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♯10 5月第1週【心の傷痕、少女の祈り】

♯10出来ました。徹夜で書き上げたので今、猛烈に眠いです。…ページ多いし…エラー多すぎて泣きそうですよ。何千文字消えた事か、ハァ〜…ゴメンなさい。愚痴ってしまいましたね。ちょっと体調不良気味で更新が遅れてすみませんでした(言い訳?)長々と書いてしまいましたが、それでは♯10お楽しみ下さい!

初日から両親に〈旅行に行くから!〉と言われて朝の6時に叩き起こされ、引き摺られる様にして車に詰め込まれた。


それから空港に向かい飛行機に乗り込み、辿り着いた場所は蟹やホタテが美味しい北の大地だった。


空港からタクシーでホテルに移動し、チェックインしてからが本当の地獄だった。


部屋でゆっくりしているとノリノリな2人に腕を掴まれ、引き摺られる様にしてホテルを出た。


それから【観光→買い物→移動】の高速ループを喰らいまくり、俺の体力はあっという間に底をついた。


途中美味しい食事という名の罠で、体力は回復するのだが………直ぐに高速ループとコンボするので疲労が2乗になって襲いかかってくる。


この旅行は二泊三日の為、高速ループは帰る日まで毎日続いた。


家に帰って直ぐに航から電話があった。疲れ果てていた俺は、通話の途中で強烈な眠気に襲われた。通話しながら覚束無い足取りで自室に戻り、ベッドに倒れ込むとそこで意識が途切れた。―――――――――――――



















―ゴールデンウィークも今日で最終日。旅行で蓄積した疲労を少しでも減らそうと、死人の様に眠っていた。


壁の時計が6時半を指した時、静かな部屋の中に携帯の着信音が響き渡った。


『♪♪〜♪〜〜♪♪♪』


自作の着信音に反応して眼が醒め、布団の中でモゾモゾと手を動かし携帯を探した。


枕の下敷きになっていた携帯を掘り出し、眠い目を擦りながら通話ボタンを押した。


『おっはよ〜!起きた?』


電話から聴こえたのは、ムカつく程爽やかな友人の声だった。壁に掛かった時計に視線を向けると6時32分だった。


こんな朝早くに爽やかな声で電話をかけてきた友人に、殺意が湧いた。


【正義】

「今…何時だと思ってやがりますか!?…鳴海君っ!!」


【航】

『ろ く じ は ん』


間の空いたムカつく喋り方に、殺意が急激に膨れ上がった。


【正義】

「殺 ら な い か ?」


ありったけの殺意を込めて、声にドスを効かせて言ってやった。


【航】

『ゴメンなさい!ゴメンなさい!ゴメンなさいっ!』


声が大きいっての……こっちは眠くて仕方無いってのに。大体何の用だ、こんな朝早くに…さっさと用件を聞いて寝よう。


【正義】

「用件は何だ?事と次第によっては………潰しますよ?」


【航】

『えぇ〜!昨日俺が電話で言った事、覚えてないの!?』


昨日の電話?……アレ?…昨日家に帰ってからの記憶が無いなぁ。


【正義】

「えっ?…電話なんてしたのお前?」


【航】

『ハァ〜…昨日電話の途中で寝たみたいだね、疲れてるって言ってたし。……マサ君が旅行に行ってる間に〈連休中、何処かに皆を誘って遊びに行こうよ!〉って恋華が言ったんだよ。それで今日皆で篠井スーパーランドに行く約束をしてたから、マサ君も誘ったんだよ…昨日』


篠井スーパーランド?……確か小さい頃に母さんと行ったなぁ。何年振りだろ?懐かしいなぁ〜…ん?


【正義】

「あそこって…子供向けのアトラクションしか無いんじゃなかったか?」


【航】

『それって何年前の事?…2年前にリニューアルしてから相当変わってるよ?…逆走するジェットコースターとかも出来たし、敷地も相当広くなってるよ』


逆走するジェットコースターって何?…デンジャーなマシンなのは間違いないな。へぇ〜…意外と楽しめそうだなぁ。


【正義】

「まぁそれは解った。…………じゃあ6時半に電話した理由は何?」


【航】

『だって英理朱さんに先を越されたらアウトじゃん。それに連休初日から……ハァ〜…それじゃ再現するよ、3・2・1・スタートッ!!!』



―PLAYBACK―――――――航SIDE―



ゴールデンウィークの初日。……俺は昨夜から徹夜でパソコンの前に座り、溜まり過ぎた『積みゲー』を消化していた。


【航】

「ハァ〜…恋華もコレ位胸が大きければなぁ。……ん?…選択肢…どうせCG回収しないといけないから…とりあえず『中で出す』っと…[♪〜♪♪〜〜♪〜♪]……電話?」


恋華かな?…でも今日は分家の集まりに顔出しに行くって言ってたよな?……誰かな。


首を傾けながら携帯を開くと、液晶には『桐原さん』と表示されていた。


美咲桜ちゃん?…珍しいな、電話してくるなんて。疑問に思いながらも通話ボタンを押した。


【美咲桜】

『鳴海君っ!…私のヒロ君は何処っ!?ずっと電話してるのに繋がらないのっ!………どうしよう…もしヒロ君の身に何かあったら私っ!』


凄い動揺してるな。いつも冷静な美咲桜ちゃんがこんなに取り乱すなんて…とりあえず話を聞こう。


【航】

「美咲桜ちゃん?…少し落ち着い『落ち着ける筈ないよっ!』………とりあえず、順を追って話してくれる?」


あんなに声を震わせて…余程マサ君の事が心配なんだ、早く不安を取り除いてやらないとな。


【美咲桜】

『いつも休日は、私がモーニングコールをしてるの。それで今日も電話したんだけど……1時間位続けても全然繋がらないし…桜さんに家まで見に行ってもらったんだけど、誰も居ないって。前の日は何も言ってなかったのに…』


確かに…マサ君、連休中は家でゆっくりするって言ってたしな。…何処に行ったのかなぁ?………GPSで調べてみるかな。これだけ取り乱してるなら、まだ試してないだろう。


【美咲桜】

『まさかっ!…綺麗なお姉さんに甘いモノあげるって言われて、着いて行っちゃったんじゃ!?』


ちょ…それは無いでしょ。相当テンパってるな……急がないと、もっと大騒ぎになりかねない。


【美咲桜】

『そうだっ!…警察!捜索願いを[ちょっと待ったっ!!今探してるから、少しだけ待って!]………解ったよ…』


子機がわりに置いてある携帯を高速で操作して、GPS情報を検索した。……………H県?…何故?


