解ってるよ…でも恋華や航が総合優勝を信じてる限り、俺に選択の余地なんて無い!…他の赤組の奴等はどうでもいい、2人の為に勝つだけだ!!


【正義】

「分かった。亜沙美っ!!…お互い避けるの無しで殺らないか?」


【亜沙美】

「キャハハハハハッ!!!…ボクは別に構わないよ?…でも鳴海君は嫌なんじゃない?」


航に視線を移すと真剣な表情で深く頷いたので、頷き返して視線を戻し亜沙美を睨みつけた。


【正義】

「勝つのは俺達だっ!……………オラァァーーーッ!!!」


狙うのは捕りにくい膝から下か、胸から上……彼女は腰を落としているから当然……狙うのは肩だ!


思いきり助走をつけてから彼女の右肩をめがけて、ボールを持った右腕を全力で振り抜いた。


【亜沙美】

「クッ!肩にっ!?…痛っ!………ボールっ?……ッ!?……………まだ終わってないっ!!」


腰を落としていた為にボールの正面に移動するのは間に合ったが、高さが合わせられずそのまま肩に当たった。


【航】

「良しっ!これでボールが落ちれば!」


【芽衣】

「まだ諦めんなっ!!走れ亜沙美ぃーーーーーッ!!!」


【美咲桜】

「亜沙美ぃーーーッ!間に合うよーーーーーッ!!!」


【恋華】

「お願いっ!!落としてえぇぇーーーっ!!!」


亜沙美の肩に当たったボールは空高く舞い上がり、風に乗りゆっくり此方に向かって来ていた。


ボールから視線を正面に戻すと、亜沙美が此方に向かって走って来ていた。


あの軌道だと多分……このライン辺りに落ちてくるよな、亜沙美も間に合いそうだ。………俺がアウトになっても航が居る、確実に勝つためにはボールを捕るしかないな。


【亜沙美】

「ボクはまだっ!…クッ!………お願いっ!届いてえぇーーーッ!!!」


亜沙美は此方に向かって落ちてくるボールに、手を伸ばして跳躍した。


チッ……あの軌道じゃラインまで届かない!…亜沙美の位置なら多分……青組のコートに飛び込んで、捕られる前に弾くしかないっ!!!


【正義】

「させるかぁーーーーーッ!!!」





















あの後結局、体育祭は青組の総合優勝で幕を下ろした。



ドッジボールの結果…亜沙美が捕る前に俺はボールを弾く事に成功した。


結果的に亜沙美は捕球失敗でアウト、俺は青組のコートに飛び込んでラインオーバーでアウトだ(俺の体が青組コートの地面に着く前に弾いたので反則にはならない)


最終的に航が生存していた赤組の勝利に終わった。



混合リレーは『恋華→航→陸上部の三年女子→俺』の順番で走った。


因みに青組の走者は『亜沙美→美咲桜→芽衣さん→陸上部の三年男子』の順番だった。


スタートして直ぐに前に出た亜沙美に恋華は必死で食らいつき、2メートル位の差で航に繋いだ。


航は直ぐに美咲桜を抜くとその差を拡げて、10メートル位のリードを保ち陸上部の先輩に繋いだ。


先輩はバトンを受け取ると同時にトップスピードになり、少し差を拡げてバトンを受け取った。


15メートル程のリードでバトンを受け取り、後ろを振り向かず全力でゴールを目指して走った。


俺がゴールラインを駆け抜けて力を抜いた瞬間、青組のアンカーが直ぐ横を駆け抜けた。(2メートル位まで詰められていたらしい)


要するに混合リレーは赤組が一位、青組が二位だった。



クライマックスリレーは結構シビアな人選になった。


知らなかったが…メンバーに必ず女子を加えなければいけないし、全学年から最低一人ずつ選出しなければならないらしい。


つまり『一年+二年+三年+女子1名』の計4人になる訳だ。


三年女子を選択しなければ三年男子を二人使える等、人選から闘いは始まっている。(俺は一年で一番足が速い為に選ばれたらしい)


ここまでの総合ポイントで緑組の総合優勝は消えた。


混合リレーで総合ポイントが逆転した為、赤組は青組より上位で競技を終えれば総合優勝だ。


逆に青組は優勝するしか総合優勝の可能性は無い。


赤組の走者は『バスケ部の三年男子→陸上部の二年男子→陸上部の三年女子(混合リレーの第三走者)→俺』の順番だ。(何で皆俺より遅いの?)


青組の走者は『陸上部の一年男子→バレー部の三年男子→芽衣さん→陸上部の三年男子(混合リレーでアンカーをつとめた人)』の順番だ。


スタート直後にバスケ部の先輩が転けてしまい、必死に挽回したが10メートル位遅れてしまった。


陸上部の二年はバトンを受け取ると半周程でバレー部を捉え、逆に10メートル程のリードを保ってバトンを繋いだ。


陸上部女子の先輩はリードを20メートル程まで拡げた。しかし残り100メートル位で失速して差を詰められ、10メートル程のリードでバトンを受け取った。


混合リレーの時より少ないリードだったので、最初からトップスピードで走ったがゴールの5メートル手前でかわされてしまった。………あの先輩速すぎ!


因みに俺は体力的に限界だったが、無理をして100を10秒8位のペースで走った。(自己ベストは10秒34)



…………という訳でクライマックスリレーは青組の勝利に終わり、総合優勝も青組に決まった。(恋華は悔し涙を流していた)


しかし!…最優秀クラスに選ばれたのはなんと1‐A、つまり俺達だった。(松原は泣いて喜んでいた)


こうして俺達の汗と涙と青春?の第40回体育祭は終わりを告げた。





















閉会式がも終わると美咲桜と芽衣さんに追い掛け廻された。(ドッジボール事件の追及)


追い詰められ殺られかけている処を航に救出(鳴海家の使用人達にワッショイされた状態で、リムジンまで輸送)され、無事家に帰る事ができた。(鳴海家のリムジンで送ってもらった)


リビングに入ると、母さんが今日の映像をテレビで観ていた。


『お前…たかがドッジにビビりすぎだろ?…秘策があるから心配するな…………多分な(ニヤリ)』


【英理朱】

「おかえりなさい。まー君っ!……今回も良く撮れてるでしょ?」


今テレビに映っているのは、教室で着替えている俺と航の半裸姿だった。


【正義】

「…寄越せ」


俺がそう言うと再生を止め、素早い動きでカメラを抱えてリビングを出ていった。


【正義】

「何処から撮ったぁーーーッ!!!……メモリーカードを寄越せえぇぇーーーーーッ!!!」


という正義の叫び声が夕暮れの住宅街に響き渡った。

♯11お楽しみ戴けましたでしょうか?ストーリーバランスを考えてのコメディなので、あまり面白くないかもしれません。(というより文才が足りない)もし楽しんで戴けたのなら幸いです。本編をしっかり読んでる方には、次話の展開が解ると思うので次回予告はありません。それではまた♯12でお会いしましょう。


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