ファーストステージ④
ルイとニカは街の中を歩いていた。
何処にでもあるごく普通の街並みで、お店が所狭しと並び、人々で賑わっていた。
「先輩、何処に行くんですか?」
すれ違う沢山の人間を避けながら、かき分けながら2人は進んでいる。
「さて、何処だろうね」
「もったいぶって無いで教えて下さい」
「すぐ、着く。ほら、着いた」
ルイが話している間に、怪しいお店の前に着いた。
「何ですかここ?」
「耳に穴を空けたくなったからな」
「それだけで、私を連れ回さないで下さい!」
この店に行く前から、ルイはニカに色んな店を教えていた。
ここのスイーツは美味しいや、ここのアクセサリーはいい物が揃っているやこの本屋の品揃えは、地域1番だ等、ニカの興味が無い所ばかり、紹介していた。
何処の店も勿論、人間が出した店で、どの人間も好きでやっているのは見て取れたが、ニカはやはり、人間が何か企んで無いか、疑心暗鬼になっていた。
「まあ、そう怒るな。それだけじゃない。お前の紹介もしたくなった」
「誰にです?」
「勿論、人間だ」
「えー、私は」
人間を紹介するなんて、聞いていない。
(何、考えているのよ!)
ニカはルイも疑い始めた。
「ほら、行くぞ」
そんな嫌がっているニカを、知ってか知らずか、ルイは背中を押した。
カランカラン。
扉を開けると音がした。
店内は昼過ぎなのに薄暗く、怪しい雰囲気がした。
席はカウンターにしか無く、客と店員の完全対面式となっていた。
「いらっしゃい。あら、ルイちゃん」
カウンターに男、いや、女、いや、オカマがいた。
姿は女に見立てていたが、顔は明らかに男。そして、話し方もお姉言葉であった。
「よお」
ルイはカウンターにいるオカマに自然に挨拶して、カウンター席に座りオカマと向き合った。
「最近、顔見せないから心配したのよ」
「そうだったな」
「消滅したのかと思ったよ」
「まさか、俺の実力知っているだろう?」
「だからよ。いつの間にか、ぽっくり消えていそうで、そんなのあたし嫌だわ。それだけは止めてね」
「仕事柄難しいけど、なるべく守るよ」
「良かった。それより、あの子は? 美し過ぎる所長を捨てて新しい彼女作ったの?」
「まさか、そもそも所長とは何も無いから」
「あら、そう。勿体無い。あんな上物殆どいないわ。あたしでもヤキモチ妬く美しさじゃない」
「それだけじゃん。それにタイプじゃ無いし」
(いないのをいい事によく言う)
ニカはリフィルの言動や行動から、1日でルイに気がある事が分かった。
それだけ、誰の目から見ても分かる、きっとルイ本人も分かっているだろう。
しかし、ルイは興味無いのか、リフィルの行いをスルーしている。
こんな最低な男によく尽くせると、ニカは感心していたが、リフィルがルイを思う気持ちは理解出来なかった。
「そう? 勿体無い」
このオカマもリフィルと言う女性を、知っていて物を言っていた。
やはり、リフィルはどの性別から見ても上玉のようだ。
「それで、この子は?」
「ああ、こいつは新しい死神で俺のパートナーだ。ほら、ニカ挨拶しろ」
呆然と立ち尽くしていたニカに話がいった。
「あっ、ニカです」
「ニカちゃん。よろしくね。あたしはスミレ。一応この店を独りで切り盛りしているの」
切り盛りと言っても客はルイとニカ以外いない。
「こいつ、人間嫌いでさ」
「嫌いじゃありません! こうしている間にも人間は好き勝手やっているんです。それが許せないんです!!」
「あたしも人間よ」
「そうです。先輩、どうして人間と仲良くしているんですか!?」
「いけないか? 死神の掟には逆らっていないぞ。それ所か、第4項では死神と人間は友好的に、そう書かれている」
「嘘、そんな事まで記載があるんですか!?」
ニカは黒い手帳を出して探した。
死神なら誰でも持っている手帳で、勿論、ルイも持っている。
「お前、せめてそれだけは覚えろ。全く、死神手帳開いて読んでみろよ」
「ってか、先輩はよく覚えていますね」
「当たり前だ! 基本中の基本だぞ」
「見直しました。先輩は只の問題児じゃ無いんですね」
「お前、絶対俺をバカにしているだろう」
「まあまあ、ルイちゃん。まだ、未熟何だから、そんなにガミガミ言っちゃダメよ」
「Fランクのゴミ拾い部・問題課に未熟も何も無いだろう。コイツは只のバカ何だ!」
「バカバカって先輩さっきから酷いです。私はバカじゃありません」
「バカだ」
ルイはきっぱりと返した。