【航】

「美咲桜ちゃん?………マサ君はH県に居るよ」


そういえば確か去年も……シーサーが有名なO県に連れて行かれたって言ってたな。なるほど…家族旅行だな。去年は美咲桜ちゃん居なかったし、知らなくて当然だろう。それに当日フラグが起つって言ってたし……さすが英理朱さん、行動が全く読めない。


【美咲桜】

『何でH県なんかに居るの?……私を残して』


何でって…本当にこの2人どういう関係なんだろ?


【航】

「家族旅行だよ。去年もそうだったんだけど、当日にいきなり言われるらしいよ?…『旅行に行こう!』って…俺も去年遊ぶ約束してて、ドタキャン喰らったからね」


【美咲桜】

『そうだったんだ…それじゃあ仕方無いね。……そうだっ!連休中に皆で遊びに行かない?ヒロ君は強制参加でっ!!!』


あっちゃ〜キレちゃった…まぁ自業自得だよ。たまには痛い目をみないとね。


【航】

「うん。解った!恋華も同じ事言ってたから、相談しておくよ。…日取りは連休の最終日にしよう!去年も最終日の前日には帰って来てたから、マサ君」


【美咲桜】

『うん。ゴメンね鳴海君?…ヒロ君が帰って来たら連絡宜しくね!…それじゃ!』


ご愁傷様…あの感じだと、1日中引き摺り廻されそうだな。まぁ俺は恋華とゆっくりしよう。



―PLAYBACK―――――――――END―



【航】

『……………という事があったんだよっ!』


ツッコミどころが多すぎて、手がつけられん。……それに、なんでコイツは自分のプライベートを赤裸々に語ってんだ?……男らしいと思ってるのか?声も自慢気だしな。


【正義】

「なるほどねぇ。それは悪かったな。ところで…皆で行くって、メンバーは?…時間は?」


いつものメンバーかな?…芽衣さんと亜沙美は用事が有るかもしれないしな。


【航】

『俺達4人と芽衣先輩に亜沙美ちゃんの6人。時間は9時に現地集合だよ』


フルメンバーだな。俺は美咲桜にロックオンされるだろうし……クレイジーな2人は航達に任せよう。


【正義】

「解った。ところで…今日も送迎頼んでいいか?…もし母さんに頼んだら………ハァ〜」


母さんに遊園地行くなんてバレてみろ…間違いなく着いて来るに決まってる。…バレない様にしないとな。


【航】

『了解。じゃあ7時50分位に行くから……バレない様にね?英理朱さん勘が鋭いから』


【正義】

「気を付けるよ。じゃあ、また後で」


【航】

『うん。気を付けて』


電話を切って液晶に視線を向けた。7時10分か…40分も話してたんだな。


【正義】

「さてと、準備しますかね!」


















あの後着替えて玄関を出ようとした所で、何故か外に居た母さんとエンカウントしてしまった。


〈こんな朝早くに何処に行くの?〉と言う母さんの尋問に耐えきり、無事に航と合流した。


車に乗り込み1時間程走った頃、今日の目的地である篠井スーパーランドが見えてきた。


【正義】

「お〜!…確かに大きくなってるな……昔はあんなアトラクション無かった筈だ。…何か有名な乗り物ってある?」


【航】

「でしょ?…有名なのはジェットコースター3機かな?速さ・長さ・恐さのコンセプトに別れてるんだ。電話で話してた逆走するのが『恐さ』のマシン、後は観覧車とお化け屋敷に高速メリーゴーランド位だね。他にも色々と凄いらしいけど…行かないと解らないしね」


高速メリーゴーランド?…なんだこのやるせなさ、罰ゲーム用?


【航】

「皆もう来てる!……うわぁ〜…人多いねぇ〜?」


隣に座る航の声に反応して前方に視線を移すと、ゲート前の4人とチケット売り場に群がる人だかりが見えた。


【正義】

「此処って穴場っぽいイメージあるけど、大盛況だな」


【航】

「そうだねぇ、でもギャラクシーワールドよりはマシだと思うよ。………着いたよ?降りないの?」


ハッとして2人で車を降りると、4人が此方に気付いて走り寄って来た。


【恋華】

「随分遅かったねぇ〜?…またマー君絡み?」


【芽衣】

「正義っ!今日は1日宜しくなっ!」


【亜沙美】

「2人共、誘ってくれてありがと!……今日は存分に楽しもうねっ!!」


【美咲桜】

「ジ〜………ッ!?…ギロッ!!!」


美咲桜が此方を凝視していたので顔を向けると、気付いた途端思いきり睨まれた。……あまりの迫力に視線を逸らして、4人の格好を眺めることにした。


4人の服装は動きやすさを重視した様なラフな格好で、全員ハーフパンツやジーンズを穿いていた。美咲桜と恋華が可愛さを、芽衣さんと亜沙美はカッコよさを強調した様な着こなしだった。


【航】

「ちょっとマサ君…美咲桜ちゃんに謝らないと、マズくない?」


隣に立っていた航が小声で耳打ちしてきた。小さく頷いて美咲桜に視線を移すと、背後にどす黒い炎の様なモノが見えた。


【美咲桜】

「ヒ〜ロ〜君?私に何か言うことがあるんじゃないの〜?」


そう言いながら此方に近付いてきて、両手で顔を挟む様に押さえられた。そのまま顔を寄せてきて額同士を合わせ、ゼロ距離で睨まれた。


【正義】

「……………………ゴメンなさいぃ!(滝汗)」


謝ったら今度は睨んでいた眼が糸目になって、引きつった笑顔を向けてきた(超恐い)


【美咲桜】

「何に対してのゴメンなのかなぁ〜?…クスクス……それで謝ってるつもりなの?」


笑ってるぅ〜!?声もドスが効いてるし、あの純粋無垢な娘がこんなになるなんて…俺の知らない3年間に一体何がっ!?


【正義】

「美咲桜さんの許可も無く…勝手に旅行なんかに行って……ゴメンなさいっ!」


謝ると美咲桜の眼からポロポロと涙が頬を伝い、地面に小さな染みをつくった。


【美咲桜】

「電話…したのにぃ……全然っ…繋がらないし…うっ…心配したんだからっ!」


顔を掴まれていた両手が離れ、そのまま抱きしめられた。


そうか…休日のモーニングコールは、俺の所在を確認する為だったんだ。本当に悪い事したな…向こうに着いてから、携帯はホテルに置きっぱなしにしてたからな。


それに……こんなにも心配させて、また気付いてやれなかった。どこかでサインを出してた筈なのに、それに気付かないなんて…俺は本当に馬鹿だっ!……救いようのない大馬鹿野郎だっ!!!


【美咲桜】

「うぁーーっ!…置いてっちゃヤダー!!…ひとりはイヤーーッ!!!」


そうだった!…俺の事なんて今はどうでもいいじゃないかっ!!


4人の方を向くと驚いた様な顔をしていた。……美咲桜が子供みたいに駄々をこねて泣き出したからだろう。…航に視線を向けて片目を瞑り、顎で入口を指した。俺の意図が伝わったみたいで、此方にウインクを返してきた。直ぐに唖然としたままの3人の背中を押しながら、入口に向かって行った。


【正義】

「もうお前を置いて行ったりしないから…絶対一人になんてしないから……ゴメンな美咲桜…馬鹿な俺を許してくれ…」


優しく抱き返して耳元で『俺は此処に居るよ、美咲桜は一人なんかじゃない』と何度も優しく語りかけた。


暫く抱き合っていると泣き止んだのか、背中に廻された腕がゆっくりとほどかれた。そのまま右腕に抱き着いてきて、泣き腫らした顔を此方に向けた。


【美咲桜】

「今日は絶対に私から離れちゃ駄目なんだからねっ!?」


言葉遣いは幼いまま……俺が急に居なくなったから、あの時の事を思い出してしまったんだな。…トラウマになってたなんて知らなかった。……本当に俺は昔から何も変わっちゃいない…馬鹿は馬鹿のままだ。


多分…今日一日この状態だろう。美咲桜がこうなってしまった全ての原因は俺にある……あの時の二の舞にならない様に気を付けないとな。


【正義】

「あぁ!…ずっと一緒に居るよ。だから…俺から離れるなよ?」


空いている左手で髪を鋤くように撫でてやると微笑んで、右腕を抱きしめてくる力が強くなった。


【美咲桜】

「うん!…今日はずっとヒロ君から離れないもんねっ!」


航達に冷やかされるだろうなぁ……挑むところだ。今日の美咲桜は照れたりしないからな。


【美咲桜】

「ほらほらっ!…早く行こうよ!」


そう言いながらグイグイと腕を引っ張り、引き摺られる様にして入場ゲートに着いた。美咲桜が首に架けていたパスケースを係員に見せるとゲートが開き、中に入り辺りを見渡したが皆は居なかった。


携帯を取り出して航に連絡すると〈中央広場にある時計搭の下に居るよ〉と言われたので、俺達は遥か前方に見える時計搭を目指して歩き始めた。



















美咲桜と話しながら15分程歩き、時計搭の直ぐ傍まで来た。


皆の姿を探していると、此方に気付いた4人が駆け寄って来た。


【恋華・芽衣・亜沙美】

「「「……………………」」」


女子3人は俺達をチラチラと観ながら、小声で話し合っていた。


【航】

「良しっ!…じゃあ皆揃った事だし…何処から行こっか!?」


俺達の事を気にしてる3人に、さっきの話をさせない様に気を遣ってくれたんだな。航……ありがとな。


【正義】

「美咲桜…何処に行きたい?」


【美咲桜】

「んとねぇ…アレ!…アレに乗りたい!」


そう言いながら右の方を指差したので視線を向けると、狂った様なスピードで回り続けるメリーさん(馬)が居た。…いきなりメリーさんなの?……あれって動物虐待にならないのか?…違った意味で。


【航】

「良し逝こう!…ほらっ3人共!ぼーっとしてないで逝くよっ!?」


航はそう言いながら3人の背中を押して歩いて行った。


なんか字が違った様な気がする。あのメリーさん、本当に大丈夫なんだろうな?……まさか振り落とされたりしないよな?


【美咲桜】

「ほらっ…ヒロ君!…私達も早くぅ〜っ!」


美咲桜に引き摺られてメリーさんに向かった。


先に着いていた4人の傍に歩み寄ると、女子3人は眼を輝かせていた。航に視線を移すとその顔は真っ青で、注意書きを指差している手はブルブルと震えていた。


その様子を疑問に思いながらも注意書きに視線を移した。



―――《注意!》―――

・当アトラクションをご利用になる前に、必ずこの注意書きの熟読をお願いします。


・15歳以下のお客様は当アトラクションをご利用になれません。


・係員が首にしがみつく腕の長さが足りないと判断した場合、危険ですので当アトラクションはご利用になれません。


・帽子や鞄等は身に付けたままだと他のお客様が大変危険な為、必ず入口の係員に預けてからお乗り下さい。


・2人乗りを希望される場合は必ず係員に『道連れベルト』を借りてから、指示に従って正しく装着して下さい。


・乗馬後は『振り落とされない様に』両腕を確りと首に廻してしがみつき、両足に力を入れて馬体を挟みこむ様にしてください。


・稼動している際、片手を離したりするのは大変危険ですので絶対にお止め下さい。


・降りる際、稼動が完全に停止したのを確認してから下馬して下さい。


・ジェットコースター等のアトラクションで乗り物酔いされるお客様はご利用をお止め下さい。


・“最後に”当アトラクションに少しでも不安を感じた場合、絶対に乗らない事をお勧めします。


(最後に〜から先は赤の極太文字で書いてある)

―――従業員一同―――



ちょ…『振り落とされない様に』ってなんだよっ!…それに『道連れベルト』?…どんなネーミングセンスしてんだよっ!?……何を道連れにすんのっ!?………ツッコミどころが多すぎて疲れる。


【航】

「イ〜ヤ〜だぁ〜〜!お願いだから離して〜〜っ!!!」


航の叫び声で我に還って声がした方に視線を向けると、恋華に腕を掴まれズルズルと引き摺られていた。他の2人は既に乗馬して居り、ニコニコしながら航と恋華のやり取りを眺めていた。


【恋華】

「往生際が悪いなぁ〜?…さっさと楽になっちゃいなよ?」


【航】

「楽になんてなりたくないってっ!…は〜な〜せ〜〜っ!!」


《女王様モード発動》


アレ?…恋華が急に笑顔になった…眼も糸目になってるし……久々の女王様モード?