「まあまあ、ルイちゃん。あまり強く言わないの。それよりルイちゃん。耳に穴空けに来たんでしょう?」
「そうだった。今出来るか?」
「ええ、勿論よ。さあ、早速空けましょう」
スミレは妙にテンションが上がっていた。
「せっ、先輩?」
その上がり方にニカは困って、ルイに聞いた。
「ああ、スミレはオカマ兼穴を空けるのが好きな情報屋何だ」
「あのー。突っ込む所が沢山あって、何処から聞いていいのか分からないんですが」
「じゃあ、聞くな。お前の頭じゃパンクする」
「あっ、又、バカにした!」
「そうなるか? まあ、細かい事気にするな」
「ほら、ルイちゃん。空けるわよ」
スミレはスタッフルームの扉を開けて待っていた。
「ああ、ニカはどうする?」
「ここで待ってます」
「そうか、ならいろ」
ニカを置いて行き、ルイだけ中に入った。
ニカはカウンター席に座って待つ事にした。
「はあ、何でこうなるんだろう……」
ニカは人間が好きでは無い。いや、人間を知らないのだ。
全く知らない訳じゃないが、ザンに連れられ、何度か人間を裁く姿を見て来た。
どの人間も欲深く、自分勝手に動いている結果死神に討伐される。
それがいたちごっこのように繰り返された。
人間を裁く所しか見ていないから、人間が忌むべき存在にしか見えないのかもしれない。
しかし、ルイはそれとは逆をしようとしていた。
何やるにしても、悪口も一緒に付いて来ていたが――――
ルイのやっている事は新鮮であったが、やっぱり、理解は出来なかった。
ズガガガガッ
ドドドドドッ
柄にもなく考えていると、扉の奥から物凄い音が聞こえた。
「えっ、何!?」
ニカは驚いて立ち上がった。
耳に穴を空ける程度でこんな音はしない。
「まさか、先輩!」
ニカはいてもたってもいられなくなり、ランスを持って、中に入った。
ニカは急いで中に入った。
「先輩大丈夫ですか!?」
ニカは真っ青な表情をしる。
「なっ、からかうと面白いだろう?」
「確かに、でも、ルイちゃん。やり過ぎじゃない?」
「そうか?」
「先輩、何ですかこれ!?」
「何って、歓迎だよ」
ルイの手にはチェンソーを持ち、スミレはドリルを持っていた。
二人でスイッチを押し、大きな音を出した。
「そうよ。やり過ぎ。彼女、ランス出しているわよ」
「あっ、本当だ」
ルイはようやく状況が分かった。
「もう、心配しました。先輩が人間にやられたかと思いました」
ニカはランスをしまった。
「ああ、そう。ニカはバカな癖に真面目だな。人間はそこまで愚かじゃないよ」
ルイは魔方陣を出現させ、チェンソーとドリルをしまった。この2つはルイの武器であった。
「そうね」
スミレもルイの意見に賛成だった。
「でも、この世界じゃ欲望だけで動いているって」
「私はね。この世界が好きよ。ルイちゃんがいるから。私ね。現世では医者をやっていて、それなりに忙しいし、やりがいもあるよ。でも、心の何処かでストレスを感じていたのね。初めてこの世界足を踏み入れた時、相当悪さをしたわ。それを止めたのが、ルイちゃんよ。ルイちゃんは私の王子様よ」
「いや、そこまで言わなくっても」
ルイも流石に苦笑いを浮かべた。
「その時決めたの。ルイちゃんの為に働くって、それが私の欲。結局誰かの為に動かなくっちゃいられないみたいなのよね。でも、生きがいを見つけて後悔してないわ。ねっ、ルイちゃん」
「まっ、まあな。実際、スミレには色々世話になっているしな。分かるか? 人間の中には、そう言う奴もいるって事。害をなす人間ばっかなら、こんな世界とっくに滅んでいるよ。人間にもいい奴いるんだ。まあ、どう間違えて女の格好しているのか、俺には理解出来ないけどな」
「あら、ルイちゃん。だから何度も言っているでしょう。リアルでは、堅実な医者で、こんな事出来ないのよ。気分よ。気分。これも欲の解放だわ」
「気分ね」
ルイの目はスミレを疑っている。
「先輩」
ニカは2人のじゃれ合いを見ながら、少し見直していた。
ルイはルイで真面目に物を考えている事が分かった。
「それにしても、見事に引っかかったな。いや、これから楽しみだ」
ルイは笑っていた。
「楽しみにしないで下さい! 先輩、穴を空けたなら帰りますよ」
「そうだな。ソロソロ腹も減って来た所だしな。スミレ。サンキューな」
ルイは穴を空けた左耳に、ピンク色の石がはめ込まれたピアスを着けた。
「ルイちゃんだもん。礼には及ばないわ。又、来てね。いつでも待ってるわ」
「ああ」
ルイとニカはスミレに別れを言うと、店を出た。