【女王・恋華】

「いい加減にしなさい!…いつまでもグズグズと男らしくない!!……恥ずかしいと思わないのっ!!!」


【航】

「男らしくなくていいから離してっ!」


おぉ〜…今日は結構頑張るなぁ。……でも時間の問題だな。


【女王・恋華】

「あ゛〜〜〜っ!?今なにか言ったっ!!?」


【航】

「ヒィッ!…………………………ゴメンナサイ」


【女王・恋華】

「本当に困った人なんだから。ハァ…手間をかけさせないで頂戴?」


《女王様モード解除》


恋華は航をズルズルと引き摺ってメリーさんに連れて逝った。


所詮は航…1分ちょっとか……3分位は粘れよな…面白くない。


【美咲桜】

「ヒロ君も早くっ!…私達も逝こっ!?」


【正義】

「えっ?…ちょっ!なんか字が違っ……引っ張るのは止めてぇ〜〜っ!…イ〜ヤ〜〜っ!!!」


美咲桜に引き摺られて入口に連れて逝かれ、係員に『道連れベルト』を付けられた。


抵抗しながらも(道連れベルトで二人の腰周りが固定されている為、逃げられなかった)乗馬して首にしがみつき、この地獄が早く終わる事を切に願った。


ブーッ――


ブザーが鳴り聞き覚えのある曲が鳴りだし、ゆっくりと動き出した。


【美咲桜】

「楽しみだねぇ〜!!」


言いながら俺の腰に廻された手にギュッと力がはいった。…その結果、背中に胸が押し付けられてちょっと嬉しかった。


【芽衣】

「オレはこういうの初めてだから楽しみだ!」


【亜沙美】

「ボクも遊園地なんて来たの、久しぶりだからワクワクするよ!」


【恋華】

「ホントホント!…あっ!速くなってきた!」


【航】

「………………………」


航は顔面蒼白で首にしがみつき、道連れベルトによって恋華は航の背中にしがみついている。因みに芽衣さんと亜沙美は別々に乗っていた。


『♪〜♪〜♪♪〜〜♪』


徐々にスピードが上がってきて、鳴っている曲の音量も上がってきた。……このスピード、ハッキリ言ってヤヴァい。……それにこの曲は。


【正義】

「確かにっ……このスピードはっ………『革命』…だけどっ……ピッタリっ…でっ……なんかっ………ムカつくっ!」


風圧が凄くて上手く喋れない。…ショパンの『革命のエチュード』とはね……選曲がピッタリなのがスゴいムカつくな。


【美咲桜】

「た〜のしいぃ〜〜♪」


【航】

「ギャーーーッ逝っちゃうってーーっ!!!」


【恋華】

「キャハハハハハ…サイッコーーッ!!!」


【芽衣】

「意外とっ…面白いっ……モンっ…だなっ!!」


【亜沙美】

「へぇ〜っ…楽しっ……ボクっ…こんなのっ………初めてっ…だよっ!!!」


この後5分程、この『メリーさんのスピード革命』は続いた。











メリーさんから無事に生還した後、色々なアトラクション(絶叫マシンの高速ループ)に連行された。


…特に『速さ』のジェットコースター『∞レーザー』は本当に恐かった。普通はスタート後に上昇してから加速するので安心していたが、スタートからトップスピード……完全に意表をつかれて意識が飛びそうになった。他にも本格的なカートや妙にリアルなオバケ屋敷等、心臓に負担がかかりまくるモノばかりだった。


12時半頃に美咲桜が〈お腹空いたぁ〜!〉と駄々をこね始めたのでレストラン街に向かい、少し遅めの昼食を摂っていた。


【美咲桜】

「ん〜っ美味しいぃ〜〜♪」


【芽衣】

「あのカートは楽しかったな!…あそこまでスピードが出るモンだとは思わなかったぜ」


【恋華】

「やっぱり1番は『∞レーザー』でしょ!…あの時の航の顔………プッ…アハハハハハッ!」


【亜沙美】

「ボクはオバケ屋敷かなぁ…オバケの人口密度が高くて、凄くビックリしたよ」


【正義】

「俺はメリーさん以降の事……よく覚えてない」


【航】

「俺も同感……もう本物の馬にすら乗れない様な気がする」


女子4人は本当に人間なのか?……普通に食べてる。俺達なんてコーラすら飲めないってのに、最近の娘は皆タフなのか。


【美咲桜】

「ねぇねぇ…ヒロ君?…これ食べないの?」


そう言って隣に座る美咲桜が、俺の前にある辛口チキンバーガーを指差した。まだ食うのか……相変わらず辛いモノは別腹みたいだな。


俺は無言で美咲桜のトレーにハンバーガーを載せてやった。


【美咲桜】

「いいの?…ヒロ君、コーラしか無くなっちゃうよ?」


申し訳なさそうな顔をして言ってきたが、両手で包装紙を剥がしながら言われても説得力は皆無だ。


【正義】

「食べていいよ…腹が減ったら、後で何か適当に摘まむから」


『食べていいよ』って言った瞬間から食べ始めてるし……昔はこんなだったかなぁ。…可愛いけどさ。


【美咲桜】

「むぐ…んぐ……ヒロ君ありがとっ!」


口にモノを入れたまま喋るなよ。ハァ〜…恋華の影響をモロに受けてるな。


【恋華】

「マー君っていいお父さんになりそうだよね?」


【芽衣】

「性根が確りしてるからな…正義は」


【亜沙美】

「う〜ん…ボクの予想では正義君、親バカになるタイプだと思うよ?……美咲桜の顔観ながらニヤニヤしてるし…」


【航】

「確かに……子供に『パパ…アレ買って?』…とか言われたら何でも買ってあげそうだもんね」


声に反応して正面に視線を移すと、隣に居た筈の航がいつの間にか向こう側に移動していた。4人共此方を観ながらニヤニヤしており、コソコソと小声で何かを話し合っていた。


このタイミングで冷やかされたか…まぁいいや、今の美咲桜はある意味無敵だからな。………考えていると急に右腕が引っ張られ、そちらに視線を向けた。……美咲桜は顔を真っ赤にしながらモジモジしていた……照れてるのか?


【美咲桜】

「ヒロ君っ!私………トイレ行きたい」


赤くなっていたのはトイレに行きたかったのが原因だったのか。ん?…………トイレ?


【航・恋華】

「グハァーーーーッ!!」


【亜沙美】

「美咲桜………か〜わいいっ!」


【芽衣】

「ん?…なんでコイツ等は倒れてんだ?」


声に反応して視線を移すと、亜沙美はテーブルに突っ伏して口をパクパクさせていた。航と恋華は椅子ごと背後に倒れ鼻血を噴き出しており、芽衣さんは怪訝な顔をして3人を見比べていた。


【美咲桜】

「早くっ!…ト〜イ〜レ〜〜ッ!!」


腕を引かれて視線を戻すと、さっきよりも顔が赤くなっていた。


【正義】

「ちょっとっ!…俺も行くの!?」


色々とマズイだろ……この歳で犯罪者の仲間入り?…思いっきり掴まれてるから振りほどけない!?……これってもしかして回避不可!!?


【美咲桜】

「さっき『俺から離れるなよ!』って言ったぁ〜!……………アレって嘘…だったんだ?」


うっ!…そんな汚れの無い純真な瞳で俺を見るんじゃないっ!くっ……俺の弱点を…ヤバいっ!ちっ…力が抜ける………このままでは俺は……俺はっ!!


《LLCモード発動》


【正義】

「はいは〜い、トイレね?……ほらっ早く行くよ?」



解説:LLCラヴラヴチルドレンモードとは!…子供特有の汚れの無い純真な瞳で見つめる事により、無類の子供好きな正義の心に訴えかける事で発動する。発動後は何にでも子供を優先する様な言動をとってしまう。何故かというと…『おそらの庭』に通い続けた結果…………………………こういう体質になってしまったのだっ!!!



【美咲桜】

「うんっ!…じゃあ早く行こっ!」


椅子から立ち上がり腕に抱き着いた美咲桜を引っ張る様にして、トイレの前まで連れ行った。


【美咲桜】

「ちゃんと此処で待っててよ?……居なくなっちゃヤダよ?」


【正義】

「うんうん…ちゃんと待ってるから、早く行っておいで」


【美咲桜】

「……じゃあ行ってくるねっ!……直ぐに戻るからっ!」


腕から離れて此方を振り向き、小さく手を振ってからトイレの中に駆けて行った。


《LLCモード解除》


その間に我に還った俺はジロジロと女性客に観られているのに気付き、辺りを見渡すと自分の立っている場所は女子トイレの前………恥ずかしくて穴があったら入りたかった。


結局…美咲桜が出てくるまで3分程この生殺し状態は続き、放心状態の俺は美咲桜に引き摺られ晒し者の気分で皆の所に戻った。


【正義】

「………………ハァ〜」


【芽衣】

「正義…なんがあったか知らねぇけど、元気出せよ!」


【亜沙美】

「さっきの美咲桜は反則だよねぇ〜?」


【航】

「ホントホント……アレはヤバいって!」


芽衣さんは背中をバシバシと叩いてきて、航と亜沙美は先程の美咲桜について熱く語り合っていた。


【恋華】

「……ねぇ美咲桜、一体どうしたの?…コレ」


【美咲桜】

「ヒロ君の事?う〜ん……私がトイレから出てきたらこうなってたよ?」


【恋華】

「なるほどねぇ〜…えいっ!…そりゃ!」


【正義】

「いひゃいっ!…よむろっへ!(痛い!止めろって!)」


テーブルに突っ伏していると、背後から頬を摘ままれ左右に引っ張られた。……恋華ってこんなに握力あったのか……痛い…色々と。


【美咲桜】

「そんな事しちゃダ〜メ〜〜ッ!…私のなんだからっ!!」


【恋華】

「だから、その顔は反則だって……ゴメンね…マー君は美咲桜のだもんね?」


恋華が離れた途端、今度は美咲桜が首に腕を廻して抱き着いてきた。


……背中に胸が押し付けられてちょっと嬉し!?…ちょ!首っ!…極ってるって!!!


【美咲桜】

「むぅ〜〜〜〜〜っ!」


【亜沙美】

「睨まない睨まない…ボクは取ったりしないから安心して?……愛されてるねぇ〜正義君?」


【航】

「ホントホント…でもあの2人って付き合ってないんだよ?」


【亜沙美】

「それはボクも知ってるけど…知らない人が今の状況を観たら、誰も信じないだろうね?」


首が極っていて声が出ない!お前等…俺に気付けっ!…誰か助け…て…くれ!………ガクッ。


意識が朦朧としてきて、視界に映っているテーブルがブレて見える…もう……駄目…だ。俺の意識はそこで途切れた―――――――――――――










―ん?………あれは俺と母さんと……美咲桜か?…俺達はまだ小さいな……それにこの場所って…小1の頃か…懐かしいな……帰る時に母さんが車を正面入口に移動させる為に、居なくなったんだよな。……そうそう、こんな感じだった…ベンチに座って待ってる間に、美咲桜が遊び疲れて眠っちゃったんだよな。………安心しきったかの様な…嬉しそうな寝顔しやがって……変わらないな…俺も美咲桜も…………でも確かこの後で……アッ!…馬鹿っ!…行くなっ!!……声が出せない?…………そうだった……これは夢なんだよな………ん?…景色が歪んで消えていく…『ロ君』……『ヒロ』……誰かが俺を呼ぶ声が聴こえる………『ヒロ君っ!!!』………美咲桜の声?……それに体が揺れて……いや、揺すられてるな……どうやら夢から醒めたみたいだな……心配そうな声だしやがって…早く起きてやらないとな。


瞼を上げると目の前には今にも泣き出しそうな美咲桜の顔があった。


【美咲桜】

「…っ!?…ヒロ君っ!…私っ…ゴメン……ゴメンなさいっ!!」


なんか後頭部に柔らかいモノが当たってる感じがする……そうか、膝枕されてたんだな。


アレ?そういえば俺はいつ眠ったんだ?…確か美咲桜をトイレに連れて行った後……背後から首を締められて…気を失ったのか?


ん?……なんか違和感を感じる……言葉遣いが戻ってないか?……まぁ今はそんな事よりも早く安心させてやらないとな。


【正義】

「大丈夫……少しの間懐かしい夢を観てただけだよ」


少しでも安心してもらえる様に笑顔をつくり、優しく語りかけた。


【美咲桜】

「私が力任せに抱き着いたりしたからっ…本当に……ゴメンなさいヒロ君っ!」


そう言った美咲桜の顔は青ざめており、頬にはうっすらと涙が伝った跡が残っていた。


ダメだ……全然安心してくれない。どうしたものかな………そういえばさっきの夢は小1の頃だったな。当時は泣き止まない時や落ち込んだ時にしてあげたっけ。最後にしたのは確か……小学校の卒業式の日だったな。久しぶりに『アレ』…やってみるか。


真上から顔を寄せて覗き込む様にしている美咲桜の後頭部を右手で掴んで引き寄せ、左手で邪魔な前髪を払ってから額にそっと唇を付けた。


【正義】

「俺は大丈夫だから、元気出せ…な?」


額から唇を離し耳元で囁いてから顔を覗き込むと、頬を赤く染め口をパクパクと動かしていた。


【恋華】

「やるねぇ〜っ!…さすがはマー君。私達が何をしても無駄だった美咲桜を……いとも簡単に復活させちゃうんだもんなぁ」


【亜沙美】

「今のって、普通ならキザに見えるんだけど…この2人がやると絵になるよね?…それに正義君、キスするのを全く躊躇しなかったもんね!」


【芽衣】

「確かに…正義はあの歳で妙に落ち着いてるよな。…まぁオレはそこが気に入ってるんだけどよ」


【航】

「母親がアレだからね……挨拶でハグとかするのを昔は常識だと思ってた位だからね」


この人達は誰一人、気を失っていた俺の心配をしてくれないのか…なんか凹むなぁ。


【美咲桜】

「久しぶりだから、ビックリしちゃった………嬉しかったけど」


美咲桜はそう言って顔を両手で覆い、身体をくねらせていた。


最後の方は声が小さくて良く聞こえなかった……でも顔色も元に戻ったし、本当に良かった。


【恋華】

「それじゃあマー君も復活したことだし、後半戦と行きますかっ!」


【亜沙美】

「そうだねっ!…ボクは早く『リバースグラヴィティ』に乗ってみたいな!」


【航】

「え?……まさかあの逆走するジェットコースターじゃないよね?」


【芽衣】

「なんだ…男のクセにビビってるのか?」


航は顔を青くして小刻みに震えていた。恐らく乗った時の事を想像しているのだろう。…面白そうだな、俺もいじりたくなってきた。


【正義】

「芽衣さん?…コイツが男らしくないのは当然ですよ、実は男装してる女なんですから」


【芽衣】

「なにぃ!本当なのか?…言われてみれば、確かに女みたいな顔してるな」


さすがは芽衣さん…乗ってきたというより、引っかかったみたいだな。


【亜沙美】

「そうだったんだっ!…ゴメンね?気付いてあげられなくて」


【美咲桜・恋華】

「「プッ…アハハハハハッ!!」」


航に視線を向けると顔を真っ赤にしながらプルプルと震えていた。


もう一押しだ…次は亜沙美を使うか?…どう切り返してくるのか気になるな。


【正義】

「これマジだよ?…体育の時、俺が皆から見えない様にしてから着替えてるんだ。いつもバレないかヒヤヒヤしてるよ。何なら亜沙美…触って確かめたら? 」


【亜沙美】

「え?………ボクが?」


【正義】

「あぁ…何か信じられないって顔してるからさ」


【亜沙美】

「じゃあ失礼して…ちょっと!…何で逃げようと[俺は男だっ!…ちょ!…何でこっちに来るの?…イーヤァーーッ!]………確認だけだからぁ…ね?」


逃げ出した航を亜沙美が凄いスピードで追い廻していた。キレたのは逆効果だったみたいだな。


やっぱり足速いな…体育祭の前に確認できて良かった、注意しないとな。


【恋華】

「お〜い!…2人共、早くおいでよ」


【芽衣】

「正義っ!…ぼーっとしてると置いてくぞ!」


声に反応して視線を移すと2人は席を立っており、レストランの外に居た。


【美咲桜】

「私達も行こうか?」


隣に座る美咲桜が立ち上がり手を差し出してきた。


【正義】

「あぁ…そうだな!」


立ち上がってその手に指を絡ませる様に握り、ゆっくりと歩きながら皆の後を追った。











後半戦も絶叫マシンばかりだった。やっぱり、リバースグラヴィティは『恐さ』を追求しているだけの事はある。地面を観ながら上昇して行くだけでもかなりヤバいのに、捻りながらの縦回転や垂直落下……本気で死ぬかと思った。相変わらず女子4人は平気だったが、航はグッタリして一言も喋れない状態だった。


それから絶叫マシン責めでキレた航の提案で、男女別行動をする事に決まった。美咲桜は昼食時の事を思い出したのか、反対しなかった。


2人でゲーセンや軽めのアトラクションを廻り、集合場所である中央広場に向かって歩いていた。


【航】

「もうすぐ5時半か…恋華達は時間通りに来るかなぁ?」


【正義】

「芽衣さんが居るから大丈夫だろ?」


【航】

「そうかなぁ?…何処かで撒いてるかもよ、恋華ならやりそうだし」


【正義】

「仮にも自分の彼女だろ…普通そこまで言うか?」


【航】

「マサ君は恋華の事何も解ってない……本当に恐ろしい娘なんだ、色んな意味で」


【正義】

「色んな意味…ねぇ」


話してる間に中央広場に着いた。時計を見ると集合時間まで5分程の時間があった。


少しの間話し込んでいると、ジーンズのポケットに入れていた携帯が鳴った。


『♪♪〜〜♪〜♪〜♪』


取り出して液晶に視線を向けると、『橘』という文字が表示されていた。


【航】

「恋華達じゃない?…もう時間過ぎてるし」


広場の時計を指差しながら液晶を覗き込んできた。


【正義】

「確かに恋華からだけど……何でお前に電話しないのかな?」


疑問に思いながらも通話ボタンを押した。


【恋華】

『マー君っ!…美咲桜っ…美咲桜が居なくなっちゃった!!』


【正義】

「とりあえず落ち着けっ!どういう事だ?…ずっと一緒に居たんだろ?…それに美咲桜は携帯『あの娘の携帯、電源が入ってないのっ!』…………居なくなったのはいつ頃だ?」


【恋華】

『広場に戻ってる途中皆でトイレに行って…出てきたら居なくなってたの。それで今、皆で近くを捜してるんだけど…全然見つからないの』


状況は違うがあの時と似てる……そんなことより今は美咲桜を捜さないとな。


【正義】

「解った!…俺達も今から動く。因みに呼び出しは頼んだか?…桜さんとかに連絡は?」


【恋華】

『呼び出しは5分間隔で頼んでる…桜さん達にはまだ…』


声が震えてる…1人で捜させる訳にはいかないな。


【正義】

「桜さんや美咲さんにはまだ連絡するな…騒ぎがデカくなりすぎる。…そんな泣きそうな声を出すな!…きっと見つかるから元気出せって!………それじゃ切るな」


通話を終えて時間を確認すると、5時35分だった。


【航】

「美咲桜ちゃんが居なくなったの?」


声に反応して隣に視線を移すと、航が心配そうな顔をして此方を見ていた。


【正義】

「あぁ。トイレから出てきたら居なくなってたらしい。…連絡が取れないけど呼び出しも頼んであるし、俺達も捜すぞ!」


【航】

「解った!…マサ君はどっちを捜す?…入口側と奥側?」


【正義】

「お前は恋華と合流してから入口のゲート前に居てくれ!俺は奥の方を捜すから。…アイツかなり落ち込んでるから、ちゃんと支えてやれよ?」


【航】

「了解!…ちゃんと見張ってるから安心していいよ。…それじゃ!」


航が恋華に電話するのを確認してから、奥のエリアに向かって走り出した。





















あれから皆と連絡を取りながら走り回ったが、手掛かり一つ見つからなかった。捜している途中で不安になり『誘拐』という最悪なシナリオが頭をよぎったが、桜さん達から連絡が無いので違うと割り切った。


【正義】

「ハァハァ…ハァ…美咲桜……何処に居るんだ!」


美咲桜を見付けられずに中央広場に戻ってきた。捜し始めてから40分近く経つよな?…広場の時計に視線を向けると6時16分だった。


叫びながら走り回っていたせいで声がロクに出ない。喉もカラカラだし、汗でシャツが貼り付いて気持ち悪い。


一度連絡を取ってみるか?……此方からは連絡してないしな。…とりあえずベンチに座ろう、俺の体力も限界が近いしな。


近くにあったベンチに腰を降ろして携帯を取り出し、航の番号を探していると携帯が鳴りだした。


『♪〜♪♪♪〜♪〜♪』


一瞬美咲桜かと思ったが、液晶には『公衆電話』と表示されていた。ダレ?…疑問に思いながらも通話ボタンを押した。


【正義】

「………もしもし?」


【???】

『…………6時半…あの場所で待ってるから……また来てくれるって…私を見付けてくれるって……信じてるから―――』


【正義】

「ちょっと待て!……クソッ!…切りやがった」


あの声は間違いなく美咲桜の声だ。でも…あんな感情の籠って無い声は初めて聞いたな。別行動の間に一体何があったんだ?


『6時半』『あの場所』『また来てくれる』ヒントはこれだけか………美咲桜は何でこんなマネを?…10分位でこの難問が俺に解けるのか?


『また』って事は…初めてじゃないって事だよな。でもあの時の事は殆ど覚えていない………見つけた場所に確か派手なイルミネーションが点灯してて、目立つ所に時計があった位しか解らない。


6時半…イルミネーションが点灯……そうか!コレならかなり絞り込める。更に昔から存在するモノの以外は消せるしな!


ポケットからマップを取り出してベンチに広げ、携帯ストラップに付いた短い赤ペンで該当しないモノに印を付けていった。


【正義】

「残ったのは3つか…時間もあと10分無いし、全部最低2kmは離れてるから一ヶ所しか行けないな」


まずは一番奥のエリアにある『大観覧車』…イルミネーションも時計もある。


つぎに此処から真っ直ぐ東側に見える『ホワイトキャッスル』…此処も両方ある。


最後に入口付近にある『天空のステージ』…イルミネーションはあった筈だけど、目立つ時計があるかどうか解らないな。


この3つの何処かに美咲桜が居る筈だ。アイツが好きそうなのは…全部当てはまるな。…クソッ!結局思い出すしかないのか。…………ん?…ホワイトキャッスルの所に小さな字で何か書いてあるな。『パレードの無い曜日は稼動しておりませんのでご了承下さい』……今日は無いよな?…これで後2つか。


【正義】

「確率的には大観覧車の可能性が高い、時計もデジタルだけど付いてるしな。天空のステージは目立つ時計があるか解らないんだよな?」


どうする……勘でどちらかに行ってみるか?………そんなの駄目だっ!美咲桜は『信じてる』って言ったじゃないか!…俺がアイツだったらどう思う…信じてるのを裏切られたらどう思うよっ!……何か考えろ……考えるんだ…………!


【正義】

「入口付近に航が居るじゃねぇか!何で直ぐに気付かないんだよ…馬鹿野郎っ!」


ベンチを思いきり殴りつけて拳の痛みで冷静さを取り戻した。


航の足なら2分もあれば解る筈だ。電話をかけっぱなしで走ればなんとか……どちらにしろギリギリか。良しっ!


携帯を取り出し短縮で航の番号を呼び出し、直ぐに通話ボタンを押した。3回目のコールで呼び出し音が途切れた。


【航】

『もしもし?…どう[今直ぐに天空のステージっていうアトラクションに走れっ!]………いったい[訳は後で話すから急いでくれ!]……解ったよ!後で話して[電話は切るなよ?大きな時計があるかどうか、教えてくれ!]………ハァ……ハァ……ハァ………ハァ……無いっ…みたいだよっ!?…』


直ぐに電話を切って時間を確認すると6時26分だった。


後4分…2km位ならっ!携帯を乱暴にポケットに突っ込むと、『最後の可能性』に向かって全力で走った。





















【正義】

「ハッハッ…ハッ…ハァハァ…ハァ…時間はっ!?」


観覧車の前で膝に手を突き、軽く呼吸を整えてから顔を上げ……観覧車のデジタル時計に視線を向けた。


【正義】

「6:31か…結局間に合わなかったな」


観覧車のイルミネーションは走っている途中に点灯を始めていた。終わったなと思いながらもスピードを落とさずに此処まで来て、周囲を見渡したが美咲桜の姿は何処にも無かった。


搭乗口には夕焼けを高い所から眺めようとする人の列ができていた。


俺は人混みを避ける様に正面のベンチに力無く腰を降ろした。


【正義】

「ハハッ……俺って最低だな。覚えていれば……クソッ!…俺はっ!…約束一つ守れやしないのかっ!!!」


肩を落として地面を睨みつけ、右拳を強く握りしめてベンチに叩きつけた。拳に血が滲んでいたが構わず何度も叩きつけていると、その手が誰かにそっと掴まれた。


【???】

「やっぱり来てくれたんだね…………ずっと見てたんだよ?…遠くの方から…人にぶつかりながら……つまずきながらも…走ってきて…息切れして…………拳を叩きつけて…」


声に反応して顔を上げると、居る筈の無い『一番大切な人』が涙を流しながらも微笑んでいた。


上から見てた?……なるほど、観覧車に乗ってた訳か。あの時の理由ってなんだったかな?……そうか!…『高い所からなら俺が何処に居るのか解ると思った』だったな。今も昔も同じ理由だな、抱えてるモノは解らないけど……大事にしないとな。『当時』と『今』の想い。


【美咲桜】

「やっぱり……私のヒーローは君…『七瀬正義』だったね。……信じてたよ……必ず私を見付けてくれるって…」


血で赤く染まった俺の拳を両手で包み込む様に掴むと、自分の胸に抱き寄せ傷口にゆっくりと舌を這わせた。


その行為に驚いて腕を引こうとしたが……慈しむ様な微笑みを浮かべ、傷口を浄める彼女の表情に見とれ指一本動かせなかった。


【美咲桜】

「手は大事にしないと駄目だよ?……ヒロ君の『奏者の世界を音に乗せる』演奏は世界中に届く福音なんだから」


声に反応して我に還ると微笑んでいる彼女の顔が目の前、鼻が触れ合う位近くにあった。


【美咲桜】

「やっぱり私には………んっ……ちゅ…はぁ……しかあり得ないよ」


一瞬頭が真っ白になった。……突然顔が近付いて来て…軟らかいモノで口を塞がれた…キスされた……のか?


【美咲桜】

「ヒロ君のファーストキス奪っちゃった♪…私も初めてなんだから…許してね♪♪」


【正義】

「……………マジで?」


漸く発した言葉がコレだった。俺って初だったんだな意外と。


【美咲桜】

「うん。マジだよ?…これで暫くは……耐えられるよ♪」


良く聞こえなかったが、暫くの後に何て言ったのかな?一瞬表情が歪んだし…気になるな。


【正義】

「俺は良いけど……美咲桜は俺で良かったのか?………こんな関[ヒロ君以外あり得ないよっ!]………ありがとう」


美咲桜のファーストキスか……本気で責任取らないと。早くピアノに刺さった楔、抜かないとな。


【美咲桜】

「うんっ!…此方こそご馳走様♪」


微笑みを浮かべ両手を後ろに組んで、片目を瞑りチロッ舌を出した。


ヤバい…可愛すぎだってその顔。フゥ…体育祭明けからレッスンを増やさないと、少しでも早くこの笑顔を守れる様にならないとな。


【美咲桜】

「皆心配してるかもしれないから…早く行こうよっ!」


右腕を引っ張られてベンチから立たされ、そのまま腕に抱き着かれた。


【正義】

「そうだな。青い顔をしてた恋華達を、一刻も早く安心させてやらないとな?」


言いながら視線を右肩、頭を載せている美咲桜に向けた。


【美咲桜】

「うんっ!」


此方を向いて頷いたのを確認して視線を戻し、出口に向かって2人寄り添う様に歩き始めた。





















あの後…航に電話してから入場ゲートに戻ると、皆から凄いお叱りを受けた(何故か俺だけ)核心部のみをはぐらかして事情を説明すると、厳しい尋問を受けた。


【恋華】

「いい加減話して楽になったら?」


【航】

「後で事情を説明するって言ったよね?」


【亜沙美】

「6時半に見付けて……今何時だと思ってる?」


【芽衣】

「心配させやがって……待たせた分はきっちりスジを通さねえとなぁ…正義っ!?」


4人がジリジリと近寄ってきたので後ずさると、突然背後から羽交い締めにされた。


【美咲桜】

「…………ヒロ君ゴメンね?」


裏切り?…ちょ!美咲桜…ヒィ!…悪魔が…皆尻尾みたいなモノが生えてない?…顔が近いって!


【航・恋華】

「「さあて…話してくれるよねぇ?」」


【亜沙美】

「何で遅くなったのか?」


【芽衣】

「何で連絡しなかったか?」


【悪魔×4】

「「「「理由……………教えてくれる?」」」」


【美咲桜】

「頑張ってっ!」


【正義】

「ちょ!…話せば!?…イーヤァーーーーーーーーーーッ!!!」



周囲の人垣の中心で愛(と言う名の制裁によるダメージ)を叫ぶ正義の声が響き渡った。

ゴールデンウィークなのにシリアスって…気がついたら恋華がマサ君とか言ってたし(朝4時頃)亜沙美はオレとか言ってるし(朝6時過ぎ)極めつけは正義の大バッキャロー(手直し中・つい先程)NGが多すぎる。上3つの手直し部分が解ったらかなりの音×恋マニアですよ?


体調不良の為に次週の投稿はお休みするかもしれません。先に謝らせて下さい…ゴメンなさいっ!!!


それでは次回♯11コメディを強化!体育祭でお会いしましょう!

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